岩本麻奈 interview #1:閉じられていた日本の美容業界から南仏へ
皮膚科専門医、美容ジャーナリスト、コスメプロデューサーなどとして、さまざまな角度から美容に関わるプロフェッショナル岩本麻奈さん。20年ほど前、南仏へ渡った際に現地の美容法に感銘を受け、美容と深く関わるようになったそうです。その後、世界中の人々を魅了する“美の大国”パリで長年美容の最前線で働き続けてきました。
今回は、そんな岩本さんに、日本とフランスの根本的な“美”についての考え方の違いや、岩本さんが考える正しい美容法について語っていただきました。前編では、医療業界に進んだ経緯や南仏で出会った美容法についてうかがいます。
人の一生に寄り添ってみたい
――それではまず、長年世界の美容業界に身をおかれていた岩本さんが、日本の人たちに伝えたいことはなんでしょうか?
「それは“美はイメージを形にすることではなく意志である”ということです。外見を整えることやきれいにみせる表現法を習得することではなく、“美しくありたい”という意志が大事なんです。私はそれを、美の殿堂パリに住むマダムたちから学びました」
――なるほど、次に美容業界で働くうえで大切なことを教えてください。
「お客様自身が、いつまでも美しくありたいと志を持つように働きかけることがもっとも大切です。それがお客様の美と健康、そして自分の幸せに直結すると思います。提供する技術を磨くことはもちろん大切ですが」
――美容に興味を持ったのはいつ頃でしょうか?
「中学生の終わり頃に好きな人ができて、きれいになりたいと思いました。それまでは、勉強の虫だったんです。進学した高校がお化粧もパーマも自由な校風で、その頃からますます美容に興味を持ち始めました。メイクできれいに変わることが、とても楽しかったです」
――医学部に進んだきっかけを教えてください。
「学生の頃から文系が苦手で生物が好きだったからです。生き物はどのように生まれて、どのように最後を迎えるのかに関心があり、人の一生に寄り添ってみたいと思いました。また、両親が共に働いており、『女性も自立した方がいい』と言われていたことも影響しているのかもしれません。その時代は、それほど女性の社会進出が進んでおらず、将来の夢が“お嫁さん”という時代をまだ引きずっていました」
医師が美容に関わることが邪道だと思われていた時代
――なぜ、皮膚科を選んだのでしょうか?
「当時、女医が家庭を築きながら働ける科は、深夜の緊急の呼び出しが少ない、眼科、皮膚科、麻酔科の3つでした。とくに皮膚科は3ない科と言い、呼び出されない、死なない、治らない、と言われていたんです(笑)ずっと美容に興味があったので、そのなかで一番近い分野である皮膚科を選びました」
――働き始めた当時の、美容業界の雰囲気を教えてください。
「まだ美容整形が出始めた頃で、医師が美容に関わることが邪道だと見られていました。病院で働く際の面接で、“私は将来、美容と抗老化の勉強がしたい”といったところ“入局の面接で美容について語ったのは、君が初めてだ”と驚かれましたね。その頃の医療業界は、今よりもずっと男社会で、女医が美容について発言をするとかなり反発を受けました」
――なるほど。その頃は、どのような美容製品が流行していましたか?
「アレルギー問題や敏感肌が注目されており、無香料、無着色の美容製品がメディアを通して話題になっていました。患者さんに効果を伝えるために実際に人気の低刺激無香料のシャンプーなどを使いましたが、私はとくに肌が弱いわけではなく、そのよさを実感できませんでした。それよりも、別段肌に問題なければ、いい香りがあり泡立ち感のある製品のほうが、気分があがっていいと思ったんです」
美容は健康的な生活があり、初めて成り立つ
――病院に勤務していた時代について教えてください。
「無我夢中で働いていました。いらっしゃる患者さんは、アトピーの方や、湿疹がひどい方などです。その頃は本当に時間がありませんでした。大好きな美容について深く考えることができないほどでしたね」
――美容との関わりが深くなったのはいつ頃でしょうか?
「30代前半です。医学留学で南仏のトゥルーズ地方に渡り、現地の美容法について触れるなかで、“美”や健康について深く考えるようになりました」
――具体的に、南仏で出会った美容法はどのようなものでしたか?
「ハーブや食べ物で体の調子を整える自然医学です。ちょうどその頃、まわりの30歳に比べて、自分は疲れやすいと感じていました。薬やビタミン剤を飲んでいましたが改善せず、ずっと悩んでいたんです。そんなときに、薬を飲んでいた私を見た留学先の方が“薬を飲むよりも、きちんとした食事を心がければ風邪はすぐに治る”とアドバイスをくれました。試しに食生活を変えてみると、体と肌の調子が驚くほどよい。人間の体は、人工的な薬やサプリメントよりも、自然の食べ物となじむようにできていると実感しましたね。また美容は、基盤に健康的な生活があって、初めて成り立つと身に沁みてわかりました」
病院勤務時代、周囲の医師に美容について話すと「病気のことをきちんと学んだ後でやりなさい」と言われたと語る岩本さん。今になって考えると、その当時に身につけた病理の知識が美容について考える基礎になっているそうです。中編では、南仏での印象的な出会いや、パリでの仕事についてうかがいました。
Profile
岩本麻奈さん
一般社団法人日本コスメティック協会代表理事、一般財団法人・内面美容医学財団学術理事、皮膚科専門医、美容ジャーナリスト、コスメプロデューサー、作家。東京女子医大卒業後、慶応病院や済生会中央病院などで臨床経験を積む。1997年に渡仏。美容皮膚科学、自然医学、抗老化医学などを研修する。現在は、欧州大手製薬会社やコスメメーカーなどのコンサルタントを務めるかたわら、美容ジャーナリストとしてさまざまな雑誌メディアで美容情報を発信中。公式ブログhttps://ameblo.jp/dr-mana/
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