【理美容業界の動向】ブランド戦略で蘇るバーバーの魅力、男に刺さるサロンブランディング

平成以降減少の一途をたどる理容室ですが、この数年動きに変化があり、新たな局面を迎えつつあります。

去年の国家試験の受験結果を見てみると、新たに国家資格を取得した美容師の数は15,956名、それに対し理容師の数は923名です。理容師は美容師の10分の1にも満たない数字となっています。そんなパッとしない印象の理容室が、ここ数年、かっこよさや男くささを前面に出したブランディングで、業界を再燃させようと健闘しています。

目覚ましい発展を続ける理容室のマーケティングとブランディングについて、船井総合研究所で美容室のコンサルタントを務める、富成将矢(とみなりまさや)さんにお話を伺ってきました。

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中性的な男性の増加で「かっこよさ」が二極化

まずは、美容室と理容室の違いを明確にしておきましょう。

美容室と理容室、どちらもヘアサロンというくくりでは同じようにお客様の髪の毛を扱いますが、最大の差はシェービングの技術を身に着けるか付けないかという点にあります。理容とは、頭髪の刈込、顔そり等の方法により容姿を整えることを指し、美容とは、パーマ、結髪、化粧等の方法により 容姿を美しくすることを指します。

法律の記述からもわかるように、基本的には理容師は男性向けの技術を身に着け、美容師は女性向けの技術を身に着けていきます。根本的に目指すところが異なるので、同じようにカットやパーマを学んでも全く別物のスキルになるのです。

カリスマ美容師の台頭やブライダルでの需要により、卒業後の就職先や活動範囲の選択肢が多いこともあり、美容師志望の方が圧倒的に多くなり理容師の志望者は年々減りつつあります。理容師と美容師という国家資格の壁でいずれかを選択せざるを得ない状況が理容師減少の最大の原因であり、この非効率さについては国の方でも議論されています。

理容院から人が遠のいた一番の原因としては、若者の感性で行くと“ダサい”という言葉が一番しっくりくるでしょう。地元に根付いていておじさんやおじいちゃんが通っているイメージが強く、女の子にモテたい20代は特に、美容院の洗練されたおしゃれ感に憧れがあります。そういったあか抜けないイメージも、理容院離れが進んだ要因と言えます。

その一方で男性の中性化が進んだことも若者の理容院離れに拍車をかけたと言えるでしょう。時代と共にイケメンの定義は変わります。

一昔前までは日焼け肌にしっかりとした骨格が人気だったと思えば、近年は韓流スターに始まり、坂口健太郎さん、高橋一生さんなど、線が細く肌もきれいといった中性的な顔立ちの男性の人気が上昇したことにより、塩顔イケメンという新しいジャンルが生まれました。それと共に、体育会系のさっぱりした短髪よりも、女性のような目にかかる長め前髪やふわふわとしたパーマヘアの人気が高まりました。

ヒゲがない方が女子にモテるという事実

さらに、最もダメージを受けているのがシェービング。中性的な塩顔イケメンたちは、女子に負けないくらいきめ細やかな色白肌であることが多く、男性でもスキンケアや美肌への意識がぐっと高まりました。そして、男性の象徴であるヒゲについては、つるつる素肌を台無しにする要因でしかありません。

マイナビウーマンの調査によると、女性から見た男性のヒゲについては、

「好き」……20.8%
「嫌い」……79.2%
※マイナビウーマン調べ
調査日時:2016年8月2日~2016年8月8日
調査人数:106人(22~34歳の女性)

と、8割を超える女性がヒゲ否定派であることがわかりました。否定派の意見としては、清潔感を感じられない、ジョリジョリする感じが嫌だという意見が大多数のようです。

そういったモテ意識からも、髭を剃ることよりも、ヒゲ自体をなくしてつるつるの素肌にしたいという願望が強くなった結果、ヒゲ脱毛に行く男性が増えてしまいました。スキンケアにおいてセルフでの髭剃りという行為が肌荒れの一因であることも脱毛志向が増えた要因と言え、女性が男性に求める理想像の変化が、意外にも大きな影響を与えています。

ワイルドな世界観で床屋がおしゃれバーバーに生まれ変わる


美容院の方がおしゃれ、ヒゲがないほうがモテる、という理容院にとって逆風の状況の中、驚くべきことに売上を伸ばしている理容院もあります。

実は、2018年のホットペッパービューティーアカデミーの調査によると、過去1年の理容室の利用率は前年比0.5pt増で51.3%。年代別では20代が37.4%で同5.9pt増加。美容室の利用に関しては30代が前年比3.8pt増、60代は同3.6pt増の一方、15~19歳は5.8pt減、20代は4.8pt減という結果を見せています。

理容院の長期的な数字としては減少傾向、去年全体の利用率は横ばいであるものの、おしゃれ志向が強い若年層の利用が増加していることは注目すべき事項と言えるでしょう。

NYのバーバーブームが日本のバーバームーブメントに火をつけた

男性であれば、一度は強い男に憧れるのも事実です。強い男の象徴としては格闘家が挙げられますが、格闘家をはじめとしておしゃれなアスリートに憧れる男性が一定数います。塩顔イケメンがもてはやされる裏側では、ワイルドな男らしさが再注目を浴びているのです。

実は、数年前からアメリカではクラシックファッションの再ブームと共にクラシックヘア―がブームになりつつあり、刈り上げ、七三分けといった短い髪型、かっちりとしたスーツの流行が見られました。それにより、アメリカのMR. Porterというハイエンド向けオンラインサイトでは、2015年度のメンズトイレタリーの売り上げが前年比300%増を記録しています。

ニューヨークでのクラシックヘア―ブームの勢いはとどまるところを知らず、2016年度の世界のグルーミング業界における総売り上げは2300億円を記録したと言われ、メンズのグルーミング市場は世界的に動向が注目されるようになりました。

このバーバームーブメントはニューヨークから世界発信され、それが日本に入ってきたのです。そういった「男が憧れるクラシカルなかっこよさ」を体現した理容院が日本でも最近いくつか登場し、そのとがったブランディングは日本国内でもバーバームーブメントとなり、低迷していた理容院の流れを変えつつあります。その中でも代表的な2店舗をご紹介します。

BARBER SHOP APACHE

北海道の旭川という、全国的に見ても好立地とは言えないこの都市に日本のバーバームーブメントを引き起こし、他店を牽引し続ける有名店があります。自分のスタイルを貫くことと自分が思う“かっこよさ”、この2点を追求し、現在では日本全国・世界各国からもお客様が絶えない名店となりました。

元々アメリカンカルチャーに関心が強かったオーナーがアメリカのバーバーカルチャーに感銘を受け、何度も渡米して直接指導を受け、かっこいいスタイルを作り上げてきました。日本に帰国後はバーバーカルチャーを日本で広めるためのイベントや理容師のコミュニティの立ち上げ、2014年には利用技術を競う『バーバーバトル』を初開催しています。

当時は知名度がなかったバーバーバトルですが、今では都道府県予選と東京での決勝が繰り広げられるほどの理容業界の一大イベントへと成長し、まさに日本のバーバーカルチャーの立役者です。そのため同業からはレジェンドとの異名もついています。カットとシェービングで3900円と、有名店であっても良心的な街の理容院価格です。

MR.BROTHERS CUT CLUB

『古き良きAmerican Barber Culture.今も色褪せる事のないその文化を日本の中心地から発信する。』をコンセプトに、東京原宿でスタートしたサロンです。ホームページを開くと、ワイルドなヒゲ面・サングラス、タトゥー、筋肉隆々の男性たちが圧倒的な存在感でサロンの雰囲気を物語っています。

首都圏はもちろんのこと、日本全国、海外からもわざわざ来店がある人気サロンです。インスタやライブ動画発信などSNSを最大限活用し、海外での路上パフォーマンスで海外でも注目を浴びています。

CUT ¥6,000〜
COLOR ¥7,000〜
PERMANENT ¥7,000〜
SHAVING ¥2,000〜

価格帯も決して安いわけではなく、都心部のハイクラス美容院同等の価格帯ですが、クラシカルなだけでなく型にはまらない高い技術力で新しい髪型を提案し続け、今では店舗も東京大阪で計4店舗に伸びる人気店となりました。

BARBER SHOP APACHEとMR.BROTHERS CUT CLUBの2店舗は、共同でオリジナルポマードの開発もしており、日本のメンズグルーミング市場に大きく貢献しています。

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靴磨き×バーバー 異業種サービスとのコラボから見る可能性

バーバー単体での成長はここ数年目を見張るものがありますが、ビジネスマン向けに靴磨きのサービスや、お酒の提供、喫煙可の店内など、美容室とは違う展開も注目と言えます。

現在、30~40代という働き盛りのビジネスマンをターゲットに様々な趣向の理容院が誕生しています。例えば、高級理容店をコンセプトに銀座・六本木・恵比寿など首都圏主要部を中心に20店舗以上を構えるヒロ銀座の例で見てみましょう。

こちらのサロンはハイクラスのビジネスマンを中心に、個室対応でのラグジュアリーな時間、フェイシャルやネイルなどのエステメニューとクオリティの高いトータルケアの実施で他社との差別化を図っているサロンです。

こちらの理容院での面白い試みは“靴磨き”。おしゃれは足元からという言葉通り、靴にお金をかける男性は多く、週末に靴のお手入れをするのが趣味という男性も中にはいらっしゃいます。

理容院の滞在時間中に専門の職人が靴磨きを行うというサービスを開始したところ、忙しいビジネスマンからの反響が大きく、テスト的に曜日限定で始めたサービスが2019年7月より終日対応可能になったそうです。
当初は黒靴のみの対応となっていましたが、8月からは茶色の革靴も対応を開始したとのことで、需要の高さが反映された結果と言えるでしょう。

価格としては、

スタンダード仕上げ:¥1500+税
鏡面仕上げ:¥2000+税

と、髪切りついでにお願いしやすい価格帯です。まったく髪とは関係ない異業種サービスになりますが、30~40代のビジネスマンというターゲット層に合致した良い例と言えます。

今後増えるのは飲めるバーバー

靴磨きのサービス以外にも注目すべきコラボ要素はあります。実は先述したニューヨークのバーバームーブメントで最も目立っているのが、“飲める”バーバーです。

ニューヨークで2010年に設立されたBlind Barberは、メインはカフェであり、カフェに理容院を併設するというスタイルで展開を進めました。現在はニューヨークを中心に計4店舗を構える人気店へと成長しています。

1920年代の「もぐり酒場」をモダンにアレンジしたバーラウンジがコンセプトとなっており、バーバーでの全てのサービス(ヘアカット$45, 髭剃り$50, トリム$20-$25(髪・ヒゲ))には好きなドリンク1杯がつくシステムです。ヘアカットに来たお客様が、カット後にバーカウンターに立ち寄ってコーヒーやお酒を飲んでいる人達と交流する場面も見られるといいます。

また、この理容店は物販にも積極的で、ポマードやボディウォッシュなどのオリジナル商品をいくつも開発しています。そのクオリティには定評があり、ブティックホテル「Arlo Hudson Square」とパートナーシップを締結し、ホテルのアメニティにBlind Barberの商品が使われているそうです。

他にも、コーヒーショップと業務提携をして、カフェ×バーバーで成功している事例がアメリカではいくつもあります。実は日本でも、そういったサービスを提供するサロンは増えてきています。

その中の1店であるMERICAN BARBERSHOPは神戸の人気店で、ホットペッパービューティーでのSILVER Prize 2019年のベストサロンも受賞しています。MERICAN BARBERSHOPのイメージするターゲット層は、35歳の仕事をバリバリこなすビジネスマンかつ、ファッション感度も高くカジュアルな格好を好む男性、としています。

「女の子に混ざって美容室でカットするのも照れくさいけど、古臭い床屋さんに行くのも違う」というオーナーの違和感と疑問から、調べていくうちにニューヨークでのカフェ×バーバーブームにたどり着き、飲めるスタイルの床屋にしたそうです。当時日本ではそのような業態はまだなく、まさに先見の明と言えるでしょう。

16時以降はクラフトビールを飲みながらカットとグルーミングができるお得なセットメニューがあり、ハッピーアワー感覚で利用できるのも魅力です。

気を付けなくてはならないのが、飲み物にお金をとる場合、飲食店としての許可が必要となります。営業時間や営業形態によって、届け出が必要になる自治体も変わってきますので、本格的にカフェやバーの併設を考える場合は専門家への相談や飲食のプロと組むのもひとつの手と言えそうです。

バーバーにしかできないサロンブランディングで、メンズ美容の流れが変わる


このように、ニューヨークから始まった世界的なバーバームーブメントがいい追い風となり、日本でもバーバーブームが巻き起こってきました。理容院にしか出せない“男くささ”“かっこよさ”が、これまでの地味なイメージを払拭し美容院と差別化する大きなきっかけとなりました。

例に挙げたどのサロンでも見られるのが、ターゲットイメージが人物像として明確であるという点です。他にも、現在肩身が狭くなりつつあるタバコですが、喫煙OKの喫茶店がビジネスマンで大繁盛しているように、理容院でも喫煙OKを全面に押し出すことで愛煙家を取り込んでいるサロンの例もあります。

こんな男性に来て欲しい、こんな男性は何があったら喜ぶか、この具体的な視点での店舗作りが、人気店になるにあたり非常に重要と言えます。

忙しいビジネスマンに来てもらうからこそ、予約制ではなくあえての順番制で回転させている店舗もあります。そういった店舗はYouTubeやWEBサイトでリアルタイムに店内映像を映し、混雑状況がわかるようにして回転率を高める工夫をしています。

男っぽさを前面に出したとがったサロンが今後も注目と言えるでしょう。ターゲットとする層を獲得するために店舗の立地は選ばなくてはいけないですが、今後もまだまだ伸びる見込みです。

どの業界でも、業界間の垣根が低くなりつつあり、理美容業界でも同じことが言えます。飲食業やアパレルなど異業種の文化が入ってくることで、顧客のリピート強化や、新たなファン層の獲得にもつながり大きな可能性を秘めています。

世界的なバーバームーブメントはまだまだ続くと見られ、理容業界が作るバーバーブームの動向には来年も注目が集まりそうです。

出典元:
厚生労働省:理容師・美容師制度の概要等について
【美容センサス2018年上期】≪美容室・理容室編≫ 15~69歳男女の美容室・理容室の利用に関する実態調査
マイナビウーマン ヒゲ男子は好き?嫌い?
伊藤忠商事 海外レポートNYバーバーブーム再熱:メンズグルーミング事情より
BARBER APACHE
MR.BROTHERS CUT CLUB
ヒロ銀座
MERICAN BARBERSHOP

Profile

富成将矢さん Masaya Tominari

1991年生まれ。立命館大学卒業後、船井総合研究所入社。美容室の業績アップを得意としており、売上2000万円の美容室から、県内No.1美容室まで、規模に応じた経営戦略を組み立てながら、業績アップに必要なものを的確に提案するスタイルが経営者から高く評価されている。業界内有名美容室もクライアントに多数抱える実力のあるコンサルタント。日本各地にクライアントを持ち、今日も全国を駆け巡っている。
「富が成る」美容室経営ブログ:http://www.funaisoken.me/m-tominari/
美容室経営のことをもう少し聞きたいという方は、m-tominari@funaisoken.co.jpまで

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