働いている自分が好き!探究心とコミュ力を兼ね備えた、職人的アイリスト 私の履歴書 【アイリスト・サロンオーナー 新谷美咲さん】#2
西武池袋線の石神井公園駅から徒歩約1〜2分という駅近に、アイラッシュ専門サロン「SOLuz eyelash salon」を構える新谷美咲さん。
前編では、当初は美容師を志しながらも学生時代に方針転換してネイリストに。しかし、美容師免許という国家資格を生かすべくアイリストに転身し、異例のスピードでそのキャリアをスタートさせたところまでをお伝えしました。
後編では、都内でアイリストとしてのキャリアを積み上げる最中、突然訪れた千葉・南房総への移住とそこでの日々。そして再び都内へ戻るにあたり現状を見つめ直し、自分らしい働き方として独立を選択、今に至るまでの紆余曲折についてお聞きします。
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都内のアイラッシュサロンでキャリアを築きつつ、技術を教える立場も経験
――アイリストとしてのキャリアを本格的にスタートさせた新谷さんですが、その後のキャリアは?
副店長を務めた大手サロンには2年ほど在籍していましたが、大手ならではの頻繁な店舗移動を負担に感じ、転職することにしました。その後の3年間くらいは2店舗ほど都内のサロンを回り、チーフやマネージャーなど、様々な役職を経験しました。
――サロンを変わってからも、技術を教えることはありましたか?
ありがたいことに、未経験者や現職のアイリストに技術を教えたり、施術のチェックをしたりする技術講習の場面には、よくお招きいただいていました。サロンワークの傍ら、トレーナーの立場も経験することができたのは、自身のさらなるスキルアップにもつながったと思います。
――高い技術力があってこそ、ですね。
思い切って飛び込んだアイリストという仕事でしたが、順調にキャリアを築いていけたことに、今でも感謝しています。もちろん大変なこともありましたが、今の私の働き方を実現するための土台になってくれました。
千葉・南房総への移住。そこで気づいた「働く」ことの素晴らしさ
――とても順調にアイリストとしてのキャリアを積んでいたんですね。
でも28、29歳くらいの頃かな。夫の仕事の都合で、突然千葉県の南房総の方へ移住することになりまして…。当時勤めていたサロンを退職して、夫についていくことにしました。
――移住にあたり、アイリストのお仕事は?
仕事は続けたかったので、現地での再就職を試みました。しかし、実際行ってみたら思っていたよりもアイラッシュのサロンが近場に全くなくて、あっても個人が自宅で開業しているものがほとんど。
ずっと働き詰めだったのもあり、半年間くらいゆっくりしながら再就職先を探していました。しかし、この期間は私にとっては辛いものでしたね。
――なぜですか?
この半年間の空白期間の自分のことが、どうしても好きになれませんでした。休みの日はしっかりリフレッシュしつつ、バリバリ働いていた時の自分の方が好きだったんです。早く働きたい、と思いながら就活していたのを覚えています。
そんな中、夫の知り合い伝いに、小規模ですがアイリストの仕事ができるサロンがあることを知りました。少し遠方ですが、なんとか通える距離でもあったので、早速電話して問い合わせ、無事採用していただくことに。
「手に職を」と取得した資格や積み上げてきた経験に助けられたことを、ことさらに実感した瞬間でした。
――移住先では、そちらのサロンでアイリストを続けられたのですね。
はい。南房総にいた4年間ほどお世話になりました。その後、夫が当時の仕事を退職することになり、再び東京都内に戻ることになります。
再び東京へ。「お客様目線の徹底」と「こだわり」を両立したプライベートサロンを開業!
――東京に戻られてからのキャリアについて、教えてください。
東京に戻ったのは33、34歳くらいの時でしたが、このタイミングでの再就職については悩みました。再びアイラッシュサロンに勤務して、新人からやり直すというのも不安だな、と。
また、夫も仕事面で転機を迎えており、彼との生活をもっと支えたいという思いもあって。いっそのこと、独立して自分のサロンを開いた方がいいんじゃないかと考えるようになりました。
――その後、本当に独立することになった訳ですが、決め手は何でしたか?
独立する方向で動き始めてみたら、いろんなことがタイミングよく、うまく進んだからかな、と思います。
開業する場所にも特に縛りがなかったので、自分なりにいろいろ調べました。石神井公園はその最中に候補の1つとして見つけた街です。駅に降り立った時の雰囲気や住民の様子などを歩いて見て周り、個人的にはとても好印象で、「ここで頑張ろう」って素直に思えたんです。
夫の友人の助力もあって、駅の近くに条件の良い物件も見つかり、場所もスムーズに決めることができました。
「SOLuz eyelash salon」をオープンしたのは、2021年7月10日です。東京に戻ってから、わずか1カ月足らずの出来事でした。
――都内のサロン勤務からブランクがあったことで、大変なこともあったのでは?
最初は特に、集客面で苦労しました。前のサロンからのお客様がいるわけでもなく、新天地で本当にゼロからのスタートです。なんとかしてサロンのことを認知し、お客様として足を運んでいただく必要がありました。
まず始めたのが、サロン用のInstagramやHOT PEPPER Beauty。オープン前から運用して、オンラインでも周知に努めました。
また、チラシを作って駅前で配り、夫と一緒に近所の家にポスティングして回ったこともあります。当時は私も夫も時間だけはあったので、そんな泥臭いことも厭わずやりましたね。
嬉しいことに、当時のチラシを見てサロンを訪れた3人のお客様が、3年経った今でも通ってくださっています。そこからは、口コミやお客様からの紹介などを通じて、徐々に軌道に乗っていきました。
――高い技術力はもちろんですが、居心地がとてもよく、一度来るとまた来たくなるサロンだと感じます。
ありがとうございます。この日当たりの良さもお気に入りです。
店名になっている「SOLuz」というのは、ラテン語で「太陽」の意を持つ「SOL」、スペイン語で「光」を意味する「Luz」という言葉を掛け合わせた造語なんですよ。
太陽の光が優しく差し込むシンプルで清潔な店内で施術を受けていただき、お客様がお帰りの際には、来た時よりも温かい気持ちになれる場所でありたい。日々を頑張る女性たちの大切なお時間を、少しでも心地よくお過ごしいただきたい。そんな願いを込めて名づけました。
――サロン勤務時代と独立後で、違いはありますか?
独立してからの方が、お客様に100%集中できていると実感できています。サロン勤務の頃は、お客様のこと以外にも新人の教育など他にも考えなければいけないことが多く、心のどこかでずっと「お客様にもっと集中したい」と思っていました。
また、使用する商材もこだわりを持って選べる、予約を上手に管理することで時間の融通が効くなどといった、自由度も上がりましたね。独立してからの方が、より一層やりがいを感じています。
――新谷さんが、仕事をする上で大切にしていることは?
「お客様目線」を徹底することです。できる範囲内ではありますが、休みの日には同業のアイラッシュサロンだけでなく、世の中のあらゆるサービスを体験しに行き、お客様の立場に立つことを意識するようにしています。
アイリストは技術者ではありますが、だからこそ、お客様に寄り添う姿勢を大切にしたいです。
――これから美容業界を目指す方へのアドバイスをお願いします。
そもそも好きなことがあること、そしてそれを仕事にできることへの幸せを忘れないでもらいたいですね。
美容の仕事を志しているということは、少なくともその仕事が好きということ。一日の時間の大半を費やす仕事の時間を、その好きなことで占められるのは素敵なことです。辛いことはもちろんあると思いますが、お客様の喜ぶ姿をその場で見られる仕事なので、やりがいも実感しやすいはずですよ。
また、思い切って行動することも恐れないでほしいと思います。
自分がここまでいろいろなことを経験してきた中で、人生を充実させられるかどうかは自分次第だなと感じています。そのためには、やはり行動力は大切です。いくら頭の中で考えていても行動しないことには、何も始まらないですから。
――新谷さんにとって、「働く」とは?
「好きな自分でいられる」ことです。
移住した千葉・南房総での半年間の空白期間に、特に思い知りました。私は働いている時の方がイキイキしている。自分のことを好きでい続けるために、この仕事を続けています。
撮影/内田 龍
取材・文/勝島春奈