何者かになろうとしなくてもいい。「働く」って素晴らしいことだから 私の履歴書 【サロンオーナー兼プロデューサー/化粧品開発コーディネーター 東福由香理さん】#2

東京・代官山にある、オーガニックコスメを中心に扱うエステサロン「Terme Felice(テルメフェリーチェ)」。そのオーナーである東福由香理さんは、他サロンのプロデュースやセラピストの育成、さらには化粧品の開発にも携わるなど、多岐にわたり活躍しています。

高校時代のガソリンスタンドでのアルバイトを契機に「経営者になりたい」という目標を定め、その舞台として美容の世界を選んだ東福さん。専門学校卒業後に勤めたエステサロンでは、訪れたピンチをチャンスに変えて、弱冠20〜21歳で独立の機会を掴み取る――前編では、ここまでを伺いました。

後編ではその後のキャリアに加え、幅広いお仕事の内容、そして「働く」ことと真摯に向き合ってきた東福さんならではの仕事観について迫ります。

夢中になって働いた、独立後の数年間

あまりにも早く訪れた、独立のチャンス。独立後のキャリアはどのようなものだったのか

――デックス東京ビーチのサロンにて独立することなった東福さんですが、そこでのキャリアはいかがでしたか?

なかなか濃い時期を過ごしたと思います。顧問の方に働きかけていただき、足りなかった開業資金は月々の支払いにしてもらうことでなんとか運営できる体制にしていただきました。また、最初からスタッフを抱えての独立だったので、身が引き締まる思いでしたね。

しかも1年目でいきなり、商業施設側に売上資金を1カ月分差し押さえられるというアクシデントに見舞われてしまって。施設内のエステサロンは複数の店舗が集まってグループとなり、リーダーの店舗が売上をまとめて施設側に支払うという構造でした。しかしそのリーダー店の運営会社が、まさかの倒産をしてしまったんです。

自分はともかく、他のスタッフの給与の支払いもあるし、どうしたものかと本当に焦りました。スタッフには一時的に他店に移動していただくなどといった対策を取りながら、毎日朝から晩まで出勤して、必死で売り上げを作っていましたね。あの時は本当に厳しい状況で大変でしたけど、「思ってもみないような、とんでもないことは現実に起こるんだ」と勉強になりました

――それはあまりにも災難でしたね…!

そんな事件もありましたが、松坂屋銀座店(現・GINZA SIX)に移転することになり、そちらでも1年ほどオーナーを務めました。

独立時にオーガニックコスメを軸に施術することに決めていたのですが、本来のオーガニックコスメの定義に合ったものが少なく、当時はオーガニックという言葉もなく、「アロマティックコスメ」が主流で探すのに苦労する時代でした。ただ人に恵まれている私は、ある方の人脈を通じて知った海外輸入の化粧品が、今でも使用させていただいているオーガニックコスメでした。

成分はもちろん香りやテクスチャーまでもが、ドメスティックなコスメや今まで扱ってきたどの化粧品とも違っていて、何よりどこで誰がどのようにして生産し、大切に育ってきたのかを知ることができる特別な植物というストーリーがとてもおもしろいと感じたんです。実績も確かでしたし、これなら肌悩みに応えることができると信じて導入することに決めました。

――オーガニックコスメは、この頃から取り扱いを始めていたのですね。

そうですね。トラブルもありすべてが順調とはいきませんでしたが、独立のきっかけもオーガニックコスメの導入に関しても、本当に人に恵まれているなと感じていました

「テルメ・フェリーチェ」をきっかけに、サロンプロデュース業へ

2つの大きな商業施設での店舗運営を経て、さらにそのキャリアを広げていくことに

――松坂屋銀座店でのエステサロンの後は…?

その後が、現在まで私がオーナーを務める、代官山のTerme Feliceとの出会いです。

もともとは、FC展開している大手リラクゼーションサロンの運営会社が作ったサロンでした。しかし、抜群の立地とサロンの規模感でありながら何度かオーナーチェンジもしていたんです。その3代目のオーナーは、私が尊敬するセラピストで、運営に関するお話を聞いたのがきっかけでした。

――Terme Feliceとの出会いは、そういう経緯だったんですね。

サロンの状況から一緒に中に入りお店を盛り上げていこうという話になりそこで、試しにセラピストへの研修教育から参入することにしたんです。しかし、ある程度の期間やってみたところで、いっそ本格的に関わった方がいいなと判断しました。そこで松坂屋銀座店の店舗を譲渡し、その資金を元手にTerme Feliceの役員に就任。内側からサロンの改革とプロデュースに本腰を入れることになりました

――取り扱う商材やメニューなども変えられたのでしょうか?

はい、Terme Feliceではオーガニックエステを打ち出していこう、と決めていました。オーガニックコスメで確実に肌が変わることを、それまでの店舗で扱ってきた経験から実感していましたから。当時はまだあまり普及していなかったので、結果的にオーガニックエステの先駆的な立ち位置を確立できたとも思います。

また、エステやコスメの選択肢を増やすことで、美容業界を少しでも変えていきたいという考えもありました。学生時代にアロマティックコスメに触れたこともあったのかもしれませんが、専門学校を卒業する頃くらいから、ケミカルな成分の化粧品を使用することに懐疑的になっていたんです。配合されているものの中には肌にあまり良くない成分も少なくないのに、これを肌につける意味があるのだろうか、と。

――Terme Feliceでは、現在はオーガニックコスメの領域だけにとどまらず、LEDライトケアなどといった最新技術を取り入れるなど、前衛的な試みもされていますよね。

そうですね。オーガニックコスメの普及がかなり進み、珍しくなくなってきたことなどが背景にあります。しかし、あくまでも私たちは「肌や人体と環境に良いもの」と「結果にこだわる」という軸を大切にし、ぶらさないことが前提です。肌悩みに困っている方は、たくさんいらっしゃいます。オーガニックコスメではアレルギー反応を起こしてしまう方もたくさんいます。そういった多くのお悩みを解決すべく必要なことは、常日頃から研究と実験、観察を繰り返し、エビデンスを吟味すること。その上で、コスメや技術を取り入れています

Terme Feliceで取り扱っているコスメの一部

――Terme Felice以外に、様々なサロンのプロデュース業にも携わっていらっしゃいますが、そうなったきっかけなどはありますか?

プロデュース業の始まりとしては、やはりTerme Feliceの改革と、譲渡した後も松坂屋銀座の店舗づくりには携わっていたことでしょうか。

また、当時主流だったブログ、それ以外のSNSなどにアップしていたお店のスタッフの姿や営業の様子などが、オファーをいただくきっかけとなっていました。「Terme Feliceのスタッフが働く姿がとても楽しそう」「キラキラしている」「こんなふうに、スタッフが笑顔で働けるようなサロンを作ってほしい」。ありがたいことに、そんなお声をよくいただきますが、素晴らしいスタッフが集まってきてくれているおかげなのです。

――具体的にそのようなことをされているのでしょうか? それに伴い、心がけていることがあれば教えてください。

接客接遇といった人材育成や採用関連はもちろんのこと、取り扱う商材や施術メニューについて、時にはサロン内の図面や動線についてまで、多岐にわたります。サロン業務で必要なこと全般について、お客様ごとに柔軟に対応しながらコンサルティングしていますね。

心がけていることは、当たり前のことですが「自分の意見や理想を押し付けない」ようにすること。そのために、まずは「サロンオーナーが思い描く理想の店」のイメージを軸に据え、ヒアリングを重ねます。コンセプトをしっかりと共有した上で動き出せるように。あくまで、サロンオーナーが実現したいことに近づけるのが目的ですから。

――セラピストの育成にも携わっていらっしゃるそうですが、こちらではどのようなことをされていますか?

接客接遇ももちろん重要ですが、最も大切にしていることは「スタッフが体を壊さないための施術方法」を教えること

実はセラピストって、体を壊して辞めてしまう人も多いんです。意外と力仕事だったり、時に長時間労働を余儀なくされたりしますから。

あらゆることに通じるかもしれませんが、仕事も続けることでしかわからない楽しさや気がつけない喜びがあります。そのためにはなんといっても体が資本。施術時の体の使い方を教えるのは、この仕事を長く続けてほしいという思いからです。

「働くこと」も「美しさ」も、その本質はきっとシンプル

働くということも美しさについても、東福さんの目は常にその本質を見つめ続けている

――化粧品開発コーディネーターとしてご活躍されていますが、こちらにも携わることとなった経緯を教えてください。

Terme Feliceはオーガニックコスメを取り扱う先がけとなったエステサロンとして認識されていたこともあり、エステサロンにオーガニックコスメを売り込むコスメブランドの中では、このサロンが登竜門のような立ち位置になっていたようなんです。そのこともあって、化粧品の取り扱いを希望するブランドさんが、サロンによく営業に来ていました。

ところが営業の方々の話を聞いていると、オーガニックコスメについて詳しい人がほとんどいないんです。元々スキンセラピストですから肌を見て実際にオーガニックコスメを使っていないことも一目瞭然で、取り扱う条件はかなりシビアにしていました。

お取り扱いをしないことがほとんどでしたが、Terme Felice側の基準についての話も交えながら、取り扱わない理由を添えてよくフィードバックをしていました。中には、代表者も後に来店して話を聞いてくだり、アドバイスをした物が新商品としてローンチされたりしたことも。

数多のブランドさんと話す中で、ある時「これは仕事になるのでは?」と気がついたんです。きちんと仕事として始めることにしたのは、そこからですね。

――こちらでは、具体的にそのようなことをされているのでしょうか? それに伴い、心がけていることがあれば教えてください。

素材の発掘や厳選に携わることが多いですね。私が素材を選ぶにあたって特に大事にしていることは、「トレーサビリティ」があること。そのために実際に原産地に足を運んで、国内ではまだ知られていない高いエネルギーを持つ素材を探しに行き、それらを紹介するといったようなことをしています。すでに普及しているような、定番のものは紹介しません。他の業務もあって一度に複数の案件を抱えることが難しいため、基本的には紹介制としています。

また、前提としてクライアントのブランディングを守ることが第一ですから、きちんと黒子に徹することを心がけています

――多彩なご活躍を見せる東福さんから、今後美容業界を目指す方々に向けてのアドバイスがあれば、ぜひ!

できるだけ生の声を聞いてほしいですね。関わりたい業界や業種があればそこを中心に、可能な限りいろんな人の声を。

私の人生においてきっかけになったのは、すべて生の声でした。SNSやネットが普及した今だからこそ、リアルで会って聞く一次情報が大切だと、より一層感じています

――ありがとうございます。東福さんにとって、「働く」とはなんでしょうか?

「人生を変えたもの」

高校生の頃、ガソリンスタンドでアルバイトとして働いたことは、私の人生に夢と希望をもたらしてくれました

何をして働いたっていいんです。働くことはとても素晴らしくて、楽しいことだから。何者かになろうともしなくていい。私はたまたま選んだのが、美容業界だっただけ。

頑張って、ありがとうと言ってもらえて、生活の糧になる。働くことも美しさも、その本質はきっととてもシンプルなんです。

東福由香理さんの成功の秘訣

1.自分の夢に向かって一途であること

2.逆境をチャンスに変える行動力

3.物事の本質と向き合い続ける姿勢

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Salon Data

Terme Felice(テルメ・フェリーチェ)
住所:東京都渋谷区代官山町7−8-701 ドッケン代官山701
・Instagram
・公式LINE
・公式Online Shop「Bio Time」

撮影/内田 龍
取材・文/勝島春奈

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