挫折こそが美容師像を作る。「落ちこぼれ」から予約の取れない人気美容師に「Bamboo Calm八柱店」浦畑侑弥さん
挫折や失敗をできればしたくない。そう願うことはある意味、自然なことではないでしょうか。しかし成功した人の多くは、挫折を通して自分を見つめ直したことが飛躍のきっかけになったといいます。千葉県にある「Bamboo Calm八柱店」のスタイリスト、浦畑侑弥さんもその1人です。
新卒で入社した表参道のサロンでは、創業以来の落ちこぼれだといわれ、スタイリストデビューまでに6年を要したという浦畑さん。さらに父が経営する「Bamboo」に入社したあとはカット力の差を見せつけられ、1から技術を学び直したといいます。しかしその地道な努力があって、今では売上100万超え、2ヶ月予約の取れない人気の美容師になることができたそうです。
今回、お話を伺ったのは…
浦畑侑弥さん
美容師/「Bamboo Calm八柱店 」所属スタイリスト
専門学校卒業後、カット技術が高いことで有名な表参道の美容室に入社。10年経験を積み、その後父親が千葉で経営する「Bamboo」に入社。丁寧なカウンセリング、高い技術力に定評があり、2カ月先まで予約が取れない人気美容師。売上は常に100万円を超える。
成功に近道なし。自分らしくコツコツ進むと決めて
――表参道のサロンに入社した当初、技術で苦労されたとお聞きしました。
はい。サロン始まって以来の落ちこぼれだと言われましたね(笑)。たとえばシャンプー。同期が1ヶ月で合格するなか、僕は5ヶ月かかりました。手先が不器用だったのと、先輩から言われたことを自分で再現する力がなかったり、自己流でやってしまったり。なかなか実績が出せず、苦しみました。
――飛躍のきっかけは、何かあったのでしょうか?
自分らしくコツコツやるという軸を決めたことだったと思います。僕は6年ほどかけてやっとスタイリストデビューができたのですが、そこでも大きな壁にぶつかったんです。なかなかリピーターが増えず、売上もあげることができず焦っていました。なんとか売上をあげようと、うまくいっている人や先輩を真似して、格好つけたカットをしてみたり、タメ口で接客したりして。軸がぶれていましたから、結局うまくいきませんでした。
そこからは自分らしい美容師でいようと決意し、丁寧な接客、とくにカウンセリングには力を入れるようになりました。ウィッグを引っ張り出してきて、技術のベースをもう一度練習し直したりもしましたね。急に何かが変わったわけではなくて、ここから自分の美容師像がなんとなく見えてきて、徐々に徐々に自分についてくれるお客さまが増えていったと思います。なかなか実績が出せず苦労をしたわけですが、ここでじっくりと技術や接客のベースをしっかり積み上げられたことは、今にすごく活きていると思います。
――技術習得に時間がかかっても、美容師を続けられた原動力はどんなところにあったのでしょうか?
アシスタント時代に入らせてもらった、お客さまとのつながりだと思います。愚痴や弱音ばかり吐いていたわけではありませんが、たまにぽろりと練習がうまくいかないことを話すと、応援してくれるお客さまが多かったんです。お客さまはがんばっている美容師をちゃんと見てくださっているんだなと思います。
それと同期には恵まれていたことも大きかったです。今では考えられないと思うのですが、毎日のように日付が変わるまでみんなで練習をして、戦友のような感じでした。彼らがいなければ続けることはできなかったと思います。
表参道を超えるカット技術。1から習得し直し100万円プレイヤーへ
――そこからお父さんが経営していたお店「Bamboo」に入られたわけですね。
はい。表参道の店を10年で退社し、「Bamboo」に入ることになりました。ここでもすごく悩みましたね。今でも千葉まで通ってくださっているお客さまも少しはいるのですが、それまで築き上げたものがリセットされるように感じていたんです。お客さまもいなくなり、表参道の美容師という肩書きもなくなる。自分には何もないな、と。追い打ちをかけたのが、「Bamboo」のカット技術の高さでした。表参道の店より「Bamboo」の方がカット技術が高かったんです。
――失礼かもしれませんが、ちょっと意外ですね。
表参道の技術を千葉に持ち帰るくらいの気持ちでいたので、僕も驚きました。表参道の店も「Bamboo」も、「PEEK-A-BOO」のカットをベースにしていますが、表参道のお店では髪の毛を斜めに引き出してカットし、頭にフィットさせていく方法をとっています。一方、「Bamboo」では縦でカットしたり、横のスライスで髪をちょっとずつ持ちあげてカットするエレベーションという技法を取り入れたり、1つのカットに絞らないで、さまざまな技法を取り入れていました。
当初「Bamboo」のカットに僕は対応できなかった。そこでもう1度、ベースカット、ブロー、パーマの技術を地道に練習することにしたんです。そういうことを続けるうちに、3年くらい経ってからやっと自分のお客さまがつくようになり、売上が100万円を超え、予約が2カ月取れない状態になりました。
カウンセリングにすべての答えがある
――カウンセリングに力を入れているとのことですが、心がけていることはありますか?
一番心がけていることは、しっかり時間をかけてお客さまの話しや悩みを聞くことです。僕はカウンセリングにお客さまが求めることの、すべての答えがあると思っています。どんなに短くても5分、長いときは30分くらい時間をかけることもありますね。そして悩みを聞いたら、絶対に受け流さない。たとえば「最近地肌が透けてきた」と言われたら、「そうですかね」と流して終わりにしないようにしています。
そこから「いつぐらいから気になっていますか?」、「どんなときに気になりますか?」と質問を掘り下げていくんです。そうするとお客さまが求めていることが分かりますし、お客さまの心が開いていくと思います。こんなにしっかり聞いてもらったことはなかったと、喜んでもらえることが多いです。
――悩みを聞いたら、そのあとはどうするのですか?
悩みをカバーできる提案をします。提案はひとつするのではなくて、複数の案を出して選んでもらうことも大切にしていますね。そしてこのときにお客さまにすべて委ねるのではなくて、自分がおすすめする提案はどれなのか、意見を言うことがとても大事だと思います。それがお客さまの満足度につながると思うんです。
――たくさん提案すると、お客さまが決めきれず、悩んでしまうことはありませんか?
あまりにもカウンセリングの時間が延びてしまいそうなときは、現状維持の方向でいくことが多いです。お客さまの心が決まっていないのに、無理矢理変えるようなことは絶対にしません。ただ提案や意見は、時間をおいて響いてくることがあるんですよね。半年後くらいに「前に浦畑さんに言われたショート、今回やってみようかな」と、結構な時間をかけてオーダーにつながることもあります。施術中もよく、「こんなのも似合うかも」とちょこちょことジャブは打ちます(笑)。
――物販の提案もしますか?
お客さまにとって必要な場合だけすると決めています。単価をあげるために提案していると、一時的に売上はあがるかもしれませんが、お客さまの信頼を失うと思うんです。お客さまの状態や悩みの改善、作るスタイルに必要であれば提案する。その提案のためにも、カウンセリングで情報を得ることが重要になってきます。
お店で物販のキャンペーンをしているときは、わざと「今この商品のキャンペーンをしているけど、あなたには必要ないと思うから勧めません」と言うこともありますね。お店の売上目標のために、お客さまを使わないという宣言のようなものです。提案はこちらがワクワクしながら行うことが大事で、売上をあげるための手段や目的にならないように注意しています。
浦畑さんが美容師として成功した3つのポイント
1.周りに流されず、自分らしい美容師像を確立した
2.必要があれば1から学び直し、技術の幅を広げた
3.カウンセリングを丁寧に行い、お客さまの信頼をつかんだ
後編では、2店舗で年商1億円をあげている「Bamboo」が、どのようにして高い売上水準をキープしているのかを掘り下げます。そのキーマンといえるのは浦畑さんの父であり、現社長の浦畑建司さん。64歳という年齢ながら、社内売上1位をキープし続け、社員はその背中に刺激を受けているようです。後編もお楽しみに!