「人を大切にできるサロン」をつくりたい 独立を目指すあなたへ vol.6【SYAN 野々口祐子さん】#1
キャリアプランを考えるなかで、ひとつの道となる「独立」。サロンオーナーとして活躍する人たちは、どのような経緯で独立に至ったのか。その経験談に、新しい道へのヒントがあるかもしれません。
今回ご登場いただくのは、確かなビジュアルセンスで支持を集め、成長を続ける美容室『SYAN』の代表・野々口祐子さん。前編でお聞きしたのは、独立のきっかけから開業準備について。前サロンの閉店により、強制的に独立をすることになったという野々口さん。3カ月でお店を開店させた経験について、詳しくお伺いします。
前サロンが閉店することになり決心した「独立」
——野々口さんが美容師になったきっかけは?
高校生のときに、大学進学を決めるタイミングで「自分がやりたいことって何だろう?」って考えていたんです。進学校で理数系だったこともあり、建築系も考えたんですけど、一番好きだなって思ったのがファッションとかヘアメイクだったんですよね。一生の職業にするって考えたときに、好きなことで食べていけたらいいなと思って。
でも最初は、美容師というよりヘアメイクになりたかったんですよね。とくに高校生のころは、ファッションにも興味が出てきた時期だったので、一日中いろんなファッションに合わせて、いろんなメイクとかヘアアレンジをしてみたり(笑)。もちろん自己流ですけど、好きでやってました。
——では、簡単な経歴を教えてください。
美容専門学校を卒業して、最初に入社したのは有名店でしたが、3年くらいアシスタントをして辞めました。そのあと「次にサロンに入ったら長期的に自由な時間をつくるのは難しいだろうな」と思って、ニューヨークに行きました。24歳で帰国後、1年半ほど美容部員や飲食店のアルバイトをして、25歳のときに原宿にあるサロンに入社しました。そこに5年くらい在籍して、そのあと『SYAN』をオープンしました。
——独立のきっかけは?
独立をリアルに考え始めたのは、29歳くらいのころでした。がらっと環境を変えたいなと思っていて、30歳になるまでには…と考えていたんです。そんなときに、サロンが閉店することになって…。お店がなくなるギリギリに伝えられて、独立は考えていたけど段取りを組んでいたわけではなかったので、焦りましたね(笑)。
それでもやっぱり、次に自分がどこかのサロンに入って働くっていうイメージが持てなかったので、じゃあ自分でやっちゃおうかなと。そこから3カ月で、なんとか『SYAN』をオープンできました。
オープンまでの準備期間は、わずか3カ月!
——3カ月でお店をオープンするのは、大変じゃなかったですか?
そうですね、かなり大変でした。怒涛過ぎて、あまり覚えてません(笑)。でも、その時期はちょうどいろんな方との出会いがあって、手助けしていただけたりして。本当に、いいご縁が重なったなと思います。
——オープンに向けて、最初にしたことは?
物件探しですね。最初は表参道で探していたんですけど、なかなかいい物件がなくて、家賃も高くて…。それでも、若い子を雇ったときにその子たちが入客できるように、人通りが良い場所にはしたいと思っていたので、コアな場所にはしたくなくて。原宿まで足をのばして探したら、立地もよくて光が入って明るい、気持ちのいい空間のお店が見つかったので、そこに決めました。
——人材はどうやって集めましたか?
前サロンが解散になったので、気になっていたスタッフに声をかけました。今一緒にやっている米澤もその一人です。店舗は違ったんですけど、「この人絶対売れるのに、もったいないな」ってずっと思っていて…、そういう人たちに一緒にやろうと言いました。オープン当初は、私含めてスタイリスト4名、アシスタント1名でスタートしました。
——人選のポイントってあったんですか?
選んだ理由は、直感に近いんですけど…(笑)。私は経営をしていかなきゃいけないので、売り上げが出せるっていうのもちろんですが、人として魅力があるかっていうのは見ています。それは、今でも変わらず。そのときに技術力や売り上げがあってもなくても、そこは後からがんばれる部分なので、そんなに気にしていません。大切にしているのは、人間的に熱を帯びているか、エネルギーがあるかっていうところですね。それが感じられれば、「この人とは一緒にやっていける」と思えるので。
きちんと心が通い合うサロンをつくりたい
——開店準備中、どんなサロンにしたいと考えていましたか?
私は、安定した大きなサロンと、経営難になってしまったサロンという、対極的な2店舗を経験したので、その2つのいいところを合わせたサロンにできたらいいなと思っていました。1店舗目は、マニュアルがしっかりしている分、どんどんデビューできるけど、レールができてしまっているという印象でした。2店舗目は、自分で責任が持てれば、自由にやっていいよって感じ。自由度は高かったけど、スタッフ同士の距離が遠いなという印象があって。ちょうどいい感じにできないのかな、と。
あとは、大きかろうが小さかろうが、人に思い入れがないサロンはダメだなという気持ちは大きかったです。
——それは、前サロンの退社時の経験から?
そうですね、悪く言いたくはないんですけど…。
私は店長をしていたので、経営に不安なところは感じていて、それでもオーナーからは「大丈夫」って言われ続けて…。前向きな言葉をかけられてはいるけど、こちらには不安が残ってしまう感じ。それで結局、直前で閉店することを伝えられて。そういうところで、本当にスタッフのことを考えているのかなって感じたんですよね。どんどん人を雇って、どんどん店舗を増やすけど、統一ができてなくてみんなの気持ちがバラバラ…。そういう風にはなりたくないなと思って。
もちろん、経営していくうえで、お店を大きくしていくことも大切ですけど、その1店舗1店舗にいるスタッフたちが幸せに感じてくれていなかったら、自分も幸せじゃないなと思うんです。スタッフも、そこにいたいと思えないだろうし、なおかつ来てくれているお客さんも、もう一度来たいと思えないだろうなと感じたので。だから、スタッフも、お客さんも含めて、「人を大切にするサロンにしたい」っていうのは、ずっと根本にあります。
「人を大切にできるサロン」をつくるための心構えとは
独立を考えてはいたものの、前サロンの閉店により急遽サロンをオープンさせることになった野々口さん。その経験から、「人を大切にできるサロン」をつくりたいと考えたそう。そのために、野々口さんが取り組んできたことを教えていただきました。
1.スタッフの顔を見て話す
2.できるだけサロンに立ち続ける
3.スタッフのしたいことを応援できる経営をする
後編では、この3つのポイントについて、さらに詳しくインタビュー。注目を集めているサロンのブランディングについてもお伺いします。
▽後編はこちら▽
独立を目指すあなたへ vol.6【SYAN 野々口祐子さん】#2>>
取材・文:山本二季
撮影:高嶋佳代