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蔵田 理 interview#1:「挨拶」ができない時代だからこそ、できるだけで「好印象」になることを心がける

技術の面でほとんど差がないのなら、どこで違いを出せばいいのでしょう。それはお客さまをおもてなしする接客です。最近は礼儀、作法の重要性が薄れてきて、基本すらできていない人が増えていると言われています。そこで、長年ホテルオークラでホテリエとして活躍し、現在、さまざまな企業でマナー講習を行っている蔵田理さんにお話を伺いました。今の美容業界に必要な接客とはどういうものなのでしょうか。

蔵田 理さん

--接客が最も重要視されるホテルでずっと勤められてきて、売り上げとサービスはやはり切っても切り離せない関係なのでしょうか。

「お客さまを相手にしている仕事において、接客は必ず関わってくるものですよね。サービス業はコミュニケーション業とも言われていて、円滑なコミュニケーションができてこそ、お客さまに満足してもらえるものだと思います。評価をいただいた結果として、リピーターが増えていく。だから商売が儲かっていくんですね。『儲かる』という漢字、どう書きますか? 人偏があり、一番右には『者』という字が入っています。人と者との間にあるのは『言』です。つまり、買う人(お客さま)と売る者(スタッフ)の間に言葉、コミュニケーションがある。適切なコミュニケーションが図られると、ファンやリピーター(信者)が増える。だから儲かる。こういうことですよ」

蔵田 理さん

--漢字からのアプローチは分かりやすいです。なるほどと思います。

「こういうことを伝えてあげると、コミュニケーションって大切なんだって思うじゃないですか。一般的にみなさんがコミュニケーションと言っているのは言語コミュニケーションのことです。代表的なのが歓迎する言葉『いらっしゃいませ』ですよね。ほかにも非言語コミュニケーションがあります。『いらっしゃいませ』を言葉以外で表現するとしたらどうしますか? お辞儀しますよね。それが所作なんです。だけど、所作をきちんと伝えられていないのが今の世の中なのだと思います。なぜ、そうなってしまったのかというと心を伝えないから」

--心ですか?

「人と人が相対したとき、どのように対応すれば相手が楽しくなるのか。もしくはその時間を有効に過ごせるのか。そこを察して行動するのが、よく言うホスピタリティという部分なんですね。日本語にすると、“親切なおもてなし”と言いましょうか。これは別に商売だからということではなくて、人と人とが接するときに必要なことであって、全世界共通なんです。相手が心地よいと感じるのか、それとも無駄な時間が過ぎていくのか、というところじゃないでしょうか。美容業界だったら多少その世界の独特なものがあるかもしれませんが、ホテルでもどこでもいっしょですね」

蔵田 理さん

--人と人とのつながりを理解していれば、マニュアルどおりに、『ああしなくてはいけない』『こうしなくてはいけない』といったふうに考えなくてもいいということなのでしょうか?

「確かにマニュアルというのは存在しますよね。マナー本もたくさん出ています。でもそれですべての人が満足するかといったら、また違うんです。100人いれば100通り。1000人いれば1000通りのおもてなしの仕方があります。例えば、ひとりのお客さまにこのように接したら、すごく喜ばれた。でも、別のお客さまに同じように接したら『何だよ、それ』と怒られるかもしれない。おもてなしとは、日本古来から伝統的に伝わってきている思いやりの気持ち。思いやりを持って人に接することが接客なんですよ。そのあたりのことがないがしろにされてきた結果として、サービスレベルは落ちる一方になっていますよね」

蔵田 理さん

--なぜ、そうなってしまったのでしょうか。やはり教育ですか?

「そういった部分は大きいでしょうね。引き継いでいくための教育・訓練に重きを置かなくなり、経営者側も哲学やポリシーが薄れつつある。日常でもそうじゃないですか。引き継がれてきたものがどんどん消えていき、常識やマナーのない世界になっている。私にはそう見えて仕方がありません。例えば、挨拶きちんとできていますか? できてない人だらけです。数年前の全国調査でできている人が60%、今は間違いなく50%台でしょう。このままいくと50%を切る時代に突入すると思います。それをまた世間が許している。過保護なのかなんなのか、いろいろな要素があるでしょうが、挨拶は人と人とが接するうえで基本中の基本です。極論すれば、今は挨拶ができれば常識人なんですね。だから、今の時代こそサービスで差をつけるのが簡単なときでもあるんですよ。ちょっとできただけでも、すごくよく見えるんです」

蔵田 理さん

--となると挨拶は絶対的。プラスαこれもできていたほうがいいというのはあるのでしょうか?

「人と人とが初めて会うとき、みなさんはどういうところで相手を判断しますか? 話していくうちにこの人はすばらしい人だ、この人はあまり中身がない、とか分かってきますよね。優しい人だとか、怖い人だとか。でもそれ以前に第一印象ですでに決まっているんです。つまり、差をつけるためには第一印象をしっかりしましょうということなんです。身だしなみと言われる部分ですよね」

--身だしなみはどこをどう気をつければいいでしょうか?

「人は第一印象をどこで判断するでしょうか? 目から見える部分ですよね。半分以上はこれで決まります。私がおりましたホテルオークラは、身だしなみにはものすごくうるさかったです。頭のてっぺんからつま先まで。みんな同じ制服を着ていますから、どこに違いがでますかということですね。顔や髪型がどのくらいきちんとしているかで差がつきます。当時は髪型まで決められていました。ホテルマンカットというのがありまして、その髪型以外はしてはいけなかったんです。短く整えて七三に分ける。もしくはオールバック。この2つしかなかったんですよ。今、そんなことをやったら若い人からそんなダサイ髪型したくないと言われるかもしれませんね(笑)。ユニフォームを着用すればするほど、身だしなみをしっかりとしておかないと、逆に目立ってしまいます。シワも目立ちますし、汚れがちょっとあっても同様です」

蔵田 理 interview#2:“要領がいい”とは姿勢がいいという意味? 

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