AI技術が美容業界に変革をもたらす!?トップスタイリスト集団「senjyu」チームの挑戦
現在、店舗を持たずに活動する美容師集団「senjyu」に所属し、YouTuberとしても活躍している内田航さん。前編では、自身が目指す「髪を通じて人生を変える美容師」であるために実践してきたことについて伺いました。
後編では、現在「senjyu」チームが2017年から研究開発に取り組んでいるAI事業について伺います。内田さんによると、AIの技術を活用したデジタルサロンが本格稼働すれば、美容業界は大きな転換期を迎えると言います。
お話を伺ったのは・・・
内田航さん。
学生時代に美容院で髪型に対するコンプレックスを解消し、感動した経験をきっかけに美容師に。現在は、「店舗を持たない美容室」として、特定の店舗に所属しないで活動を行う美容師を集めた株式会社senjyuのCMOと青山統括代表を兼任する。
2019年にはYouTubeチャンネル「イメチェンチャンネル」を開設。視聴者が抱えるさまざまな悩みと向き合い、解消する様子を配信している。
美容師の目的はお客さまをキレイにすること。だから店舗は要らない
――改めてsenjyuの仕組みについて教えてください。
senjyuは、トップスタイリストだけで構成された美容師集団です。自社では店舗を持たず、各地のシェアサロンを活用して全国展開をしているのが最大の特長です。
――シェアサロンが増えた現代ならではの展開ですね。独立開業を目指す美容師さんが多いなか、あえて店舗を持たないのはなぜでしょう?
僕たちはあくまでも、お客さまをキレイにするための施術をする場所がほしいのであって、店舗を構えることが目的ではないんですね。
借金をして物件を借りたり、内装にこだわったり…ということに時間やお金をかけるよりも、僕たちはいち早く、日本中のお客さまをきれいにしたり、お悩みを解決したりしていきたい。そう考えた結果、自社で店舗を所有する必要はないという結論に辿り着いたのです。
――なるほど。senjyuという名称はどこから来ているのでしょう?
千の手を広げて、すべての人を救おうと手を差し伸べる「千手観音」に由来していて、カラーや縮毛矯正、カウンセリングなど、それぞれ得意分野が異なるメンバーとチームを組むことで、全国のお悩みを抱えている人を助けたいという願いが込められています。
「あなた以上にあなたの髪を想う」をスローガンに、チームメンバーがお互いの技術や知識、経験、想いを共有し合うことで、誰が担当しても、個々のお客さまに合った施術ができるよう体制を整えています。
――現在、取り組んでいるというAI事業について教えてください。そもそも、なぜAI事業を始めようと思われたのでしょう?
毎日、senjyuチームのLINE問い合わせ窓口に、お客さまから膨大な相談メッセージが寄せられます。それに対して一通一通、手で入力して返信するのはかなり大変なんですね。
なかには似たような内容のお悩みも多くて、だったらAIの技術が活用できるんじゃないか、「こんな技術があったらいいな」というアイデアから生まれました。
2027年を目標に、AIを活用したデジタルサロンを開発
――具体的に、どんな研究をされているんですか?
愛知産業大学の伊藤庸一郎教授と共同で、教授が特許を持っているAI「Thinkeye」を使ったデジタルサロンの研究開発を行っています。
僕たちが作ろうとしているのは、いわば美容師のクローンです。トップクラスの美容師の経験や知識などを完全にコピーしたAIを作り、「ダメージレベルは?」「これまでの履歴は?」「髪質は?」など色々な条件に合わせ、美容師に代わってAIがお客さまに正しいケア方法や最適な施術方法などを提案するというものです。
AIはデータが溜まれば溜まるほど学習するだけでなく、新商品が出ればその使用感や合う髪質なども判断するようになるので、一人ひとりのお客さまにとって「あなただけの専属美容師」が傍にいて、オンライン上で常にアドバイスをしてくれるような環境ができます。
――すごい…。開発にはかなり時間がかかったのではないでしょうか。
2027年からの本格始動を目標に5年前から取り組んでいて、現在はプロトタイプをテストしている段階です。
サロンにカメラを設置してカウンセリングから施術まで動画に収めるなど独自でもデータの取得・分析を行うなど、年間約5000人のお客さまのヘアケアに携わっているsenjyuチームの経験をフル活用しながら、より正確で美容師らしいデジタルクローンを作るために調整を繰り返しています。
――2027年というとあと5年。あっという間のようですが、実現可能なのでしょうか?
可能です! というよりも、5年後には社会は劇的に変化していると思いますよ。美容業界の歴史を振り返ると、通信システムの発展に伴ってカリスマ美容師ブームや雑誌、SNS…と 12、3年おきにブームや情報発信の手段が入れ替わっています。
いま最も注目されるテクノロジーの一つがメタバースで、今後はさまざまな産業に活用されるといわれています。僕たちはメタバース空間にデジタルサロンを作り、オンラインでお客さまが来店する。そんな仕組みを作ろうと思っているんです。
すべての人の髪にまつわる悩みを解決したい
――それが実現すると、お客さまは24時間好きな時間にお悩みの相談ができて便利ですね。今後、どんな風に展開していくのでしょう?
もともとは日本中、世界中の髪にまつわるお悩みを解決したいという願いから始まった事業です。でも、どんなに頑張っても、僕らのチームだけでは解決できる人数には限りがありますよね。だから、このAIを自社だけで独占するのではなく、美容業界全体の「資産」として広く共有していけたらと思っています。
既に大手ヘアサロンと共同で「メンズカット」「ショートカット」「似合わせデザイン」など、ペルソナ別に5機のクローンAIの開発に取り組んでいるのですが、これから本格稼働するにあたって、僕たちの思いに共感し、プロジェクトに協賛、参画してくださるヘアサロンや美容師さんを集めているところです。
――テクノロジーの進化が、美容業界にも大きな影響を与えるんですね。
そうですね。美容専門学校でも授業にVR技術を活用した教材が導入されはじめていたり、どんどん進化しています。
僕のYouTubeチャンネルにも、美容院へ行ったはいいが失敗してしまった、情報が多すぎて自分に合うケア方法がわからない…など、本当にたくさんのお悩みの声が寄せられます。一人一人の方が自分の髪質や、正しいケア方法を理解していたら、こんな風に失敗することもないし、理想のヘアスタイルでいられたら、それだけで毎日がもっと豊かになりますよね。
このAIが一人でも多くのお客さまの人生を豊かにすると同時に、美容業界の在り方を変えるきっかけになればと思っています。
最新AI技術を導入することで、お客さまが得られる3つのメリット
1.一人一人の髪質やなりたい姿に合わせたケア方法、来店タイミングなどを知ることができる
2.オンライン上で24時間、自由に来店できる
3.「悩みを相談しても美容師によって言うことが違う」「情報が多すぎてどうしたらいいかわからない」など悩みが解消され、失敗が減る
年々、進化を遂げているAIのテクノロジーが美容業界に本格的に導入されることで、美容師の仕事は減ってしまうのでは?とも思いますが、むしろ人の手でしかできないカットやパーマなどの技術に専念できるようになるといいます。今後の展開にも注目していきたいですね!