真似されるサービスの発信で美容業界に貢献したい/PiNCH ヨシダアキヒロさん #2
コロナ禍になり、これまでと同じ働き方が難しくなってきた美容業界。そんなwithコロナ時代を生き抜くために、他のサロンはどんな取り組みを行っているのか、そのプラス効果は?
前編に続き、完全予約制24時間営業を始めとするさまざまな取り組みで注目を集め続けている『PiNCH』を経営するヨシダアキヒロさんにインタビュー。前編では、昨年の新型コロナウイルス流行当初の様子と、新たに導入した「デリバリーヘアカット」の背景と効果について教えていただきました。
後編となる今回は、コロナ禍での予約の入れ方や、スタッフの働き方の変化についてお聞きしました。『PiNCH』のこれまでの取り組みのなかから、コロナ禍でさらに良い結果をもたらしたものも教えていただきます。
お話を伺ったのは…
株式会社PiNCH 代表
ヨシダアキヒロさん
都内2サロンを経て独立、2016年11月『PiNCH』を赤坂にオープン。24時間年中無休の完全個室美容室として注目を集める。2019年7月には『PiNCH南青山店』オープン、2021年8月「一般社団法人ヘッドスパニスト協会」を立ち上げるなど、精力的に活動中。
Instagram:@aki39.39
南青山店は席数を制限し、朝の稼働にシフト
―コロナ禍になり、南青山店の体制を少し変えられたとのことですが、変更点は?
南青山店のセット面は5席ありましたが、間隔をあけるためサロン中央にあった席と、3席並んでいた席の真ん中は外しました。また予約の段階で2名以上がかぶらないように調整しています。
もともとは紙で共有していたカルテは、ウェブ上でみんなが見られるようにしました。それを見ながら、混みあっている場合は譲り合うように意思疎通をしています。
あとはスタッフも全体的に、稼働を朝にしていくように伝えています。もちろん毎日6時にサロンに来いというわけじゃなく、お客様が入った時に…というフレキシブルな対応ですが、「朝営業」という体制は意識してもらっている感じですね。
サロンとして朝営業に特化していきたいのと、朝にシフトして夜は早めに終わるようにしていきたいなと思っているんです。最初はみんな大変そうでしたけど「慣れてきた」と言ってくれていますし、やっぱり生活が健康的になるのはメリットかなと思います。
―練習などはどうしているんですか?
以前はレッスンも週に数回していましたが、コロナ禍になってから土曜日にグッと集中して教えるようになりました。個人練習も平日の朝や、営業中のちょっと手が空いた時間にするようになり、より効率的になったと感じています。あとはモデルハントは一切禁止にして、ネット上でするようにしてもらっています。
それら含め、スタッフとは、たくさんミーティングを設けて話し合い、不安を持たせないように接してきました。その結果、コロナを理由に退職するスタッフも出なかったので、良かったなと思います。いろんな情報が乱立しているので、最低限の自己意識を持ってもらいながら、一緒に模索していけたらと思っています。
―接客面での変化はありましたか?
時間やメニューの制限は特にしていません。長時間の施術になる場合は、少し外に出て深呼吸していただくなど、リフレッシュの時間を設けるようになりました。外にベンチがあり人通りも少ないので、そこでお茶を飲みながらゆっくり過ごしていただいています。
また、以前は食事やお菓子、ドリンクの提供もしていましたが今はやめていて、お好きなドリンクを持ってきていただいています。でもその方が、好きなものを飲めるので、お客様的にも居心地がいいようですね。
コロナ禍前からの取り組みも、集客の後押しに
―前編で伺った「デリバリーカット」以外にも、コロナ禍に有効そうな取り組みをされていますね。まず南青山店での「Payレス」についてお聞きします。
南青山店オープン当初から導入しているシステムで、サロンでメニューを確定したタイミングで料金の決済が完了します。事前にクレジットカードを登録いただくことで、当日は財布やスマートホンなしで支払いが可能になります。
最初はサロン運営の効率を考えて導入したものです。レセプションやアシスタントがレジを担当して金額が合わなかったりすると、どこで間違えたのか確認する作業が生まれます。「Payレス」ならその手間も生まれません。一度登録された方は、ずっと活用してくださっていますね。
それがコロナ禍になり、現金でのやり取りをしたくないとか、決済時にいろいろなものに触れたくないという方からも好評いただいています。
―他にも「アウトドアカット」という取り組みもされていますね。
これは2019年12月から南青山店で始めました。何か面白いこと、新しい体験を提供できないかなと考えていて、アウトドアブランドに買い物に行った時に「外でのカットって開放的でいいな」と思いついたのがきっかけですね。
同様のもので「青空カット」があるんですが、ネーミングにしっくりこなくて…デザイン性が欲しいなと。グランピングやキャンプの流行もありましたし、そういったアウトドアって季節問わず外の音や匂いや風を楽しむものですよね。その感じがぴったりハマるなと思って、「アウトドアカット」というネーミングにしました。
当時は実験的にスタートしたものなんですが、面白がってやってくれたお客様も多く、メディアの取材もあったりしてコロナ関係なく需要がありました。その後コロナが流行し始めてからは、室内の対策では満足できない方にも活用いただいています。
―コロナ関係なくスタートした取り組みが、感染対策としてピタッとハマっているのが面白いです。
そうですね。どれもお客様と接するなかで、「もっとよくできないかな」と思ってスタートしたことなんです。それがコロナ禍になって、より活用いただけているのは、単純によかったなと思いますね。すべて他の美容室では出せないものになっていると思いますし、無駄なく『PiNCH』らしくできているなと感じます。
いいことは真似して欲しい。そんなサービスを生み出していきたい
―コロナ禍を経て、今後の展望は?
コロナ禍もまだまだ続きそうですし、美容室としても大変なところは多いですよね。僕としては今後も新しいことはどんどん発信していきたいですし、真似されるようなサービスを提供したいなというのは、これまでと変わらず考えています。
美容室に限らず、まつエクサロンやエステサロンなどからも、「うちも朝営業を始めました」というところが増えて、嬉しかったんです。少しでも美容業界に貢献できたのかなと思えたので、そういうサービスを発信していきたいですね。
いろいろ発信してみて、コロナで精神的ストレスを抱えている方がたくさんいるんだなと感じます。それを改善するには、「髪」の力って大きいと思うんですね。髪をキレイにすることが自信にもつながりますし、これから頑張っていこうと前向きな気持ちになれる。それがコロナに立ち向かっていく、ひとつの方法にもなると僕は思います。
これから寒くなって感染も増えてくると思うので、またほかの美容室がしていないような新しいことを発信していけたらと思っています。
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2020年8月には「一般社団法人ヘッドスパニスト協会」を立ち上げ、サロン特化型のウェットヘッドスパサービスの普及もスタートしたヨシダさん。コロナ前から考えていたという試みは、ストレスフルな現状にぴったりで今後も注目を集めそう。おしゃれでデザイン性のある『PiNCH』の発信は、これからも美容業界を盛り上げてくれそうです。
取材・文:山本二季
撮影:高嶋佳代