2019理美容業界の最新動向、売上の別れ道となる5つのポイント
平成から令和に変わった2019年。理美容業界ではどのような変化が起こってきているのでしょうか。
まず、業界全体の動きを見ていくと、昨年過去最高の店舗数を記録した美容院数は、今年はさらに出店数が増加しています。これに対し理容院は減少傾向にあります。
現在の美容院数が約248,000店舗(厚生労働省衛生行政報告より)。
全国のコンビニ数が約56,000件(JFAコンビニエンスストア統計調査月報2019年5月版より)なので、それと比較すると、どれだけ美容院が多いかがお分かりになるでしょう。日本全体の人口は横ばいなのにも関わらず全国のコンビニの5倍近い数の美容院が存在するということは、美容院個々の視点で見ると、お客様の取り合いが激化しているということです。
今回は、生存競争の激しい美容業界の現況や今後の課題について、船井総合研究所で美容室のコンサルタントを務める、富成将矢(とみなりまさや)さんにお話を伺ってきました。
即戦力の人材不足にフリーランス採用という選択肢
増える美容院に対し、技術者の人数変化としては、去年新たに国家資格を取得した美容師の数は15,956名、理容師の数は923名です。
美容師に関しては、ピーク時の人数には劣るものの、平成24年に14,000名台まで割り込んだところから見ると徐々に回復し、増加傾向にあると言えます。
理容師に関しては長期的な目線で行くと減少を続けていますが、昨年の志願者数はほとんど横ばいではあったものの合格率が高かったこともあり、わずかに増加しました。
そのため、新卒スタッフの確保としては例年に比べ難しいということはなかったと言えます。
しかしながら、今年も理美容業界では人手不足がささやかれており、船井総研の富成さんも、人材の確保については各サロンが注力しなくてはならないとおっしゃっています。
新卒の数字から見ると深刻な人材不足には見えない理美容業界ですが、現在の大きな課題としては、中堅以上のスタイリストの人材確保ができていない点が挙げられます。
中堅以上のスタッフは技術者として即戦力であることはもちろん、新卒スタッフへの教育指導面でも欠かせない存在です。このポジションが欠けたままだと、店舗の稼働率の低下だけでなく将来的に若い世代への引継ぎ自体が難しくなってきます。
美容師は30歳の平均年収が額面で300万を割ってしまうことがほとんどで、中堅でも決して好待遇とは言えません。
年々増えるフリーランス美容師の数
昨今の過度な残業による過労死などの社会問題を受け、働き方改革が各業界で大きく取り上げられていますが、美容業界でも働き方は昨年から大きく動きを見せつつあります。
日経MJの発表によると、フリーランスの美容師の数は昨年のデータで約83,000人。
今美容師自体が約50万人弱と考えると、これは決して少ない数字ではありません。全体の約16%を占める数字になります。
独立行政法人の労働政策研究・研修機構が2019年4月に公的機関として初めて、フリーランスという働き方の割合を調査した結果を発表しました。
その結果は、<フリーランスなど個人で仕事を請け負う人の数が170万人にのぼる>との試算を公表しており、これは、業種問わずフリーランスという働き方が日本全体に浸透しつつあることがうかがえます。
フリーランスの働き方は今後日本全体でもっと伸びしろがありますので、各サロンでもフリーランス美容師を導入するか否か、検討していくことをおすすめします。
もちろん、都市部と郊外では採用自体に大きく開きがあり、そもそも人材募集が成り立たないエリアについては、フリーランス以前に人材不足が大きな課題となっています。働き方改革がこれだけ騒がれている今、残業や過剰な労働はたとえ美容室であってもご法度です。
社員やパートとしての雇用については、産休・育休などの補助制度をはじめ、今まで以上に従業員の囲い込みの施策をしっかりと意識すべきと言えます。
シェアサロンという新たな経営スキームに注目
即戦力の人材確保としてフリーランスの話題を出しましたが、フリーランスの最大の魅力は店舗の稼働率アップに貢献してくれることです。
サロンは、持ち物件でない限り家賃がかかっており、座席に空きがでるということは、店舗の稼働率が下がってしまいます。逆に言うと、人数が少なくてもセット面がフル稼働していれば稼働率としては問題ないわけです。
サロンの稼働率の点で今後注目なのがシェアサロンというスキームです。
以前、Airbnbのヘアサロン版として、AIRSALONというサロンシェアサービスが始まり話題となりました。サロンが貸したい空き席を登録し、フリーランスのスタイリストが登録されている空き席から選んで予約するという面貸しシステムです。
現在、最も注目されているのはGOTODAY SHAiRE SALONというシェアサロン。大手3社からもバックアップを受け、店舗を順調に増やしています。
こちらは、店舗全体を運営し、外からフリーランスの美容師にきてもらうシステムです。
個室空間の確保や、フルフラットのシャンプー台、備品ストックのための個人ロッカーの完備など、フリーランスの美容師に上質な施術空間を提供しています。
フリーランス向けのシェアサロンが出てきたことにより、今まで独立できなかったけれど独立の希望を持っていた人たちが、より気軽に低リスクで独立できるようになりました。
さらに美容室×○○(異業種)という形で、他の業態と組むことで他サロンとの差別化も図ることができ、ウィン・ウィンの関係でサロン展開を広げることに成功しているサロンもでてきています。
このシェアサロンの波は都市部だけでなく、政令指定都市を中心に広がっていく見込みです。去年までは東京都心部での展開が目立ちましたが、実際に今年は政令指定都市に展開が広がってきています。
こういった企業の展開を見て、シェアサロンに参入してくる企業は今後増える見込みがあり、この後も注目のスキームです。
異業種の企業による美容室業界参入が増えることで、発想の違いや、異業種の勢いが美容業界にいい風を吹かせる形になりそうです。今までは人を採用するというのが最優先でしたが、現在は採用というよりは労働力の確保に重きが置かれ、セット面をどう稼働させるかが課題となっています。
異業種参入の後押しもあり、人材自体の採用よりも業務委託で空いている枠を貸すという発想の方が今後は需要が伸びてくるといえるでしょう。フリーランスの増加とともにシェアサロンのブームもまだまだ続く傾向にあると言えそうです。
集客最前線!美容院はSNS集客に注力すべきなのか
インスタグラマーやインフルエンサーという言葉が巷に溢れ、SNSの活用はもはや常識となっています。各企業の広報担当もインスタグラムの有効活用を模索しているようですが、理美容業界で見ていくとどうなのでしょうか。
結論から言うと、SNSについては大きな影響を受けているサロンとそうでないサロンの格差が大きくなっています。
集客につなげるためには、まだまだポータルサイトによるものが大きい一方でホームページやSNSを、各媒体の特徴に合わせた運用を徹底することで成果につながってきます。更新をすることを目的にしたWEB運用ではなく、戦略的なWEB運用がより重要になってきます。
成功報酬型のクーポンサイトについては、媒体としての掲載ハードルが低い点は評価できます。ただし、サイトによっては若年層に集中してしまっているので、幅広い世代への集客には向いていないケースもあります。
アクセス数を予約につなげられるかがSNS集客のカギ
今、MEO対策というものが注目されつつあります。MEOはMap Engine Optimization の略で「マップエンジンの最適化」を意味します。
これはユーザーがネット検索した際にいかに自社のWEBサイトを上位に表示できるかというSEO対策に対し、現在位置からの距離、検索するものとの関連性、知名度を総合し、マップ上に表示する情報に対して行うのがMEO対策です。
しかしながら、こちらは閲覧数としては伸びる見込みはあるものの、そこから直接的な予約につながるか?という点で費用対効果がまだ見えていません。ある程度の企業規模になってからの取り組みと言えそうです。
インスタグラムも同様で、閲覧者が予約につながるか?という点が課題となりそうです。
トップスタイリストになると、インスタグラムを見て「私もこの髪型でお願いします!」というお客様の獲得はできるでしょう。フォロワー数が何万人単位じゃないと費用対効果としては見えにくくなります。
インスタグラムについては、美容師の場合作品として見せることができるため相性も良く伸ばしやすいSNSではあるものの、各サロンの見せ方が似たり寄ったりになり、差別化がしづらいのが難点といえます。
今後システム上でインスタグラムからの予約が直接できるようになると、さらに伸びる可能性はあるので、ある程度は運用しておいた方がいいと言えます。フォロワーの質も重要で、きちんとファン層が獲得できるようなアカウント作りが必要となってきます。
インバウンド向け集客対策は売上アップにつながるのか
目立った動きとしては、東京・大阪にサロン展開するFORCISEは外国者向けのWEBサイト構築、スタッフの英語教育などサロン内のインバウンド対策の他、旅行会社と組んでカワイイツアーの計画などおもしろい企画に取り組んでいます。
インバウンドの場合、一番の懸念点は言語のコミュニケーションの壁にあると言えます。
コミュニケーションは仕上がりにも大きく影響が出る部分なので、お客様のクレームにもつながります。また団体できた場合の受け入れも難しく、ビューティーパークチャイナというWEBサイトでは首都圏都心部(銀座・新宿・渋谷)のサロンを紹介しているものの、積極的に外国人で売り上げを伸ばそうというサロンはないようです。
髪を乾かすというちょっとした文化の違いや、ヘアスタイルのトレンドの違いも影響していると言えます。
逆にアウトバウンドという点では、日本の技術やサービス面に注目しているアジアの国は多く、日本で現地スタッフに学んでもらい技術を持っていく、もしくは日本人を現地に派遣してスタッフ教育するというスキームで海外展開を広めるという形は今後増えてくる可能性がありますので、バイリンガルの美容師は今後強みになってくるかもしれません。
売上アップ施策としての注目はヘアケア(トリートメント)
2019年、施術や商材としてのトレンドをお伺いしたところ、注目を集めるのは、トリートメントなどヘアケアのジャンルだそうです。
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トリートメントはオプションとしても非常に優秀です。まず、シャンプー台で対応できるので、アシスタントが担当することができます。本来であれば施術を担当できないアシスタントでもしっかりと売上を確保できる点で強化すべき施策と言えるでしょう。
ダメージ補修やパーマ、カラー専用のシャンプーやトリートメント剤もたくさん出ており、サロンによってはオプションで選べるように設定されています。
いかにお客様に押し売りにならず価値として体感いただけるか、その点がサロンの評価としても非常に重要となりますが、手触りやまとまりなど仕上がりで確認できるトリートメントはお客様からの共感も得やすく、リピート率も上げやすくなります。
また、最近では酸熱トリートメントなど高単価・高効果のトリートメントも出てきました。
こういったものをうまく取り入れていくことで、特に今まで秀でた特徴がなかったサロンの場合は、サロンの専門性を作ることもでき、ブランディングにも一役買ってくれるといえます。
店舗の稼働率を高めた店舗が生き残る、これからの時代に必要なのはサロンブランディング
相変わらず激戦が続く理美容業界ですが、生き残るためには他社と差別化するための施策を強化する必要があります。
サロンブランディングがきちんとできていれば、他社との差別化はもちろん、SEO対策、SNS対策、すべてにおいて軸ができるため優位になるのです。その前提で、人材をきちんと生かしきるということも非常に重要です。
今後はフリーランス美容師の導入や、シェアサロンでのセット面稼働率アップで、スタッフの働きやすい環境を整備し、売上効率をいかに高めていけるかがこれからのサロン経営に求められているものと言えるでしょう。
出典元:
厚生労働省衛生行政報告
JFAコンビニエンスストア統計調査月報2019年5月版
美容師国家資格合格者数推移
平成30年賃金構造基本統計調査 結果の概況
(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10701000-Daijinkanboutoukeijouhoubu-Kikakuka/shiryo2-9.pdf)
日経MJ2017年11月6日発行分(紙面)
Profile
富成将矢さん Masaya Tominari
1991年生まれ。立命館大学卒業後、船井総合研究所入社。美容室の業績アップを得意としており、売上2000万円の美容室から、県内No.1美容室まで、規模に応じた経営戦略を組み立てながら、業績アップに必要なものを的確に提案するスタイルが経営者から高く評価されている。業界内有名美容室もクライアントに多数抱える実力のあるコンサルタント。日本各地にクライアントを持ち、今日も全国を駆け巡っている。 「富が成る」美容室経営ブログ:http://www.funaisoken.me/m-tominari/ 美容室経営のことをもう少し聞きたいという方は、m-tominari@funaisoken.co.jpまで