【美容師のカット技術】KATE 豊田光信さん流『ツーセクションで作るジェンダーレスな黒髪ショート』#1
2019年、美容業界で注目されたキーワードのひとつが「ジェンダーレス」。性別の垣根を超えたヘアスタイルが注目を集めました。そんな今にフィットするショートスタイルを、「KATE」の豊田光信さんが提案。前編では、豊田さんの技術力アップの方法から、デザイン提案のルーツについてインタビューします。
街の風や時代性を感じ取り、デザインに落とし込む
「KATE」代表/トップ スタイリスト 豊田光信さん
——美容師を目指したきっかけを教えてください。
高1のときに親戚の同級生の女の子に雑誌『cutie』をもらい、そのファッション感というか、東京っぽい世界観に衝撃をうけました。当時はカルチャー感が強くトンガった雑誌で、高感度でオシャレな女の子は読んでいたと思います。その中に職業紹介のような企画ページがあり、当時の「SHIMA」のスタイリストの方が出ていて、それを見て美容師という刺激的な職業に強い憧れを持つようになりました。
山野美容専門学校への進学を決意し、卒業後「SHIMA」に入社。23歳でスタイリストデビュー、27歳でトップスタイリストになりました。15年勤続後、3年ほどフリーランスで勉強をしてから「KATE」に参加し、木下とともに代表として経営に携わっています。
——アシスタント時代、技術力を磨くためにしていたことは?
朝晩の自主練です。とにかく毎晩カットモデルさんを入れて、髪型を作り続けることに徹していました。当然ですが、営業中にはカットの練習はできないので…。だから、休みの日は街でのモデルハントに100%力を注いでいましたね。しかもその上、夜遊びもしょっちゅうしていましたから、今となっては本当に体力があったな…と自分でも驚きます(笑)。
——スタイリストデビュー以降、技術力アップの方法は変わりましたか?
アシスタント時代は毎日モデルさんの髪で「リアルなヘア作り」をひたすらこなし、慣れることを繰り返していましたが、スタイリストになってからは逆に、ウイッグにじっくり向き合って、カットの更なる深みや小ワザを研究する事が多くなりました。営業中の反省や疑問をウイッグで研究して、実践に活かす、みたいな。
——若手のうちに、技術力アップのためにしておくとよいことは?
月並みですが「目で見て盗む」ということ。前社のときは、とにかくたくさんの個性豊かなスタイリストがいたので、営業中に見て覚え、手が空いたときに捕まえて聞く、ということを繰り返していました。
今でも、ピンときた技術やデザインは、後輩からでも教わります。やはりピンとくるものには、時代性というか今の風が吹いていると感じますね。マニュアル本や動画で細かいテクニックを覚えることも大切ですが、ぼくはそれ以上に生の風を感じながら魅力的なデザインを学ぶことが大切だと思います。
——後輩への技術指導を行うときに心がけていることを教えてください。
僕は、教える側は「憧れられる存在」であることが理想だと思っています。自分が若いころ、技術がうまいというだけで「この人に教わりたい」と心から思っていたかと考えると、違ったなと思うんです。技術力にくわえて、トレンド感ある第一線の美容師としての魅力が備わっていなければ、教わるほうも本気で興味がわきませんよね。
だからこちらも、日々の営業の客層やヘアデザインはもちろん、自身のファッション感やプライベートの生活感も意識して、憧れられる存在でいることが大切。表参道という場所でチャレンジできるスタッフを育てるには、そういう要素も必須になってきます。
そしてもちろん、若いスタッフ以上に、美容に夢と情熱を持ち日々進化していくこと。結局はそういう背中を見て刺激を受けて、吸収してくれるんだと思います。年々歳を重ねていますが、とにかくそういう存在であり続けないと教育も経営も成り立たない、という緊張感をもって働いています。
デザインを提案するために必要なのは「妄想力」
——接客面で大切にしていることを教えてください。
美容室は、女性にとって特別な場所だと思います。だから、ヘアスタイルを提供するだけでなく、充実した時間を過ごしてもらえるようにしたいんです。そのためにも、距離感を大切にし、髪以外の心理的なコンディションにも寄り添いながら、来たときよりも自信をもって気持ちよく帰ってもらえるような接客を心がけてます。あとは、お客さまからも刺激をたくさんいただくので、いつもコミュニケーションを取ることをとても楽しみにしていますね。
——サロンワークでのスタイル作りのこだわりは?
やはり絶対的に「提案型」でありたいですね。お客様ごとに様々なアプローチがあれど、こちら主導でデザインし、責任を持つこと。それを任せてもらえる美容師であり続けるために努力を怠ってはいけません。そのためにデザインはもちろん、新しい技術や薬剤の知識を学ぶことも必須です。常に情報をインプットし、いつでもアウトプットできるよう準備をしています。
——ヘアデザインを考えるうえで、大切にしていることは何ですか?
その人の日常のしぐさを思い浮かべること。それを想像したときになるべく魅力的なデザインを考えていきます。「妄想力」とでも言うんですかね(笑)。
あと、サロンワークだと忘れがちなんですが、立ち姿でのバランスを1番大切にして、カットラインを設定しています。たった1センチで、本当に別物になると思うので。カットクロスをはずして歩きだしたときが、一番いい感じになるようにイメージしています。
雰囲気でいうと、僕が昔からこだわっているキーワードは「ヘルシー感」。とにかくツヤ感を出すこと。健康的であることに、人は本能的な魅力を感じると思うんです。
——ヘアデザインのインスピレーションは、どんなところから受けていますか?
出勤時の電車や駅、プライベートで街に出たときなどに見かける「目を引く女性」のヘアをよく見ています。もちろんその方自身の女性像というのもありますが、目を引くヘアスタイルには理由があると思います。カットラインやカラーが抜群に似合っていたり、新鮮なデザインバランスだったり、シンプルだけどツヤや収まりが美しかったり…。
それらをデザインの「きっかけ」として感じたままに、日々のサロンワークに取り入れています。また、風に吹かれたり歩いたりして、動く「ライブ」のヘアから、新しいデザインやスタイリングバランスを想像するときもあります。ヘアカタログやSNSのように静止画や平面的なヘアを見るより、よりクリエイティブなイメージがわきます。やはり「街で1番魅力的な女性像をつくる」ということが、美容師の永遠のテーマなんだなと改めて思います。
——トレンドを取り入れるためにしていることは何ですか?
これも街の人を見るということですね。とにかく「ライブ感」。いつもアンテナをしっかり張って歩いています。
あと僕は世代的に’90年代サブカルにどっぷりだったので、未だにそこらへんを掘り返して新しいアイデアを探すことも多いです。神保町に行って古い雑誌を見たり。当時大好きだったミュージシャンや雑誌・写真集などは、今でもとても刺激的です。オタク気質なので、とことん掘り下げることは得意なんです(笑)。’90年代カルチャーと表参道ハイファッションをかけ合わせたような、今っぽいヌケ感のある女性像を作りたいですね。
——最近のヘアスタイルの傾向や、人気のスタイルを教えてください。
切りっぱなしのボブやミディアムのトレンドから、だいぶフォルムや動きのあるデザインに変化したところだと思います。そこもひと段落して、今はウルフやマッシュベース、ウェーブデザインが最近のトレンドですね。前髪や顔まわりを切り込むデザインが多くなりました。ジェンダーレスな、かっこいいショートスタイルも相変わらず人気です。
豊田さんが提案する『ツーセクションで作るジェンダーレスな黒髪ショート』
ツーセクションのショートヘアにトレンドな’90年代風のテイストを加え、ジェンダーレスでカジュアルモードな雰囲気に。センターパートで耳をくっきり出したベースカットに、パラっとした少なめの前髪でこなれ感アップ。黒髪が映えるセミウエットな質感で。
『ジェンダーレスな黒髪ショート』のいいことろ
1.シルエットだけでオシャレ感アップ
2.スタイリングが簡単
3.ピアス・イヤリング選びが楽しい!
豊田さんのインスピレーションの源になっているという90年代のテイストを取り入れ、前髪や質感で今っぽく落とし込んだジェンダーレスショート。後編では、その詳しい作り方を教えていただきます。
▽後編はこちら▽
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取材・文:山本二季
撮影:奥村亮介(スタジオバンバン)
ヘア:豊田光信(KATE)
メイク:早野藍(KATE)
モデル:スローカム・ニコール
教えてくれたのはこの人!
KATE 代表/トップ スタイリスト都内大手サロンに15年勤続後、2015年2月より代表としてKATEに参加。ファッション性の高いデザインはもちろん、ナチュラルからコンサバまで幅広い引き出しを持つ。程よくトレンドを取り入れる感性と、ロジカルな提案力に定評があり、長年の顧客も多い。
Salon Data
KATE OMOTESANDO(ケイト オモテサンドウ)
住所:東京都渋谷区神宮前5-2-7 北上ビル2F・3F
TEL:03-6427-5093
URL:https://kate-hair.jp/