江戸時代から続く紅屋。一度訪れたい「伊勢半本店 紅ミュー ジアム」#1
美容業界にいるのなら、日本の美に関する伝統は自分の知識を広げるためにもいろいろと知っておきたいもの。
創業文政8年(1825年)。紅花から作られる日本の伝統的な「紅」の製法を現在も守り続ける、伊勢半本店。江戸時代から続く最後の紅屋としての誇りを持ち、口伝でのみ受け継がれてきた秘伝の製法をもとに、職人がひとつひとつ丁寧に仕上げていく口紅は、美しい玉虫色が特徴の「小町紅」。昔ながらの紅が放つ上品な艶と発色は、日本女性の肌を美しく引き立たせます。
南青山にある「伊勢半本店 紅ミュージアム」では、紅の歴史や文化を知る貴重な資料の展示のほか、小町紅のお試しなど五感で紅の魅力を堪能し、購入もできるサロンスペースを常設。日本人が忘れてはならない「紅」の価値を改めて知ることができます。ぜひ、一度、訪れてみてはいかがでしょうか。
3世紀半頃には日本に伝えられたと言われる「紅」。今では口紅と言えばスティックタイプやジャーに入ったものなど多種多様なものが揃いますが、昔は紅花から採取した色素から作られていました。その伝統の製法を守り続ける伊勢半本店が展開するのが「小町紅」。ほかでは手に入らない、貴重な紅の魅力とは。
日本女性を彩ってきた伝統的な紅
そもそも、歴史的に「赤」という色には悪魔を避けるなどの意味合いがあったとされ、古代エジプトの絵画には口紅と思われるものが残っているとか。
日本には、口紅の原料である紅花が卑弥呼の時代には中国大陸から伝わっていたとされ、日本においても古(いにしえ)より魔を払うということでさまざまな神事、化粧に使われていたそうです。
伊勢半本店によれば、「血の巡りを良くする作用があると信じられていた紅は、女性の体を病気から守る一種の薬とみなされてきたこともあり、染料をはじめ、化粧料や食用の着色料として、出産、雛祭り、七五三、婚礼、還暦など、女性の人生の節目を彩って」きたとのこと。歴史的に見れば、女性と紅との関わりは単に美しくなるという意味だけではなかったようです。
江戸女性が憧れた紅の魅力
化粧は、呪術的意味合いに始まり、その後身分を示すためのものとして、特定の人々の間で行われてきました。江戸時代に入り、文化が成熟するにつれ、徐々に化粧の習慣が広まり、一般の女性たちも化粧を楽しみ始めるようになりました。
江戸時代のメイクの特徴は、眉墨やお歯黒の「黒」とおしろいの「白」に、紅の「赤」の3色が基本だったそうです。そんな当時の女性たちの憧れは、絶世の美女と言われた小野小町の名にあやかって売り出された「小町紅」。良質な紅は、お猪口などの容器の内側に刷いてから自然乾燥させると、玉虫色の輝きを放ちます。その紅はとても高価で、現在の金銭感覚にするとひと点(さ)しでも約500円はするとか。当時は、お金持ちか遊女が使っていたという資料が残っています。今見ても、玉虫色に輝く紅の存在感は圧倒的です。
伊勢半本店が今も作り続ける小町紅
江戸時代後期、文政8年(1825年)に日本橋小舟町に創業した、紅を製造・販売する「伊勢半本店」。当時、紅の製造は主に京都で行われていましたが、初代・澤田半右衛門が京都製の紅にも負けないほどの玉虫色の小町紅を完成させ、たちまち江戸で大評判になったといいます。その製法は代々口伝で、歴代の当主と当主に認められた紅職人によって受けつがれ、門外不出とされています。
伊勢半本店では、良質の山形県の最上紅花を使用。目にも鮮やかな黄色の花です。その紅花の花弁にわずかに含まれる、貴重な赤色色素から紅を作ります。
7月上旬から中旬にかけて開花した紅花の花弁を丁寧に摘み取り、水洗いしてから手もみで黄色い色素を洗い流し、発酵させることで赤みが強くなります。発酵した花弁を臼に入れてつき、煎餅状に乾燥させたものを「紅餅」といい、そこから紅い色素を抽出していきます。
紅職人は、いくつもの工程を経て抽出した色素を、お猪口などの内側に刷いて自然乾燥させて小町紅を完成させます。ひとつひとつが丁寧に手作りされた、希少な紅。見るだけでため息が出るほど、美しい玉虫色の光沢が特徴です。筆に水を含んでから玉虫色の部分をなぞると、そこから鮮やかな紅色が溶け出してきます。水の分量で、濃さは自在に調整可能。筆にのせた紅を唇に点(さ)すしぐさには女性らしさが漂い、身も引き締まります。
今では手軽なリップスティックなどが主流ではありますが、小町紅は、江戸時代から脈々と続く伝統技がもたらす、日本古来の財産ともいえるでしょう。
Shop Data
伊勢半本店 紅ミュージアム
所在地 :〒107-0062 東京都港区南青山6-6-20 K’s南青山ビル1F
TEL :03-5467-3735
開館時間 :10:00~18:00(入館は17:30まで)
※ただし、企画展開催中は開館時間に変更が生じる場合がございます。
休館日 :毎週月曜日(月曜日が祝日または振替休日の場合は、翌日休館)と年末年始
http://www.isehanhonten.co.jp/
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