奥行き感のある独自のデザインを確立し、人気店へ成長! ネイリスト 森谷哲朗さんの経営術
都内にプライベートサロンを開いて8年目になる、ネイリストの森谷哲朗さん。顧客ゼロの状態で独立し、駅から遠めの場所にプライベートサロンをオープン。どうやって集客をするか考えた結果、たどり着いたのが「強みとなるアート」を確立することだったそう。ネイリストが見てもどのようにして作られているのかわからない、そして真似できない、唯一無二のネイルデザインを作り上げ、経営を安定させることに成功したそうです。
前編では、なぜそのようなデザインを作ろうと思ったのか、そのきっかけや、森谷さんの独創的なデザインがどのようなプロセスで誕生しているかをお聞きします。
今回お話を伺ったのは、森谷哲朗さん。
森谷哲朗さん
都内プライベートネイルサロンオーナー。ジェルネイルブランド「SHINYGEL」ディレクター。建築系の大学を中退後、美容の道に進みたいと考えるようになり、メイクスクール、ネイルスクールを経て、ネイリストへ。都内のネイルサロンで店長まで経験したあと独立し、2013年都内にプライベートネイルサロンをオープン。伝統工芸などの素材を使った唯一無二のデザインで話題になり、日本のみならず台湾や中国などでもセミナーを重ねる。
Instagram:@tetsubozu
「顧客ゼロ」「駅遠」でも足を運んでもらえる強みを考え続けた独立1年目
————お客さまがほとんどいない状態で独立をされたそうですが、最初から経営は順調でしたか?
いえ、最初の1年は本当に苦労しました(笑)。当時の僕はとんでもない勘違いをしていて…。お客さまがいない状態の独立ではありましたが、当時働いていたネイルサロンのなかの世界しか知らなかったので、恐ろしいことに自分はアートでは負けないと思っていたんです。腕一本でなんとかなるだろうと、経営の勉強などもほとんどしないまま独立しました。
しかもサロンを開いたのは、駅からかなり遠く、通勤のついでに立ち寄れるような場所でもありませんでした。自分が一目ぼれした物件ではあったので仕方ないのですが、集客に関してはかなり難しく…。当時はどんどん減っていく貯金額に、青ざめていましたね(笑)。
————今からは想像ができないですね(笑)。そこからどのようにして、経営を軌道に乗せたのですか?
とにかく「自分にしかない強みを作ろう」と考えました。駅からそのサロンまで歩いてきてもらうには、ここでしかできないネイルがなければだめだな、と思い、勉強のためにさまざまなネイリストの先生のセミナーに行くようになりました。強い衝撃を受けたのは、銀座のネイルサロン「MDA」のMayu先生のデザインを見たときです。
————どんなところに衝撃を?
どれだけ見ても、どんな風に作られているのかがわからなかったからです。Mayu先生のデザインは、当時の自分の引き出しにはないものでした。ネイルは平面なのに、奥行きさえ感じられるようなものだったんですね。そしてそのデザインを見ているときに、すごくワクワクして。自分もMayu先生のように、ほかのネイリストが見てもどのように作っているかわからないデザインを作ろうと決めたんです。
ネイルの背景にシールを使い、奥行き感を演出。転機となったネイルデザイン
————なるほど。それはすぐに完成しましたか?
かなり試行錯誤しました。自分の感覚を頼りにデザインを手繰り寄せていくようなことを、何度も何度も繰り返しましたね。そのなかでたどり着いたのが、ネイルの背景に柄の入ったシールなどを使い、奥行き感を出すこと。できあがったのが「abyss」というネイルデザインです。これがネイル業界のディーラーさんや、そこで働くネイリストさんたちの目に留まって、セミナー依頼をいただいたり、さらにジェルネイルブランドの「SHINYGEL」さんからディレクターをしないかと声をかけていただいたりと、自分にとっての大きな転機になりました。
————自分の感覚を頼りに、デザインを手繰り寄せるというのは?
変わった作り方で、あまり参考にならないかもしれませんが…(笑)。僕の場合は、まったくゴールが自分のなかにない状態から、とにかくジェルを塗ってみたり、チップにおいたりして、手探りで作っていきます。たとえばサロンワークが終わったあとに、パレッドにたまたま色が何色か残っていたり、混ざり合っている部分を見て、「あ、この色とこの色の組み合わせがいいな」と感じることがあるんです。その自分が反応した部分を頼りに、まずはネイルチップや自分の爪にそのまま載せてみます。そこからさらに別の色を加えてみたり、素材と合わせてみたり。それを続けていると、あるところでパチッとはまるデザインができあがるんです。
————ほかのネイルを参考に見ることはないんですか?
自分でセミナーをやるようになり、実演するためのアートをつくるときなどはほかの方のネイルを見ないようにしています。スマホを開いたらほかのネイリストさんの作品が飛び込んでくるので、とにかく情報を遮断して、自分のなかに深くもぐりこんでいくような感覚です。ちょっとでもほかのネイルデザインが目に入ったりすると、自分は意識していなくても、どこか似てしまうこともあるので。
ちなみに最初の頃は、自分のデザインの引き出しを増やすために、ほかのネイリストさんのものを真似しながら学んでいました。サロンワークのときも、お客さまからオーダーをいただいて、ほかのネイリストさんのデザインを参考にすることはもちろんあります。
感動を与えるネイルに必要なのは、そのサロンらしい独自の提案
————お客さまを増やしていくには、リピートしてくれるかも大切な要素だと思います。リピートを生み出すコツは?
サロンらしい独自の提案で、いかに感動してもらえるかだと思います。これは独立するまえに、サロンで働いているときに気付いたのですが、僕は同期のなかで一番指名が取れていなかったんです。なぜなんだろう? と考えていたとき、お客さまが持ち込んだデザインをそのまま作っていたからだと気付きました。持ち込まれたままに作っていたら、早くて安いほかのサロンがあればそこに流れていってしまうと思うんです。ですから持ち込みのときにもそのまま作るのではなく、お客さまが「こんな色の組み合わせがあったんだ!」とか「こんな雰囲気が作れるんだ」と感動してくれるような提案をするようにしています。
————8年間サロン運営をされてきた今、森谷さんが考える、経営を安定させる方法というのはありますでしょうか?
とにかく自分を安売りしないことだと思います。今ネイル業界でも二極化が起きていて、極端に割安な価格設定もあります。そのお店の戦略なので否定はしませんが、ネイルというのは回転率を上げるのが難しい業態だと個人的には思うんです。美容室のようにアシスタントを入れて、分業するのがなかなか難しいので。だったらとにかく自分の強みを磨き上げて、それに見合った報酬をいただけるようにするしかないと思っています。そうすれば経営的にも安定しますし、自分も疲弊しないですむのかなと。僕の場合はアートでしたが、特化するものはフットでも、ケアでも、なんでもいいと思うんです。
————大切なことですね。ほかにも何か経営面で気を付けているポイントはありますでしょうか?
コストの無駄をとにかく省こうと考えています。細かい部分になりますが、ネイルパーツって大量に入っているので、個人のサロンでは使い切るのが難しいんですよね。さらにどんどん新しいパーツも発売されるので、在庫がたまっていくんです。なのでほかの個人サロンのネイリストさんと一緒に買って、シェアする工夫をしています。
強みづくりやコスト削減をしても、経営が難しいようだったら、別の場所で収益化することも一つの手なのかなと。動画販売やオンラインサロンなど、今ならいくつか方法があると思うので。僕自身、大変な時期もありましたが、「なんとかなる」とどこかで思っていたんです。そして実際になんとかなっているので(笑)、経営を安定させる方法はいくらでもあるのかなと思いますね。
経営を安定させる3か条
森谷さんが考える、経営を安定させる3か条は以下の通りでした。
1. このお店に行きたいと思わせる、サロン独自のデザインを完成させる
2. プラスアルファの提案で感動を与え、リピーターになってもらう
3. 自分を安売りしなくてすむような強みを作る
インスタグラムのフォロワーが3万人を超えている森谷さんですが、「SNS運用と呼べるようなものは何もしていないんです」とおっしゃいます。その裏側にあったのは、フォロワーの数は気にすることなく自分のスタイルを貫き、それを楽しむ姿勢でした。後編ではSNSも含め、認知度アップの方法について詳しく伺います。
▽後編はこちら▽
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