戦略的思考と行動力で叶えた、YouTubeの成功とサロン開業【BLANK TOKYO 代表 フカウラシュウタさん】#1
美容師のフカウラシュウタさんは、24歳という若さで自身のサロン「BLANK TOKYO(ブランク トーキョー)」を立ち上げました。美容室が苦手な人にも居心地のよい空間と、フカウラさんの丁寧で落ち着いた雰囲気を求めて、全国からお客様が訪れています。
前編では、発想の転換で弱みを強みに変えたお話や、フリーランス時代に始めて現在も続けているYouTubeの動画配信のこだわり、サロン開業に至った経緯などをお聞きしました。
お話を伺ったのは…
BLANK TOKYO 代表 フカウラシュウタさん
2019年に早稲田美容専門学校美容科卒業。表参道の美容室にて半年ほど勤務後、2019年10月に顧客ゼロでフリーランス美容師へ転向。2020年4月にYouTubeチャンネルを開設し、ヘアセットやスキンケアなどの動画を配信。現在の登録者数は約8万5千人を超えている。2023年11月、表参道にメンズヘア&アイブロウサロン「BLANK TOKYO」をオープン。
Instagram:@shuta_fukaura
YouTube
YouTubeに関するインタビュー
FUKAURA’S PROFILE
- お名前
- フカウラシュウタ
- 出身地
- 長崎県
- 年齢
- 25歳(2024年10月時点)
- 出身学校
- 早稲田美容専門学校
- 憧れの人
- 尊敬している人はたくさんいます!
- プライベートの過ごし方
- 家でゆったり過ごして充電しています
- 趣味・ハマっていること
- 快適なデスク環境の構築・仕事
- 仕事道具へのこだわりがあれば
- 機能性とデザイン性の両立
弱みと強みは表裏一体。ポジティブに考え方をシフト
――美容師を志したきっかけは何ですか。
僕は長崎県の島の出身で、通っていた中学校では男子は坊主かスポーツ刈りと決まっていました。中2の秋頃に校則が改正されて髪を少し伸ばせるようになり、それまで無縁だったヘアセットをするようになったんです。SNSで動画を探して見よう見まねでヘアセットをして、髪型でこんなに変わるんだという感動があり、美容に興味を持ちました。
高校生になり進路を考えたとき、自分は飽き性で、本当に好きなことしか続けられないということがわかっていたので、好きなことを仕事にしたいと思ったんです。それが、美容師という仕事でした。
――東京の美容専門学校に進学してから、たくさんの美容室を渡り歩いたそうですね。それはなぜだったのでしょうか。
就職活動の一環としていろいろな美容室を見たいというのもあったのですが、一番大きな理由は学びのため。接客スタイルや得意としているヘアスタイル、空間づくりなどそれぞれ違いますし、どういうところが自分にとって理想なのかを知りたかったんですね。1ヶ月〜1ヶ月半のペースで毎回違うサロンに行っていたので、かなりの数になります。
お客様一人一人を大切にしている美容室には魅力を感じましたし、接客やサービスや空間に惹かれることが多かったです。逆に、あまり相性が合わないと思ったのは、回転率重視の店や真摯に向き合ってくれる雰囲気が伝わってこない店でした。
――最初に就職したサロンを選んだ決め手は何ですか。
友人からの紹介だったのですが、サロンワークをしながらアカデミーで研修をさせてもらえて、半年でスタイリストデビューできるシステムを導入している店でした。早くお客様を担当したいという気持ちがあったので、すごくいいなと思って入社しました。
――サロン勤務時代に、美容師に向いていないかもと悩んだ時期があったとか。
その美容室は楽しい雰囲気の接客やお客様との積極的な会話を大切にしているところで、先輩方から「もっと明るく接客した方がいいよ」と指摘されることが多々ありました。お客様とのコミュニケーション面で、昔から内向的な性格の自分には向いていないのかもしれないと悩んだ時期はありましたね。
ただ、美容師を辞めよう思ったことはないです。街ゆく人の髪型につい目が行ったり、SNSで髪型のことばかり調べたり、美容師の仕事に対する熱量は自分で感じていたので、悩みはありつつも美容師をずっと続けたいと思っていました。
――悩みを克服するためにどのような努力をしたのでしょうか。
努力というよりは、考え方をちょっと変えたというのが合っているかもしれません。僕自身、賑やかにおしゃべりしたいタイプではないし、美容師でありながら美容室が苦手です。そういうお客様って僕に限らずほかにもいるよな…という考え方にシフトチェンジできて、それならターゲットをそこにすればいいと思えたのが大きな転換点でした。
弱点をゼロにしたところで、もともとそれが得意な人には敵わないと思うんです。それなら、自分の弱点だと思っていた「内向的で控えめな性格」を、「丁寧で落ち着いた雰囲気」という長所として活かした方がいい。インスタグラムには「美容室が苦手な方の終着点」と書いています。実際に来てくださるお客様も、「賑やかな美容室が苦手」とか、「接客する人が次々に変わるのはちょっと居心地悪くて」という方が多い印象です。
実は今でも緊張する、動画配信やSNS発信
――スタイリストデビューと同時にフリーランスになり、その半年後にYouTubeチャンネルを開設。4年以上経った今も動画配信は緊張するとインスタに書いてあり、意外に感じました。
まだ緊張するんですよ。むしろ、登録者数が増えるに従ってもっと緊張するようになったというか。始めたばかりの頃の方が、気軽さのある緊張感で投稿できていたなと思います。
――どれくらい増えたときに「たくさんの人が見ている」と感じましたか。
始めて4ヶ月くらいからですかね。とある動画がバズって毎日500人ずつ登録者数が増えていくという時期があり、YouTubeの視聴をきっかけに予約してくださるお客様も増えて、そのときに実感しました。半年弱で1万人、1年経たないくらいで3万人、と伸びていきました。
――順調に登録者数を伸ばすことができた要因は、何だと思いますか。
YouTubeを始める2ヶ月くらい前から、チャンネル設計をひたすら考えていました。伸びそうな感じの競合チャンネルを見て、再生数の多い順に並べて分析したり、動画のネタを100本ぐらいリストアップしたり、とにかく綿密に準備してからスタートしました。だから自分としては、計画通りに伸びたという感じです。
最初は登録者数100〜200人とか、再生回数も数十回とかなので、そこで折れてしまう人が多いんですけど。しっかり戦略を練って始めたので、続けていればいつか伸びるという確信みたいなものが、当時はありました。
――YouTubeを始めた頃から今まで、ずっと貫いていることを教えてください。
ずっと貫いている大切なことは2つあります。
1つ目は「視聴者目線を大事にする」こと。美容師歴が長くなるにつれ、視聴者目線や初心者目線がどんどん薄れていくと専門用語を使いがちなので、プロが使う言葉ではなく、一般の方にわかりやすい言葉に言い換えるように気をつけています。例えば、ダッカールではなくピンと言ったり、コームではなく櫛と言ったり。
あとはヘアアイロンを駆使して難しいセットをするのではなく、なるべくドライヤーでできるものや簡単なものを動画で紹介するように心がけています。
2つ目は「論理的でわかりやすく」ということ。美容師さんってわりと感覚派の方が多いので、「こんな感じで」とニュアンスで伝えることも多いと思うのですが、僕は数字や明確な場所を示して、論理的に説明するということを意識しています。「ここを何段に分け取って、何回こういうカールを入れて」のように。それによってお客様のヘアセットの再現性も高くなります。動画を見てうまくいけば僕に対する信頼感も芽生えて、実際に来店につながるというケースも多いんです。
――逆に、変えたことや進化させたことはありますか。
動画のクオリティがどんどん上がっているという実感はあります。撮影機材に少し詳しくなったり、テロップの位置やサイズを工夫したり、BGMの大きさを考えたり、本当に美容師としての仕事とは別の部分でレベルが上がっているなと思います。
そもそもYouTubeを始めた当時、美容師以外のスキルも伸ばしたいという目的があったんです。たとえ登録者数が伸びなくても、台本の構成力や文章力、わかりやすく伝える力、サムネイルや動画編集のデザイン力、そういうたくさんのスキルが身につくと思ったので。
自分のサロンを出してからは、店内を撮影スタジオのように使えたり、スタッフにも出演してもらったりと、自分一人のときとは違うこともできて幅が広がったかなと思います。
フリーランス美容師から、サロンオーナーへ
――サロン開業を考えたきっかけを教えてください。
YouTubeを始めてお客様が増え、1ヶ月先くらいまで予約が埋まるようになりました。それと同時にマンネリ化みたいなものを感じて、新しい挑戦をしたいと思ったのがきっかけです。
フリーランス美容師としてシェアサロンで働いていたのですが、内装やBGMや一緒に働くスタッフなどは自分でコントロールできない部分。そこも自分でコントロールしたいと思うようになりました。自分の世界観を確立した空間をつくりたいし、それによってお客様により高い満足度を提供したいという思いが芽生えてきた感じですね。
――そういう思いは、フリーランスになってどれくらいで出てきたのでしょうか。
フリーランスで働いて3年半ほど経った頃です。決心したら即行動して、5ヶ月くらいで準備を進めました。失敗するなら早い方がいいし、失敗してもそこから学びはあるので、考える・決断する・行動するというところのバランスは昔から意識しているかも。
――準備はどのように進めたのですか。
まずはどんなサロンにしたいのかを考えて、美容室の開業をサポートしてくれる内装業者を探して問い合わせをしました。物件探しもその業者が提携しているところを紹介してくれて、全部で3軒見てこの場所に決めた…という流れです。
サロンを出そうと思ったのが2023年の5月下旬頃、7月に内見して8月に契約、9月に工事が始まって、9月中旬〜下旬にはスタッフの募集をかけて。10月に工事が終わり、11月1日にオープンしました。
――お聞きしている限りではトントン拍子という感じがしますが、サロンワークをしながら準備を進めるのは大変だったのでは。
フリーランスなので予約の調整がしやすいという面はありましたが、過去のスケジュールを見返すともうびっちりと埋まっていて。スタッフ募集も含めてたくさんの美容師さんやいろいろな業者さんと会って、大変だけど楽しかったですね。飽き性なところがあるので、同じことの繰り返しよりも新しいことをどんどんやって成長していきたいんです。
――「BLANK TOKYO」という店名に込めた思いを教えてください。
現代は情報過多だったりモノも溢れていたり、ちょっと疲れてしまう社会だと思います。そういった現代社会において、お客様にはゆったりとリラックスしていただける時間や空間を提供したい。そして、サロンのスタッフには心に余裕を持ってのびのびと働ける環境を提供したい。そんな思いから、「空白」「余白」というニュアンスの「BLANK」というワードを選びました。
わりと戦略的に考えたところもあります。「ラ行を入れる」「口なじみのよい3〜4文字くらい」「読みやすい」という点を意識しました。ラ行を入れると高級感が出るらしいんですよ。有名なハイブランドにもラ行が入っている名前が多いです。そして検索で引っかかりやすいように「TOKYO」をつけました。今後もし地方に出店するなら、東京というワードにはブランド力があるし、サロンの出身地という意味も込められると思ったので。
――多角的な視点で、かつ先のことまでしっかり見越して考えられたんですね。
それも性格ですね。すべてに理論や理由があって名づけたという感じです。
中学時代にヘアセットに目覚め、美容師を志して上京したフカウラさん。サロン勤務時代の悩みでもあった内向的な性格を自分の持ち味として活かすようになり、戦略的に始めたYouTubeでファンを獲得しました。お客様のため、そして自身のさらなる成長のために「BLANK TOKYO」をオープンし、進化を続けています。
後編では、サロンのコンセプト設定や若いオーナーならではの取り組み、開業から約1年経った現在の心境などをご紹介します。
撮影/高嶋佳代
取材・文/井上菜々子