分かり合えず泣いた日々。違うタイプの人がいるからこそ、チームは強くなると気付いて 私の履歴書 【LUSH青木美和さん】♯2
LUSHのショップマネージャーとして数々の店舗を経験してきた青木美和さん。前編ではキャリアアップが早かったからこそ、チーム育成ができず悩んだ経験と、それをどのように乗り越えたかを伺いました。
後編では、現在の青木さんが大切にしている、多様な人がいるからこそ強いチームが作れるという考え方について伺います。その考え方に至ったきっかけとなったのが、あるお店のトレーニーショップマネージャー(副店長)のスタッフとの出会い。自分とは違うタイプのそのスタッフを認めることができず悩んでいたそうです。
その悩みを話したイギリスのチームが、あるトレーニングをすぐに取り入れてくれたことで、人との違いを受け入れられるようになったといいます。
挫折で気付いた、人との違いはチームの強さ
――ショップマネージャーという仕事をする上では、やはり売上をあげるという結果を一番に考えていましたか?
そういう時期もありました。当時は売上ランキングシステムがあったので、そのトップに入ることを目標にして、実際に叶えることもできました。
ただある時期から、LUSH全体がよくなってほしいという意識に変わっていったんです。LUSHが良くなればお客さまも増える。自分のお店だけで何かをやっていても限界があると思ったので、いいスタッフを育て、いいチームを作り、いいマネージャーをたくさん排出しようと思うようになりました。それが会社全体の売上にも繋がると思ったんです。
――そのような意識になってから、行動はどのように変わりましたか?
元々LUSHではショップマネージャーがとても大きな権限を持っているのですが、私はスタッフそれぞれに権限委譲をして、色々と任せるようになりました。あとはある挫折がきっかけで、チームの仲間は自分が持っていないスキルを持っていると気付き、スタッフからたくさんのことを学べるようになりました。結果、それぞれの良さを活かして強いチームを作ることができるようになったんです。
――どんなきっかけだったのですか?
都内の別店舗でショップマネージャーをしているときに、トレーニーショップマネージャー(副店長)のスタッフがいたのですが、一生懸命がんばっていることは分かっているのに、私とタイプが違いすぎて評価ができなかったんです。表情や意志を外に出さないタイプで、なかなか行動がわかりにくく、少しやきもきすることもありました。
私はそのスタッフ一生懸命やっていると分かっていたし、すごく尊敬もしているのに、全然分かり合えず。そのスタッフと話すときは、なかなかお互いが納得しきらず、最終的にお互いに泣いてしまったこともありました(笑)。
――関係性が変わるきっかけは、何かあったのですか?
イギリスのリテール責任者(店舗責任者)が入店したときに、私の悩みを伝えたら、「じゃあMBTIというトレーニングを取り入れるからやってみたら」ということになって、すぐに実施されることになりました。MBTIとは質問に答えていくと性格や適性を知ることができ、相手と自分がどう違うかを理解できるというものです。
そこで初めて彼女と私の差が明確に分かったんです。私は外向タイプで、彼女は内向タイプ。私は思考が広がってあれもやりたいこれもやりたいというタイプ、彼女は自分のなかで順序立てて正解を出してから行動したいタイプ。そして私は感情派で、彼女は理論派でした。
――まさに真反対という感じですね。
そうなんです。私がそれまで彼女にしていたアドバイスは、彼女に合っておらずとても辛いものだったと思います。でも彼女との差が分かってからは、お互いのコミュニケーションを歩み寄り、自分と違うタイプの方が働いていることはとてもいいことだと思えるようになり、評価もできるようになりました。チームに多様な考え方の人がいるからこそ、アイディアも広がるし、できることの幅も広がる。そのことに気付けたんです。
ちなみに今でも「MBTI®」は社内研修として残っており、チームビルディングの場面で役立っています。
※MBTI®(エムビーティーアイ:Myers-Briggs Type Indicator)/日本MBTI協会
「実は…」を引き出し、スキルで感動体験を
――青木さんにとってBAの仕事のやりがいとは?
まずこれはLUSHという会社のやりがいになるのですが、いろんな機会やチャンスがあるので、やりたいことに挑戦できるんですね。そのなかでも私はショップマネージャーの仕事にやりがいを感じていて。本当にいろんなお客さまに出会えるいい仕事だと思っています。
販売員としては自分が行動することによってお客さまの肌、髪、心も含めて、ハッピーにできることにすごくやりがいを感じます。とくにお客さまとの会話で「実は・・・」とぽろっとお話いただくことを引き出し、それに対して商品やスキルなど何かを提供できることがこの仕事の大きなやりがいだと思います。
――なかでも印象的なお客さまとのやりとりはありますか?
たくさんあるのですが、その中でもよく覚えているのが、今私が働いているエキア池袋店に来てくださった、あるお客さまです。最初は打ち解けるのに少し時間がかかって、多くを話してくれない方だったんです。その方はヘナという植物性の髪染めをネットで見て、気になって来たとおっしゃっていたのですが、なぜヘナを使いたいかをお聞きしたときも、肌に優しいと思ったから、ということで多くを話してくれませんでした。
そのあとも色々とお話をしていたら、実はその方はがんを患っていて、抗がん剤で髪が抜け落ちてしまったこと、髪が少しずつ生えてはきたけれどこの髪で美容室に行くのが恥ずかしいとヘナを買おうとしてくださったことを、話してくださいました。
――それを打ち明けてもらったんですね。
はい。すごく辛かっただろう思いを話してくださったことに対して、何かをしてさしあげたいという思いが生まれました。LUSHにはランダムアクツという、スタッフが誰かを幸せにしたいと思ったときに商品をプレゼントできる制度があるんですね。そこでバスボムと、「治療お疲れ様です。身体も心も元気になってください」と書いたメッセージカードを添えてプレゼントしたら、お客さまがその場で泣いていらして。
今は病気を克服されて、毎月1回池袋の美容室に通われているので帰りに寄ってくださることも多いんです。あの時にただ商品の紹介だけをしていたら、その後LUSHに来てくださるお客さまにはならなかったと思います。小さなことかもしれませんがひとつだけでもお客さまに何かをできた、それは私の心に強く残っています。
――それは青木さんにとってもお客さまにとっても、忘れられない瞬間だったでしょうね。お客さまからそういった気持ちを引き出す関係性になるには、どうしたらいいのでしょうか。
お客さまのことを知ろうという気持ちと、何かできることはないかと考えることだと思います。あとはお客さまに共感する力や、プロとしてお客さまにできることをしっかり提示すること。ただ話しを聞くのは、販売員ではないと私は思っています。商品の良さ、その方にどう合うのか、なぜ合うのかを、お客さまのやりたいこと、なりたい姿にあわせてしっかり提示することができて初めて、販売員と言えるのではないかと。
キャリアアップのメリットは成長し、新しい自分に出会えること
――最近では、あまり仕事に責任を持ちたくない、キャリアアップをしたくないという人も増えています。青木さん自身はキャリアアップのメリットをどう考えていますか。
いろんな働き方、考え方があっていいと私は思いますが、私自身は「自分のなりたい姿や作りたいチーム、作りたいお店を理想に近づけることができる」ことが、キャリアアップによって得られたことだと思っています。新しいことに挑戦する機会が増え、自分の成長につながり、新しい自分に出会えるのではないかと思います。
そして責任はもちろん増えますが、自分の行動で一緒にがんばれる仲間を増やしていくことは、いつでも頼れる、サポートしてもらえる仲間が近くにいることでもあり、安心感も同時に得られるのではないかと思います。
――青木さんにとって働くこととは?
自分と誰かのための時間だと思っています。自分の仕事が誰かの役に立っていると実感することであり、働くことで家族も自分も安心して暮らすこともできます。そしてどんな仕事にも価値や役割があると思うので、その中で自分の価値を見つけることもできると思うんです。
そしてみんながそのように思えるようになったら、働く時間はとても充実した、楽しいものになると思います。私は自分も一緒に働く仲間も、働くことが「楽しい」時間になるようにしたいと心がけ、日々の仕事に向き合っています。
青木さんが成功した3つのポイント
1.会社の考え方を理解し、常に新しい挑戦を続けた
2.お客さまの話を引き出し、それに応えられるスキルを磨いた
3.自分とは異なる性質を持つ仲間から学び、強いチーム作りに成功した
挑戦と失敗を繰り返しても、楽しく仕事をしている姿が印象的だった青木さん。この姿勢をショップのスタッフにも見せることで、だれもが安心して挑戦できる会社の文化を作っているのだと感じられました。