お客様や同業者の「背中をちょっと押してあげられる」アイリストを目指して 私の履歴書 【アイリスト MEIさん】#2
幼少の頃からの夢だった、美容師の道。その道が、思わぬ形で閉ざされてしまう――今回お話を伺ったアイリスト・MEIさんは、かつてそんな絶望を経験しました。
その後アイリストに転身するも、夢への未練からアイリストの仕事にも向き合いきれず、さらにはコロナ禍をきっかけに実家へ戻ることとなったMEIさん。前編でお伝えしたのは、ここまでの物語です。
後編では、新天地でアイリストの仕事の魅力を見出し、辛い経験を乗り越えて再びアイリストとしてキャリアを立て直していった経緯を中心に、結婚や出産を経てママとなってからの仕事のことなどについてお話しいただきます。
再起の契機は、高校時代の親友からのオファー

――長崎のご実家に戻ってからは、何をされていましたか?
実家のある長崎でも、小さなサロンでアイリストのアルバイトをしていました。そこでも、アイリストの仕事のやりがいなどは見出せないままでしたね。やはりいずれは東京に出たい、という思いは心の中にずっとありました。
半年ほど経った時に、美容師として働いている高校時代の親友から、久々に連絡があったんです。
――どのような内容だったのですか?
福岡に新しく作るサロンのオープニングスタッフとして一緒に働かないか、というオファーでした。ヘアサロンとアイラッシュ・アイブロウのサロンが一緒になった、「Zoey(ゾーイ)」というお店です。
そこで、オーナーも交えて話し合う場を設けてもらい、ゆくゆくは東京へ行きたいと思っていることも伝えましたが、それでも良いと言ってくださいました。そこで、一旦Zoeyで働くことに決め、福岡に拠点を移すことしました。
――Zoeyでも、ヘアサロンとアイラッシュ・アイブロウのサロンは同じフロアだったのですか?
はい。しかし今度はその環境を活用して、アイリストをしながらもう一度美容師にもトライしてみようかなとも思っていました。それに、一からお店を作るのは楽しそうだな、というワクワク感もありましたね。
あとは「一緒に働きたい」と求めてもらえたことが、夢に敗れて自信を失っていた当時の私には何よりも嬉しかったんです。
新天地で教わった、アイリストの仕事のやりがいや魅力

――Zoeyでのキャリアの様子を教えてください。
実はZoeyで、やっとアイリストとしての魅力ややりがいを見つけることができたんです。それを教えてくれたのは、ここで出会ったMAHOさんというアイリストでした。
――どのようなことを教わったのですか?
まず前提として、コロナ禍を経て、アイラッシュ・アイブロウサロンの施術のトレンドがこれまでとまた変わっていったんです。LIMではまつ毛エクステの施術がメインでしたが、Zoeyではアイブロウの施術やまつ毛パーマが主流になっていて、まつ毛エクステのオーダーは時々、くらいになっていました。
――確かにコロナ禍でマスクの着用が日常となり、眉やまつ毛といった目元のメンテナンスの重要性がグッと増したように感じます。
アイラッシュ・アイブロウサロンの施術メニューがアップデートされていったのは、コロナ禍の影響も大きかったかもしれませんね。まつ毛エクステはまつ毛の生え変わりと共に抜けてしまいますから、コロナ禍でサロンに通うこともままならなかった時期には、お客様にとってストレスにもなったと思います。
そこで、これまでの自分の技術を全部見直し、MAHOさんに一から教えていただくことにしたんです。その中で、目元の形状や瞼の厚み、眉やまつ毛の生え方までも考慮しながらデザインを決め、毛流れの1本1本までこだわって仕上げることの面白さを実感していきました。
特に眉は顔の印象がとても変わるんです。これは、髪型で印象が変わる感覚とも通じるものがあるかもしれません。Zoeyでアイブロウの施術ができるようになったことも、アイリストの仕事の楽しさを見つけられたきっかけの1つでした。
――Zoeyでは、アイリストと美容師を兼業していたのでしょうか?
そのつもりでしたが、MAHOさんと一緒に働き出してから、考え方が変わりました。アイリストの魅力ややりがい、楽しさを教わり、自分も1人のアイリストとしてこの仕事に全力を注ぎ、MAHOさんと共にZoeyを盛り上げていきたくなったんです。
アイリストとしての自分を受け入れられたことで、美容師への未練も卒業できたのだと思います。

――Zoeyでの出会いが、立ち直るきっかけになっていったのですね。
ここで働けて本当に良かったと、今でも思います。Zoeyに来て2年ほど経った頃、東京へ行きたい気持ちがまた強くなりました。アイリストとしてもっとキャリアアップしていきたい気持ちが芽生えてきたんです。
――何か、心境の変化などがあったのですか?
特に決定的な出来事があったわけではないんですが、東京に憧れのアイラッシュ・アイブロウのサロンがありまして。そのサロンは「ここに行っていれば大丈夫」「ここに行けば変われる」と思えるような、お客様に自信を持たせて背中を押してあげられるような、そんなハイセンスなサロンでした。
私も、お客様に「おまかせでも大丈夫」と信頼してもらえるように、もっと自分の技術を高め、センスを磨いていきたいという思いを募らせていました。
そんな矢先に、以前から遠距離でお付き合いしていた今の主人との結婚が決まり、同時期に妊娠も発覚したんです。
――ライフステージにも、大きな変化があったんですね。
主人は東京を拠点としていたので、これを機に急遽上京することになりました。東京の表参道に場所を借りて施術ができるサロンがあったので、妊娠中も当面の間はそちらに勤めていました。
現職のサロンhowpeを立ち上げたアイリスト・MAIさんに出会ったのは、この表参道のサロンなんです! MAIさんは、先ほどお話しした東京の憧れのサロンに以前勤めていらした方で、福岡にいた頃からInstagramを通じて知っていました。一緒に働けることになったのは、本当に幸運だったと思います。
ママになったって、自分のキャリアを諦めなくていいはず

――東京でも、素敵な出会いがあったのですね! MAIさんとの出会いが、howpeへ移るきっかけに?
はい。妊娠中に表参道のサロンに勤務していたのですが、出産した後も仕事は引き続き頑張りたいと思っていました。そんな時期に、育児もしながらキャリアアップもしたいと考えていることをMAIさんに相談したのがきっかけです。
MAIさんは、「育児とのバランスをとりながらキャリアアップも叶えられるようなサロンって、なかなかないよね。私は、そういったライフステージの変化にも対応できるような、スタッフがもっと自由に働き方を選べるようなお店を作りたい」と話してくださって。そして、その第一歩となるhowpeにアイリストとして誘っていただきました。
出産後は、子育てとのバランスを取りつつ主人の仕事とも相談しながら、営業日を調整して働けています。

――東京で子育てと仕事を両立するにあたり、実感したことがあれば教えてください。
妊娠したことを周囲に話した時、「妊娠する」=「夢や仕事は諦めるんだ」「育児に専念するんだ」というような先入観を感じる反応をされてしまうことが度々ありました。それが、個人的にとてもつらかったです。
私はこの仕事が好きで、結婚や妊娠をしたからといって仕事を諦めるつもりも全然ありませんでした。そんな先入観を持たせてしまう世間の風潮も問題なのだろうと、身をもって実感させられました。
それでも、東京は地方に比べたら働くママ、育児をするパパが多いように感じて、とても励まされています。おむつ替えのスペースには男性の姿も多いんですよ。実際に主人も協力的で、仕事が休みの日には子どもの世話を一手に引き受けてくれています。
――家庭と仕事との両立を頑張るMEIさんの、今後の展望があれば教えてください。
子育てしながら、アイリストとしてのキャリアアップを叶えていきたいです。“ママアイリスト”としての1つのロールモデルになることで、アイリストをはじめ美容関連の職に就く女性たちに「ママになっても、夢や仕事をあきらめなくていい」ことを伝えていきたいと思っています。
また、私に夢や仕事を諦めずに済む道を示してくれたMAIさんへの恩返しもしたいので、アイリストとして売れるための努力を通じてhowpeの認知も広めていきたいな。
新しいサービスなども、積極的に提案していきたいと思っているんです。眉やまつ毛の施術をするにあたって、施術部位周辺のお客様のメイクを落とすことになってしまうので、その後にできるワンポイントメイクのメニューなど、実現してみたいなと考えています。
――これから美容業界を目指す方々へのアドバイスがあれば、ぜひ!
自分の経験から言えるのは、道は1つではないということです。
予期せぬことが起こった時、当事者は視野が狭くなってしまうことがあります。そんな時こそ、別の道はないかと意識して探すようにしてほしいです。それを邪魔するようなプライドがあれば、捨てていいプライドだと思います。
さらに言うなら、「どのお店で働きたいか」よりも「どんな自分になりたいか」を大切にしてほしいです。前者のような自分以外の軸でキャリアを考えていると、何かあった時に環境や人のせいにしてしまうんです。もっと自分の心の声に耳を傾けて、自問自答を続けていきながら、自分を軸にキャリアを考えてほしいな。
――MEIさんにとって「働く」とは?
「生きがい」です。アイリストとしてお客様の目元を整えさせていただく中で、コンプレックスだと思っていた部分が素敵に生かされたり、毎日を頑張る活力になったりといったような、「誰かの背中をちょっと押してあげられている」ことに日々やりがいを感じています。
かつてMAIさんも在籍していたサロンは、「ここに行けば大丈夫」と自分に自信をつけてくれるような、背中を押してもらえるような場所だと感じて憧れていました。これからは、私自身もお客様にとってそんな場所になっていきたいです。
加えて、子育てとキャリアアップの両立を叶えてその姿を発信していくことも、ゆくゆくは家庭を持ちながら働く同業者たちの背中を押すことにもつながるんじゃないかな。
私の挑戦は、まだ始まったばかりなんです。
MEIさんの成功の秘訣
1. 辛い経験からも学ぼうとする姿勢
2. 仕事でもプライベートでも変化を恐れない軽やかなフットワーク
3. 「自分軸」を大切にすること
撮影/野口岳彦
取材・文/勝島春奈