自分流の「可愛い」を表現する場として選んだSNS。柔らかい雰囲気のスタイルと写真で人気に【美容師・細田真吾さん】#1
髪質や骨格はもちろん、ライフスタイルにまで沿ってつくる柔らかいヘアスタイルで、人気を博している細田真吾さん。今でこそ、ヘアスタイルや美容師を探すツールとしてあたりまえのように使われるインスタグラムですが、細田さんが自身の追求する「似合わせ×可愛い」を発信し始めたのは、日本国内にインスタが浸透する少し前のことでした。
今回は、前サロン時代にインスタグラムを始めたきっかけや、投稿するヘアスタイル写真のこだわり、細田さん流の集客&リピーター獲得術などをお聞きしました。
【お話を伺ったのは…】
COA GINZA 代表 細田真吾さん
資生堂美容技術専門学校を卒業後、都内有名店に入社。25歳でスタイリストデビューし、ヘアカタログやファッション誌のヘア企画の撮影などで指名を受ける人気美容師に。2021年10月より、COA GINZAの代表に就任。
「似合わせ」「柔らかさ」「可愛い」を追求して指名を獲得
――最初に勤めた有名サロン時代に、自分の武器をつくるために注力したことを教えてください。
僕がスタイリストデビューしたのは25歳の終わり頃で、周りと比べて遅めでした。アシスタント時代は、先輩方について撮影などの外部の仕事を見させてもらうのがすごく楽しく、「東京から発信する“可愛い”」をたくさん学ばせてもらいました。そんななかで徐々に、「自分の思う“可愛い”」を追求するように。
当時、集客サイトに載っているヘアスタイルは、きちんと型にあてはめたようなデザインが主流。きれいにレイヤーが入って整っていたり、一切乱れのない流しバングだったり。僕はもっと自然な、毛先がはねてもいいスタイルや、例えば片サイドを耳にかけてバランスを崩したスタイルに魅力を感じて、かっちりしたものよりは柔らかいものを発信したいと思っていました。
――柔らかいスタイルづくりのために技術面でこだわったことは何ですか。
特にカットの技術を磨くことにこだわりました。ただはねているだけなのか、あえてはねさせて柔らかく見えるようにカットしているのかは、大きく違いますよね。
――「自分の思う“可愛い”」を追求することで、売上や指名につながったのでしょうか。
スタイリストデビュー月は、とにかくいろんな人に声をかけて来てもらったので70万ほどの売上。そこから2年近くは低迷していました。売上が伸び始めたのは、「似合わせ」の範囲の中での「おしゃれ」や「可愛い」を狙って、お客様ひとりひとりにフィットさせるように努力してからですね。
一気に伸びたのは27歳頃で、雑誌の撮影などで指名されるようになった時期と重なります。秋に伸び始めて100、年末に150、翌年3月には250…と右肩上がりに。さらに伸び続けて、28歳のときにサロン内のクリエイティブチームのリードデザイナーという役職に就き、300以上をコンスタントにキープしていました。とはいえ、先輩方はもっとすごかったのですが…。
自分の感性で「可愛い」を表現できる場がSNSだった
――細田さん流の「可愛い」をインスタグラムで発信するようになったきっかけは?
インスタグラムを始めたのは2015年です。その頃はヘアスタイルを発信できる媒体がホットペッパーくらいでしたが、僕のつくりたいスタイルはその頃の王道からは外れていたので、サロンのブランディング面から考えても載せられず…。
どこで発信できるかなと考えていたとき、当時のサロンの代表のひとりが教えてくれたのがインスタグラムでした。ほかにもさまざまなアプリやサイトに手を出してみましたが、自分の表現の場としてはインスタグラムが使いやすいと感じたんです。
――インスタグラムで発信するにあたり、サロン内でのルールはありましたか。
まだインスタグラムが集客に結びつくと思われていなかった時代だったので、特に制限はなかったです。アカウント名も、何を載せるかも自由でした。初めは完全に趣味の個人アカウントという感じで、集客のためでもないし、サロンのブランディングを背負うコンテンツでもありませんでした。
――自分のつくりたいもの、見せたいものを載せるためだけに始めたんですね。
そうなんです。だから、ヘアスタイル作品を撮影するときは、自分のインスタグラム用と、会社として載せるホットペッパー用の2パターンを撮っていました。同じモデルさんで、スタイリングや撮り方を変えて。
――インスタグラムを拝見すると、モデルさんが自然体でとても可愛いです!
あ、よかったです!ちょっと姿勢を崩していたり、何気なく下を向いていたり、自然なしぐさのときに女性の美しさを感じたというのが大きいかもしれません。その瞬間をとらえるように写真を撮りたいと思ったので、話しながらや歩きながら撮影することも。モデルさんが固くならないような距離感も大事にしています。
――一眼レフカメラで撮影しているんですよね。
最初はスマートフォンで撮影していました。スマホは誰でも気軽に撮れるのがメリットですが、自分がどんなに工夫して投稿したとしても、一覧で見たときに他の人とあまり差が出ないという面もあります。ヘアスタイルは違っても、画像としての差が出ないというか。それで、「世界観の違いが出るかな?」くらいの気持ちで、一眼レフカメラで撮り始めました。
美容家であり写真家の新田将行さん(ヘアサロン「天衣無縫」オーナー)のカメラ勉強会に参加させていただいたり、直接お話を聞いたりして、撮り方を学びました。好きなカメラマンさんのオンラインセミナーで勉強したこともあります。
SNSで発信するものとヘアの仕上がりが一致するから、リピートにつながる
――インスタグラムのフォロワー数や集客数はどのように推移しましたか。
何年も前の話なので数字は参考にならないかもしれないのですが、集客につながったのはフォロワー3000人の頃。インスタが集客に使えると気づいたのは、サロン内ではたまたま僕が最初だったんです。それ以降、インスタでの発信が社内でもどんどん広まっていきました。
フォロワー1万人を超えたくらいから、作品の撮影や投稿のペースが定まってコンスタントに発信できるようになったこともあり、新規のお客様が毎月50人前後いらっしゃるように。フォロワー2万人の頃は、毎月100人弱とか…新規客数の伸びはすごかったです。
――新規客の9割が顧客化すると聞きました。なぜそんなにリピーターを増やせるのでしょうか。
自分が発信しているものと仕上がりが一緒で、嘘がないのだと思います。仕上がりというのは、サロンでの完成形ということではなく、家に帰ってからの状態です。扱いやすくて、その人のライフスタイルも含めて似合っているスタイル。それが一番の理由かもしれません。
自分の好きなものをわかりやすく発信して、それを好むお客様が来てくださるので、最初からマッチング度合いが高いのだと思います。僕のお客様は「この写真とまったく同じにしたい」ではなく、「この柔らかさがほしい」「こういう感じで自分に合うヘアに」と来店される。ある意味、正解の幅が広いと言えますね。
――現在のフォロワー数は?
6.4万人(2023年2月1日時点)です。でも、2ヶ月くらい前までは3.6万人だったんですよ。
実は、新規のお客様が増えすぎると顧客様が予約を取れなくなってしまうため、これまではフォロワー数が増えるたびに投稿を控えるようにしていたんです。でも、現在勤めるCOA GINZAの小西(代表の小西恭平さん)と話をして、会社のブランディングとして、インスタグラムをちゃんと投稿したほうがいいのではということになり。再開してフォロワー数が急増し、今も定期的に投稿していますが、新規予約はストップ中なんです。
――インスタグラムは続けながら、集客をコントロールしているのですね。
予約制限をしていないときは、1日の枠が全員新規のお客様で埋まってしまったことがあります。それで、新規枠は1日2人くらいに決めて、それ以外は顧客様のみということにさせていただきました。
2月は少しだけ新規予約を再開して、3月はストップ、4月はまた再開かも?という、ランダムな感じです。いつになったら新規を受け入れるのかと問い合わせをいただくこともありますし、本当に心苦しいのですが…。
細田さんにとっては、集客と結びつくとは考えずに始めたインスタグラム。「自分の思う“可愛い”」を表現するため、ヘアスタイルそのものだけでなく、撮影方法やモデル選びにもこだわったことで、投稿するたびフォロワーや新規客を増やすことに。
細田さんは、「SNSでバズッてフォロワー数を伸ばすことが目的ではないし、自分の幸せは別のところにある」とも話してくれました。後編では、インフルエンサー集団の美容室「COA GINZA」に参加することになった経緯や、現在のSNSとのつきあい方、売上を伸ばすために重要なことをお聞きします。
取材・文/井上菜々子
撮影/喜多二三雄