サロンへ来られない人も美しくする。この志から始まった訪問美容の道 訪問美容 グリーン美容室 代表 和田寛之さん #1

サロンで働きながら、「ゆくゆくは独立をしたい!」と考えている人も多いでしょう。さまざまな「独立の形」を前編と後編にわたってご紹介します。

今回スポットを当てるのは、訪問美容師という働き方。まだ「訪問美容」という言葉すらなかった27年前からこの仕事に携わり、業務委託という形で訪問美容師の独立をサポートしている和田寛之さんにお話を伺います。

前編では訪問美容を始めた27年前と現在の違い、訪問美容に求められていることなどをお話しいただきました。

お話を伺ったのは…

訪問美容グリーン美容室
代表 和田寛之さん

大手サロンに勤務した後、25歳で「グリーン美容室」を譲り受けて起業する。27歳より本格的に訪問美容を始める。現在は12名の美容師・理容師、介護スタッフ2名と業務委託契約を結んでいる。美容師免許のほか介護資格、救命救急資格を持つ。

個性のない「施設カット」からお客さまを笑顔にするカットへ

—–訪問美容という言葉はすっかり定着していますが、和田さんが起業した頃はいかがでしたか?

僕のまわりにこの仕事をしている人はいませんし、「訪問して施術をする」ことの知名度は全くありませんでした。どんなことをするのか、どんな資格のある人が来るのか分かってもらえませんでしたから、「宅配カット」と名付けて仕事をしていました。

—–何も情報がないなか、なぜ訪問美容を始めようと思ったのですか?

僕が働いていた横浜のサロンは、いろいろな大会に出場して賞を取ることに熱心なサロンで、美しい方をより美しくするためのサロンでした。僕にはどうもその考え方が理解できなくて。

誰にでも美しくなる資格と権利があるし、お客様の心からの笑顔こそいちばん美しいと思っていました。そこで23歳のとき厚木に拠点を移し、25歳で現在のサロンを譲り受けて起業しました。勤めていたサロンを辞めるとき、「次は何をするんだ?」と聞かれて、サロンに来られない方のためにカットをする…という話をしたら、「それは負け組のやることだ」って言われました。27年前の訪問美容といえば、そんな扱いでした

—–その当時、介護施設や病院にいる方たちの髪は、どなたがカットしていたんですか?

施設や病院の近くにある理容室にお願いするか、理美容の協会に所属していて、まだ独り立ちしていないアシスタントのような立場の方たちがボランティアでカットしていました。その当時の髪型は「施設カット」と呼ばれていて、どなたもみんな同じスタイルだったんですよ。僕はその体制にもスタイルにも、すべてに憤りを感じていました。その頃の美容業界全体が「カットしてやっているんだ」という姿勢が多かったと思います。

—–30年経って、だいぶ変わりましたね。

訪問美容はサロンの施術とはまた違う、ひとつのカテゴリーになりました。大手の美容サロンでもこの分野への進出を考えているようですし、理美容の専門学校の中には訪問美容師を育成するコースがあるようですよ。

—–和田さんが訪問美容に携わるうえで心がけていることは何ですか?

少額でも料金をいただくこと。仕事として関わることで、責任とサロン同様のサービスを提供しています。ずっと続けているなかで同じ志を持った仲間たちと出会い、今では毎月600人を超えるお客様から笑顔をいただけるようになりました

どんなにいい美容師でも、いい営業マンではない。
だからこそサポートが必要!

カットだけでなく、
カラーでもパーマでもお客様のリクエストには何でも対応

—–和田さんがサポートをするようになったきっかけは何ですか?

40歳を迎えた頃から、一人で仕事をするのに限界を感じるようになったんです。それまで、訪問美容に熱い志をもってチャレンジしている美容師をたくさん見てきました。でも、うまく仕事を増やせずに、あきらめてしまう方がほとんど。どんなに腕がいい美容師でも、いい営業マンではない…ということですね。

幸いなことに僕の所にはリピート率の高い依頼がたくさんあるうえに、新規のお客様からのご依頼もあります。でも一人でこなすには仕事量が多すぎる。それなら、手の空いている美容師たちに助けてもらえばいい…と考えました。それから業務委託という形で、今は12名の美容師たちと一緒に仕事をしています。

—–訪問美容に求められることは何ですか?

訪問美容サービスは、サロンを立ち上げるような初期費用がかかりませんから、どなたでも簡単に始められます。でもサロンと同じような施術をイメージしていると、まったく違います。カットの技術に自信があっても、実はそれほど役立ちません。お客様の障がいや認知症の程度によって施術の仕方が変わりますし、同じ姿勢を保っていることが難しい方が多いので、訪問美容師はお客様の表情を観察しながら、時間をかけずに仕事をしなければなりません。

—–いろいろなお客様がいらっしゃるんですね。

訪問美容というと、座っているお年寄りの髪をカットする…というイメージをお持ちの方が多いですよね。お子さんからお年寄りまで年齢はさまざま。寝たきりの方もいらっしゃるし、急に動き出す方もいます。お客様ひとりひとりに対応できるスキルが必要です。

以前、障がいのあるお子さんの髪を切りに訪問したお宅では、「断られなくて良かった。前に来た訪問美容師は子どもの様子を見て『私にはできません』と言って帰ってしまった」とおっしゃるんです。僕たち訪問美容師が断わると、ご本人だけでなく、僕たちに依頼してくださった方やご家族も傷つけてしまうんです。

施術の方法によって、ご本人の心を傷つけてしまうこともあります。僕の美容室にいらした発達障がいのあるお子さんとご両親のケースですが、ご自宅で嫌がるお子さんを抑えつけながら髪を切っていたそうです。そんなことを続けていては、そのお子さんの心には「髪を切る=怖いこと」とインプットされてしまいます。どなたにとっても、髪をカットすることは気持ちよくて楽しいことであってほしい

—–そのお子さん、どうしたんですか?

美容室の雰囲気に慣れるまで、何もしませんでした。一緒に遊んで、遊びながら髪を切りました(笑)。

さまざまな状態に対応できるスキルを伝授するのも重要なサポートのひとつ

施術に使うのはバリカンがメイン。
さまざまな状態に対応できるように種類もいろいろ

—–お客様の状態に合わせて施術をするには、経験がものを言うのでは?

身体の障がい、認知機能の障がい、精神障がいなど、いろいろな方がいらっしゃるので、学ぶべき事はたくさんあります。事故やケガ、トラブルが起こらないように、僕が培った技術や知識はすべて共有するようにしています。お客様ひとりひとりに合った対応ができる訪問美容師として、自立できるようにサポートしています。

—–サロンワークと同じ感覚ではできない仕事ですね。

サロンではあり得ないリスクがたくさんあります。例えば、今のシャンプー台は仰向けになって首を反らすタイプが多いですよね。お年寄りの首はとてもデリケートなので、仰向けになると危険な方もいるんです。シャンプーするときは、女性の方でも前にかがんでもらうこともあります。お客様の状態を観察しながら施術する…というのも訪問美容ならではでしょう。

以前、お客様の髪にロットを巻いていたとき「眠っているにしては何かがおかしい」と思って、お声がけしたんです。そうしたら意識を失っていて、慌てて救急車を呼びました。こうした事故が起きると、「何が起きたのか」、「救急車が来るまで何をしていたのか」など、いろいろと聞かれるんです。僕は救命救急資格があったので、救急車が来るまで正しい救命処置ができて本当によかったです。

—–業務委託をしているスタッフに、介護スタッフがいるのはなぜですか?

お客様にはいろいろな方がいらっしゃるので、美容師と介護スタッフの2名でお宅にお邪魔することもあるんですよ。障がいの重い方でも安心して施術を受けていただきたいですから。美容師も安心して施術ができるので、メリットは大きいですよね。

僕と業務委託をしている美容師のみなさんに上下関係はありません。同じ仕事をしている仲間だと思っています。お互いに現場で学んだことを共有して知識を増やしていく。そしてゆくゆくはみなさんが自立できるようにサポートするのが僕の仕事だと思っています。

訪問美容師を目指す前に知っておきたい3つのポイント

1. サロンワークと訪問美容はまったく違うジャンルであること

2. 身体の障がい、認知機能の障がい、精神障がいなど、さまざまな状態があること

3. お客様の状態に合わせたスキルを身につけること

超高齢化社会に向けて、これからますます需要が高まる訪問美容。「1人でも多くの訪問美容師が増えてほしい」と活動をしている和田さん。

後編では訪問美容師に向いている人、向いていない人について、長年の経験から語っていただきます。

Salon Data

訪問美容 グリーン美容室

住所:神奈川県厚木市長谷1092-8
TEL:0120-300-403

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