支えてくれた人に恩返ししながら、お客様や仲間を幸せにできる人間になりたい【lulu. 齋藤純也さん】#2
2021年に独立して、東京と群馬で店舗展開をした齋藤純也さん。ハイクオリティなスタイルを求めて毎日多くのお客様が訪れ、順風満帆かと思いきや、大きな危機に直面します。
齋藤さんを襲ったSNS炎上事件と、そこで得た大きな学びを詳しくインタビュー。さらに、社長として&美容師としての理想像や、今後の展望などもお聞きしました。
お話を伺ったのは…
lulu.
代表・美容師 齋藤純也さん
2008年に美容学校卒業後、表参道の有名店で10年間勤務。2年6ヶ月でスタイリストデビューし、当時の社内最速を記録。雑誌撮影やヘアショー、国内外でのセミナー講師など多彩な経験を積む。2017年、株式会社L.O.G入社。約4年勤務ののち独立。現在は表参道の「lulu.(ルル)」、群馬県伊勢崎市の「QUON.(クオン)」、群馬県太田市の「kelly.un(ケリー アン」のオーナースタイリストとして活躍中。
Instagram:@jyunya_saito
SNSの炎上でどん底を味わい、人生の変革を経験

――独立して最初にオープンしたのが、「kelly.」というサロンですよね。L.O.Gを辞めてからどれくらいの期間で出店したのでしょうか。
L.O.Gに迷惑をかけないというのが、僕にとって独立の大前提でした。辞める1年半前くらいに意志を伝えて、サロンの若い子たちの教育と、その子たちの売り上げを伸ばすことに注力し、アシスタントたちがスタイリストになるのを見届けた上で独立しました。
ある意味、準備期間がしっかりあったとも言えます。なので、L.O.Gを辞めた次の日に自分の店をオープンしました。さらに群馬にQUON.を作り、1年半後にはlulu.もできました。
――お母様の店とは別で、新たに群馬でサロンを作ったのはなぜだったのでしょう。
美容学校でキラキラしていた子たちや、自分よりもずっと美容師として成功するだろうなと思っていた子たちが、美容師を辞めてしまっていたんですよ。理由を聞くと、大体はお給料とお休みなんですよね。
だから、地元で美容師を続けられる環境を自分が作りたいと思って、群馬に店を出しました。「お給料とお休みなんて、俺の働き方でどうにかする!」と意気込んで。
――かっこいい!
基本給と歩合がかなり高水準で、休みをきちんと取れて、有給も使える。そういう店を実際に作ってみたら…やっぱり大変でした(笑)。
――今、東京の店舗は「lulu.」だけになったそうですね。
実は、2023年の3月頃に大きなできごとが起きまして、それを機にkelly.とlulu.を統合してリスタートすることにしたんです。
――一体、何が!?
ある日、kelly.に「ほかのサロンで切ったら思っていたのと違う髪型になったから、やり直してほしい」というお客様がいらしたんです。ただ、それ以上切ってもお望みのデザインにするのは難しかったので、今は手を加えられないことをできるだけ失礼のないようにお伝えしたつもりでした。ところが、僕の対応が不十分だったせいでお客様からクレームの投稿をいただいてしまいました。
それを発端に、あることないことが次々とSNS上で重ねられていきました。もちろん中には真実もあったし、僕の対応が至らなかったゆえのご意見もあったとは思いますが、明らかな嘘も並んでいて。
僕自身はそのSNSをやっていなかったので、スタッフから「炎上しています」と教えられたんです。SNSの怖さを身を持って知ったと同時に、今まで至らない対応をしてしまった自分を深く反省しました。
――炎上のショックは大きかったですよね。
とにかく怖くて、当時住んでいた家を引き払い、東京と群馬の行き来に使っていた車も営業車な感じの目立たないものに変えて。家族やスタッフを守らなきゃいけないのでサロンワークは続けていましたが、セミナーなどはすべてお断りさせていただきました。
当面は表立った活動を控えて、自分を入れ替える時間にしよう、僕の中にある膿を出さなきゃと思ったんですよね。まずは、美容師とは何かというところに立ち返りました。
美容師はデザイナーだと思っていたけれど、デザイナーはヘアメイクなんですよ。僕ら美容師は接客業であって、お客様に寄り添うものだと気づきました。一時期ヘアメイクの仕事をしていたのですが、そこで何か勘違いをしてしまったのかもしれません。
炎上が起きたおかげで、大事なことを勉強させてもらえた。自分の中では本当に大きな人生の変革でした。
――まさか、そんなことがあったとは。
そうなんです。今となってはそんな炎上事件を知らない人もいたり、知っていても「そういえばそんなことあったね」みたいな反応だったり。それでも自分の中では、ずっと胸に刻んでおかなければいけないと思っています。
人間誰しも、自分がしんどい時は周りの人への対応がおざなりになってしまうことがあるじゃないですか。些細なことでもそれをヘイトに感じる人はいるわけなので、そういう自分をなくしていこうと思えたのも良かったなと。
社長としての在り方と、美容師としての理想像

――今、複数のサロンを経営する社長として大切にしていることは何でしょうか。
基本的に人と会って話す時は、相手の目線や感覚に合わせることを意識しています。スタッフはもちろん、就活の美容学生に対しても。これもやはり、絶頂もどん底も経験してきた中でできるようになったことです。
独立したての頃は、借金返済と家賃とスタッフの給料のために、とりあえず数字を作ることに必死でした。でもある時、社長のやるべきことって本当は何だろうと考えたんです。導き出した答えが、人がやらないことややりたがらないことを、全力でやるということ。
朝早く出社する、休みの日に勉強する、下の子たちの練習を見る、トイレ掃除をする。社長が誰よりも率先してそういう仕事をしたらいいなと思いました。社長が一番働かなきゃいけないし、その姿を見せなきゃいけない。それが自分なりの社長像です。
あとは、社長といってもそれはただのポジションだという考えです。みんなより給料がいいわけでもないですし。幹部陣には会社の収支報告を全部開示して、僕の給料や交通費などの経費もすべて明瞭にしています。

――誰より働くというのを、2拠点でやっているのがすごいなと思います。効率を上げる工夫などあるのでしょうか。
僕、あんまり効率的なタイプではないんですよ。早起きしてサロンに出て、働いて、あとはできるだけしっかり寝て体を回復させる。めっちゃシンプルです。あとは、奥さんのご飯が元気の源かな。
――それは活力になりますね。現在の、東京と群馬の勤務バランスは?
月の内、東京が17、群馬が10、休みが3という感じです。実は昨年群馬に引っ越して、今は新幹線通勤しているんですよ。
群馬のサロンは営業が7時までなので、群馬勤務の日は夜に子どもとの時間を作れるように、練習なども朝方にシフトしています。子どもとたっぷり遊べる日が少ないので寂しいですが、かっこいいパパでありたいので頑張っています。
――ひとりの美容師としての在り方や理想像は、どのように考えていますか。
技術だけではなく人としても認めていただけて、お客様の人生のパートナーになれる。そんな美容師が理想です。
美容師を目指した頃に思い描いていたような、お客様に寄り添える美容師にならなきゃと、今あらためて思っています。原点に戻っているような感じですね。
東京と群馬それぞれで、新店舗の展開を計画中

――これからお店をどうしていくか、プランはありますか。
今年は群馬の高崎に、来年は新宿に新店舗を出したいと思っています。スタッフが育ってきているし、これから仲間も増えるので。今は全店合わせて総勢32人で、この春の新卒入社は8人、さらにその次の新卒入社も3人決まっているんです。
――人材確保が大変なご時世なのに、すごいですね!
いやいや、そんなことないです。最近は、就職するサロンを選ぶ基準が変わってきたなと思います。憧れている美容師がいるという子が少ない印象ですし、いわゆる有名美容師も知らない。
僕の感覚ですけど、今の美容学生は「実際に会ってみて、人として好きかどうか。信用できると思えるか」が大事なんじゃないかな。コロナ禍の時に高校生くらいで、学生時代にできなかったことも多く、なんとなく社会に不満を抱えている。そんな彼らが求める先輩像や上司像は、やはり以前とは違うのかなと。
――長いスパンで思い描いている夢はありますか。
5、60歳になった時に、月に1回、ちょっといい肉でも買って地元でバーベキューできるような仕事仲間がいたらいいなと思います。ちょっといい車に乗って、子どもにもちょっといい服を買えて。自分だけじゃなく、群馬にそういう家庭をたくさん作れたらいいなというのが僕の夢です。
地方の美容室が抱える問題はいろいろあるのですが、それを打開していくことで、夢を実現させたいですね。
――最後に、齋藤さんにとって「働く」ということは?
僕にとって働くということは、完全に「人のため」になりました。今はそれに尽きます。炎上があっても奇跡的にお客様が減らなかったし、スタッフも辞めなかった。家族にも支えてもらった。その人たちに恩返ししたいという思いが強いです。
そのためにも店舗や関わってくれる仲間を増やして、経営者として会社の基盤をしっかり作りたい。人を幸せにできる人間になりたいです。
齋藤さんが、重要な局面で大切にした3つのこと
1. 自分がされて嫌なことは人にもしない
2. 自分と向き合い、すべきことをよく考える
3. できるだけ相手の目線や感覚になる
撮影/生駒由美
取材・文/井上菜々子
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