現金、紙、マッサージなし。「技術提供に集中できるサロン」で多店舗展開に成功【美容師 今泉孝記さん】♯2
技術力の高さに定評があり、開業から5年で東京は銀座、蔵前、日本橋、大阪には梅田と4店舗を展開する美容室「GRAFF hair」。オーナーを務めるのが今泉孝記さんです。
前編では今泉さんの美容専門学校時代や、1社目のサロンでの経験について伺いました。
後編では、今泉さんの独立後について伺います。今泉さんが立ち上げた「GRAFF hair」は、現金や紙、肩のマッサージのサービスなど従来の美容室には当たり前のようにあるものが、導入されていません。効率を重視し、美容師が技術提供に集中できるように設計されているのです。
経営についてのさまざまな工夫について伺うなかで、今泉さんの仕事観も見えてきました。
お話を伺ったのは…
今泉孝記さん

1987年、福島県生まれ。国際文化理容美容専門学校国分寺校を卒業後、東京都内に展開する有名美容室に入社。12年間経験を積んだのち、2020年4月、銀座に「GRAFF hair」を立ち上げる。2022年蔵前に2店舗目を、2023年東日本橋に3店舗目をオープン。2025年1月、大阪・梅田にセカンドブランド「mel by GRAFF」を出店し、現在4店舗を経営。
コロナ禍での独立。お客様はゼロでもワクワクしかなかった
――2020年4月に独立されたとのことですが、コロナ禍真っ只中ですね。
そうなんです。当時は銀座駅から店舗までの5分の道を歩いていても、誰ひとりとしてすれ違うことがないくらい人が外に出ていなくて。1日に1件も予約が入っていない日も、よくあるような状況でしたね。
ただ、不思議と不安はまったくなく、ワクワクしかありませんでした。今までつながっていたお客様がいますし、髪は絶対に伸びるのだから、緊急事態宣言が開ければ、いつかかならずお客様は戻ってきてくださるだろうと思っていたんです。実際、緊急事態宣言が解除される直前には、再び外に出るための準備として髪の毛を整えたいと考えるたくさんのお客様にお越しいただき、そこから徐々に忙しくなっていきました。
――前編で、お店のコンセプトは「徹底的に無駄を省いて、スタッフが技術提供に集中できるサロン」とのことでしたが、具体的にはどんなことをされているのでしょうか。
まず、お店は完全キャッシュレス対応で、釣り銭の準備やレジ締め作業なども不要です。また紙類はほとんど準備をしておらず、雑誌はすべてiPadで見られるようになっていますし、カルテは電子対応にしています。唯一用意している紙類は、名刺くらいです。
また肩のマッサージやこだわりのドリンク類の提供などのサービスは削っています。お客様が美容以外のサービスをどこまで求めているかは分かりませんし、マッサージはマッサージ屋さん、おいしいコーヒーはカフェでと、それぞれのプロにお任せすればいいのかなと。純粋に美容師がプロとして提供できる技術や接客にこだわるようにしています。
――なるほど。
あとは美容師として働いている人が集中できる環境にしたかったので、よくある美容師のしがらみのようなものもありません。例えば先輩スタイリストはシャンプーに入らないとか、掃除をしないなどが当たり前になっている美容室も多いと思います。ですが、お客様のためにも一切ならないですし、効率も悪い。ひとつもいいところはないので、そういう仕組みはやめました。
頑張っているスタッフの、やりたいことを応援

――今泉さんがオーナーとして大切にしている考え方は?
頑張っているスタッフを応援することです。大阪にセカンドブランドである「mel by GRAFF」を出店したのも、着付けメニューを作ったのもスタッフからの要望でした。また今、湘南エリアで新店舗の出店を検討しているのですが、これもこのエリアで働きたいスタッフを応援したい気持ちから動いています。
――スタッフの方の働き方でも工夫をしている点はあるのでしょうか。
工夫をしているというより入社前に提示した条件をきちんと守るという、会社として当然のことをやっているだけという感じでしょうか。週休2日制ですし、有給も自由に取れます。推し活を楽しんでいるスタッフはイベント参加のために土日に休んでいることもありますし、スタッフのなかには今度10日間休みを取ってハワイへ行く人も。朝礼はありますが30秒で終わりますし、営業時間ぴったりで帰れます。
スタッフが安心して働くためには入社後のギャップをなくすことがとても重要だと思っており、この5年間で退職者は3人だけです。
働くことは、楽しく生きるために必要なこと

――今泉さんは美容師として成功されたと思いますが、美容師として成功するためのポイントはどういった点でしょうか。
美容師は自分が商品になるので、お客様に選ばれるためにはどういう自分を見せればいいかを考えることが大切だと思います。どんな自分を見せるか悩む人もいるかもしれませんが僕のおすすめは、シンプルに周りから認めてもらえる部分、褒めてもらえる部分を磨いていくことです。
自分がやりたいことよりも、周りからの声を素直に聞いていく方が、早く活躍できるようになると思います。
――今後の目標は。
売上も利益もきちんと上げていかないと継続的な組織を作っていくのは難しいので、スタッフのやりたいことを実現するためにも、規模を拡大していくことです。美容室運営だけだと不安定な部分もあるので、ほかの業態を広げていくことも視野に入れつつ、拡大を続けたいと思っています。
――今後は経営者、美容師、どちらの顔を優先していきたいですか。
現状は経営者6、美容師4くらいの割合で働いているのですが、経営者の割合を増やして組織としてもっと成長していかなければと思っています。ありがたいことに「GRAFF hair」は土日の予約のほとんどがスタッフのお客様で埋まっている状態で、美容師としての僕は追い出されつつあります(笑)。でもそれはサロン経営としては理想的な形なのかなと。
従来の美容室経営のように代表が店内の美容師としてもっとも優れていて、スタッフが代表を目指そうとしても成り立たなくなっていることは世の中で証明されていると思います。そうではなくてスタッフみんなが異なるスキルを活かしていくことで、スタッフも活躍できるようになりますし、魅力的なサロンが生まれるのではないかと思うんです。
――最後の質問になりますが、今泉さんにとって働くこととは。
楽しく生きるために必要なことだと思っています。働くことにはもちろんお金を稼ぐという面がありますが、それだけでなく人とのつながりを作ること、自分を成長させることなど、働くことでしか得られない要素がたくさんあるのではないかと。
最近、思考を整理していたのですが、「楽しい」ことと「楽」ということは違うと思います。楽ではないし、大変だけれど、乗り越えたら楽しい。それが仕事ではないでしょうか。これからも僕自身、仕事を通してさまざまなことを乗り越えて、楽しく生きていきたいと思っています。
取材中、「スタッフの方を大切にされているのですね」と伝えると、「大切にしているというのとはちょっと違うかもしれません。それはおこがましいので。頑張っている人を応援したい、そのニュアンスが合っています」と話してくれた今泉さん。慎重に言葉を選ぶ姿勢からも、スタッフの方に対する真摯さが伺えました。
5年間で退職者が3名しかおらず、スタッフの方たちも誇りを持って働く「GRAFF hair」。その躍進はまだまだ続いていきそうです。
Check it
GRAFF hair銀座店
東京都中央区銀座1-4-3カルチェブラン銀座ビル5F
03-6228-7065
.jpg?q=1)
.jpg?q=1)



-min.png?q=1)