自らの経験を活かしたサービスを展開し、ネイル業界を盛り上げていきたい【経営者 橋本実花さん】#2
学生のうちに独立を果たし、ネイルサロンの開業まで手がけた橋本実花さん。自宅サロンを経営するうちに、本格的に事業を展開していきたいと感じ、起業家へ転じます。
後編では、「ネイル業界を盛り上げたい!」という原動力や、現在展開しているサービスとともに、橋本さんの想いを伺います。
仕組みを改善し、ネイリストがより働きやすい環境づくりを
――現在、注力していることはなんですか?
「Beauty pop(ビューティーポップ)」という、ECサービスに力を入れています。
サイトに登録したネイルクリエイターが、ネイルデザインとその作り方レシピを公表できる場所で、一般カスタマーがクリエイターのデザインを通して他店にオーダーをかけると、受注したサロンからクリエイターに手数料が入る仕組みです。
ネイリストの考案したデザインが、カラオケの曲のように他店で使われれば使われるほど手数料が入るというサービスなんです。
技術者、創作者(クリエイター)を守り、メーカーやネイルサロン、そしてスキルアップしたいネイリストやセルフネイラーのみんながお互いにwin-winになれるサービスを考案しました。
――「みんながお互いにwin-winになれるサービス」というのは?
ネイリストって、二つのパターンに分かれているんです。一つは、自分でネイルデザインを考えて発信できる、アーティスト性の高いネイリスト。もう一つは、そのアーティストが発信したネイルデザインをお客様のオーダーを受けて再現する、技術者として活躍するネイリストです。
市場に出回っている流行りのネイルデザインの多くは、前者のアーティスト性が高いネイリストが発信しているデザインなんです。しかもそういったネイリストはごく僅かな上、評価されにくくて…。
というのも、集客のためにSNSで発信したデザインを真似されることが多いんですね。お客様もSNSを見て近くのサロンにお願いする、という流れが一般的。オーダーを受けて、再現するネイリストに収益は入りますが、デザインを考案したネイリストの元にはその利益は入って来ません。
――そんな現状を打開するべく展開されたサービスなんですね。
そうなんです。デザインを考えた本人が恩恵を受けられていないことが気になって…。
でも、Beauty pop上でデザインを公開すれば、自分のアイデアを利益にすることができます。一方、そのデザインを使用するサロンもデザインにお店を紐付けることで、集客でき、事前にオーダー内容を準備しておけるのでお客様からのクレームを減らし、満足度アップに繋がる。自分のレシピを公開してどんどん広がっていけば、どちらの立場からしても助け合う構図が出来上がるわけです。さらにBeautypopのECモールがそのレシピとも紐付いているので、使用する商材をレシピからワンクリックで簡単に購入できる便利なサイトなんです。
しかも、この商材の購入はプロがサロン価格で仕入れられるだけでなく、一般のセルフネイラーも定価で購入することができるので、メーカーはより多くの人に商品を知ってもらうことができる。また、どのブランドも優劣なく、レシピから商材が売れると売上の10%がクリエイターに還元されるため、クリエイターは更なる収益化になりますし、メーカーはブランドの規模に関係なく、クリエイター自身の選択で商品を宣伝してもらえるシステムになっています。
――両者ともに利益を高め合える仕組みになっているようですね。
循環させて業界を盛り上げることが目的ですから。私自身、セルフネイラー、プロネイリスト、クリエイター、メーカーの全てを経験して見えたものがあるので、業界を盛り上げるためにはそうしたうやむやな箇所を取り除いて前向きに事業を進めていくことが重要だと感じたんです。
Beauty popの他にも、それぞれ助け合いができる、もう少し個人に寄り添ったサポート事業にも取り組んでいます。
自身の経験から生み出されたサービスで開業を目指す人の力になりたい
――「助け合える」というのはどのようなサービスですか?
ネイリストとして開業を目指す方を支援するサービスで、検定サポートと開業サポートを展開しています。例えば、一人きりで開業して困った事案が起きた時に契約しているサポーターにLINEまたはチャットで気軽に相談ができる。サポーターはこちらで既に開業を経験しているネイリストと連携し、アドバイスなどをしていただいています。
1人でサロンを開業した後の不安やしんどさを経験しているので…。「ネイルサロンは開業したいけど頼る人がいない」「相談できる人が身近にいない」…といった理由で諦めて欲しくないんです。
――他にもネイル業界を盛り上げるために取り組んでいることはありますか?
YouTubeとは別にオンラインサロンを開き、視聴者からの質疑応答に応えたり、作品の添削を行うアートレッスンも定期的に開講しています。
さらに、いろんな業種の方を招いてセミナーを定期的に開催。経営や集客の仕方など、技術というより、開業や独立を目指している方向けに配信することなども行っています。
――同業者ではなく、いろんな業種の方を招くのはなぜですか?
単純にそのほうが面白いなって(笑)。同業者の話ももちろん聞きたいとは思っているはずですが、同じネイリスト志望の方が現役のネイリストの真似をすると同じ業界内の真似しかできなくて、目新しさがないですよね。
――いろんな業種の方からノウハウをもらうことが必要なのですね。
そう思いますね。違う業種の方のノウハウを聞いて自分の境遇に落とし込んだり、新しい発見が生まれて取り込むことができる。そうやって能動的に情報を刷新していかないと、開業や独立は難しいと感じますね。
仕事に全力投球できるのは、家族と会社の人たちのおかげ
――ネイル業界への熱い気持ちが伝わってきます。その原動力とはなんでしょうか?
最初から今まで家族の存在が大きいですね。片親だったこともあり、私が母親を養って行かなければ、と自然に考えていました。今では、結婚して子どももいて…。守りたい人が増えたので、頑張る理由がさらに強まりました。
家族だけではなく、チームで頑張っている今の会社の人たちも、最終的には私の周りにいる人たち全員に恩返しができるように、期待に応えられるような人間でありたいと思うんです。身近な人たちを大切にしたいという気持ちが原動力になっていると感じますね。
――母親として、妻として、経営者として。両立が大変そうです。
それは一生の悩みですね…。人は全ての立場を100点にすることはできないので、その欠けた部分は誰かに補ってもらっていますから。でも100点でありたいという自分との戦いですね(笑)!
会社も一人ではなく、ありがたいことに非常に優秀な人たちを抱えているので、感謝と同時に、彼や彼女たちがこの会社で働くことを誇りに思ってもらえるようにしたいと…常にいろんなことを考えています。
実は2年半前、妊娠発覚と同時に子宮頸がんを発症したんです。その時も夫の寄り添ってくれる姿勢に助けられて…。よりいっそう、仕事に励む理由ができました。
――それは、支えになりますね。
そうですね。大変だと悩むこともありますが、それと同じくらい仕事が楽しすぎてわくわく・どきどきが止まらない気持ちを味わえています。こんなに大変なことがあるからこそ、こんなに嬉しい、楽しい、と感じられる仕事ができている。それって、とても幸せだなって。その気持ちを忘れずに、ネイル業界をさらに盛り上げるように尽力していきたいです。
橋本実花さんの成功の秘訣
1.セルフネイラーに向けた市場で需要にそうサービスを展開
2.ネイル業界内でお互いに補合えるECサイトを構築
3.自身の経験を元に考案したサービスでサポートする
お話を伺ったのは…
橋本実花さん
デザインを学ぶために大阪芸術大学に進学し、その間にネイルに興味を持つ。ネイルについて独学後、数々の資格を取得したのち、自宅にてネイルサロンを開業。大学院に進み、個人事業主としてサロンを改めて開業するも経営者に転身し、ネイル事業に特化した合同会社WORLDLYを設立。2020年、結婚し、子どもが1人。現在もネイル業界を盛り上げるべく、さまざまなサービスを展開している注目の経営者。
取材・文/東菜々(レ・キャトル)