フリーランスは通過点。サロンで得た経験を糧に、出店準備中【美容師 山崎直輝さん】#1
働き方の多様化が進む今。それは美容業界も例外ではありません。サロンへの就職や業務委託、シェアサロン、独立経営など選択肢は本当にさまざま。
今回は、長年勤めた大手サロンを辞め、フリーランス美容師となって活躍している山崎直輝さんにインタビュー。前編では、サロン時代の貴重な経験や、今の働き方を選んだ経緯、フリーランスになってからの集客方法などをお聞きしました。
お話を伺ったのは…
フリーランス美容師 山崎直輝さん
美容学校卒業後、都内の大手サロンに入社。23歳のときに表参道店でスタイリストデビュー。ハイスタイリスト、トップスタイリストとステップアップし、27歳で銀座店の副店長に。29歳のときに銀座の新店舗の店長を任される。プライベートでは28歳のときに結婚し、30歳で一児のパパに。2023年2月、約11年勤めたサロンを退社してフリーランスになり、現在はシェアサロン「SALOWIN 銀座6丁目店」でお客様を迎えている。
10年間のプレス経験が美容師としての強みに
――山崎さんのつくるレディースヘアは、ナチュラルな中に絶妙なおしゃれ感があって可愛いですね。そういったスタイルが自分の中で武器になったのはいつから?
スタイリストになってわりとすぐに、得意なスタイルの方向性はできたと思います。メンズの集客力が圧倒的に高いサロンだったので、最初はメンズヘアからスタートしたのですが、もともとレディースヘアもやりたいという気持ちがあって。営業中は男性のお客様を担当しながら、休日にレディースヘアの作品撮影を2〜3体、毎週続けていました。当時メインでついていた先輩スタイリストが、女性の顧客やレディースヘアの撮影がとても多い人だったので、そこで学んだことも多かったと思います。
――レディースヘアをやりたいと思ったきっかけは何ですか。
入社1年目でレディース担当のプレスになり、女性のヘアスタイル撮影に関わる機会が増えたことがきっかけです。退社するまでの10年以上、プレス担当を務めました。貴重な経験でしたし、僕自身に外部の撮影依頼をいただくきっかけにもなったと思います。
――プレスとしてどんな仕事をなさったのですか。
出版社の編集者さんやライターさんとやり取りをしたり、撮影に起用するモデルさんをピックアップしてスケジュールを押さえたり。最初はそれくらいだったのですが、集客やブランディング、ホームページのビジュアルをどうするかなど、特にレディースに関して会社としてどう打ち出していくかといった、外部発信の仕事にも関わるようになりました。
――その経験から得たものは?
会社としての集客のノウハウや外部発信は、プレスとして関わっていなかったら知ることがなかった部分です。僕が入社した時点で会社の知名度やメンズ集客力はかなり高く、何もしなくてもある程度売上が立つという面もあった。そこに至るにはやはりプレスの活動があったからだと思うので、さまざまなプロセスをレディースプレスとして経験できたのは、自分にとってメリットでした。
近い将来の出店を念頭に、フリーランスの道へ
――新卒で入って11年勤めたサロンを辞めることになった経緯を教えてください。
ひとつは、会社の方向性がメンズヘアメインにシフトしたのが大きな要因です。僕自身はこれまで通りレディースもやりたかったので。もうひとつは、プライベートの変化です。結婚して子どもができ、時間の使い方や収入を考えるようになりました。妻も美容師なので、今後どうするかをふたりで話し合ったこともきっかけになりました。
――ご夫婦でどんなことを話し合われたのですか。
妻ももともと同じ会社で美容師として働いており、結婚のタイミングでフリーランスになっていました。ふたりともそれなりに売上も持っていたので、今後のことを考えたとき、夫婦で出店するという目標が見えてきたんです。実は退社する前から物件を探し始めていたんですよ。でもいろいろな制限があり、すぐに出店は叶わないとなって。それで、まずはフリーランスになったんです。一度シェアサロンで働いてみたほうが、突然出店するよりもリスク回避できるかなとも思いました。
――出店を考えたとき、会社に相談したのですか。
はい。会社にも、フランチャイズやパートナーサロンといった出店の方法がありました。ただ、レディースヘアを続けていくにあたり、メンズイメージの強いサロンとつながりがある出店方法は、あまりピンと来なかったんです。お世話になった会社にはとても感謝していましたが、ブランディングを考えたときに、切り離して挑戦していきたいという気持ちがありました。
――お客様にはどのようにお知らせしたのでしょうか。
退社する1年以上前から、出店に向けての動きがあることは徐々に伝えていました。出店ではなくフリーランスでしばらく活動することになったというのは、辞める3ヶ月くらい前から、お客様が来店されたタイミングでお話ししました。
――レディースヘアにこだわったのはなぜですか。
レディースに振り切ろうと思っているのではないので、もちろん男性も担当させていただきます。ただ、女性のお客様ってリアクションがとてもいいんです。カット後に「可愛い」って自分で言ってくれたり、すごく表情に出してくれたり。反応が返ってくると僕自身も「可愛くできた」と実感しやすい。それに、女性のほうがヘアデザインの幅が広いので、美容師としての楽しさや喜びも大きいように感じます。それで、レディースヘアを続けたいと思ったのかも。
お客様のオーダー+αの提案力でリピーターを獲得
――シェアサロン「SALOWIN」を選んだ理由は何ですか。
一番は立地。SALOWINは銀座に4店舗あるので選択肢が多かったんです。これまで銀座のサロンで働いていたので、お客様にとっても来慣れているエリアというのは大事です。施術に使うラップやグローブなどの消耗品を提供してもらえますし、お会計にすべての支払い方法が使えるというのも魅力でした。
――フリーになってからの集客方法は?
以前から集客にSNSを活用していたので、そこは変わりません。インスタグラムに加えて、最近はTikTokも増えています。フォロワーはそれほど多くないのですが、サロン勤め時代にすごく再生回数が伸びた動画がいくつかあり、それが集客につながったことがあったのでTikTokに可能性を感じています。
――インスタグラムとTikTokは使い分けているのですか。
インスタグラムのほうが自分自身のブランディングというものを表現しやすいかなと思います。自分がどういう人間なのかとか、打ち出しているスタイルとか。TikTokはインパクトのあるものや、リアルなBfore&Afterに向いていますね。
客層はどちらもそんなに変わらなくて、TikTokからインスタグラムに飛んで、予約につながるという流れが多い印象です。ただ、今は新規集客にそこまで力を入れていない状況です。ありがたいことに常連のお客様で予約がほぼ埋まっているので、新規の方は顧客様のご紹介で数人お受けしたくらい。
――ほぼ常連様というのはすごいですね。リピーターをつかむ秘訣は何でしょう。
確かな技術を提供することはもちろんですが、ちょっとした変化や新しさを提案することも大事だと思います。「おまかせ」とか「いつもと同じ髪型」とオーダーされる方が多いのですが、今のトレンドを意識しながらいろいろな選択肢を提案するように心がけています。
例えば、いつも切りっぱなしボブをオーダーするお客様に、「インナーカラーを入れてみませんか」「顔周りだけ少し切ってみませんか」とおすすめしてみるとか。同じ髪型という希望は叶えながらもちょっと変化がついて、しかも可愛くなれば、やはり喜んでいただけます。
出店という目標を持ちながら、銀座のシェアサロンで働く山崎さん。おしゃれなヘアデザインと提案力を武器に、お客様の心をつかみ、フリーランス美容師としてとても順調のように感じます。
山崎さんは「フリーランスは焦りや不安もある」と正直な思いも語ってくれました。そう感じる理由や、フリーランスのメリットとデメリット、今後のプランなどもお聞きしたので、ぜひ後編をご覧ください。
撮影/喜多二三雄
取材・文/井上菜々子