伝えるより、伝わっているか。できないことはそのままでもいい。大切なことはすべてスタッフが教えてくれた【ULL代表miyukiさん】♯2
名古屋にULLとTESSの2つのネイルサロンを構えるmiyukiさん。自宅の一室からスタートしたネイルサロンは、エッジの効いたスタイリッシュなデザインと、丁寧な接客で人気を集め、約7年間で8名のスタッフが増加。名古屋の人気サロンへと成長しました。
前編では31歳でネイリストとなったきっかけや、自宅サロンでの独立から店舗を構えるまでの経緯について伺いました。後編ではスタッフからの人望が厚いmiyukiさんに、人材を育てる上で大切にしていることを伺います。
お話を伺ったのは…
ULL/TESSオーナーネイリスト miyukiさん
名古屋にあるアパレルショップで9年間勤めた後、ネイリストになることを決意。ネイルスクールに通い始め、資格を取得し、31歳でネイルサロンに就職。2017年に独立し、自宅サロンを構える。評判が広がり、満席になることが増えたことから、2019年には名古屋市内に「ULL」を出店。2024年には姉妹店となる「TESS」を構え、現在は8名のスタッフとともに、オーナーネイリストとして活躍中。
未熟だった自分を支えてくれた、初めてのスタッフ
――以前、「ULL」と「TESS」のリーダーであるShinoさん、Ayanaさんに取材をさせてもらったときには、おふたりともmiyukiさんに対する絶対的な信頼を置かれていると感じました。最初に人を雇ったときから、信頼関係は築けていましたか?
私に未熟な部分があって、最初から築けていたわけではなかったと思います。前提として、初めて自分が雇うスタッフと働く体験をしたことは、すごく楽しかったんです。気持ちが通じ合っていると思っていたし、同じ方向を向いてがんばれる仲間がいるというのはすごくうれしかったので。そもそもそのスタッフは仕事ができる子だったし、とてもいい子だったので、困ることはあまりなかったです。
――miyukiさんの未熟な部分とは?
ひとり目だったこともあり、そのスタッフには厳しくいろいろと求めてしまって、今と比べると、ストレートな物言いをしてしまうこともあったと思います。その子ももちろん落ち込んだと思いますし、私も変な言い方をしてしまったと反省することがありました。
――それはどのように改善していったのですか?
そのスタッフが感情的になるタイプの子ではなかったので、接しているうちにだれかに何かを指摘するときに怒りの感情を込めることはマイナスに作用することが多いと思うようになりました。ポジティブな感情は人の心を良い方向に動かすものであると思っていますが、怒りや否定的なネガティブな感情は相手にも伝播しますし、素直に聞き入れづらくなる面もあると段々気付いていきました。
――ではスタッフの方に対して、あまり指摘はしない?
いえ、そんなことはないですね。私はスタッフとなれ合う関係性になるのではなく、ともに成長していきたいという思いがあるので、大切なことはきちんと伝えます。
とくに私は、お客さまやスタッフなど、自分の周りにいる人を大切にしてほしいと思っているので、大切にしていないような素振りを目にしたときは厳しく指摘します。「人を大切にしない人は、うちにはいらないよ」とよく言っています。ただ、基本的には私がいいと思った子をスタッフに選んでいるので、そんなに厳しく怒ったりすることはないですね。
徐々に気付いていった、スタッフにできないことがあってもいい
――ほかにも、スタッフの方と接するなかで起きた、心境の変化はありますか?
スタッフの「できないこと」に対する向き合い方でしょうか。元々は成長してほしい思いが強かったですし、今でも何かができるようになるのは、とても大切なことだと思うのですが、それはあとからでもいいと思うようになりました。人それぞれ得意なこと、不得意なことがあるので、まずはいいところを伸ばして自信をつけてから、苦手なことに取り組めばいいと思えるようになりましたね。
そして究極をいえば、できないことはできないままでもいいんじゃないかとも思っています。苦手なことに取り組んで疲れてしまったり、過度にストレスがたまってしまうくらいなら、できることを強みにしたほうがいいのではないかと。いろいろな強みをもった子がいますし、せっかくチームで動いているので、適材適所でいいと思うようになりました。
――スタッフの方と接するときに心がけていることはありますか?
たくさんあるのですが、一番大切にしていることは、「伝える」より「伝わっているか」を意識することです。最初にお店を構えたときは言語化の重要性があまりよく分かっていなくて、自分の理念、自分が大切していることをきちんと言語化できていませんでした。なんで伝わっていないの?と思うこともあったのですが、今は伝わっていなかったら、それは私の伝えかたが悪かったからだと思うようになりました。
あとはスタッフに求めているものが、オーナーとしての私のメリットだけになっていないかは常に確認するようにしています。たとえばSNSの更新は、お店にとってもスタッフにとってもメリットになることだと思うので、そういうことはお願いしますが、スタッフにとってメリットがないことは求めません。
――なるほど。スタッフの方とのコミュニケーションの面で心がけていることは?
これもいろいろあります。いいところを見つけて伝える。感謝の気持ち、謝罪も素直に伝える。言わなくても伝わるなんてことは絶対にないと思うので、これは強く意識しています。あとは営業前になるべく雑談をして、スタッフやお店の空気感をあげておくことです。そうするとスタッフがお客さまにいいテンションで入ってくれると思うので。
――スタッフの育成は難しいイメージがあるのですが、miyukiさんはどう感じていますか?
もちろん、ちゃんとできていることばかりではないですが、私はスタッフの成長がとても楽しいんですよね。今は2店舗を構えていて、それぞれの店舗をShinoとAyanaに任せていますが、私やお店に関わってくれたことでふたりの考えの幅が広がり、さらにそれがほかのスタッフに伝わっていくのが見えたときがとてもうれしくて。
たとえばふたりには、「みんなが自分と同じようにできると思わないでね。下の子達はできなくて当たり前だよ。そしてもし下の子たちができていなかったら、それは下の子のせいではなくて、あなたたちの思っていることが伝わっていないからだよ。でもそれができていないのだとしたら、あなたたちに伝えられていない私が悪いんだよ」と伝えています。こういう伝え方をすると、ふたりの後輩に対する接し方が明らかに変わって、お店の空気感も変わっていくんです。
働くことは、「苦しい」も「楽しい」もひっくるめた生きがい
――スタッフの方からの人望が厚いのが、本当に素晴らしいと思います。
それは多分、私がポンコツだからですよ(笑)。みんな「介護だ」って言いながらフォローをしてくれるんです。昔はよく見せようとしていたこともあったし、自分で全部やらなければと思っていた時期もありましたが、今はそういう気持ちはほとんどなくなりました。そうすると自然と周りが助けてくれるんですよね。
あとは私が主役なのではなく、スタッフが主役になってほしいと思っているので、そのサポートができるように動けば、みんながんばってくれると思っています。
――miyukiさんにとって働くこととは?
「苦しい」も「楽しい」もひっくるめて、生きがいだと思います。みんなに喜んでもらえる上、お金という対価をいただいて生活ができるのはすごく幸せなことだと思うんです。あとは、スタッフやお客さまにとっての場を作るために働いていると思っています。スタッフがやりがいを持って楽しく働ける場所。楽しいだけでなく、きちんとお給料も出せて、みんなの生活を豊かにする場所。お客さまが喜んでくれる場所。まだ道半ばですがそういう場所をつくっていきたいです。
みんなが喜んでくれることが私もうれしいですし、人の喜びは自分に絶対返ってくると本気で思っているので、そんな気持ちで日々仕事に向き合っています。
miyukiさんがオーナーとして大切にしている3つのポイント
1.できないことがあってもいい、という精神で接する
2.大切にしたいことは言語化し、「伝わっているか」を意識する
3.スタッフがやりがいをもって楽しく働ける場を用意する
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