蔵田 理 interview#2:“要領がいい”とは姿勢がいいという意味?
--髪型も服も清潔感重視ということですね。他はどうですか?
「姿勢、声、言葉遣いなども重要です。それと、やはり姿勢でしょうね。姿勢が丸まっている人よりかは、ピッと伸びている人のほうが好印象なのは間違いないです。ところが分かっていながら、できている人が少ない。接客業は見られる仕事なわけですから、見られてもいいようにしておかないと駄目ですよね。姿勢とはどういう意味か分かりますか? 要領をよくするということなんです。『要領がいい』という言葉がありますよね。一般的には、物事の手順をきちんと踏んでこなしていくという意味です。悪い意味でも使われ、上司の前では仕事をして、いないところではけっこうさぼっている。『あいつ、要領いいよな』って使いますよね。実はそれ以外に、こういうことが言えるんですよ。『要領がいい』とは、『要』と『領』がいいと。『要』はかなめですよね。要を示す体の部分はどこですか? 腰です。『領』は首スジを表す漢字です。『要領がいい』とは腰から首スジにかけてがいい、という意味なんです。つまり、姿勢のよさ。どういうときに要領がよくなるのか。人間の内面が高まったときや、やる気になったときです。心と体は表裏一体ですから、つらいとき、悲しいときってどうなりますか? うつむき気味になりますよね。心がつらい、悲しい、疲れたというのがうな垂れた姿勢を作るんです。要領がいいというのは、やる気になったときに心の部分が体に表れてきて、腰から首スジがスッと伸びることなんです。『さあ、やるぞ』となったときに、下を向いたりしないですよね。ということは裏を返せば、必ずしも心がいい状態じゃないときでも、腰から首スジまでをスッと伸ばすことによって、内面の部分を引き上げてくれるんです。だから姿勢のよさは絶対なんですよ。姿勢の悪い人間にいいサービスなんてできません」
--今の人は猫背が多いと思うんですが、治せるのでしょうか?
「人に見られていると意識することです。実は私も学生の頃は猫背だったんですよ(笑)。だけど、意識して継続していけば、体が覚えてくれます。人間は頭が覚えるんじゃなく、体が覚えるんですね。毎日訓練するからできるようになる。やった数だけ体に染み込んで、いつでもできるようになるんです。見られているという意識ができると、人間は変わりますね」
--先ほど声も重要ということでしたが、具体的にはトーンでしょうか?
「トーンも大事ですが、声の大きさです。今は声が出ていない人が非情に多いです。パソコンやスマホで事が済むので、声を出すことへの意識が薄れているのだと思います。声が小さいとどんなにいいことを言っても相手が受け止めてくれないんですね。サービス業は声も商売道具です」
--発声練習はしたほうがよさそうですね。
「もちろんです。みなさん、自分の声を知らないと思います。自分で話して聞こえてくる声は本当の声じゃないんですよ。だから吹き込んで自分の声を聞き、どれぐらい声が出ているか確認すべきです。あとは、特に今の若い人たちが言葉で意識しなくてはならないのは『ありがとうございます』をきれいに言うことと、『はい』と素直に言うこと。今、素直さのない世の中だから、『はい』と言えない若者が多いですね。返事をすること自体、決して難しくはないし、自分が『はい』と言うのと言わないのでは、お客さまがどのように感じ取るのかを考えてほしいと思います」
--突然ですが、正しいお辞儀の仕方を教えていただけないでしょうか?
「いいですよ。基本的なお辞儀を教えましょう。お辞儀に入る前に、まず基本の立ち姿勢をお伝えします。基本の立ち姿勢はふたつ。ひとつは小学校で習う“気をつけ”の姿勢で『手横下』と言います。もうひとつは、手を前で組む『手前下』と言います。お辞儀はただ頭を下げるのではなく、基本の立ち姿勢で背筋を伸ばしたまま、上半身を腰から前傾します。本来は前傾するにつれ、手を膝に乗せ、その手の位置でお辞儀の深さを測ります。このとき、手を身体に密着させてもいいでしょう。その場合、男性は体の側面に沿わせ、女性は体の前で手を重ね合わせるといいでしょう。お辞儀をする際は、お尻が後ろへつき出ないように気をつけてくださいね。お辞儀を丁寧に見せるポイントして、絶対スピードはありませんが、2拍で屈体し、最下点で1拍止め、3拍で上体を起こします。この1拍の止めをしっかりと見せ、上体の起こしを少しゆっくりすることで余韻が残り、丁寧さが表現できるのです」
--すごく勉強になりました。最後にこのサイトを見てくれている方にメッセージをお願いします。
「仕事を楽しんでやることですよね。好きこそものの上手なれ。楽しんでやるのと嫌々やるのではまったく違ってきます。読者は希望を持って美容業界に入ったと思うんです。だからこそ本当に好きになってください。私は就職したばかりの新人さんに『なんで入ったの?』と聞きます。するとだいたいが『人と接するのが好きだから』と答えるんですね。そこで私は切り返します。『本当に好きかい? どんなときでも好き? 自分の都合のいいときだけ好きじゃ駄目なんだよ。それは本当に好きとはいいませんよ』と。どんなに難しいお客さまでも、怖いお客さまでも、どんなに過酷でも、好きだったらいくらでもできますよね。でもね、忙しくなると『もう嫌だ』となってしまう。忙しくなればなるほど仕事を楽しめるようにならないと。そういう人にお客さまはつくんです。嫌々やっている人にはつかない。一般的な人間関係もそうです。相手のことを好きになってあげれば、嫌な顔をするはずないんですよ。だから自分の人生を楽しくいきたければ、今の仕事を好きになりましょう。好きになれば自然と笑顔が出ますよね。感謝の気持ちも出ますよね」
Profile
蔵田 理(くらたおさむ)さん
サービスコンサルタント
Office K 代表
出身地:東京都
座右の銘:歩み入るものにやすらぎを、去りゆく人にしあはせを
1977年、東京YMCA国際ホテル専門学校卒業後、大成観光株式会社(現ホテルオークラ)に入社、宿泊部フロントサービス課にベルマンとして配属される。その後、約18年に渡り玄関、ロビーを担当するサービスのスペシャリストとして勤務し「サービスとは何か」をテーマに接客する傍ら、社内サービスインストラクター第一号 として、社員教育はもとより新規ホテル開業スタッフ指導ならびに海外提携ホテルのスタッフ指導なども担当。
2000年、九州・沖縄サミット開催時には外務省臨時職員として接遇指導を支援し、2002年日韓ワールドカップ開催時にはボランティアスタッフの接遇指導も行う。ホテルマン生活30年間で約3000人の新人指導実績を持ち、現役ホテルマンとして官公庁や一流企業での講演も多数行う。宿泊部副部長の職を歴任後、ホテルオークラを退社。
2004年、リゾートホテル経営、サービス向上に参画すべく株式会社ホテルサンバレー入社、取締役に就任、同年、ホテルオニコウベ総支配人も兼務する。
2006年、フリーのサービスコンサルタントとして独立すると同時に、NPO人材アカデミー理事として活動にも参加。 2007年、人材育成会社CUEの顧問として「オフィスマナー講座」も開講した。
2008年、『Office K』を設立。同年7月の洞爺湖サミットでは開催地ウインザーホテルの要請を受け、現場ホテルマンの指導とサミット首脳の接遇を担当する。
2010年、NPO法人自動車学校マナー推進協議会理事就任。教習指導員へのマナー研修等実施。
コンサルタント履歴
東武百貨店レストラン街サービスコンサルティング:2006年~2013年
ホテルオークラ神戸サービスコンサルティング:2007年~2008年
JR西日本系ビジネスホテルチェーン研修指導:2007年~2009年
NPO人材アカデミー理事・専任講師:2006年~2010年
東武鉄道サービスマナー研修講師:2007年~2010年
洞爺湖サミット接遇支援:2008年
医療法人社団志仁会(三島中央病院ほか)サービスコンサルティング:2009年~
浦和コルソ(CORSO)サービスコンサルティング:2009年~2011年
OSC湘南シティ:2011年~2013年
著書に『接客のプロが教える 上客がつくサービス つかないサービス』(アスコム)がある。
蔵田 理 interview#1:「挨拶」ができない時代だからこそ、できるだけで「好印象」になることを心がける