プロサーファーからヨガの道へ。「海から上がった感覚と同じだった」【THE NEST ヨガインストラクター 小林雅仁さん】#1
湘南を拠点に活動するヨガインストラクター小林雅仁さん。実は、ヨガの世界に入る前はプロサーファーとして活躍されていた経歴を持ちます。一見すると畑違いへの転向に見えますが、実はサーフィンとヨガには通ずるところがたくさんあったよう。当時26歳、サーファーではなくなった自分に対する本気の挑戦であり、「死に物狂いでヨガをやっていました」と小林さんは話します。
前編では、プロサーファー時代のお話、ヨガとの出会い、ヨガインストラクターとして駆け出しの頃に苦労したことをお聞きします。
KOBAYASHI’S PROFILE
- お名前
- 小林雅仁
- 出身地
- 東京都
- 年齢
- 30歳
- 出身学校
-
桜美林大学
- 経歴
- 2014年JPSA公認プロロングボーダー
FiveElementsYoga®︎ TTC修了
JLAベーシックサーフライフセーバー
THE NEST ディレクター - 憧れの人
- 現時点ではいません
- プライベートの過ごし方
- 休日はドライブをしながら綺麗な景色を見に行くことが多いです。
- 趣味・ハマっていること
- お魚のお料理を食べること。
- 仕事道具へのこだわりがあれば
- ヨガマットはマンドゥカのPlolite 5mmを使っています。色々なマットを試した結果これが1番自分にフィットしています。生徒さんにもお勧めしています。
ヨガは、海から上がったときの感覚が同じだった
――小林さんはもともとプロサーファーとして活躍されていたとか。
父親に連れられてサーフィンをはじめたのが10代のとき。18〜19歳くらいでプロを目指し、22〜23歳くらいでプロの資格を取り、それから3〜4年間プロサーファーとして活動していました。
今年30歳になるので、サーフィンとはもう18年の付き合いになりますね。
――なぜプロサーファーを引退したのですか?
僕、「試合に勝ちたい」「世界に出て次世代を引っ張っていく」みたいな気持ちが全く芽生えなかったんですよ。頑張っても頑張っても達成感を得られず、周囲の方々が応援してくれるほど逆にプレッシャーに感じていました。
あと、プロサーファーの世界は一見華やかそうに見えますが、決して楽な世界ではないんです。実はすごくお金がかかる競技で、移動費や宿泊費、試合に出るお金など、全てが自費。もちろん人間関係のしがらみだってあります。
朝〜昼間は海に行き、夜間はアルバイトをして…という生活を繰り返しているうちに、どこか虚しさや不安を抱くようになって。自分が競技者として勝てないことはわかっていたし、人生の全てをサーフィンに費やすのはちょっと違うなと思い、新しい道を模索することにしたんです。
――そこでヨガに出会うわけですね。
当時はお金もなく、精神的にも参っていました。そんな僕に「今のあなたにはヨガが良いんじゃない?」とアドバイスしてくださった方がいたんです。知人のヨガクラスを受けたり、自分でも色々と調べたりしていくうちに「これ、すごく楽しいじゃん」という気持ちになって。
あと、ヨガとサーフィンって似てるなと思ったんです。
――似ているというのはどんなところが?
サーフィンをしたあとって浄化されているというか、マインド的にすごくクリアな感覚になるし、人に対しても寛容な気持ちになれるんです。ヨガをしたあとも、まさにその感覚だったんです。「あ、海から上がったときとおんなじだ」って。
肉体と精神の両方を鍛えるという点も一緒でした。サーフィンは自然相手の遊び。自然の摂理でできた波に乗っていくので、すごく忍耐力を要するんです。肉体的に強くなければいけないのはもちろん、精神的にも強くなくては絶対に溺れちゃうし、怪我もしやすい。ヨガも同じで、いきなりこのポーズをしなさいと言われてもすぐにはできません。それこそかなり練習を積まなければね。精神的にも肉体的にも強くしていくというところが、僕の中でマッチしたんです。
あとは、アートな部分。一人ひとり体の持つ個性が違うため、同じヨガのポーズを取っても人それぞれ違うんですよ。サーフィンも然りで、同じ技をやっても一人ひとり違います。個々を尊重できるところに僕は素晴らしさを感じていたんです。
そして何よりも「調和」ですね。サーフィンをするときは、波を人間がコントロールすることはできないので、波に合わせて自分をコントロールしていく。ヨガは呼吸と動きをコントロールしていく。そこが最も似ているところだなと思いました。
ヨガのクラスはライブ。次のポーズが出てこず、止まってしまうことも
――趣味としてではなく、ヨガインストラクターを仕事にしようと思われたんですよね。
ヨガのスキルをもっと身につけたいと思っていたところ、大手スタジオがスタッフを募集していたんです。そこは社員もヨガクラスを受けることができ、要はお金をもらいながらヨガを学べる絶好の場所だったんです。僕はすぐに飛び込みました。
いざスタジオに入ってみたら男性はほぼゼロに近く…(笑)。僕以外はみんな女性でした。でも、そんなことはどうでも良く思えるくらいにすごく楽しくて。他の人にもこの楽しさを教えたい!って感じでしたね。
だから、ヨガインストラクターを目指したのは感覚に導かれたようなもの。「もうこれしかない」ってくらいの気持ちでした。
一方で、ヨガインストラクターへの転向は「挑戦」でもありました。海では「プロサーファーってすごい!」とみんなにチヤホヤされてきたけれど、蓋を開けたら自分は全然すごい人間なんかじゃなくて。「サーフィンを手放したら自分はどうなるんだろう」という気持ちをずっと抱えて生きてきました。だから、そんな自分への挑戦だったんです。
――挑戦ですか。ヨガインストラクターになるにあたり苦労はありましたか?
ヨガインストラクターになるまでには何百時間ものトレーニングを積まなければいけません。ポーズの練習だけでなく、哲学や解剖学、生理学など、「人間」について学ぶことがたくさんあり、毎日勉強の日々でした。それが最初の関門でしたね。
そして何よりハードルが高かったのが、体の柔軟性を高めること。
――サーフィンをしてきた小林さんにとっても、やはりキツいものなのですか?
サーフィンは肉体的なトレーニングや、バランスを取るコンディショニングをしていれば波に乗れるんです。ヨガインストラクターは「ポーズを人前で見せなければいけない」というところが大変で…。先生である以上、生徒さんよりも良いポーズを取ることが絶対なので、ある程度見本になる型に仕上げなければいけませんでした。僕は特に体が硬かったので、なおのこと苦労しました。
――生徒さんを前にして教えるときはいかがでしたか?
約1時間、30〜40人の生徒さんの前で話し続け、動き続ける。しかも、ミスはできない。ヨガクラスは言わば音楽ライブのようなものなんです。
慣れないうちは緊張してどもっちゃったり、次のポーズが出てこなかったり、手足が震えて思うように動けなかったり…。いくら練習しても、いざ本番になると頭が真っ白になっちゃうんですよ(笑)。自分の言葉で喋れば良いのに、変に意識してしまって、テンパる。その失敗がすごく多かったですね。
――実際に止まってしまうことも…?
ありました、ありました。そのときは「すみません。忘れちゃったので、ちょっと待ってもらっても良いですか?」と素直にごめんなさいをして(笑)。臨機応変に対応していくことが必要だったんです。
個々を尊重すること、そして調和を大切にすること。サーフィンとヨガは一見するとかけ離れているようで、実は、根底にあるものは同じのよう。小林さんの物腰の柔らかさと、相手をコントロールしようとしない謙虚さは、そこに繋がっているのもかもしれません。後編では、人気インストラクターに備わっている素質、フリーランスに必要な心構えについて教えていただきます。
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/本名由果(fort)