業界を跨いで得た知見を元に、再び美容師へ。「本当の美しさ」を、僕は問い続ける 私の履歴書 【美容師兼コスメプロデューサー・Ha-ha.Inc Ryomaさん】#2
中学生の頃から憧れていたという美容師の夢を叶え、美容師の仕事を愛するがゆえに大きな課題に直面することとなったRyomaさん。そんなタイミングで出会ったのが、原料にこだわったエシカルなモノづくりを貫くコスメティックブランド「LAUREL(ローレル、現・SHIRO)」でした。課題と向き合い、美容師の可能性をさらに広げるべく、関西から東京に舞台を移し、化粧品業界へ参入することとなります。
後編では、化粧品業界での仕事や、再び美容師の世界に戻りながらもそこで得た知見を生かして築くその後のキャリア、そして自身のコスメブランドプロジェクト「Ha-ha(ハーハ)」の始動について、お話ししていただきました。Ryomaさんが考える「本当の美しさ」とは、一体何でしょうか。
次なる舞台は東京。心機一転、化粧品業界へ
――「LAUREL」からのオファーをきっかけに東京へと舞台を移されたRyomaさんですが、そちらでのお仕事について教えてください。
一旦美容師の仕事を休止し、最初の半年間は化粧品業界についての知見や経験を集中して吸収することに努めていました。
その後、現在東京の表参道に店舗を構えるトータルビューティーサロン「shiro beauty(現・SHIRO BEAUTY)」の立ち上げにも携わりました。在職中に社名も「shiro(シロ)」に変わり、リブランディングしています。
(※「shiro」はその後2019年に再度「SHIRO」にリブランディング)
――化粧品業界について吸収したとのことですが、具体的にどんなことをされていましたか?
まずはブランドの店頭に立って販売職を経験し、現場を実感として知ることから始まりました。また、本社に赴き、製造関係の業務に関わらせていただくこともありました。原料に並々ならぬこだわりを持つ「shiro」において、商品の開発からリリースまで見ることができたのは、貴重な経験だったと思います。
――実務を通して、業界知識を学んでいったのですね。
「shiro beauty」をローンチした後は、現場でスタイリスト兼販売員としても勤務していました。その傍ら、店舗の統括やPRの一部、商品開発等の本社での業務も重なり、とにかく多忙を極めていましたね。
業界知識の吸収やサロンのローンチ、その後の業務も合わせて、「shiro」には計1年間ほど在籍していたかな。かなり濃密な1年間でした。
化粧品業界で修行した1年間の成果を還元すべく、東京で再び美容師としてもリスタート
――1年ほどで「shiro」を退職されたのは、なぜですか?
そもそも僕は、業界を跨いで得た化粧品に関する知識やノウハウを、美容師の世界に還元することを目的としていましたから。元々、「shiro」には勉強させていただくつもりで在籍させていただきました。
――「shiro」での経験から得られたものは?
現在の美容業界において、お客様の悩みに対するアプローチが「美容師」は「技術」、「美容部員」は「商品知識」です。この両者の特性は別物であり、その中間のような人材が存在しません。しかし技術力だけでなく、知識に基づいた商品の販売を通じてお客様のホームケアにも携われる「shiro beauty」の美容師は、この2つの職のスキルを兼ね備えた存在になれると、可能性を感じました。
そして「shiro beauty」の立ち上げとその運営を通じて、僕はこのハイブリッドな存在の働き方を確立しました。これは、本当に難しかったですね。お客様の悩みに対して、技術と商品知識、どちらを取るのか。それとも組み合わせるのか。またその割合は? といったことについて明確な方法論がなかったので。
――「shiro」で得たことを美容師の世界へ還元するために、どのような行動をされましたか?
退社した後は、東京で美容師として再始動しています。それに加えて、サロンやメーカーに対するプロ向けのプライベートブランドのコンサルティングや、店販はじめ各種ノウハウのセミナーなどを行うコスメプロデューサーとしても活動するようになりました。
カウンセリングで気づき得たお客様の美容に関する悩みに対して、サロンのスペシャルケアとホームケアとの両面から解決に導ける。このノウハウは、お客様にとってはもちろん美容業界にも大変価値があるんです。
僕の考える「本当の美しさ」。それを体現したのが「Ha-ha」なんです
――すでに二足の草鞋を履いていらっしゃるRyomaさんですが、さらに三足目となる草鞋として、自身のコスメブランド「Ha-ha」を2022年に立ち上げました。どういうきっかけがあったのでしょうか?
これといったきっかけはありませんが、7〜8年ほど兼業してきた中で、「もっとこうすれば、世の中の役に立てるのに」といった、欲が出てきてしまったんですよね。
美容師としてお客様の生の声を聞き続け、さらに化粧品業界で知識やノウハウをインプット、アウトプットしてきた僕だからこそ、人々の健やかな美しさのためにできることがあるのではないか、と。
また、「shiro」で直に学んだ原料へのこだわりについては、僕の中でずっと印象に残っていました。化粧品を作るにあたって、製造元が可能な範囲の処方で製造するのが一般的ですが、「shiro」はとにかく原料が最優先。一切妥協せず、原料ファーストの姿勢を貫いていましたね。
これまでのキャリアの中でOEM企業などとのつながりもできていた。ならば、自分のビジョンを実現できるようなコスメブランドを作ってしまおう! と誕生したのが「Ha-ha」です。
――Ryomaさんの見据えるビジョンとは、いったい?
長年にわたり多くの人の悩みに耳を傾けてきて、ユーザーのリアルな声を反映させた、本当に求められる製品を作りたかった。そしてそのためには、現在から未来にかけて必要な「製品」を作れる「ブランド」、さらに持続可能な「仕組み」を構築することだと考えました。「Ha-ha」が、その先駆けになればいいな、と。
また、優れた製品を作るだけでなく、人々の共感を呼び、選ぶ理由となる価値を提供するため、独自のチャリティブランディングも行っています。
そしてこのような仕組みやノウハウを、理念に賛同してくださるメーカーやブランドに積極的に伝え、世の中に広めていきたいんです。
――独自のチャリティブランディングとは?
「Ha-ha」では、製品のコスト基本設計の段階で、製品売上の10%をドネーション(寄付)に充てることを定めています。
製品におけるこういった社会貢献は各企業でも行われていますが、通常のCSR活動では、ビジネス上の利益の「余剰金」をそれに充てるといった形式が一般的なんです。
製品のコストに直接組み込むことで、自分が何に貢献しているのかをお客様に対してより明確にしたい。また、「Ha-ha」のビジョンに共感して購入してくださった方の善意を、より丁寧に届けたいと思い、この形式を採用しています。
――なぜ、このような取り組みを?
今、サステナブルやSDGsという言葉を耳にしない日はありません。持続可能な社会を求めて、世の中の風潮も徐々に変わりつつあります。それは、美容業界も例外ではありません。
自分だけが美しくあれれば良いという「自分勝手な美」はもう通用しなくなってきていると、みんなどこかで気づき始めているのでしょう。美容に関することにも、自然環境や他人との調和が求められつつある。自分以外の人やものを想いながらも美しくなれることが、これからの、そして僕の考える「美しさ」であると思うからです。
――明確なビジョンを持ち、多彩な活躍を見せるRyomaさんですが、仕事をする上で大切にしていることがあれば教えてください。
とにかく、「楽しく」あることです。
自分が楽しむことは前提としてありますが、その施術を受けた、その商品を手にしたお客様に楽しんでいただけるか。それをイメージできるようなモノ・サービスの提供を心がけています。
製品の処方やマーケティングなどといった他の要素は、そんなワクワクするような楽しいイメージの上に成り立つものだと考えています。
――Ryomaさんにとって、「働く」ということは?
ずっとワクワクできること、ですね。
例えば美容師に関して言えば、日々多くのお客様を施術させていただいていますが、一度たりとも同じ施術ってあり得ないんです。毎回何かしら見つかる反省点に対して、より良い方法を常に模索し続け、上を目指していくらでもアップデートしていける。やりがいがあって本当に楽しいです。
僕もこんなに楽しいのに、お客様にも楽しんでいただける美容の仕事は、とてもWIN-WINな仕事だと思います。
Ryomaさんの成功の秘訣
1. 挑戦を厭わず楽しむ!
2. 自身が得た知識や経験を、積極的に周りに還元する
3. 楽な方に流されず、大変でも「正しい」と思う方を選択する
撮影/斎藤大地
取材・文/勝島春奈