ミネシンゴ interview#3:五十嵐郁雄さんとの出会いが今の自分を存在させる

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将来は美容室を作りたかった。しかしそれでは夢は果たせないと思った

――子供の頃から読書家だったんですか?

「全然本を読まない子でした(笑)」

――それなのに出版というのが、つながらないのですが。

「ハタチくらいまで本は全然好きではありませんでした。だけど美容師1年目の21歳のとき、蟻牙スピリッツという出版社の社長だった五十嵐郁雄さんの『美意識の芽』という本を読んでから変わりましたね。美容師のために作った本で、読んだときに電気が走ったし、文章ってすごいと思いました。そして五十嵐さんに会いに行き、仲良くなり、お付き合いをさせていただくようになったんです。美容師だったらこういう本を読んだほうがいいと、いろいろアドバイスをもらい、たくさん読書しましたね。それがきっかけで本が好きになりました」

ミネシンゴさん

――五十嵐さんはおいくつくらいの方なんですか?

「一昨年、65歳で亡くなられました。実は『髪とアタシ』の2号目にも出てもらっているんですよ。生前、いっしょに仕事ができて、本当に良かったです。最初に美容師を辞めるとき、五十嵐さんのところへ相談しに行っているんです。そうしたら『編集という道もあるんじゃないか』という話をしてくれて。それで僕は美容業界誌を作っている髪書房という出版社に入ったんです。まったくコネなしで飛び込んでいって、2回落とされて、もう1回行って、やっと入れてくれて。五十嵐さんの存在が今の自分には相当大きいです。アートのこととかもいろいろ教えてもらいました」

――そもそも美容師になろうと思ったきっかけはなんだったんですか?

「僕は日大付属の高校へ通っていて、卒業後は日大芸術学部へ進学したかったんです。ギリギリまで部活をやっていたせいか、日大のシステムがよく分からなくて、卒業の3カ月前に先生に『日芸に行こうと思っている』と言ったら、『日芸だけは内部進学できない』と言われまして……。ならばどうしようかと考えたとき、将来的に父や兄のような固い仕事には就きたくないと。ものづくりをするような仕事がしたかったので、いろいろ探していく中で美容師という仕事がおもしろそうだと思いました。普段着で過ごせるのも魅力の一つでしたね。とても不純な動機です(笑)」

ミネシンゴさん

――ならば美容師を諦めるとき、相当葛藤があったと想像するのですが。

「リクルートに入るときに面接で『何がしたいんだ?』と言われて、僕は『美容室を作りたい』と話したんです。その時点では美容師に戻るつもりでした。営業でいろんなサロンを見て、美容師をやったり業界誌を作ったり、その中で美容業界を変えたいと言い続けてきました。でも一つのハコを作ってオーナーになったところで美容業界が変わるかといったら、たぶん変わらないと思ったんですよね。ハコを作れば、すべての夢が叶うと思ったらそうじゃない。人を動かす何かってなんだろうと考えたとき、やっぱりメディアだったんです。本だったり、ウェブだったり、いろんなもの。それはリクルートにいたから気づけたことでした」

――『髪とアタシ』は既存メディアへのアンチだとおっしゃいました。今の出版メディアに一言あるとしたら?

「やりたいことをしたほうがいいと思います。僕もまだ全然できていないですけど。似たような本がたくさん出ている中で、編集者として作りたい本がちゃんと作れる土台があるといいですよね。編集者と話をしていると、作りたい本の構想をいっぱい持っている。書きたい著者もいる。なのに、経費がないとか、出しても売れないだろうとか、そういうことを言う人たちがいますし、マーケットを気にしすぎて二の足を踏んでしまう。もちろん売れないと会社が成り立たないのは分かります。それでもギリギリのラインで、自分を信じて本を出さないと、出版をやっている意味がないと思うんですよね」

ミネシンゴさん

――今後、アタシ社はどのように進んでいきたいですか?

「美容師の価値がもっと上がることをしたいです。僕は美容師の“抽象度”を上げるってよく言っているんですけど、美容師に対するある種の偏見みたいなものを払拭していきたいですね。サロンワークをベースに美容師をしている人が大半ですが、彼らは人を幸せにできる素晴らしい技術の持ち主で、人とのコミュニケーションにも長けて、自分のファンまで持っているスーパーな人間です。“スーパー”だということを、雑誌、ウェブ、単行本というツールを使って発信していきたいと思っています」

Profile

ミネシンゴさん

ミネシンゴさん

出版社アタシ社代表、髪とアタシ編集長

出身地・神奈川県
座右の銘:人は簡単に死なない
1984年生まれ。横浜fカレッジ美容科卒業後、神奈川や東京・青山で美容師を2年、髪書房で美容業界誌の編集を2年、鎌倉にて美容師を2年、(株)リクルートで企画営業を3年半経験したのち、合同会社アタシ社を設立。リクルート在籍中に美容文藝誌『髪とアタシ』を出版する。毎月1回、渋谷のラジオで『渋谷の美容師』のパーソナリティーを務める。

HP
https://kamitoatashi.fashionstore.jp/
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Information

道を継ぐ

道を継ぐ

アタシ社初となる単行本『道を継ぐ』が3月25日に発売。
1,512円(税込)

美容ライターの第一人者、佐藤友美さんが取材期間1年半かけて書き下ろした渾身の1冊。49歳という若さで他界したMINXの“母”、鈴木三枝子さん。彼女の生き方、働き方、厳しさ、そして優しさは、今なおMINXのスタッフやOBたちの中で生き続けている。短くも太く生きた鈴木さんの人生を、関係者の声をもとにノンフィクションという形で実現。ミネさん曰く「存在が見えなくなっても、生き続けているということをみなさんが体現しているし、僕らは“道として継ぐ”ということをメッセージとして発信したいということもあり、このタイトルをつけさせていただきました。美容師はもちろん、一般の人にも通じる話なので、幅広く読んでもらいたいです。アタシ社初めての単行本がこの本で良かったと思います」

道を継ぐ

たたみかた

アタシ社から新雑誌が刊行。創刊号は4月10日発売。
1,512円(税込)

世の中をどう「たたむ」かをテーマにした30代のための社会文藝誌。小さい問題も大きい問題も、風呂敷を広げすぎるあまり、問題の所在がどこにあるか分からなくなっている。だとするなら、どう収めていくのが正しいのか。A案とB案とで対立構造がある場合、C案を示すことで収束することが多々ある。合意形成学も駆使しながら、様々なテーマをタブー視せずに取り上げるのが『たたみかた』だ。創刊号のテーマは福島。

道を継ぐ

美容文藝誌 髪とアタシ第五刊「音楽と髪」

発売中
1,404円(税込)

切っても切り離せないのが「音楽と髪」。気になるミュージシャンとそのヘアを手がける美容師たちのエピソードを優しい文章で綴っている。尾崎世界観(クリープハイプ)、U-zhaan、
小山田壮平(AL)、高橋海(LUCKY TAPES)、三戸なつめ、鹿野淳(MUSICA)、ベッド・イン、Bose(スチャダラパー)、辻野孝明(衣装デザイナー)が登場。

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