寺口 昇孝 interview #1:今の時代こうでなければならないなんてない!

美容業界誌の老舗出版社、女性モード社。ここ最近、発刊されている雑誌が続々とリニューアルをしています。雑誌全体の売り上げが落ち込み、新しい試みに二の足を踏むところが多い中、大胆なモデルチェンジで注目を浴びています。そこで女性モード社の社長である寺口昇孝さんに、なぜ今、雑誌を刷新したのか理由を伺いました。さらには美容専門誌のあり方についてもお聞きしております。第1弾は看板雑誌『ヘアモード』のリニューアルについてです。

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ヒューマン、サブカル、モードの3コンセプトで『ヘアモード』を一新

――女性モード社の雑誌が相次いでリニューアルされています。立て続けにそうしている理由を教えてください。
「今年で弊社は58年目になるんですが、昨年に会社全体で大きな人事異動がありました。その延長上で雑誌もリニューアルをすることになったんです。本来は、例えば『ヘアモード』編集部なら、編集部員を何名か残して人事をしていくんです。しかしそのセオリーを崩して、今回は各部署で一人は残すけど、あとは総異動で、過去の既定路線を引っ張らないようにしました。今までこうだったから、これからもこうだろうというような形から離れ、何かを変えていくためには、大胆な人事が必要だと思ったんです」

寺口昇孝さん

――『過去の既定路線を引っ張らないように』というのは、やはり昨今の出版不況の影響でしょうか?
「美容業界誌は一般誌よりもやや遅く不況の波が襲ってきたように思います。ここ数年、月刊誌はキープするのが大変で、むしろ書籍(単行本)のほうが伸びているんです。そういう意味では今までにない動きが出てきているなと。ですから我々も今までにない動きをする必要があるだろうということですよね」

――最近の出版界は雑誌より書籍のほうが業績がいいとはよく聞く話です。
「そうですよね。その中において、月刊誌のあり方を考えていこうということで、1年前の人事から改革がスタートしてきました。今回、『ヘアモード』に関しては大きな変更だったので、責任上、私が編集人になっているだけで、実際のところはすべて現場に任せているんです」

ヘアモード

――『ヘアモード』4月号がリニューアル1号目ということで、評判はどうだったのでしょうか?
「みんな驚いたという反応です(笑)。以前の『ヘアモード』はモードのど真ん中のような雑誌だったんですが、美容師という一個人に寄った作りに変えたので、そのギャップにビックリして、わざわざご連絡をくれたヘアサロンさんもありました」

――5月号ではまた変わりましたよね。
「5月号はサブカルチャーがテーマです。サブカルっぽいイメージを作っていこうということで、テーマを『エロ』という過激なものにして、ヘアスタイルと絡ませてみたという感じです。エロやエロチズムを研究しているお医者さんや、生物学、言語学などの文化人たちのコメントをあえて入れて、幅広い視点からアプローチしてみました。タイトルのロゴも4月号ではカタカナだったのを、5月号ではアルファベットに変えました。この号はアマゾンで品切れになって、追加するほどでした。美容師のみならず、コアな人たちも買ってくれたということですよね」

ヘアモード

――2カ月連続でタイトルのロゴを変えるのは、けっこう勇気のいることだと思うのですが。
「プロの視点で見れば怒られてしまうようなことでも、あえてやってみようということです。そのための怒られ役として私がいるのかもしれませんね(笑)。私は2012年に社長になりましたが、その前は『ヘアモード』の編集長でした。当時は雑誌のブランディングをすごく意識して、コマーシャルフォトを撮影するようなカメラマンやハイエンドなファッション誌を作っているデザインチームといっしょに仕事をしてきました。だけど時代が変わり、古い人間がブランディングをああだこうだと言うのはもう違うような気がします。今の時代に合ったものは、現場がよく知っていて、それをどう具現化していくか、なのかもしれません」

――新しい人間に任せるという感じですか?
「トライ&エラーで経験を積み重ねていくことが大切なのではないでしょうか。昔だったら、敏腕編集長がいて、みんなを引っ張っていけば本が売れる時代だったと思うんです。今は編集者の意見や、現場で取材して回ってくれている人たちの生の声をダイレクトに反映していったほうが、誌面の躍動感が生まれると思っています。それを今、学んでいる最中ですかね(笑)」

寺口昇孝さん

――自分がトップに立ったら、現場の判断を重視して雑誌を作りたいという気持ちがもともとおありだったのですか?
「はじめはそんなことはなかったんですが、若いスタッフの意見などを聞いているうちに、売り上げが伸びていないということは、根本から変えていいんじゃないかと思うようになりました。実は4月号、5月号、今度発売する6月号と誌面を作るデザイナーもそれぞれ変えているんです。編集者は変わりませんが。目指す本のコンセプトも変えています。6月号は従来やってきたモード色の強いものになっています。ヒューマン、サブカル、モードの3本柱で『ヘアモード』が月替わりでおもしろいことやっているなって思ってもらえるような雑誌を目指したいと思っています。もし編集者がもうちょっと変えたいなと思ったら、また変えていくつもりです」

profile

寺口昇孝さん

女性モード社
代表取締役社長 寺口昇孝さん

座右の銘:小我を捨てて、大我に生きる
1966年生まれ。’90年(株)女性モード社へ入社。07年4月『ヘアモードURESTA!』の創刊にともない編集長に就任。08年取締役に就任し、09年取締役編集局長兼『ヘアモード』編集長に。’12年4月代表取締役社長に就任。12年10月~’14年9月テレビ東京『表参道MODE』にて番組MCとして出演。他、講演、コンテスト審査など日本全国幅広く活動中。

Company Data

女性モード社

昭和35年2月創業。今年で58年目となる。月刊誌『ヘアモード』『美容の経営プラン』『美容界』などを発行。書籍、DVDなども多数出版している。最近では美容業界誌のみならず、一般誌として男性のヘアカタログや単行本『おてんばマダム』なども手がける。デジタル分野にも力を入れており、紙媒体とウェブの融合を積極的に進めている。

寺口 昇孝 interview #2:議論が広がるような誌面作りをすることが業界誌の役割>>

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