コロナ禍で広がった選択肢も包括し、全員が輝ける地図を広げる/apish 佐藤 大さん #2
コロナ禍になり、これまでと同じ働き方が難しくなってきた美容業界。そんなwithコロナ時代を生き抜くために、他のサロンはどんな取り組みを行っているのか、そのプラス効果は?
前回に続き、「apish」グループ専務取締役の佐藤 大さんにインタビュー。前編では、2020年当初のサロンの様子と、多くの支援を集めたクラウドファンディングの背景をお聞きしました。
後編では、apishが創業当初から取り組む若手教育について、コロナ禍での変化をお聞きします。
お話を伺ったのは…
apish 専務取締役 佐藤 大さん
吸収するために絞り出すことを続ければ、自分も若手も成長できる
──apishでは若手教育に力を入れていらっしゃいます。その理由は?
サロンをスタートした時から社長が言っているのが、「満たされたら絞り出せ。乾いている状態じゃないと吸収できないよ」ということでした。自分が得た技術や知識は、惜しみなく全部出す。するとまた新しいものを吸収しないといけないから、そこで成長していけるんです。
この考えが根本にあるので、スタッフ教育はもちろん社外セミナーでも、apishは出し惜しみをしません。それが自分自身の成長につながるから。
だから若手教育として奉仕をしているわけではないんですよね。でもそれを全力でやっていると、必然的に下が育っていく。これはもうapishの文化になっています。
──23年変わらす、その文化があることがすごいです。長い歴史のなかで教育に変化はありましたか?
コロナ前からですが、教育のスピードは早まっていますね。誰かが「今は練習するより編集する時代」と言っていて、まさにそうだなと思います。技術ではなく、いかに見せ方を工夫してお客様を呼ぶかという時代。下手でも見せ方が上手ければデビューできてしまう。
でもそれは単発的なものなので、サロンとしてはしっかり技術力をつけて欲しい。とは言え、美容学校の同級生でそういう子がいて売れていたらモヤモヤしますよね。
だから「クオリティを高く、時間を短く」というのは、コロナ関係なくマストになっているなと思います。
──アシスタント期間も短くなっていると聞きます。
そうですね。あと、僕たちが若手のころはアシスタントからスタイリストデビューまでの段差が大きかったと思います。でも今は段階を踏んで少しずつデビューするようになっています。
ひとつの技術をしっかり教えたら、そこで一度デビューさせてしまう。スタイリストをプチ体験することで、技術の大切さを知れます。そうすると学ぶことが、自分にとって必要なことになるので、自分から吸収するようになるし身につくのも早いんですよね。
そんな感じで、若手がモチベーションを高くしたまま成長できるように、時代に合わせて考えて対応しています。
オンラインを活用した店舗ごとの教育で結束力アップ
──コロナ禍での教育の変化を教えてください。
最初の変化は1回目の緊急事態宣言時の一週間の休業中でした。一週間、家にこもりきりになるスタッフのために何かできないかと考えて、apishのテレビ番組を作ることにしたんです。apishにはいろんなスタイリストがいるので、ただのオンライン講座ではなく楽しく学べるようにしました。
そこから教育面はオンラインがメインになりましたね。コロナ前までは、apishのスタイリストテストってひとつのイベントになっていて、100人くらいの前でカットしてみんなでお祝いしていたんですが、今はZoomになっています。
──モチベーションが下がったりはしませんか?
そうならないように、上のスタイリストたちが下の子の応援や後押しをできるように気をつけています。スタイリストテストで言えば、従来のやり方が変わったことで店舗ごとのスタイルが生まれたんですよね。オンラインで見ていても飽きないように、ライブ配信番組のような構成にしていたりとか。店舗ごとの結束が高まって、リーダーが育ったのは、良かったところですね。
──営業後の練習などは?
営業時間が前倒しになったこともあり、自主練は朝することが当たり前になりました。あと今はもう難しいですが、予約状況によっては営業中に練習してもOKにしていましたね。練習しているところって、僕ら美容師からすると見せちゃいけない部分だと思っていたんです。でもそれを見たお客様が意外と喜んでくださって。時間を有効活用するためでしたが、パフォーマンスにもなったので面白かったですね。
スタッフ1人1人の話を聞き、進む道筋を一緒に見つける
──経営陣として、スタッフの団結力を高めるために必要なことは何でしょうか?
結局やっぱり話すことだなと思います。こちらの言いたいことを言うというよりは、まず相手が何を求めているのかを聞き出すというか。人はそれぞれ価値観が違いますし、今は以前より美容師としての未来が多様化しているんです。なりたいスタイリスト像も違うし、ライフスタイルも違う。少し前までは数パターンしかなかった道が、今はどんどん細分化されています。
だから対話をして理解していくことが必要なんです。理解していないと、良かれと思って出したパスが、その子にとって悪いものになることもありますから。
そのうえで経営陣がある程度の地図を作ってあげて、その中でどこに行きたいかを聞いてあげるイメージですね。選択肢が多い分、地図がないとどこに行ったらいいのかもわからなくなってしまうんです。そのやり取りができていれば、未来の道すじが見えている分頑張れるし、お店のためにという気持ちも持ってもらえるんじゃないかと思います。
──コロナ禍になり、直接会いにくくなった面もあるのでは?
そうですね。でもオンラインのメリットもあって、気づいた時にパッとコンタクトが取れるんです。今まではわざわざ時間を作って会いに行かないといけなかったけど、移動時間が無くなった分、ちょっとした時間でも話が聞けますから。
ただオンラインでコンタクトをとるときは、人数が増えすぎないように気をつけています。3人くらいまでなら話し合いになるんですが、10人近くなると誰かが一方的に伝える場になりやすいんですよね。そこらへんはいろいろ工夫が必要だなと思います。
スタッフ全員が輝いて挑戦していける場を作りたい
──コロナ禍を経て、美容師の在り方はどう変わると思いますか?
一番強く感じたのは、美容室という場所が「ただ髪を切る場所」じゃなくなったということです。テレワークで人との接触が減ったから会話をしたい人もいれば、自分のテンションを上げるためにイメチェンしたいという人もいます。そういう付加価値をいかに提供できるかというのは、今後も大切にしていきたい視点ですね。
──最後に今後の展望を教えてください。
コロナ禍を経たことで、スタッフのなかにも東京でやっていきたい子と地元志向の子というのが、幅広く出てきました。今は情報がどこでも手に入るし、東京にいなきゃ勝てないということもなくなりましたよね。
会社としても、今までは東京だけの地図を描いていればよかったんですが、もっといろんなところでスタッフみんなが活躍できるように地図を広げていかなきゃいけないなと感じています。それが今の課題ですね。
apishはサロン事業とネット事業、教育事業で、それぞれ別会社で運営しています。今後はもっと細分化してホールディング化していこうとしているところです。スタッフがいろんなかたちで、責任を持って勝負できる場を作っていきたいと思っています。
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若手スタッフがお店のためにクラウドファンディングを提案するなど、グループ全体での結束力の強さが感じられるapish。その根底には創業当時からのスタッフ成長のための文化がありました。今後もまだまだ成長を続け、美容業界のモデルとしてあり続けるapishに注目です!
取材・文/山本二季
撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)