写真館からスタートして、美容室やセレクトショップなどシニア女性に特化したお店を次々と展開。えがお美容室♯1 代表取締役 太田明良さん編
シニアに特化した「えがお美容室」代表取締役の太田明良さん。ファッションスタイリスト時代から「オンリーワン」を目指していた太田さんは、競合のいない分野を探し、まずはシニア特化の写真館を開設します。ヘアメイク・スタイリング・撮影のサービスを提供する中で、常にシニア女性の声に耳を傾け、美容室やセレクトショップ、ネイルサロンやエステサロンとシニア特化のお店を次々と展開。従来の考え方に固執しない柔軟な発想で、ビジネスの幅を拡大しています。
お話を伺ったのは…
えがお美容室
代表取締役 太田明良さん
ファッションスタイリストを経て、2014年、巣鴨にシニア専門の撮影スタジオ「えがお写真館」を開設。その後、いずれもシニアに特化した美容室、洋品店、爪工房を展開。2023年より、既存の美容室をリブランドし、「えがお美容室」をフランチャイズ化する「Produced by EGAO」を展開。唯一無二のビジネス展開に多方面から注目を集めている。
新しい市場を開拓し、トップシェアを狙いたかったから斜陽産業だった写真館を開設
――太田さんは元スタイリストということですが、「えがお写真館」をオープンした経緯を教えていただけますか?
元々、音楽系のデザイン事務所でファッションスタイリストをしていたのですが、5年くらい経った頃から、まわりのカメラマンさんやヘアメイクさんと「上には上がいるし、下からもどんどん出てくる。でも仕事の絶対数は変わらないよね」なんていう話をするようになったんですね。このまま下請けの仕事を続けていていいんだろうか。仕事が来るのをただ待っているのではなく、自分たちが持っている技術を提供できる場所を作ったら面白いんじゃないか。そう思い立って、まずは写真館をつくることにしました。
――アパレルでも美容室でもなく、なぜ写真館だったのですか?
写真館じゃなくてもよかったんです。僕はリーディングカンパニーをつくりたかった。そのためには競合が少ないほうがいい。写真館は斜陽産業の一つでした。この分野であればトップシェアを目指せると思いました。
――その中でも、シニアに特化したのはなぜですか?
街の写真館がどんどん消えていく中、生き残っているのは、子ども向けの大手のスタジオばかり。僕は父親を早く亡くしていて、父が離婚していたこともあり、遺影に使う写真がまったくなかったんですね。たまたま出てきた小さな写真を引き伸ばして遺影にしたんですが、そのときにものすごく悲しかった記憶があります。当時は、運転免許証の写真を遺影に使うのが一般的でしたが、ワイドショーで見る芸能人の遺影は、とても表情豊か。一般の方だって笑顔で素敵な写真の方が嬉しいんじゃないかなと思って、2014年、シニア向けの写真館をオープンしました。
――シニア特化型ビジネスの誕生ですね。写真館の運営は順調だったのでしょうか?
写真館では、ヘアメイク・スタイリング・撮影のサービスを提供していましたが、初めは全くお客様が来てくれませんでした。自分たちの技術を磨き、お客様へどうやったら喜んでもらえるか悩みながら試行錯誤続ける中、テレビメディアに取り上げて頂く機会が訪れました。放送されたことがきっかけで来店したお客様の口コミや紹介が広がり、運営は順調になりました。そのうち、お客様から「髪も切ってほしい」という声をたくさんいただくようになって。理由を伺うと、「銀座や青山の素敵な美容室で、トレンドの髪形にしてほしいけど、周りに若い子がたくさんいる美容室には行きづらくなってしまった」と、皆さん口を揃えておっしゃるんです。あまりにもそういった声が多かったので、これはシニア向けの美容室をやったらヒットするのではと思ったんですね。
当時、知り合いの美容師さん何人かに声をかけましたが、「写真館があるのになんで美容室やるの?」とまったくいい返事をもえらず。それが悔しくて、先に美容室をつくってしまったんです(笑)。
――その後はどんな展開になるのですか?
僕のイメージに賛同してくれる美容師と出会い、50代以上の「えがお美容室」をオープンさせ、加齢に伴う髪の悩みに特化した技術を提案し続けた結果、たくさんのお客様に選んで頂ける美容室へと成長を遂げました。美容室と同じフロアには、ネイル初心者の方でも入りやすい〈ネイルケア〉のメニューを中心とした「えがお爪工房」をオープンさせ、美容室との同時施術も好評です。同時期に立ち上げた、「えがお洋品店」は、現在予約制のセレクトショップとして、ファッションスタイリストが自分の為に用意した服を貸切空間で選ぶことができるという百貨店の外商サービスのようなスタイルを採用しています。さらに昨年、同世代の施術者だからこそ安心して通うことができるエステティックサロン『えがお美癒堂』もオープンさせました。
――お客様の声に応える形でいろいろなお店ができていったのですね。ところで、カメラマンやスタイリストの方は、フリーランスなのですか?
うちは全員社員で構成されています。技術もあるし、やりたいこともある。でも、自己プロモーションがあまり上手にできていない方も多くいらっしゃるんですよね。それであれば、保障もあるうえで、自分のやりたいこともできる社員になりませんかという形で人を集めています。
――全員社員だと、会社側にはどんなメリットがありますか?
実は、弊社はBtoBでの売上も大きなウェイトを占めています。企業広告なども手掛けているのですが、ディレクターやWEBデザイナーも在籍しており各クリエイターがそろっている為、企画・監修・撮影・モデルキャスティング・デザインなどワンストップで制作業務を請け負うことが可能です。僕が思い描いているシニア像が明確であり、そのビジュアルを社員全員が共有できているため、クライアント側はビジュアルを容易に想像することができるんです。「えがお」が支持されている理由は、そこにあると思います。
比較対象がないからお客様に選んで頂きやすい美容室なんです
――ズバリ、シニア特化のメリットはどんなところですか?
ひとつは、競合がいないことです。えがお美容室には、たくさんのお客様が訪れます。それは、例えば、飲食業界でいうと数あるファミリーレストランの中に、お蕎麦屋さんがあるようなものなんです。「えがお美容室」のターゲットは50代以上のシニア。それが明確なので、他と比較されることがないんです。
美容室の集客サイトを見ても、一般の方にはカットの技術が上手い下手は分からない。メインターゲットがどの層なのか、あとは場所とプライス、その店が有名かどうかでお客様は美容室を選びます。若い女性がたくさん載っている美容室が多い中、「えがお美容室」はグレイヘアのモデルにフィーチャーしています。サイトにはお客様の年齢比グラフが掲載されているんですが、「えがお美容室」は50代以上がほぼ占めています。サイト担当者が、システムが壊れてるのかと思ったほど、そこに特化しているんです。
――競合が出てこないのはなぜですか?
企業のトップの方とお話させていただく機会が多いのですが、「シニア女性を広告のメインにするとブランドイメージの棄損になり兼ねない」という話をよく聞きます。日本の経営者のほとんどが50代以上の男性ですが、シニア女性をポジティブに捉えていない傾向も見受けられます。
「えがお」に来てくれる女性の方たちは、若い世代の女性と何ら変わらず美容やお洒落を楽しんでいます。写真館では女優さんのような撮影体験に喜んでいるお母さんの姿をみて、一緒に泣いて喜ぶ娘さんもいらっしゃいます。洋品店では、「お父さんにそんな派手なもの着てと言われても、好きなもの着ましょうよ」って背中を押すんです。年齢のせいで素敵でありたいという女性の気持ちを抑えてしまうのはもったいないことだから、それを創り出すために、「えがお」はいろんなことにチャレンジしています。
――競合がいないこと以外に、シニア特化のメリットはありますか?
人口ボリュームが大きいことです。2020年のデータでは、50代以上の女性は、日本の人口の約26%。男女合わせると約47%を占めています。だからZ世代なんてそれと比較するとニッチなんですよね。また消費できる金額が圧倒的に高いです。必然的にターゲットをどちらに向けた方が良いかわかりますが、多くの方が若い層に向けてトレンドを発信している現状があります。
既存の美容室のリブランドを行う「produced by EGAO」
――今後、シニア特化型のビジネスをどのように展開していかれるのでしょうか?
僕たちが提供しているのは、女性を素敵にするというポジティブなサービスです。素敵なシニア女性像のイメージができると、皆さんそれを欲しがるんですよね。そこで、「produced by EGAO」という美容室のフランチャイズをスタートさせました。既存の美容室の顧客ターゲットを定めるリブランドを行います。
例えば、チェーン展開しているとなかには不採算店舗も出てきます。その理由のひとつとして、その地域の高齢化です。そのような店舗を顧客ターゲットをしぼった「えがお美容室」がプロデュースすることで、集客をかけるお手伝いをしています。
私たちは将来的に国内200店舗のプロデュースを目標に掲げています。
太田さんがシニア特化ビジネスを成功させた理由は…
1.新しい市場を開拓し、リーディングカンパニーを目指した。
2.お洒落なシニア女性像の創造をした。
3.シニア女性の潜在的なニーズを導き出した。
「シニアという言葉に、ネガティブなイメージを持たないようにしなくてはいけない。シニア世代をターゲットとしたビジネスをやってみたい、そういった場所で働きたいと思う若い世代を増やしたい」とおっしゃる太田さん。「新しい市場を開拓し、トップシェアを狙いたかった」からスタートした太田さんのビジネスは、今後益々の広がりを見せるのだと思います。後編は、太田さんの思いをシニアスタイルとして形づくる「えがお美容室」ディレクターのテルイタカヒロさんにバトンタッチします。
撮影/山田真由美
取材・文/永瀬紀子