新人教育で大事にしていることや大変だと感じるときはどんなとき? 人気サロンの〇〇マニュアル
人気サロンの若手・ベテランスタイリストがそれぞれの立場で考えていることを伺い、そのサロンが大事にしていることなどを探る新企画。毎年この時季になると各サロンに入社する新人。サロンの未来を担う新人を教育する上で、心がけていることや指導する上で大切にしていることなどを伺いました。
一人一人の個性を見極めるのが大変……まずはやらせて、考える力をつけさせるようにしているなど、色々な考えが見えてきました。
教えていただいたのは……
MINX 石塚マサトさん(美容師歴20年目)
MINX青山店店長・接遇部門代表。全店舗の接遇部門責任者を務めている。丁寧でしっかりとした対応で多くのお客様から支持を受けている。
MINX 阿部由菜さん(美容師歴7年目)
MINX 青山店スタイリスト。ヘアスタイルの悩み解決に自身あり。髪の悩み以外にも、安心してお客様が話せる空間づくりを心がけている。
ZACC 柳平岳慶さん(美容師歴20年目)
ZACC vie所属 ZACC全体統括。全体統括としてZACCを管理。長年の実績から髪をきれいにしたい女性からたくさんの支持を受けている。
ZACC 山下永次さん(美容師歴6年目)
ZACC raffine所属 スタイリスト。丁寧な施術と的確な髪質判断と、スピーディーかつクオリティの高い仕上がりでお客様の心を掴んでいる。
ACQUA 熊谷安史さん(美容師歴17年目)
ACQUA総店長。総店長として、ACQUA全体を管理。お客様への的確なアドバイスに定評あり。
ACQUA 嶋山豪さん(美容師歴5年目)
ACQUA スタイリスト。丁寧な接客と真摯な対応で多くのお客様から支持を受けている。
Q1.新人が入ってきて、最初に教えることを教えてください。
「一番最初は、社会人としてのマナーや接客についてはもちろん教えますが、フロアに立つ以上はプロとしての自覚を持ってもらうように指導しています。そのほかお客様への思いやりや接客のやり甲斐を感じ取れる教育を心がけています」(MINXベテラン・石塚さん)
「営業の流れや掃除のタイミングを知ることで即戦力になれるので、まず最初は掃除や仕事全体流れを伝えています。技術はシャンプーを教えるのと同時に、接客や言葉遣いも指導しています」(MINX若手・阿部さん)
「お客様からお金をいただくので、まずはお金の意味を最初に伝えます。また、時代の流れや移りゆくスピードは早いので、それに対応できるにはどうすれば良いか。さらに、アシスタントや新人でも活躍できるステージはたくさんあるということを教えます」(ZACCベテラン・柳平さん)
「新人はよく緊張してしまうので、それを打破してもらうために元気よく挨拶してもらうこと。自分の名前を覚えてもらえるように、スタッフの名前はもちろんお客様の名前を覚える大切さを伝えます」(ZACC若手・山下さん)
「挨拶・感謝はもちろん、新人のうちにありがちな『こんなもんでいいだろう』という気持ちを壊す勇気を持ってもらうように指導しています。また何事に対しても『なぜ?』という疑問を持ってもらい、意識を高めるように教育しています」(ACQUAベテラン・熊谷さん)
「最初はフロアに出る上での大事な優先順位を教えています。1番にお客様、2番目にスタイリスト、3番目にアシスタント。どうしても新人のうちだとアシスタントの先輩を優先してしまうことが多く、1番目はお客様であることを伝えています。また、必ずしもお客様や上司はみんな平等に接してくれるとは限らないので、何事も平等ではないんだよということは伝えていますね」(ACQUA若手・嶋山さん)
若手スタイリストは、近くでいろんなことを指導するので、挨拶や言葉遣いや接客など実践的なことを最初は教えますね。一方でベテランは、仕事する上での意識を高く保つためにどうするかなどの心がけも同時に教えているようです。
Q2.新人指導で心がけていること・大事にしていることは何ですか?
「一人一人と頻繁にコミュニケーションをとることを心がけています。些細な悩みであっても時間が経つにつれて大きな悩みになってしまうことがあります。そのため、あまり時間が取れなくても毎日ちょっとした会話をすることで、早いうちから悩みの種を摘み取っておくことが大切だと思っています」(MINXベテラン・石塚さん)
「自分が一年目だった時のことを思い返して先輩やお客様に対して萎縮してしまうことが多かったので、そうならないように意識させるようにしています。また、こういう説明されたら嫌だななど、なるべく一年目の立場になって考えて指導するように心がけています」(MINX若手・阿部さん)
「失敗できるのは新人のうち。なので、できるだけ多くの失敗をさせてあげるようにしています。また、自尊心を潰さないようにしています」(ZACCベテラン・柳平さん)
「やりたいと思ったことに対してはとことんやらせるように。否定しすぎないようにすることも注意しています」(ZACC若手・山下さん)
「思ったことをちゃんと言葉にして表現するようにしています。新人で上に対して反発してきたり揚げ足を取る人がいた場合は、聞き方ひとつ変えるだけで解決できたり、お互いのストレスがなく解決することができることを伝えています」(ACQUAベテラン・熊谷さん)
「長時間注意しない、他人と比較しない、怒った後は必ずフォローする、人格を責めない。このことを常に意識しています」(ACQUA若手・嶋山さん)
経験も豊富なベテランの方々は、悩みを頻繁に聞いたり、新人のやりたいことをやらせて覚えてもらうようにしたり、解決方法を教えているように見えます。より新人を近くで教える若手の方々は、相手の立場に立って考えたり、フォローすることを心がけていますね。
Q3.技術指導する上で気をつけていることはありますか?
「指導をする際は、何故出来ないのか、どこがわかりづらいかなど教わる側の立場になって考えるようにしています。出来て当たり前という概念をなるべくなくすように心がけています」(MINXベテラン・石塚さん)
「一昨年からシャンプーのレッスンを見ていて、出来ないことをそのままにして進めるのではなくて、一つ一つ解決してから進めるようにしています! わからないまま進めても、曖昧な中途半端な技術になってしまい、その子が将来困ってしまうと思うからです。出来なかったり、わからないことが解決できる環境を作ってあげることで、どんどん意欲も湧き、『知ろう、学ぼう』という姿勢に繋がると思います」(MINX若手・阿部さん)
「インプットができていないのか、アウトプットができていないのかで教え方を変えるようにしています」(ZACCベテラン・柳平さん)
「最初の3ヶ月はとにかく叱らないようにしています。認められて入社できたと思ってもらうために、なるべく意見を尊重してあげるように気をつけています」(ZACC若手・山下さん)
「なるべくシンプルに伝えるようにしています。やって見せるより、まずはやらせてみるということを大事に」(ACQUAベテラン・熊谷さん)
「自分自信がその技術に対して完璧に理解しているかによってアドバイスの仕方も変わってくると思うので、まず自分がその技術に対してきちんと理解しているかが大事だと思います」(ACQUA若手・嶋山さん)
新人教育する上で、できて当たり前ではなく、意見を聞いてあげたり、わからない部分を解決できるように質問しやすい環境を作るのが大事ということが見えてきました。
Q4.これまでに後輩を指導する上での失敗した経験はありますか?
「熱心になりすぎないように注意しています。熱量を持って指導した方が良いタイプと一定の距離を持って指導した方が良いタイプを見極め、一人一人に合わせた指導方法や伝え方を意識しています」(MINXベテラン・石塚さん)
「出来ないことに対して、ただただ怒ってしまいその子の立場になって指導できなかったことがありました。その反省から今度はひたすら話を聞くように。すると、周りのスタッフからちゃんと指導してほしいと指摘されてしまったことも……。バランスを取るのが非常に難しいですが、スタッフ一人一人に合わせて教えることを心がけています」(MINX若手・阿部さん)
「教えることに一生懸命になりすぎて、新人の気づく力や覚える力を奪ってしまったなと思うこともありました。また、できないことをできるようにさせすぎて失敗。できなくても良いので、その子ができることを伸ばしてあげることが大事なんだと気づかされました」(ZACCベテラン・柳平さん)
「自分の時代はこうだった、自分はこうしていたなど自分の経験と比べた伝え方をしてしまったことです」(ZACC若手・山下さん)
「心配で放っておけず手を差し伸べすぎた結果、自分で気づいて実行に移す力を奪っていたと思います。今は、まずはやらせてみる。質問があれば質問を繰り返させ、自分で答えを出せるサポートを意識しています」(ACQUAベテラン・熊谷さん)
「一年目、シャンプーだけしか行わない時期に辞めてしまったスタッフに、お店の良さや美容の楽しさを十分に伝えられなかったことは後悔しています」(ACQUA若手・嶋山さん)
一生懸命教えるあまり、新人の気づく力を奪ってしまったり、他人と比較するような伝え方をしてしまったという反省も。まずはやらせてみたり、考えさせることが大事なようです。
Q5.新人指導で大変だと感じるときはどんなときですか?
「新人は社会人になって間もないので、感情や気分の起伏が仕事のクオリティに影響を及ぼしてしまうことが多いなと感じられます。特に、お客様と対峙している際にムラが出てしまうケースが多く見受けられますね。周囲の人が本人の感情をコントロールできわけではないので、難しいと感じます」(MINXベテラン・石塚さん)
「どういう説明や指導をしたらわかってもらえるのか、どういう説明をしたらわかりやすいのか毎年悩みながら教えています。厳しくしすぎても、優しくしすぎても後輩のためにならないと思うので、そこの線引きが難しく感じます」(MINX若手・阿部さん)
「一人一人それぞれ違うので、個性の見極め方は大変と感じます」(ZACCベテラン・柳平さん)
「人が辞めてしまうときに、苦悩していた後輩に対して近くで教えていた自分が気づけなかったときは悔しく感じます」(ZACC若手・山下さん)
「学生と社会人への切り替え、年齢、世代の考え方のギャップの差を埋めるのは大変だと思っています。それらを埋めるために必要に応じて自分ではなく、新人に近い後輩に、後輩の言葉で伝えてもらうように時間を割いています」(ACQUAベテラン・熊谷さん)
「指導するにあたり、教える側が尊敬されていないと教わる側も伸びないと思います。自分自身の人間性を客観視して、尊敬される先輩になることが大変です」(ACQUA若手・嶋山さん)
新人一人一人の性格が異なるので、一人一人に合わせた教育をするのが大変との声が。また、学生から社会人になったときのギャップの差を埋めるのが難しいという考えもあるようです。
Q6.自分が思う、「いい先輩・上司」とはどんな人でしょうか?
「相手のために物事を判断して、行動出来る人間だと思います。見返りを求めたりせずに、他人に与えることや教えることを優先できるかどうかが大切だと思います」(MINXベテラン・石塚さん)
「私自身が1年目のときに、なぜいけないのか、なぜこうしなければならないのか、理由がわからなく不安になることがありました。なのでしっかり過程や理由を説明したり、後輩の意見に耳を傾けたり、聞きやすい・発言しやすい環境を作ってあげるのが大事だと思っています。居心地の良い環境を作ることはお客様にも良い空間提供ができますし、伝える・聞く力をつけることでお客様に寄り添えるスタッフになれると思うので、接客の向上にも繋がると考えています。お互いに成長し合える関係を作れる先輩になりたいです」(MINX若手・阿部さん)
「好きにやらせて、やらせたことに対して責任を持てる人だと思っています」(ZACCベテラン・柳平さん)
「とにかく話を聞いてあげるいつもポジティブでいて、相手のことを思いやれることが大事だと思います」(ZACC若手・山下さん)
「いざという時に守ってくれる、手伝ってくれる、助けてくれる、見届けてくれる、そして任せてくれる。器が大きい人だと思います」(ACQUAベテラン・熊谷さん)
「いい先輩や上司の基準は、それぞれが決めることだと思うので、なるべく多くの後輩にとってのなりたい先輩になれるようにしたいです」(ACQUA若手・嶋山さん)
後輩にとってのいい先輩や上司になるためには、相手に対して思いやりを持って教えること。後輩の意見もきちんと聞き、まずは受け入れることも大事なポイントとなりそうです。
【新人教育をする上で大切なこと】
1.一人一人の個性を見極め、一人一人に合わせた指導をする
2.気づく力・質問力・実行力を身につけさせるためにまずはやらせてみる、意見を尊重する
3.新人の立場になって相手のことを考え行動する
【編集後記】
サロンにとって大切な人材である新人。どのサロンも一人一人としっかりコミュニケーションをとり、それぞれに合わせた言い方や指導をしています。新人に近い立場の若手スタイリストは、実践的なことやフロアに出る上での心得を。ベテランスタイリストは、考える力や、モチベーションを高めるための動機づけをしてあげているように思えます。各サロン、共通しているのは思いやりを持って新人の立場にたって教えること。良い関係を築けるだけでなく、サロンの良い空間を作るためにも大事なことだと感じました。
取材・文/梅澤 暁
Salon Data
MINX 青山店
住所:東京都港区北青山3-5-23 吉川表参道ビル2・3・4F
TEL:03-3746-2722
URL:https://minx-net.co.jp/salon/aoyama
Instagram:@minxaoyama_official
ZACC vie
ZACC raffine
住所:東京都港区北青山3丁目11-7 Aoビル 4F
TEL:03-5468-5882
URL:http://www.zacc.co.jp/
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ACQUA青山店
住所:東京都港区南青山4-20-20
TEL:03-3478-3131
URL:http://acqua.co.jp/