私の中にあるヘアメイクへの情熱は、何にも振り回されない 私の履歴書 【メイクアップアーティスト大内李奈さん】#2
ブライダルをはじめ、広告や映像作品等のヘアメイクに携わるメイクアップアーティスト、大内李奈さん。東京のみならず全国各地に赴き、時にはヘアメイクのレッスンやセミナーの講師業も行うなど、多方面で活躍しています。
大内さんがブライダル中心にメイクアップアーティストとして歩み出し、その後フリーランスになった経緯などを聞いた前編に続き、後編ではフリーランスとして独立してからの歩みとヘアメイクにかける思いを語っていただきます。
続けるコツは、自分なりの工夫と周りへの感謝、そして少しの気分転換
――ヘアメイクの仕事をする上で、大切にされていることはなんですか?
周りとちょっと差が出たり、周りと被らない「個性」を出すことでしょうか。基本的に「まだ誰もやったことがないことをやりたい」と思っているんです。もちろん、最優先である花嫁さんやクライアントさんからの希望へのリスペクトは忘れず、その上でこれを意識した提案は喜んでもらえることが多いですね。
可愛いとかかっこいいとか、特定のスタイルも特に決めていません。仕上がった作品が「rina流」のスタイリングになればいいな、と。その瞬間の生の感覚を大切に、いつでも全力で現場に臨んでいます。
――独立すると、定期的なお仕事を確保するのに苦労することもありませんか?
今では、InstagramやX(旧Twitter)などのSNSやメールでのご依頼が7〜8割くらい。他には、過去にご一緒した花嫁さんやフォトグラファーさんなどからご紹介いただくこともあります。また、独立した直後は、ブライダルのドレスショップに営業へ伺ったりもしていましたが、しばらく後にそちらからお声がかかることもありました。
人からのご縁で楽しく仕事させていただいていて、恵まれていると感謝する日々です。
――SNSを、とても上手に活用されていますね! 発信する上で、気をつけていることはありますか?
基本的には自由に投稿していますが「誰が見ているかわからない」という意識は常に持っています。時には落ち込むこともありますが、ネガティブな発信でいい気分になる人はいないので、それすらもプラスに変えていきたいですね。自分も誰かも、その投稿を見て気持ちが上向くような発信を心がけています。
ただ、それでもやはり気分転換が必要な時もあります。そんな時は美味しいものを食べたり、大切な人と一緒に過ごしたり、知らない土地へ旅行に行くこともあります。都会から離れて自然のエネルギーをもらいに行くのも、時にはとても大切なこと。私の父はそういった気分転換が上手なので、お手本にしています。
――尊敬する人をお聞きした時にも、「父親」とおっしゃっていましたね。
はい。自分にはない考え方を教えてくれるので、とても尊敬しています。父は力加減のコントロールや、自分の整え方がとても上手な人。何事にも全力投球しがちで、時に疲れてしまうこともある私から見て「こんな大人になりたいな」と思わせてくれる人です。
SNSでのバズりを経験して、改めて思ったこと
――フリーランスとしての活動を始めてから、印象的だった出来事はありますか?
私が作ったハンドメイドのヘアクセサリー「ポニーテールリング」がSNSでバズったことですね。2021年の年の瀬くらいのことですが、Instagram、X(旧Twitter)、TikTokで、今までに経験したことがないくらい拡散されて。例えばX(旧Twitter)では、16万ほど「いいね」がつきました。その際に、「ねとらぼ」や「Yahoo!ニュース」などのネットニュースサイトにも取り上げていただきました。
ハンドメイド商品として販売もしていたので、当時はオーダーが殺到して驚きました。けれど、自分が素敵だと思ったものを普及できたのは誇らしいですし、今では貴重な体験ができたと思っています。
――そんな「ポニーテールリング」を作ることになった経緯とは?
おそらく2015年くらいのDiorのコレクションやファッションウィークの時の画像を、Pinterest(ピンタレスト)で見かけたことがきっかけです。日本のトレンドは海外と比べて大体3年くらい遅れがちだと感じていますが、当時でもこのようなヘアアクセサリーを日本で見たことはありませんでした。
元々ものづくりが好きだったこと、そしてまだ誰もやっていないことをやりたいと常に考えていたので、自分でも作ってみようと思い立って自作したんです。こうして出来上がったものを、「ポニーテールリング」と名付けました。
自身の作品撮りに使っていくうちに、ブライダルや成人式などのヘアメイクの仕事でもオーダーをいただけるようになり、SNSを通じて一気に広まった感じです。
海外には既に存在していたこともあり特に商標登録などは取らなかったので、今ではすっかり浸透して、類似品がいろんなところで販売されています。
――SNSでバズるという経験を通じて、ご自身の中で何か変わったことはありましたか?
確かに「ポニーテールリングの人」として認知度は上がったと思いますし、これがきっかけで仕事につながったこともあっただろうと思います。
しかし、私自身の仕事に対するマインドやスタイルは、特に変わらないですね。一時的には盛り上がるけれど、やはり大事なのは日々の積み重ね。むしろバズったことで、より一層気を引き締めるようになったかもしれません。
やっぱり、ヘアメイクの仕事が大好き!
――いつでもヘアメイクの仕事を楽しんでいらっしゃるという印象が強い大内さんですが、仕事をしていて特に好きな瞬間はありますか?
喜んでもらえている姿や笑顔、感動を、直接その場で受け取れることですね。
特にブライダルのヘアメイクは、クライアントがその挙式の新郎新婦になります。そんな二人の一生に一度の特別な瞬間に立ち会って、幸せを直に分かち合えるのは、やはり嬉しいです。
もちろん、広告や音楽・映像関係の仕事もとても楽しいですが、このライブ感は、ブライダルのヘアメイクに特有のやりがいや醍醐味だと実感しています。
――ヘアメイクの仕事が本当に好きなのが伝わります。そんな大内さんにとって「好き」を仕事にするというのは、どんなことだと思いますか?
あくまで私の場合ですが、毎日に刺激が生まれ、日々の仕事により一層のやりがいを感じられることです。
1日24時間の中で、仕事が占める時間ってとても長いですよね。私は自分の「好き」を仕事にすることで、その時間も楽しめています。
もちろん、人によっては「好き」を仕事にすることで、逆に好きではなくなってしまうこともあると思います。なので、「好き」を仕事にすることが自分に合っているのかどうか、を見極めるのが大切です。
どんな道を選ぶにしても、迷ったらまずはやってみたらいいと思います。自分が感じたワクワクを大事にしながら試行錯誤して、仕事とプライベートとのバランスや、仕事に対する自分の向き合い方などを少しずつ定めていけばいい。人生の道は、1つではないはずですから。
――大内さんにとって、「働く」とは何でしょう?
人生を豊かにする大切な要素の一つです。加えて、自己表現でもあります。
ヘアメイクをしている時、すなわち働いている時って、自分のパワーが一番あふれている瞬間。その時に出会える新郎新婦の幸せのひと時や、仕事中の様々な場面で日々受ける刺激が、私の人生を彩ってくれています。
大内さんの成功の秘訣
1.自分の心に素直になって行動すること
2.仕事と自分のバランスを上手に保つこと
3.外からの声に振り回されず、自分の芯をしっかり持つこと
撮影/内田 龍
取材・文/勝島春奈