寺口 昇孝 interview #2:議論が広がるような誌面作りをすることが業界誌の役割
美容業界誌の老舗出版社、女性モード社。ここ最近、発刊されている雑誌が続々とリニューアルをしています。雑誌全体の売り上げが落ち込み、新しい試みに二の足を踏むところが多い中、大胆なモデルチェンジで注目を浴びています。そこで女性モード社の社長である寺口昇孝さんに、なぜ今、雑誌を刷新したのか理由を伺いました。さらには美容専門誌のあり方についてもお聞きしております。第2弾は、『今必要な美容業界誌とは』について、寺口さんのお考えを話していただきました。
編集力をもっと大切にして、その力を活かせる本の作り方を目指していく
――御社より発行されている『美容界』の4月号のテーマが“美容専門誌に明日はあるか?”という、業界がザワつきそうなものでした。なぜ、このテーマを選んだのでしょうか?
「今の美容師さんたちはほとんどがSNSをやっています。自分たちが作ったヘアスタイルをそこで発信するので、あっという間に様々な人たちに届けることができるわけです。となると、我々のような業界誌は後追いのようになっていくので、スピードでは勝てないんですね。実際にディーラーさんたちからも『業界誌、大丈夫?』と言われたこともあります。こんな状況だからこそ、あえていろんな出版社の声を集めてみようと思いました」
――よく他の出版社が取材を受けてくださいましたね。
「もちろん断られたところもあります。だけど、取材を受けてくれたところ、NGだったところ関係なく、どの出版社もしっかりと考えていて、そういう話を聞けただけでも自分たちにとっては良かったと思っています」
――例えば、どのような点が良かったところですか?
「専門誌だからこそできることを探さないといけないことに気づきました。紙媒体ならSNSやウェブには存在しないものを提示していかないといけないんです。そういう意味では編集力というものをもっと大切にして、その力を活かせる本の作り方をしていくべきなんですよね」
――3月号では“コンテストの意義を再考する”というテーマでしたね。
「はい。3月号、4月号とあえて尖った言葉選びをしています。編集者と話し合って決めてきたことなんですが、美容のジャーナルって、辛辣なことは言わず、暗黙の了解でやり過ごすようなところがあるんです。だからあえてそういうものにも向き合っていこうと思いました。臭いものに蓋をするのではなくて、蓋を開けてみようと。せっかく『美容界』というステキな名前で、メーカー、ディーラー、専門学校、出版社を含めて、この業界に携わるすべての人たちが参加できる雑誌なわけですから、いろんなジャンルの人たちが集まって、いろんな意見を発言してもらうことが重要なのではないかと思ったんです」
――閉塞感みたいなものを打破するためのものでありたいというわけですね?
「なんとなく見ないようにしていた部分ってあったんです。だからこういうテーマでやろうとなるまでに、部署を超えてけっこう長くミーティングしてきました。『美容界』はもちろん、弊社から出ている他の雑誌であっても、その本を中心に議論が広がっていくようにすることが私たち業界誌の役割なんじゃないかと思うんですよね。業界に一石を投じるというわけではないんですが。ちなみに『美容界』は6月号から完全リニューアルをしました。コンセプトは“黙っていないギョーカイ誌”です(笑)」
――あえて波風を立てるような。
「立っていないところに立てるわけじゃないですけど、どんどん議論していきましょうということですよね。そういうところにいろんなヒントが隠されているかもしれないじゃないですか。サロンの現場は美容業界の動きを反映しています。主役は間違いなく美容師さんで、積極的に話し合える場をつくり、その上で外部の視点や有識者のコメントを差し込んで、多角的にページ構成をしたほうがいいのかなと思っています。そうすることによって業界を活性化できたらいいですよね」
profile
寺口昇孝さん
女性モード社 代表取締役社長
座右の銘:小我を捨てて、大我に生きる
1966年生まれ。’90年(株)女性モード社へ入社。07年4月『ヘアモードURESTA!』の創刊にともない編集長に就任。08年取締役に就任し、09年取締役編集局長兼『ヘアモード』編集長に。’12年4月代表取締役社長に就任。12年10月~’14年9月テレビ東京『表参道MODE』にて番組MCとして出演。他、講演、コンテスト審査など日本全国幅広く活動中。
Company Data
女性モード社
昭和35年2月創業。今年で58年目となる。月刊誌『ヘアモード』『美容の経営プラン』『美容界』などを発行。書籍、DVDなども多数出版している。最近では美容業界誌のみならず、一般誌として男性のヘアカタログや単行本『おてんばマダム』なども手がける。デジタル分野にも力を入れており、紙媒体とウェブの融合を積極的に進めている。
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