全力で何かをしている人には、人が集まってくる 独立を目指すあなたへ vol.6【SYAN 野々口祐子さん】#2
キャリアプランのひとつである「独立」。サロンオーナーの経験談から、独立について考えてみましょう。前編に続き、表参道の人気美容室『SYAN』代表・野々口祐子さんにインタビュー。
後編では、表参道という激戦区でサロン経営を続けるためのブランディングについて、そして野々口さんが目指す「人を大切にできるサロン」をつくるためにしてきたことをお伺いします。
人気店への土台を築いた『ブランディング』の力
——『SYAN』の方々は雑誌などでの活躍をよく目にします。依頼が来るようになったきっかけなどは、あったのでしょうか?
20代のころに、美容師さんコーデとか雑誌の特集で流行っていて、よくスナップを撮ってもらっていたんです。そういうので知り合った編集の方やライターさんに『SYAN』オープンを伝えたら依頼していただけたんです。なので、いきなりというよりは、昔からのつながりで。
あとは、サロンとしてのブランディングを1・2年かけてしっかりやったことで、どういう方向に見せたいかっていうビジュアルイメージをきちんと打ち出せたので、それをいいなと思ってくれた方に新しく声をかけていただけたり。
——『SYAN』では初期からZINEを制作されていますが、それもブランディングのひとつですか?
そうですね。最初はビジュアルの撮影だけしていたんですけど、やっぱりモノとして作りたいなっていうことになって、オープンの半年後くらいからZINEを作り始めました。どちらかというと、アパレルのブランドブックみたいなイメージにしたくて。髪型だけでなく、全体の雰囲気というか女性像を打ち出していきたかったんです。シーズンごとにそれを出していけば、一番『SYAN』がやりたいことっていうのを伝えられるんじゃないかなと。
——当時はZINEを出しているサロンというのは、少なかったのでは?
はい。ZINEというかたちにしたのは、ビジュアルイメージの打ち出し方を他のサロンと同じにはしたくなかったというのも理由のひとつ。すごく地道な作業でしたけど(笑)。広めていくのも、手渡しになりますしね。でも、コンスタントに出していけたことで、2年くらいで自然と美容業界誌から声がかかったり、新しい媒体から依頼をいただけたりして、みんなですごく喜んでいました。
——ZINEもそうですが、「女性像を打ち出す」というのも、当時では珍しかったのかなと思います。
当時はヘアに特化し過ぎたビジュアルが多くて、個人的に美容師の独りよがりというか、自己満足に近い作品が多いなと感じていたんです。女性が求めているものって、もっと全体的な、こういう雰囲気になりたいとか、そういうことなんじゃないかなって。
だから、リアルとクリエイティブとの中間を狙っていったら、一番心地いいんじゃないかなと思ったんですよね。当時はリアルなサロンワークとクリエイティブなデザインが二極化していたというのもあったので。それを続けていたら、媒体だけでなく、支持してくれるお客様も増えたんです。しかも、狙っていた客層がきてくれるようになりました。
——経営面でもブランディングというのは重要だと思うのですが、そういう点も考えて?
それが、そんなに考えてやってなくて(笑)。ターゲットを考えてブランディングはしましたけど、それがその先どう展開しいていくかというところまでは考えていませんでした。だから、その当時やりたいと思っていたことが、ちょうどハマったというか。ターゲットとニーズがうまくヒットした感じで、ラッキーだったなと思います。
目指しているのは「人を大切にできるサロン」
——「人を大切にできるサロン」をつくるために、していることはありますか?
一番心がけているのは、相手の顔をちゃんと見て、少しでも変化があれば話すことです。前のお店での経験から、それぞれの顔が見えなくならないように…というのは、気をつけたいなと思っていて。店舗が大きくなり過ぎても、経営に夢中になり過ぎても、下の子たちがどんな顔をして働いているのかわからなくなると思うし、例えばサロン以外のことで打ち合わせが多くなってお店にいないとか、営業に立たなくなるとか、現場にいなくなるのも、スタッフの顔色がわからなくなりそうで。そういうことには、絶対になりたくないなと思っています。
——では、お店を増やすことはあまり考えていない?
どんどん店舗を出していくつもりは全然ないですね。地に足をつけて…じゃないですけど、どうしても席の数が足りなくなったら。今のお店も、2店舗目を出そうか考えていたところで、最初の物件の工事が決まって、2店舗目ではなく拡張移転というかたちになったんです。だから、また人が増えたりして、狭くなってきたら、ですかね。
理想は、お店の状況に合わせて、ゆっくり増やしていく感じ。4店舗以上になると、目が届かなくなりそうなので、3店舗くらいまでかな。血の通ったサロンにしたいので、そういうマインドを共有できるスタッフに、お店丸ごと任せたりとかはあると思います。
——ずっとサロンには立ち続けますか?
そうですね、やっぱりできるだけスタッフの顔を見ていたいですし、退くことはないかなと思います。50代、60代になったときの自分は、まだ模索中ですけど(笑)。とりあえず40代は、このまま頑張りたいですね!
ただ、お客さまがいる限りサロンはやっていくと思うんですけど、美容師に限らず他にやりたいことが出てきたら柔軟にできたらな、とも思っています。人生長いので、とくに今の時代感は、第1期、第2期っていう考えになっていると思うんです。美容師の在り方も、そういう感じでもいんじゃないかなと。
それはスタッフももちろんで、ヘアメイクがしたい子がいれば応援しますし、したいことに合わせて雇用形態を変えたりとか、やりたいことはできるだけ叶えてあげられたらと思っています。
そのためには資本も必要なので、売り上げっていうのは絶対上げていかなきゃいけないとも思っていて。移転してキャパも人も増やしたところなので、効率よく売り上げを伸ばして、みんながやりたいことを実現できるように準備できたらなと思います。
——オーナーになって、よかったことはありますか?
人間らしくなりましたね(笑)。若いときは、割と自分のことしか考えていない、一匹狼タイプだったんです。でも、お店をやるってなったら、一匹狼では人はついてこないし、共感も得られないので。より人のことを考えるようになって、本当の意味で「みんながいて、自分がいる」っていうのに気づかされました。その分、人間に深みが出たかなと思います(笑)。
独立を目指すあなたへ
「私の場合は、急に出店を決めたこともあり、いろんな人に助けられました。人との接点が、どこかのタイミングで物事を左右することって、けっこうある。だからこそ、『出会い』は大切にした方がいいと思います。お店を出すことって、エネルギーが必要。『これがしたい』とか強い想いがあれば、人を動かせるエネルギーになるし、その熱量を持っていれば気づいてくれる人がいます。全力で何かをしている人には、人が集まってくると思うので、そういう自分でいることが大切なのかなと思います。」(SYAN 代表 野々口祐子さん)
▽前編はこちら▽
独立を目指すあなたへ vol.6【SYAN 野々口祐子さん】#1>>
取材・文:山本二季
撮影:高嶋佳代