念願かなって目標のサロンをオープン。今までの劣等感を脱ぎ捨て、新しい地点を目指す【OCEAN TOKYO Sunny代表 陽介さん】#2
2013年にオープンしてから、今もなお人気が衰えないOCEAN TOKYO。そのオープニングスタッフとして入社した陽介さん。違うサロンでデビュー目前だったところ、兄である高木琢也さんについていくことを決意し、現在も同じ目標に向かって進んでいるようです。
前編では、陽介さんが美容師になってからメンズカットの習得をするまでに抱いた葛藤や想い、お兄さんとの関係性についてお聞きしました。後編となる今回は、店長時代の挫折や、目標だった「OCEAN TOKYO Sunny」を立ち上げた際の想い、について伺います。
今回のゲストは…
OCEAN TOKYO Sunny代表 陽介さん
高校卒業後に美容師を志す。専門学校卒業後にFLOWERSで3年アシスタントを務めていたが、デビュー目前で退社し、兄が設立したOCEAN TOKYOに入社。3ヶ月間のアシスタント期間を経て、スタイリストデビューを果たす。店長職を経験後、「OCEAN TOKYO Sunny」代表に就任。現在は、OCEAN全店舗でリピート率No.1を獲得するメンズ・レディースともに人気のサロンへと成長させた実力の持ち主。
店長としてあるべき姿とは?
「自分らしさ」を追求した結果、理想のサロン実現に王手
――社員から店長と着実に目標に向かってスキルアップされていたとお見受けします。
それが、年齢に対して比較的早い昇進で喜ばしいことだったのですが、早すぎたのか、どの業務に対しても自分が店長としてどうあるべきかということに悩まされました。
当時は三科が代表を務める原宿店に所属していて、一緒にサロンを回していました。僕なりに店長としていろいろ取り組んでいるつもりだったのですが、三科や周りからしたら「店長として何がやれているのか?」って言われるくらい、目に見える結果が出せていなかったようで…。どうしたら認めてもらえるのか、かなり考えましたね。
――相手から求められていることを汲み取ることって難しいと感じます。
そうなんです。考えても考えてもわからなかったので、以前勤めていたフラワーズの恩師に連絡しました。そもそも、「店長の仕事ってなんなんでしょうか?教えてくれませんか」って。そうしたら、「店長の仕事とか、振る舞いがどうあるべきかということを考え続けることが大事だよ」と。言われた直後はわからなかったのですが、意見を自分なりに解釈し、視点を変えてみようと思ったんです。「三科が理想とする店長像」ではなく、「自分自身が理想としたいと思う店長像」を考えてみようと。
相手に合わせるのではなく、自分は自分のやり方で僕なりに動いてみたらいいじゃないかって辿り着いてからはふっきれましたね。「店長らしく」の前に「自分らしく」が大事だったんだなとわかったので。
例えば、働いているスタッフへの指導では別の人の教え方をなぞるのではなく、「自分だったらどう教えてもらうと身に入るか」を考えたり、サロン全体の売上を上げるためには、お客様への自分の振る舞いをもう一度確認したり…。人と比較したことで「自分らしさ」がわかるようになったんです。僕自信が理想と思う店長像を掴んでからは次第に良くなっていきましたね。
――萎縮していては力が出し切れないですもんね。ふっきれてからは順調に?
そうなんです!OCEANでは、「代表」になるとサロンのコンセプトから任せてもらえるんですが、代表を任せてもらえることになりました。僕がずっと目標にしていたコンセプトのもと、ついに「OCEAN TOKYO Sunny」が原宿で実現しました。ようやく自分がやりたかったサロンができた…!ようやくレディースを大きく打ち出せる!って、それはもう嬉しかったですね。
――サロンのコンセプトを教えてください。
以前の僕のように、サロンに来ることに緊張してしまう人でも安心して来られるようなサロンをつくりたい、と思い、できるだけポジティブなワードを取り入れたくて。加えて、OCEANの「一緒に航海を渡りましょう」っていうメッセージ性に紐づけられるよう考えました。「人生という航海を常に照らせる太陽でありたい、誰のことも照らせるように」という想いを込めて「Sunny(サニー)」に決定。
あとは、両親がつけてくれた僕の名前の「陽介」も連想させられるかなって。最初は反対しながらも応援してくれた両親に対して、あれからやっとここまでこれましたと感謝の意味も込めました。
――オープンしてから周りの反応はいかがでしたか?
メンズ・レディースの対比5:5を目指していましたが、いざ挑戦してみると難しさをダイレクトに感じましたね。実際にオープン前には多方面から「無理」と言われていました。たしかにメンズかレディース、どっちかに振った方がブランディングとしてもわかりやすいし簡単ですから。でも、僕はそこで人が無理といったことに挑戦したい。だって、無理だと言われていたことが実現できたらおもしろいじゃないですか!
オープンしてからは試行錯誤の日々。Sunnyが他の店舗とは違うレディースを取り入れていることをお客様に認知してほしくて、一度、SNSや大手クーポンサイトなどをレディースに全振りしてみたこともありました。そうしたら、「陽介さんはメンズは担当しなくなった」と捉えられてしまい、今度はメンズが集客できなくなっちゃって。慌ててメンズも担当しているよーってアピールし直しました(笑)。
いろいろ試して、今はメンズ・レディースで7:3の集客バランスで落ち着いています。周りから「絶対無理!」と言われていた頃と比べると、目標達成まではまだまだですが認め始めてくれる人も増えました。今後もスタッフたちと一緒に注力し続けたい課題ですね。
教えたいのは「自分で考えて行動するマインド」。
求めるのは「一番になるという野心」
――店長時代と代表になってからでは、スタッフへ求めるものも変わりましたか?
基本的に接し方は一緒。でも、いい美容師になる前にいい人間になってほしいなって気持ちが強くなりました。根っこの部分にフォーカスして教育するようにしていますね。
美容師って人対人の仕事。お客様の期待にどれだけ応えられるか、注げるかが重要です。気持ちがないと必ず伝わります。誰のために仕事をしているのか、を主軸にして迷った時は「お客様の気持ちに寄り添うなら、どっち?」って原点に立ち戻ることを教えていますね。技術の教えは、その根っこが形成されてからです。基本的なマインドセットが整ってから丁寧に教えます。言った方が早いのはわかりますよ。でも、僕がずっと教え続けるのは難しいじゃないですか。だからこそ、今後ひとりでも考えて行動できるようなマインドを育成してあげることが必要だと思っています。
――独り立ちできるように、しっかり考えてケアしている様子が伝わってきます。
そもそも、自分で考えてできる子が少ないのは、日本の教育方針が影響しているのかなって個人的に思うんです。例えば学校って、一から十までの問題をみんな一斉に解きますよね?で、1問目でつまづいた子に先生が丁寧に教えてそれから2問目にすすむ…そういうやり方を学校が率先している。それで育ってきたらマニュアル通りに動くことしかできないですよ。マニュアル通りではなく、場面に応じて自分の頭で考えて行動に移すことを身につけてほしくて。
――では、もともと備わっていてほしいことは他にありますか?
一番を目指せる向上心ですね、野心ともいうのかな。どの企業も言い方は違えど、向上心があって、努力ができて、ちょっとやそっとのことで辞めない人を望んでいる。その中で、僕らが所属している会社って常に一番を目指していく方針のサロンなんです。一番を目指すには常にアップデートしていかないといけない。移り変わりの激しいトレンドをキャッチしてどんなふうに落とし込むのか、考えて前に進まないと成長が止まってしまいます。
逆に考えると、自分で限界さえ決めなければ一生更新していけるんですよ!それってすごいこと。僕自身、これからも歩みを止めないつもりです。
尊敬する社長(兄)とスタッフをつなぐパイプ的な存在になりたい
――会社全体が一番を目指していけるように、ご自身が心がけていることはありますか?
会社でよく、下の子たちが「上が何を考えているのかわからない」って話、よく聞きませんか?それって結局社長と社員の間を取り持つパイプ的な役割をもつ人が、下に社長の考えをおろせていないことが問題だと思っていて。社長の考えを知っている人間がちゃんと下の子たちに意見を伝えていれば、団結できるのにって思うんです。そう考えたときに僕自身ができることとしては、そのパイプ部分を担うことだと思っています。
――会社を円滑に回すためにも尽力しているのですね。そんな会社の社長であるお兄様に対して、入社時から現在までの間で心境の変化はありましたか?
それはありますね。ここ数年でようやく差が縮まり、関わりやすくなったと実感しています。僕が成長して同じ目線で話せるようになったのは以前と比べてかなりの変化です。
――どんな変化だったのでしょう。
今までずっと意地をはっていたんです。だって、どこに行ってもやっぱり美容師として日本一の称号をもつ、「高木の弟」としてしか見てもらえなかったですから。必ず「高木の弟」という文字が僕にまとわりついてましたね。しかも、一緒に仕事をするって決めたからには常につきまとう問題であって、実際かなりしんどかったですよ(笑)。だから兄と僕は別物だと、そう思い込んで見えないように蓋をしてました。認めた瞬間に「終わるな」って…ずっと思っていましたからね。
でも、代表就任から数年経って30歳になった時、兄が成し遂げた偉業をリアルに肌で感じる機会が多くなったんです。それも、兄が忙しくて手がつけられない仕事をそれぞれで分担したことがきっかけでした。半端ない仕事量のうちの一つをやってみて感じたのは、「ひとつの仕事でも大変なのに、これを今までひとりでやってきたのか」ということ。その瞬間、純粋に「すげえ兄貴をもったんだな」って、認めざるをえなくなっちゃって(笑)。だいぶ、兄に対しての気持ちが楽になった瞬間でしたね。
――身に染みて兄の偉大さを感じられたのですね。
これまでは相談とか面と向かって話すこと自体を避けていましたが、僕の中で兄という存在が認められたことで、今までの空白を埋めるかのように話すことが増えました。それによって、兄と同じことをしても意味がないなと強く思うことが増えましたね。だからこそ、「OCEAN TOKYO Sunny」で僕なりのベストを追求していこうと思えるんです。
僕が兄を尊敬できるように、高木が僕を「俺の弟なんだ!」って、自信をもって世間に広めたくなるように頑張っていきますよ。僕自身の目標と、兄が創造する航海の先の実現を目指しているので!
陽介さんの成功の秘訣
1.実現したい目標に関することは徹底的にこなし、結果を出す
2.他人ではなく、「自分らしさ」を軸に取り組む
3.情報を逐一社員間と共有し、一丸となって挑戦し続ける力
取材・文/東菜々(レ・キャトル)
撮影/喜多二三雄