美容を知り尽くしているからこそ、女性の悩みや求めているものが見えてくる!【鍼灸師 岡尾知子さん】#2
さまざまな女性誌や美容専門誌に記事を執筆し、美容ライターとしての実績を築いてきた岡尾さん。美容と健康に関する取材を進めるうちに「もっと知識を深めたい!」という熱い想いから、48歳で国際薬膳師、58歳で国家資格の鍼灸師を取得しました。
そして今、かつてのライターとしての経験が大いに役立っているようです。後編では、実際に鍼灸師として仕事をするようになってから、美容やエクササイズを取り入れて一般的な鍼灸との差別化をはかっている様子をご紹介します。
業種が変わっても無駄ではない! 経験を積み重ねた延長線上に今がある!
――鍼灸師の資格を取ってから、どんな活動をなさっていますか?
池袋にある治療院で施術をしたり、薬膳教室を開催したり、雑誌やWEBサイトで薬膳やツボの記事を書いたり、取材を受けたり、いろいろな活動を行っています。
――ライターとしての実績があって、さらに本格的に薬膳や鍼灸を学んだことでプラスになったことはありますか?
施術のベースにはこれまでの経験があります。ダイエットや健康記事で学んだ栄養や医学の知識、ランニングの仕事で習得した筋肉や身体の使い方の知識、薬膳に流れる養生の考え方など、すべてが臨床に役立っていますね。
鍼灸師としてのスタートは50代になってからと人より遅いのですが、それは決してハンディではありません。成長期、思春期、仕事でストレスを抱える時期、更年期、親を介護する時期、それぞれの時期を経験したからこそ、一人ひとりの不調や状況に共感することができる。それは、臨床に立つうえで強みなのではないかと感じています。
――学ぶには時間も体力も必要です。その原動力は何ですか?
患者さんにしっかりとよくなっていただきたいという気持ちがいちばん! そのためには、毎日が勉強の日々です。大変に思うかもしれませんが、私は勉強したり、調べたりするのが好きなんだと思います(笑)。勉強することはちっとも苦痛ではありませんし、学校を卒業し、国家試験に合格した今も、日々、課題を見つけ勉強することを楽しんでいます。
勉強と同様、文章を書くのも私は大好きです。鍼灸師になりましたが、書く仕事にも意欲的ですよ!「好きだからやりたい」これに尽きます。
――美容ライターならではの視点が鍼灸の治療に生かされていることはありますか?
鍼灸の世界では、「美容鍼灸」が流行っていて、私も全身治療のあと顔に鍼を打つ美容施術を行います。もちろん、美容鍼ならではのメソッドがありますが、施術にあたっては美容ライター時代に手掛けた表情筋やヘッドマッサージの企画などが非常に参考になります。
また、ライター時代に紹介した美顔器や美顔ローラーなどの理論も役に立ちます。たとえば、顔に鍼を打ったあと、リンパや血流を促すトリートメントが欠かせないのですが、それに、セルフケアで使うローラーなどの道具を利用することも。
ライターは、一般の方にいかにわかりやすく解説するかがポイントですが、そうした〝説明力〟も、臨床において役に立っている気がしますね。
目指すのは、鍼だけの施術に終わらないトータルケア
――岡尾さんと一緒に鍼灸を学んだクラスメイトは、みなさん鍼灸師になったのですか?
同じクラスには30人、全員が国家資格に合格しました。
でも、現在、全員が鍼灸の仕事についているかといえば、そうではないかもしれないですね。
私のように治療院に勤める人もいますが、エステティックサロンで美容鍼を打ったり、介護施設で機能回復の仕事に就いたり、卒業後の進路はいろいろ。結局、鍼灸とは違う世界に行く人も少なからずいるようです。一般の方においては、「鍼灸治療は肩こり・腰痛を治すもの」という認識が根強く、内科や婦人科などさまざまな不調をトータルでケアできることはまだまだ浸透していません。鍼灸本来の価値を知ってもらい、多くの人の身近な存在になることが、鍼灸の未来につながるのではないかと思います。
――鍼灸師の資格を取って、どんな治療を目指していますか?
私は、専門学校卒業後、池袋にある治療院にスタッフとして従事し、日々、患者さんの施術を行ってきました。鍼灸治療の目的は、薬や注射のように悪いところを「治す」ことではなく、患者さんが本来もっている治す力にスイッチを入れて、「治る身体」に導くこと。メタボの方も、小さなお子様も、若さや美しさを求める方も、根本的なところは変わりません。患者さんに真の癒しを与えられるよう、まずは自分の心身を整え、施術にあたりたいですね。
また、最近はコロナで生活様式が大きく変化する時期と重なり、「不調は生活の中から生まれる」ということを実感しています。施術時間はたったの60分ですが、不調の原因は何か、生活の中で注意すべきことは何か、そんな気づきを持っていただけたらいいな…と思います。
――そのための薬膳ですか?
慢性の症状の場合、せっかく鍼灸で身体の調子を整えても、いつも通りの生活を送るうち、元に戻ってしまう場合が多い。次の治療までの間、少しでもいい状態を保ってもらうには食事が大事なんですよね。不調の原因が食生活にありそうな場合は、無理のないところから改善ポイントのアドバイスをしています。嬉しいことに、昨年出版した著書を治療院に置いてもらっているので、最近は患者さんのほうから薬膳の質問をくださることもあるんですよ!
薬膳だけでなく、エクササイズや日常の姿勢、身体の使い方などのアドバイスもしているんですよ。また、自律神経が乱れている方には、睡眠や入浴などについてもお話を伺います。これも、取材を通じて得た知識がベースに。ライター時代に身につけた知識が今、すごく役立っています。
――岡尾さんご自身は今後、どんなお仕事をなさりたいですか?
2022年の目標は、自分の治療院を開業することと、お休み中の「ロータス薬膳教室」を再開させること。治療院は、鍼灸に薬膳を取り入れたものにしようと思っています。東洋医学は、漢方・鍼灸・薬膳を含めた養生ですから、それに近いものを目指し、形にしていきたいですね。
出版や執筆を通じて東洋医学のよさ、東洋医学はどなたにでもできることを発信していきたいです。
――最後にこれから鍼灸師を目指す人にメッセージをお願いします。
このコロナ禍で「自分の身体は自分で守る」という意識が高まってきています。まだ病気になる前の段階「未病」を治す東洋医学は、これからますます人の役に立つはずです。東洋医学はその人の身体や生活習慣など全体を見て、治癒へと導くもの。人の身体に触れ、命の交流を通じて健康をサポートする仕事は非常にやりがいがあり、生涯を通したライフワークにできると思います。若いうちに技術を学んで実績を積むのもいいですけれど、私のようにいろいろ経験してから鍼灸師になるのもおすすめですよ。
岡尾さんの成功の秘訣
興味のあること、知りたいことをとことん突き詰める
今まで築いてきたキャリアを活用し尽くす
ほかとは違うことを意識して積極的に取り入れること
撮影/古谷利幸(F-REXon)
お話を伺ったのは…
岡尾知子さん
国際薬膳師、国際中医師、鍼灸師。ライターとして美容・健康に関する記事を執筆するなかで東洋医学に興味をもち、薬膳専門学校で薬膳と中医薬を学ぶ。鍼灸師国家試験に合格後は、池袋の治療院に勤務しながら執筆活動、中医薬膳を教える「LOTUS薬膳教室」を主宰する。2022年に鍼灸と薬膳を組み合わせたご自身の治療院「つぼみ堂はりきゅう院」を開業。近著に薬膳のレシピを紹介した『はじめての薬膳生活』(法研)がある。