クラウドファンディング支援額1位を達成できた理由とは/apish 佐藤 大さん #1
コロナ禍になり、これまでと同じ働き方が難しくなってきた美容業界。そんなwithコロナ時代を生き抜くために、他のサロンはどんな取り組みを行っているのか、そのプラス効果は?
今回は、グループ9店舗を運営する大手サロン「apish」にフォーカス。グループの専務取締役を務める佐藤 大さんにお話をお聞きしました。「apish」はコロナ禍でのクラウドファンディングで1600万円を超える支援を集めて話題となりました。
前編では昨年のコロナ流行当初の様子を振り返りつつ、5月23日~6月30日に行ったクラウドファンディングの背景と成功の秘訣を深掘りしていきます。
お話を伺ったのは…
apish 専務取締役 佐藤 大さん
──週間の休業中、大切にしたのはスタッフのメンタル
──新型コロナウイルスが流行し始めたころのサロンの様子はいかがでしたか?
客足に影響が出始めたのは3月ごろですね。表参道からもどんどん人がいなくなっていたし、ロックダウンするかもしれないという噂が出たりして。会社として何かしなければということで社長と話し合い、そこで「先走らず様子を見よう」と決めました。
最初の判断は、とりあえず緊急事態宣言が出た4月7日から、まずはグループとして1週間休業して様子を見ること。最初に1カ月休みますと言ってしまうと、早く再開することができなくなります。でも地方から出てきているスタッフも多いので、親御さんが心配にならないように休業は必要だという判断
でしたね。
休業にするというのは宣言が出るかもしれないという段階で決めていたので、Zoomでの朝礼やオンラインでの講座など、休業中の準備も事前に進めていました。1人暮らしのスタッフが多いので、一週間誰にも会わないとメンタル面も心配です。だからオンラインでもなるべくコミュニケーションをとろうというのがベースにありました。
──実際、一週間で営業再開されたんですか。
はい。でも商業施設内の店舗は閉めざるを得ず、2カ月近く開けられませんでしたね。再開した店舗でも、やはりお客様は激減していました。
サロン側での対応としては、営業再開にあたっての対策はやりすぎくらいやろうと、休業中にいろいろ準備しました。手指消毒やマスクの着用はもちろん、任意で手袋の着用をお願いしたり、パーテーションを設置したり。最初はスタッフや予約数を減らすこともしていました。
でも正直やっていけないので(笑)。本当に気にしている方は今サロンには来ないので、
来ていただいたお客様が安心できるかを優先して考えました。
若手からの提案で取り組んだクラウドファンディング
──5月にスタートしたクラウドファンディングの背景を教えてください。
4月から5月頭の売り上げが落ち込み、貯蓄や借入を使ってもこのままでは半年持たないという状況でした。それに対して、Zoomでの店長会で若手からクラウドファンディングの提案があったんです。
金銭面で助けて欲しいという思いも当然ありましたが、スタッフがサロンのために自主的に動いて調べて提案してくれたというのが、実際にやろうと決めた理由でした。
──クラウドファンディングに挑戦することを決めてからの準備で大変だったのは?
情報を出すタイミングがすごく重要だと思ったので、社長ともよく話し合いました。支援していただくということには、いろんな捉え方があると思います。厳しい言い方をすれば、「みんな大変なんだから自分の会社は自分で守れ」と思う方もいるでしょうし、美容業界のモデルになることを掲げたapishが弱みを見せていいのか、強がった方がいいのかという葛藤もありました。
──リターンを考える時に大切にしたことや、好評だったリターンはありますか?
apishは20年以上の歴史があるので、お客様の層も幅が広いんです。いろんな方に支えていただいているので、その方々に合うリターンを提示できるように、というのは考えました。
好評だったのはOEM商品をお渡しするリターン。このリターンには、戦略的な面もあります。人気のある商品を返礼品としてお渡しすることで、商品を試す機会を作りECへの導線を作りました。その後コロナ禍でECの売り上げが爆発的にのびたので、すごく良かったと思います。
──最終的に多くの支援が集まった理由は何だと思いますか?
サロンとしていろいろ作戦も練りましたが、結局は単純にお客様が手を差し伸べて下さったから実現できたことです。apishの力というのであれば、お客様と絆をつないでこられたという点が一番大きいんじゃないでしょうか。
支援と合わせてメッセージもたくさんいただきました。それを読むことが、コロナ禍でも頑張れる一番のチカラになりました。昨年はサロン22年目。その蓄積の重要性を感じましたね。
──お店のファン、スタイリストのファンを作ることは、今後より大切になってきそうだなと思うのですが、apishではそれをどうやって実現したのでしょうか?
基本は、「お客様を喜ばせられるか」だと思います。でも人によって喜びのポイントは違う。可愛いスタイルだったり、サロンでの時間だったり、家に帰ってからの人からの評価だったり…。そこを見極めて提供していくことが、ただのお客様からファンになる一歩なのかなと思います。
僕たちが営業しているエリアは、電車に乗ったり他サロンをスルーしたりと、「わざわざ」来ていただく場所ですから。思っている以上の、一段二段上の喜びを提供しないといけないなという気持ちがあります。そういうところに対して、スタッフ教育が必要になってくるのかなと思いますね。
パーマの売り出し方を変えて新規を獲得!
──コロナ禍での売り上げの変動はいかがでしたか?
3月4月でガクンと下がりましたが、5月からは徐々に上向きました。その間にいろんな作戦も練っていたので、6月7月はかなり盛り返せたと思います。6月以降は右肩上がりが続き、最終的には前年比で見てもトントンくらいになりました。
―取り組んだ戦略とは何ですか?
apishはパーマが強みなんですが、今まではそこまで大々的にお客様に伝えていなかったんです。パーマが苦手な美容師さんは多いので、何もしなくても武器になっていたというか…。そこでパーマの売り方について、みんなで考えて取り組みました。
軸としてapishオリジナルの技術はありつつ、それをどう見せるのかは各スタッフの好みに合わせて自由に展開しました。うちの場合は「こうじゃなきゃいけない」というスタイルはなくて、いろんな子がいるのが個性だと思っているんです。
パーマの売り方を変えた結果、新規の方がグンと増えました。新規が増えることはスタッフの自信にもつながるので、やってよかったですね。
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コロナ禍で多くのサロンが取り組んだクラウドファンディング。プロジェクト終了から1年半近く経つ今でも、コロナサポートプログラムのビューティー・ヘルスケアカテゴリで支援総額&支援者数1位をキープしています。お客様が支援したいと思えるサロン作りは、withコロナ時代にとって大切な視点になりそうです。次回後編では、apishが創業当初から取り組む若手教育について、コロナ禍での変化をお聞きします。
取材・文/山本二季
撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)