ノープランで独立!サロンと共に成長した7年【Lovl 代表ネイリスト 中村キャベツさん】#1
美容業界で働く上で「独立」という目標を持つ人は多いはず。そんな方へ成功している先輩オーナーの経験談を全2回でお届けする本企画。
今回は、独創的なデザインと高い技術で人気を集める「Lovl」の代表ネイリスト 中村キャベツさんにインタビュー。この春オープンから7年を迎える「Lovl」、実は法人化したのは3年前だったそう。
前編では、サロンオープンからトップを走り続けるネイルサロン代表としてのこれまでの道のりと、独立前のアドバイスをお聞きします。
お話をうかがったのは…
Lovl 代表ネイリスト 中村キャベツさん
早稲田美容専門学校を卒業後、都内有名ヘアサロンに入社。ヘアアシスタントとネイリストを兼任。その後、全国チェーンのネイルサロン勤務、アパレルショップでのバイヤー、渋谷にあるネイルサロン勤務を経て、2015年6月にネイルサロン「Lovl」を渋谷にオープン。現在は原宿にあるビルの3フロアで、ネイルとアイブロウの施術を展開中。
Instagram@cabbage.lovl
勢いで決めた共同経営での開業。しかし1人でやらざるを得ない状況に
――まずはサロンを開いた経緯をお聞きします。
独立前のネイルサロンにはフリーランスで2年ほど勤めました。そこでのネイリストとしての展開がかなりスピード感があり過ぎたんです。学生のころから憧れていた美容業界誌に出られて、女優さんの専属ネイリストもさせていただいて、お客様もたくさん来てくださって…。自分が思っていた何倍ものスピードで夢が叶っていくことに、私自身の気持ちがついていかなくなってしまいました。
それで、ある日「ネイルがつまらない」と感じてしまって。どこかで調子にのっていく自分も怖かったんですよね。それで「またゼロからやり直したいな」と思うようになったんです。「どこかでまた修業がしたい」と思ったので、それまで自分が得意としていたジャンルとは真逆の路線のネイルサロンで働いてみようかなと考えました。
その話を周りにしたら、10人中10人に反対されて(笑)。出資のお話をいただいたり、友人から開業を誘われたりという話が出てきたんです。その中の1組、私と友人とお世話になっていた先輩の3人で、ネイルサロンとセレクトショップとスタジオを合わせたみたいなものをやろうという話になり、当時勤めていたネイルサロンにも退職の意思を伝えました。
――最初は共同経営の予定だったんですね!
若いころの独立話のあるあるなんですけど(笑)、友人の女の子が「彼氏ができたからこの話はなかったことに」ってやめちゃって。でももう退職するって言ったから戻れないし…どうしよう!って。今思えば退職せず戻ればよかったんですけど、当時は若いから視野が狭かったんですよね。もう「この2人でやるしかないんだ…」と思い詰めてしまって。
経営者の父に相談したら、めちゃくちゃ怒られました。「誰かと一緒に会社をするなんておかしい。自分のお金じゃないものでやった会社なんて形になるわけがない。だったら1人でやれ」って。
それで「いくらか貸すから1人でやれ。でも絶対返済!」と言われ、1人でやらざるを得ない状況になり独立しました。あんまり美しいエピソードじゃなくて申し訳ないんですけど(笑)。
ノープランでの開業はプレッシャーでいっぱい
――実際に独立のために動き出したのは退職後ですか?
1人でやると決めたのが、退職の1カ月前くらい。すぐに物件を探して、とりあえず渋谷道玄坂上のマンションの一室を押さえました。でも内装の準備とか全然考えてなくて。
退職してからオープン日までは5日間しかありませんでした。そこから何人かの友人に協力してもらって、私も寝ないで作業して…。そのときはプレッシャーがすごくて、何もないのに吐いたり500円玉くらいのハゲが何個もできたりしました。
本当に考えが甘かったんですよね。「お店なんて簡単にできるや」くらいに思っていて。
――それは大変でしたね…。お店を開くにあたり決めていたことは?
1人でやっていこうということぐらいですね。ワンフロア8畳に1席で、ゆっくり時間をかけて丁寧に、責任を持って施術したいなと思って。それだけでした。
夢とか目標とか一切なくて、みんなに「何か決めなよ」と言われたし、インタビューでも答えられず…。当時はそれもプレッシャーになって苦しかったです。本当に何も考えずにスタートしたから。
――ノープランは不安じゃなかったですか?
多分コツコツ準備していたら不安だったと思うんですけど、そんなこと考える暇もなく慌ただしく出店してしまったので、不安になる暇もありませんでした。だから独立前は、ただただプレッシャーだけ。
なので独立してから、お店に所属しているというだけで、いかに何でもやっていただけていたのかということを痛感しました。材料の手配から経営面、いろんな手続き…。開業すると1人でやらないといけないから、もう全部が大変で。
開業後すぐに予約が埋まる人気店へ
――開業後の集客面は?
前のサロンを辞めるときに自分の中でのルールとして、顧客の引き抜きは絶対にしたくないというのがありました。だから退職することを伝えたのは一部の方にだけでした。
でもサロン在籍時からInstagramで直接集客をしていましたし、独立に当たってメディアに取材していただいたりもしたので、みなさん調べて予約してくださって。ありがたいことにすぐに予約は埋まりましたね。
当時は、父に借りたお金も返さなきゃと思っていたので、朝10時から23時まで休憩なしで働いていました。
――では軌道にはすぐのったんですね。
そうなんですよ。初月から売り上げは安定していました。
――独立前から「中村さんでないと」という顧客がいたことが大きいですね。
顧客がついたきっかけは?
SNSが大きかったですね。古着屋のバイヤー時代にファッション関係のクリエイティブな知り合いがたくさんできました。その子たちがやりたいデザインって独特だったんです。そのオーダーに応えたデザインをSNSにアップすることで、当時すごく注目いただいて、お客様もたくさん来てくださいました。
前職で自分の世界観が広がったこと、それをちゃんとアウトプットしていったということがよかったんだと思います。
幼かった20代での独立。みんなに支えられサロンも自分も成長
――独立されたのは26歳。20代で独立してよかったことは?
若くして起業したからこそ、たくさんの失敗があって、その中で早く成長していけたんじゃないかというのは感じています。
何も考えずに走り出したので、知っていることより知らないことのほうが多すぎました。でも当時は経営者というよりクリエイターで居たいという意識の方が大きくて、プライドが勝ってしまっていました。すごく尖っていましたし、人への物言いもよくなかったなと感じます。今思えば、本当に幼くてダサかったなって。
自分に少しずつ余裕が持てるようになり自分のかっこ悪さに気づいてからは、スタッフや外部の方も含め、たくさんの方に支えられていることに気づきました。若くて知らないことが多い分たくさんの人が助けてくれていたんです。みなさんのおかげで、自分の人間力が育ったなと思います。
――独立したい人が独立前にしておくといいことは?
たくさんありますが、ひとつ挙げるとしたら、上の人の言うことによく耳を傾けて聞いておくこと。言われたことを聞き流さずに、「なんで今これを言われているんだろう」「この言葉の真意は何だろう」と考える。無意識を意識する。それをすることによって、自己理解にもつながると思います。
自己理解を高めておくことによって、なぜ自分が起業したいのか、という部分が見えてきます。ホームサロンで1人でネイルをしたいのか、人を育てたいのか、自分のネイルを広めたいのか…。そこをしっかり考えていくと、自分の目標に基づいた行動ができるんじゃないでしょうか。
私はそこが欠けていたので、すごく苦労しました。若くして起業したことで良かったことの方がたくさんありましたけど、自己理解が浅いまま独立してしまったことだけは、目標達成までのスピードが遅くなった原因だなと感じています。
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26歳という若さでノープランのまま独立開業した中村さん。高い技術力が経営の後押しにはなったものの、サロン運営は大変なことの連続だったようです。後編では、そんな若さを乗り越えて変わった現在のサロン運営のお話をお聞きします。
取材・文:山本二季
撮影:高嶋佳代