【コロナ禍の今、美容業界の「働く」が変わる!】Vol.3/変わりゆく時代の空気感に寄り添ったメニュー展開で売り上げアップ/Belle Kichijoji 新井直樹さん #1
コロナ禍での働き方は、「時短で高パフォーマンス」がキーワード。そんなwithコロナ時代を生き抜くために、どんな取り組みを行っているのか、そのプラス効果とは?
今回取材したのは、Belle Kichijojiで店長を務める新井直樹さん。「このコロナ禍でいろんな問題に直面したけれど、チャンスや気づきも多かった」という新井さんに、美容室のあり方や働き方の変化についてお聞きしました。
お話しを伺ったのは…
Belle Kichijoji 店長 新井直樹さん
都内1店舗を経て、Belleオープニングスタッフとして参加。現在6店舗あるうちの吉祥寺店・店長を務める。ショート、ボブ、レイヤースタイル、メンズも得意。小顔効果に加え、再現性の高いスタイルを追求。緊張させない、気を使わせない接客がモットー。その丁寧さと明るい人柄に、幅広い世代から信頼を得ている。
勤務システムの変化/最初は席数・スタッフを半分にして営業。ミーティングや新人研修にもテレワーク導入で効率化を図る
——コロナ禍で、サロンの勤務体制は変わりましたか?
最初の緊急事態宣言が出た頃、この先どうなるか全然分からなくていろいろ不安定でしたが、まず、国の意向、会社の考え、スタッフの思いにズレが出ないよう動いて行こうという話になりました。当時、飲食店は時短営業になりましたが、美容室は除外。ですが、自粛警察の問題もありましたので、サロンとしての見られ方も問われるのかな? と感じていましたね。
あの時はお店を開けていてもお客さんはほとんど来なかったと思うので、それだったらお店の見え方やスタッフを守ることを優先し、2週間お店を閉めようという話になりました。(1回目の緊急事態宣言後、2週間休業)。
その後は、時短営業にしてしまうとお客様が集中して密になると思ったので、お店は開けるけど時短はせず、枠数を減らして営業することに。普段の席数の半分くらいで営業して、スタッフの人数も半数に調整し、1ヶ月ほど営業していました。
——テレワークは活用しましたか?
ZOOMを活用しました。Belleはもともとミーティングを頻繁に開くのですが、役職別、店舗毎、全店の店長・副店長だけの会議などなど、だいたい月に6〜8本開いていたんです。そのうちいくつかは夜遅い時間まで続くものもあったので「どうにかしたい」とコロナ前から感じていたんです。ただ、業界のやり方や今までの習慣を急に変えるのは難しく、いい方法はないかと探りながらオンラインのミーティングをいくつか導入したりして、個人的に準備を進めていました。
そんな時、コロナでこのような状況に。「今がチャンスだ!」と思い、オンラインミーティングを導入できないか会社にプレゼンしたんです。それがきっかけで「よしやってみよう」ということになり、パワポで使い方をまとめた資料をスタッフに共有。テレワークがスタートしました。
その結果、ミーティング数は月3本くらいに。コロナというタイミングでしたが、スムーズに導入できたのはよかったと思っています。
——効率がよくなった反面、課題も見えてきたそうですね。
効率的にミーティングをできることはとても良かったのですが、簡易化しすぎてしまい、スタッフが本音で意思疎通しにくくなった気がします。そこの改善は今後の課題ですね。店として大きな局面を迎える時は、みんなの解釈やズレが生じないよう、全員が集まった場所で代表の口から直接言葉を伝えるようにしています。
——春先、新卒が入るタイミングだったと思います。そのあたりはどう対応しましたか?
4月に最初の緊急事態宣言が出た後、お店は2週間休みになり、5月くらいまではいろいろ調整しながら営業していたので、その間、新卒の出社も止めていました。お給料は払いつつも出社はストップという状態。緊急事態宣言があけてから出社してもらいました。「2ヶ月間出社せずに給料がもらえたらラッキー」と思う人もいるかもしれませんが、美容師の場合は技術職なので、出社できない期間はかなり不安だったと思います。
——やる気はあるのに2ヶ月間何もできないとなると、相当な不安ですよね。
そうですね。それではダメだと思い、オンラインで朝礼をやったり、不安に思っていることを聞いたり。どうしたら新人研修をテレワークで効率よくできるか、スタッフ全員で話し合ってピックアップしたんです。例えば、シャンプー剤の種類は覚えられるよね、席の番号、独特の隠語や業界用語、クロスのたたみ方・つけ方、朝の掃除は何をする……などなど。出社しなくても覚えられること、できそうなことをまとめることで、新人研修がスムーズになりましたね。
——出社する人、自宅待機の人、それぞれどのようにコミュニケーションをとっていたんですか?
一人はシャンプーを教える係、もう一人は接客を教える係など、スタッフそれぞれに役割を持たせました。新人に教える曜日を決めて、それまでに各自資料を作ったり教えることをまとめる。ZOOMでやり取りしながら、教わる側も教える側も、何かしらやることや勉強することがある状態にしていましたね。
集客のコツ/まずは感染症対策を徹底。世の中の空気を読み取り、お客様の心理にフィットするメニュー作りに取り組んだ
——宣言解除後、お客様の反応はいかがでしたか?
吉祥寺という街は、新宿や渋谷などの都市とは少し違って、生活圏なので会社がリモートになってもそれなりに人がいたと思います。近隣に住んでいる人もかなり多いし、電車に乗らずに来れる街、というのが大きかったのかもしれません。不要不急と言っても、病院やスーパーに行くのと同じように、髪が伸びてきたら自分では切れないから美容室に行きたいというお客様は多かったと思います。でもお店側は声を大にして「いらっしゃいませ!」とは言いにくい世の中の空気。これを上手くつなぐことができたらチャンスになるな、と思ったんです。
——具体的には?
感染症予防対策を徹底していることを明確にするために、店舗のHPやSNSに情報をアップしました。文字情報だけでなく、より分かりやすいよう動画も作って、全面的に感染症対策をアピール。それがみなさんに届き、「安心できる店なんだな」という風に思っていただけたようで、開放していた半数ほどの席はほぼ埋まっている状態でした。
世の中が、自粛してください、でも経済も回さないと……みたいな状況になり、先行きが不安な状態で、みなさんニュースをよく見ていたと思うんです。僕も毎日ニュースをチェックしてましたし。その時に思っていたのが、世の中の空気を肌で感じながら、よりお客様にフィットするような落としどころをサービスとして提供できないか、ということでした。
——どのようなサービスやメニューを考えたのでしょうか?
当時、お客様の心理として、お洒落をするというのが自分自身でも何となく気まずかったと思うんです。それは自粛ムードが高まっていたから。ブリーチとかデザインカラーとか、そういうお洒落につながるメニューの需要が減ったんです。なので、考え方を変えて、お洒落ではなく日常的にメンテナンスしないといけないメニューを打ち出しました。
例えば、髪が伸びてしまうとシルエットが保てないメンズカット、白髪染めもそう。放置しておくには限界があるメニューにクーポンを作り、目立つように打ち出したんです。とても好評でお客様に喜んでいただけました。あと、クイック時短メニューとして、前髪カット、マッサージなし、根元リタッチだけのカラーなどもたくさんの方にご利用いただきましたね。
不要不急が広まる中で、「これは不要なのか?」という迷いがみんなにあったからこそ、必要なものを明確にしたメニューが刺さったのだと思います。
——時短メニューは、在宅ワークのお客様にも嬉しいサービスですね。
これまではデザインカラーなんてできなかったけれど、ZOOMで顔を合わせる程度だからインナーカラーに挑戦してみる!という会社員のお客様もいましたよ。画面に映る時は髪をおろして隠しちゃえばOKって喜んでいました。この状況だからこそ新しい発想も生まれるのでいい刺激になります。ニュース、インスタ、YouTube、オンラインサロンなどをうまく活用し、いろいろな角度から分析して物事を考えられるようになったのも大きいですね。
時短接客のポイント/人の入れ替えをできるだけしないことで感染症対策&時短にも。結果、お客様の満足度とリピート率もアップ
——接客面で変わったことや時短を意識しているポイントは?
接客の仕方で変わったことと言えば、一人のお客様に対する人の入れ替えをできるだけしないようにしたことです。
うちはスタイリスト3人、アシスタント6人で基本動いていますが、チーム制にはしていなくて、その時に動けるアシスタントが適材適所で入るというやり方をしていました。それを今回、担当を変えないチーム制に。
コロナ前は、人を入れ替えない方が効率よく早く対応できると思っていたんです。でも人が変わるたびに伝達したり説明したりしていると、結局トータルでの時間はそんなに変わらないと。それだったら、一人の専属がすべて把握して担当した方がスムーズにいくし、アシスタントもお客様ともっと仲良くなれる。お客様の満足度も上がって口コミやリピート率もよくなりました。
最初は感染症対策という意味で始めたことだったんですが、チーム制に変えたらメリットしかなくて。これはいい発見でしたね。
——お客様の反応はいかがでしたか?
世の中の雰囲気がナーバスになっている頃は、シャンプー中に話をしないようにしていた時もありましたね。
お客様によってですが、気にして恐る恐る来ている人もいれば、コロナはあまり気にしていない様子の方もいたり。コロナに対する意識はそれぞれバラバラなので、会話の内容だったり、タイミングだったり、その辺りはすごく注意しています。こういう世の中の情勢と人の気持ちを汲み取る作業については、若い子たちにとってはすごく難しいと思うので、そこは導いてあげなきゃいけないなと考えています。「昨日はニュースでこんな発表があったので〜」とひと言伝えておくとか。それだけで、接客時にきちんと対応できるし、それがお客様の安心にもつながるのではないかと思っています。
売り上げはどう変わった?/一時的に急降下したものの、2020年後半はゆるやかな右肩上がりをキープ
2020年は3月半ばくらいまで調子がよく、4月に2週間お店を閉めて急激に売り上げがダウン。5月から少しずつ戻り、6月に自粛が緩和されるとみなさん一気に髪を切りに来てくださり、ここで大幅にアップ。そこから2、3ヶ月は周期がまたあくので、夏は少なめでした。例年だったら11月12月でぐんと上がるのですが、今年はそうはならず。ですが夏から年末に向かってはゆるっと右肩上がりになりました。枠数を減らしたこととチーム制にした点が、売り上げをガクッと落とさず伸ばせたポイントだと読んでいます。
——枠数を減らしたことで、待ち時間なども解消されたそうですね。
今まで予約をバンバン入れていた分、お待たせしてしまうことも正直多かったのですが、枠数を減らして無理に予約を入れず、チーム制にすることでコミュニケーションがスムーズになったと思います。待ち時間が減ってお客様の満足度も上がり、次もまた来てくださるようになったのも大きいですね。新規集客はこれまでとあまり変わりませんが、リピート率は確実に上がっています。それが11月あたりにぐーん伸びている部分です。11月の売り上げは6月を超えました。
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時代の急激な変化によって壁にぶち当たるも、分析力と行動力で新たな道を切り開いてきた新井さん。失敗と発見の両方があり、今回初めて見えてきたこともあると言います。
後編では、そんな新井さんの1日のタイムスケジュールや、今後の動向などについてお伺いします。
▽後編はこちら▽
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取材・文:青木麻理(tokiwa)
撮影:mika