自身のバックグラウンドをフル活用して、唯一無二の美容室経営を目指す【㈱HuBeauuu 北村嘉崇さん】
コンサルティングやコーチングのスキルと経験を持ち、数々の企業の価値向上に貢献してきた北村嘉崇さん。パナソニックヘルスケアやAB&Companyを経て、株式会社HuBeauuuを創業。株式会社Ashantiの代表としてファンド買収後の経営改革も行った。
美容室経営の形や美容師の働き方はさまざまですが、経営者である北村さんは「スタッフファースト」を掲げ、働きやすい環境づくりや美容師の資産づくりのために積極的に活動しています。
お話を伺ったのは…
HuBeauuu 代表取締役 北村嘉崇さん
東京大学農学部卒、東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻修士課程修了、産業技術大学院大学産業技術研究科創造技術専攻修了。新卒で外資系コンサルティング会社に入社。パナソニックヘルスケアやAB&Companyを経て、株式会社HuBeauuuを創業。ファンド買収後の株式会社Ashantiの代表も務めた。美容室M&Aの第一人者であり、働く人の「いま」と「将来」を第一に考えるプロ経営者として活躍。
経営の視点で美容室業界に新風を吹き込みたい
――これまでの経歴や、美容室の経営に目を向けたきっかけを教えてください。
大学卒業後、最初はコンサルティング会社に就職しました。そのあと、医療系の会社に転職。そこでは役員とともにプロジェクトを回し、企業価値を上げる仕事に携わりました。充実はしていましたが、自分が意思決定者、つまり経営者になりたいという思いもあったんです。
美容室に関わることになったのは、たまたまヘッドハンターに声をかけてもらったのがきっかけです。美容室チェーンAgu.を経営するAB&Companyで、CSO(最高戦略責任者)として営業部門を構築し、店舗拡大のしくみづくりを担うことになりました。
――その経験から、美容室経営に魅力ややりがいを感じたのでしょうか。
実を言うと当初は美容室業界にあまり思い入れはなく、自分が会社を経営するきっかけがほしかったんです。ただ、年間400〜500人の美容師さんと話すにつれ、この人たちとうまくやりたいと思うように。
年収や待遇の実情を知ったり、美容室業界のいびつな構造を感じたりもして、経営の視点を持つ僕が加わることで何か変えられないかなと。美容室だけではなくメーカーやディーラーまで含めてかもしれないけど、この業界で何かおもしろいことができないかなと思って関わり続けています。
店舗拡大のために新しい働き方も提案
――美容室経営の魅力・やりがいについてお伺いしましたが、一方で美容室経営の難しいと感じるところはありますか?
そうですね、人不足。店舗を増やすよりも働き手を増やす方が難しいです。集まってもらえるのか、居続けてもらえるのか、それとも出て行くほうが多いのか…。特に業務委託の美容室は、長く働き続けようという感覚がない人も多い。だからこそ、そこに「いる理由」をつくってあげる必要がある。そのために、美容師の声を直接何人も聴きながら四苦八苦しながら進めているところです。
――コロナ禍を機にUターン・Iターンで働く美容師やフリーランス美容師も増えましたが、今後はどうなると考えますか。
新型コロナウイルス流行の時期は、地方都市のほうが売上前年比130%アップ、渋谷や新宿は前年比80〜90%という話もありました。特に、首都圏の周りのドーナツ状エリアは、人もたくさん住んでいるし美容師さんも働きやすいですから。でもそれが続くかというと、わからない。有名エリアで働きたい人もいるだろうし、シェアサロンも増えているし、都心部に戻ってくる人が増えるかもしれません。週に2日は都心、残りの日はどこか郊外でというように、2拠点の働き方もありですよね。
店舗展開から新コンセプトまで活発に展開
――店舗展開をする上で意識していることはありますか。
Ashantiを経営していた際はしっかりマーケティングしたうえで、各エリアの価格帯に合ったブランドを展開していましたが、あまりそこに縛られなくてもいいかなと思っています。例えば渋谷でも、カット&カラーで3000円の店もあれば、20000円の店もある。集客と雇用のバランスをコントロールすればいいんです。
大切なのは、1店舗1店舗の収益性を増していくこと、美容師さんの働きがいという意味での満足度を高めていくこと、お客様のニーズを満たすものを提供すること。「このエリアならすべてのブランドを出店しても勝てる」「ターゲットが二極化していそうだから、この価格帯で出店にしよう」など、アレンジしています。
――既存ブランドとは異なるコンセプトのサロンなど、何か新しい構想はありますか。
メンズサロンやブランド性の高いサロンをつくったり、どこかとコラボしたり。今、アカデミーを立ち上げているところなので、アカデミー出身者在籍のサロンを展開するという手もある。アイデアはいろいろ!
まだどうなるかわかりませんが、現在は、自分のサロンで有名私立大学発のベンチャーが開発した「目の前の人にしか聞こえないスピーカー」を、テスト店舗に導入してみたいとも思っているんです。実験段階から一緒に組んで、うまく製品化できれば彼らにとってメリットだし、お客様が施術中や待ち時間に退屈しない。僕らの時間生産性も上げることができます。
こういったことは、僕の強みのひとつ。東京大学や元の会社で得た人脈、社会人になってから学んだ産業技術大学院大学でのつながりをフルに活かしています。いろんなチャレンジをしていけば、ほかの美容室にはない形に変わっていける実感がある。まずはできる範囲のこと、目の前のことを進めながら、結果を出していきたいと思っています。
日本一、スタッフの働きやすい環境をつくるために
――美容室経営において、特に重要だと考えていることは何でしょうか。
「人中心」ということ。「美容師ファースト」や「スタッフファースト」と言うこともあります。もちろん美容師だけでなく、本部で働くスタッフも、そしてお客様もみんな含めて「人」。まず人ありきで、それを踏まえたうえで会社や店のしくみづくりを行なうことが大切です。
――スタッフファーストを実現するためには、どのような取り組みが大切になりますか?
Ashantiで構築した制度のひとつは「ママさんアウトソーシング」です。子育て中で就業時間が限られてしまうけど、それだと収入が厳しいという人はいますよね。そういう働きたいママさんに、「2週間の間に本部の事務作業をこの分量終わらせたら、この金額をお支払いします」という形。本部スタッフの残業を減らすことができて、ママさんは収入を得られるので、双方にメリットがあります。
ほかには、「360度評価」「臨店」「1 on 1」という制度もスタッフファーストの文化作りに大切だと考えて推進していました。
――それぞれ、どんな制度でしょうか。
「360度評価」は、無記名でいろいろな人から対象者への評価を集め、フィードバックします。自分がどう見られているかを知り、自分の現在地を見つめ直す機会をつくることができます。
「臨店」は、僕や本部の幹部が店に行き、店舗の課題を解決するための会議を設けます。全店舗なのでなかなか大変。でも、聞いてみないとわからないことがすごく多いし、まず経営者がスタッフひとりひとりの声を聞くことに意味があるのかなと。
「1 on 1」は、本部スタッフ全員と、それぞれ30分〜1時間ほど1対1で話を聞くことです。マネージャーや店長とも、リモートではありますが直接話をして、うまくいっていないことがあれば調整したり、彼らの「なりたい」をヒアリングしたりします。
当然、それぞれから聞いたことを全部解決できるわけではありません。まずは「聞いてくれているのか」「聞いた中で優先順位をつけて実行してくれているのか」で、会社に対して期待を持てるか持てないかは変わります。
成功のための「考え方」のコツを惜しみなく伝授
――著書で成功ノウハウを公開されていますが、そこに込めた思いとは?
まず、本を書いたきっかけは嫉妬(笑)。AB&Companyにいたとき、社長の本を出すプロジェクトがあったのですが、自分も出したくて。出版コンテストに応募したら優勝し、出版権を得たのが2019年です。
その後、どんどん自分たちの考えを広めたいと思うようになり、それならやはり本を出すのが一番手っ取り早いし、自分のPRツールにもなる。それで、2022年8月に出版しました。
誰でも読めるように、平たく柔らかい言葉で書きながら、わかりやすい本をつくりたいと思いました。表などで可視化する部分もあってイメージしやすくなっていれば、「読めば自然と結果がついてくる」という形にできるかなと。
――本を出してよかったと思う点はありますか。
いろいろな人とのコミュニケーションツールになったり、僕の話を聞いてみたいという人が増えたりと、広がりを感じています。美容師さんからすれば、あまり勉強したことがない経営の本でも、同じ美容室経営者が書いたものなら親しみを持てるかもしれません。僕の講演もセットで聞いてもらえると、よりわかりやすくなります。
――それで、美容師向けセミナーを開催しているのですね。
セミナーをしていると、「業務委託とレギュラーサロンの違いを話してほしい」「コーチングについて話してほしい」「コンサルティングをしてほしい」「FCについて教えてほしい」などたくさんお題をもらいます。そういったテーマでも話ができますし、僕のセミナーでは「考え方」をしっかり学んでもらえたらと思っています。
思考ってすごく大事で、まず自分の頭で考えて、行動して、結果を得る。だから思考の質が上がれば、自ずと行動の質も上がるし、結果も変わる。それまで失敗していたことが成功するとかね。
うまくいく美容室が増える=ライバルが増えるではなく、組み先が増えると思っているんです。お互いに切磋琢磨して成長するほうが、業界としてはよいこと。イケてる経営者が日本中に増えたらいいなと思っています。
北村さんが考える、経営の重要ポイント
1.「人」ファーストのしくみをつくる
2. 新しいことにも積極的に挑戦する
3. コミュニケーションを重視する
Campany Data
住所:東京都渋谷区恵比寿3-9-31
撮影/喜多二三雄
取材・文/井上菜々子