ブランドの未来を考えた、「セカンドブランド」という独立のかたち【MINX plus 花渕慶太さん #1】
美容業界で働く上で「独立」という目標を持つ人は多いはず。そんな方へ先輩オーナーの経験談をお届けする本企画。
今回お話を伺ったのは、2021年7月千葉県流山市にオープンした『MINX plus 流山おおたかの森美容室』CEOの花渕慶太さん。人気ヘアサロン『MINX』のセカンドブランドとして誕生した『MINX plus』は、独立と同じように経営や運営は花渕さんが行っています。
前編では、花渕さんのこれまでの道のりと、セカンドブランドとして独立した経緯について教えていただきます。
お話を伺ったのは…
『MINX plus 流山おおたかの森美容室』CEO 花渕慶太さん
2006年『MINX』入社。2019年『MINX銀座五丁目』立ち上げ、代表就任。撮影、ヘアショー、国内外セミナー等を展開。サロンワークでは、年間3000人以上を担当。経験とキャリア、親しみやすさを活かした親身なカウンセリングを得意とし、今まで解決できなかった悩み、コンプレックスを解決する。2021年7月『MINX plus 流山おおたかの森美容室』、11月に美容室店舗内に『MINX plusネイル 流山おおたかの森』をオープン。
Instagram @minx_hanabuchi
与えられたものを全うし続けて築いたキャリア16年
――まずは美容の道に入ったきっかけを教えてください。
僕の母が美容師だったので、小さいころからどんな仕事なのかを見てきました。中学生のころには自然と「美容師なら成功できそう」という感覚を持つようになり、そのまま今に至っています。
だから、よくある「切ってもらった美容師さんに憧れて」という、お客さん側の目線で美容師の仕事を選んだわけではないんですよね。
――新卒でMINXに入社されたそうですが、選んだ理由は?
僕が入学した専門学校が、会長の高橋の母校だったこともあり、学校の先生に薦められました。そこで初めてMINXの存在を知ったんです。当時のMINXは、ちょうどJJやCanCamなどの雑誌の撮影なども多く盛り上がっていたころ。でも僕はお客さん側の目線で美容師を選んでいなかったこともあり、東京に行きたいという漠然とした思いはありましたが、有名なサロンがどこかとかまでは興味がなくて(笑)。
先生からMINXを紹介してもらい、東京にサロン見学に来て、お客様として髪を切りに行って、そのまま決めました。だから他のサロンは調べてもいないんです。
美容師を選んだ時も、MINXを選んだ時もそうなんですが、僕は与えられたものに対して嫌なところを探したり、他にいいものがあるかもと思ったりしないんです。いいところを探して、そこに突き進むタイプというか。
入社当初から感じていた「こんなサロンを自分で作ってみたい」という気持ち
――独立したいという気持ちは、いつからありましたか?
僕が美容師になったころの美容業界は、独立するのがとりあえずの一区切りというところがあったんです。だから僕もアシスタント時代から、「サロンを一から作ってみたい」という気持ちはありました。MINXに入って、良いサロンだな、自分もこれを超えるようなサロンを作ってみたいなって。
でも僕はノリと勢いで行くタイプではなく、自分を客観視した時に納得して独立できるタイミングがなかなかなかったんです。美容師の根本となるサロンワークで、どこまでお客様に支持していただけるか、どこまで自分の思ったものを形にできるか。その追求に入ったので、なかなか終わりがなかったんですよね。
MINXが好きだし、「美容師でいる限り、MINXの花渕慶太だ」という覚悟でした。
――そこから具体的に独立を考えたのはなぜですか?
MINX時代には役職を与えてもらい、新しいサロンの立ち上げに参加したり、教育だったりと、サロンワーク以外の仕事も経験しました。それまでの自分になかった知識やプラスαの経験が増えて、独立するためのいろんな引き出しは蓄積されていたと思います。
そういった仕事を続けていく中で次に自分がすべきチャレンジを考えた時に、元々持っていた「こんなサロンを作りたい」という思いが改めて出てきたんです。それが2019年ごろでした。
――では今回セカンドブランドというかたちで独立した経緯は?
僕が独立したい理由は、自分の手でサロンを築きたいからでした。だから最初に高橋(MINX会長)や岡村(MINX社長)に独立の話をした時は、全部自分1人でする覚悟だったんです。でもいろいろと話が進む中で、一緒にセカンドブランドというかたちでやっていく道もあると気づいて。
MINXが嫌なわけじゃないし、美容師を始めた時からMINXに染まっているし、お互いに信頼し合っている。それならサロン作りは自分でしつつ、MINXという土台があって仲間もいたほうが、大きく成長できるんじゃないかと思いました。自分1人のために店を出すのか、サロンを膨らませるために勝負をかけるのか。それなら後者かなって。
サロンの名前に『MINX』を残すことにしたのは、MINXというブランドの価値を高めたいという思いがあったからです。セカンドブランドとして独立することで、仲間たちに新たな道を作り、MINXブランドに新たな価値と広がりが作れたらと考えています。
未来を広げるためには東京から離れるべきだと思った
――では会社としては、完全に別会社というかたち。
そうですね。別会社として設立して、経営や運営面は基本僕がしています。もちろんセカンドブランドということでMINXの名前も入っていますし、MINXが築いてきた土台があるので、集客やリクルートはゼロから行うよりもかなり有利だと思います。MINX銀座5丁目店で働いていた2人も、一緒にやっていくメンバーとして来てくれました。
――なぜ千葉県流山市にオープンされたんですか?
独立にあたって動き出したのは2年ほど前ですが、そのころから都心を離れようというのは決めていました。MINX本体として都内主要部で5店舗をすでに展開しています。新たな価値を生み出すためには、都心から離れてMINXのお客様がいないところでスタートする方が、未来が開けるんじゃないかと思ったんです。
そこから、いろんな街を調べました。都心からできるだけ離れつつ、「僕じゃなきゃ」と言ってくださるお客様がギリギリ来られる場所をいくつか選び、足を運んで街の雰囲気や居心地、生活している人を見て…。人口の動向、家賃の相場、周りにあるサロンの数など、その街が今後どうなっていくかを考え、マーケティングしたものを総合的に判断して、ここに決めました。
――独立にあたって不安はありましたか?
これまで勤めてきた表参道や銀座とはガラリとエリアが変わったので、お客様が来るかという不安はやっぱりありました。でも、お店の打ち出し方やマーケティングなど、事前準備をかなりしていたので、そこまでの不安はなかったです。「明日お客様がいなくなるかもしれない」という不安は、スタッフでも経営者でも変わりませんから。
ただ「先はわからない」という不安の大きさは、スタッフを抱える経営者側になって強く感じました。結果が残せたとしても、その先はわからないし、それがずっと続いていく。誰にもわからない未来をイメージしながらやっていくしかないんだなって。
でも常に不安と隣り合わせでいたほうが、「今やらなきゃ」という気持ちになれると思うんです。見えない未来を明るくするために、今何ができるのか。「先が見えない」と感じられるからこそ、日々積み重ねられることがあるというのは、ずっと感じていることです。
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ブランドの未来のために、セカンドブランドでの独立という道を選んだ花渕さん。そこには今後のMINXの成長に欠かせない、仲間の成長への思いがありました。次回後編では、業績アップの工夫や独立してよかったと感じること、今後の展望をお聞きします。
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取材・文:山本二季
撮影:片岡 祥