地域のお客さまのニーズを最優先に考え、お客さまと一緒に成長する。このスタイルを守 ることが成功の秘訣【(株)アンジー 代表 山口裕喜さん #2】
起業を目指している人、経営を軌道に乗せる方法を模索している人へのヒントをご紹介している本企画。前編・後編の2回にわたってICH・GO大山店の出店を皮切りにemma常盤台店など5店舗のサロンを経営する(株)アンジーの代表、山口裕喜さんにお話を伺っています。
前編では大手サロンを離職してサロンのオーナーになるまでの葛藤について語っていただきました。後編では、順調に経営を軌道に乗せるための工夫、スタッフたちから慕われている理由などを探ります。
お話を伺ったのは…
(株)アンジー
代表 山口裕喜さん
2007年に東京ヘアメイク専門学校を卒業後、大手サロンに就職。2014年に離職し、スタイリストとして都内のサロンに転職する。2015年に独立を決意し、ICH・GO大山店のオーナーに。現在はサロンの運営に携わるほか、メイクアップアーティストの木下庸子氏に師事している。
特別なことはしない。
着実にスキルを上げていくことが大切
――起業してから今まで、資金のことや人材のことで辛かったことはありますか?
あまり思いつかないですね。強いて言えば2020年からのコロナ禍で、売り上げが落ちていることでしょうか。
――それはすごい! なぜ、順風満帆に経営が続いているのでしょうか?
前職の大手サロンで経営や店舗の運営に関していろいろと学ばせてもらったことが大きいですね。オーナーになり、改めて気づかされることが多いです。若さと勢いで辞めてしまいましたが、今ではとても感謝しています。
――店舗を増やすのは「賭け」でもあります。チャレンジしたのはなぜですか?
お客さまが増えていくのと同時に、一緒に働いているスタッフが成長してスキルがどんどん向上してきていたので、スタッフにもチャンスをあげたい…という気持ちもありました。僕は飽き性なところがあって、同じことをずっと続けられないのかもしれません(笑)。新しいことにチャレンジしたくなってしまうんですね。
――ただ事業を継続するだけでなく、拡張も成功しているのはなぜだと思いますか?
特別なことをするのではなく、些細なことを大事にしていることだと思います。掃除をちゃんとする。挨拶をちゃんとする。感謝の気持ちを常に持つ。忍耐と反復…当たり前なことですが、見過ごされがちなんですよね。
技術の練習にしても、流行を追ったり最新のテクニックを取り入れたり、特別なことはしていません。基本をしっかり身につけて、ゆっくりでも着実にスキルを上げるように指導します。例えば今、流行している韓国風ヘアってとてもシンプルなんです。[underline]基本の技術をしっかり持ってさえいれば、特別にレッスンしなくても応用できるものなんです。
地域のお客さまのニーズに合わせることも重要だと思います。都心のサロンとは違って、ここで求められているのは流行の最先端をいくスタイルではありません。カットにしてもカラーにしてもお客さまに満足していただくことを最優先にしています。
人との出会いも大きいと思います。自分が成長できるつながりやご縁があって、いろいろな方にチャンスをいただいています。そんな環境にあることが嬉しくて、やる気にさせてもらっています。
――メイクアップアーティストの木下庸子さんとの出会いもそのひとつですか?
小学生のころからメイクアップアーティストになりたくて、いろいろな人に「やりたい!」と言っていたんです。夢が叶って、つい2年前に木下さんに出会うことができました。
現在は、木下さんのレッスンに参加したり、撮影現場にアシスタントとして付いていったり、勉強させてもらっています。現場での気配りやメイクアップアーティストとしての木下さんの立ち居振る舞いは参考になることばかりで、僕の師匠です。
今度、木下さんがこのサロンのスタッフのために、メイクレッスンを開催してくれる予定です。僕が待ち望んでいたことがようやく実現します。夢はずっと言い続けることは大事なんですよね。
スタッフとはとことん話し合い、
「でも」や「けど」をなくす
――サロンの経営で、人材を確保するのが大変だと思いますが、いかがですか?
いろいろな事情で辞めてしまう人もいますが、また戻ってきてくれるスタッフや「ここで働きたい人がいる」と友人や知人を紹介してくれるスタッフが多いですね。自分もそうでしたが、働いているときは自分が置かれている環境のことが分かっていないんですよね。離れてみて、いろいろな経験を通して改めて今までの環境に感謝することができるものです。
ありがたいことに人手不足で悩んだことはありません。
――スタッフに接するとき、気をつけていることはありますか?
上の立場の人間には話しづらさがありますよね。なので、僕から積極的に話しかけます。「出身地はどこ?」、「家族は?」、「お子さんは何歳?」など細かなことをいろいろ聞き出します。そうすると相手は「自分に興味を持ってくれている人がここにいる」と思ってくれるんですよね。僕もいろいろ質問する中で、その人がいちばん興味を持っていることや目指したいことを聞き出して、彼らが夢に近づけるようにサポートしています。
「もっと仕事をしたい。でも子育てがあるから無理」、「もっと技術を磨きたいけど、時間がない」など、「でも」とか「けど」が多い。それが「できない」「やらない」の言い訳になってはいけないと思っています。
相談された立場から言えば、「子育ては大変だよね」という共感ではなく、解決策を一緒に考えることが必要だと思っています。例えば、もっと給料を上げて欲しいなら、責任のある仕事をこなせばいい。子育てで時間が取りにくいなら、できる時間をフルに有効活用すればいい。思っていることはどんどん口に出して、一緒に解決していこうと思っています。
きっと他のスタッフから「うざい」とか「話が長い」とか、思われているかもしれませんね(笑)。
――山口さんのように、サロンの経営も人材の育成も成功させる秘訣は何でしょうか?
僕はコミュニケーション能力や人を理解する力だと思います。サロンの環境やエリアによって変わってくるかもしれませんが、とにかく理解するように努力して、柔軟に「どうしたらいい?」と考えるようにしています。
周りからアドバイスを受けることも多々あります。せっかく指導していただいたものを無駄にするなんてもったいない! プライドなんて自分だけの価値観でしかありません。常に自分をフラットな状態にして、一人の人間として接するようにしています。ビジネスに感情や私情を持ち込まないように心がけています。
――山口さんが考えている今後のビジョンは教えてください。
今あるサロンをしっかり盛り上げていくこと。それから、スタッフの中から技術力も人気も兼ね備えたスターを育て上げたいですね。いろいろな現場で「あの人、いい仕事してるね」という褒められている姿を見られたら嬉しいですね(笑)
順調な経営を目指すために必要な3つのポイント
1.掃除や挨拶など些細なことを大切にすること
2.常にスタッフの声に耳を傾け、解決策を一緒に考えること
3.アドバイスを受け入れられるフラットな状態を保つこと
サロンの運営で多忙ななか、ヘアメイクアップアーティストの木下さんに師事し、さらに子育てに介護にと、休まる日がない山口さん。
どんなに忙しくても弱音を吐かず、立場が弱くなりがちなパートタイマーの美容師やアシスタントの声に真摯に耳を傾ける姿勢に人間的な強さと温かさを感じました。