それがどんなに茨の道でも、「一番やりたいこと」こそ最初に挑戦してほしい 私の履歴書 【ヘアメイクアップアーティスト 岩井ゆうかさん】#2
「ヘアメイクアップアーティスト」と聞いてパッと思い浮かぶのは、モデルやタレントにヘアメイクを施す姿。しかしその道のりは、決して楽なものではありません。岩井ゆうかさんは、25歳という若さですでにデビューを果たしている、新進気鋭のヘアメイクアップアーティストです。
前編では、岩井さんの学生時代も交えて一人前のヘアメイクアップアーティストとしてデビューするまでの様子をお聞きしました。
「自分が一番やりたいこと」への切符を、見事手に入れた岩井さん。後編では、そんな彼女のデビューしてからの日々や今後のことを含めた仕事観、そしてかつての自分と同じように美容業界で夢を追いかける方々へのアドバイスなどをお伝えします。
ヘアメイクだけでなく現場での振る舞いも、師匠がお手本です
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愛らしい笑顔に隠された、かっこいい仕事観に迫る
――2023年8月にヘアメイクアップアーティストとしてデビューされた岩井さんですが、デビューされてからの日々はいかがでしたか?
デビューしてからまだ1年と少しですが、雑誌の『nicola(ニコラ)』や『LARME(ラルム)』といったティーンズ向けの雑誌を中心に、ECサイトをはじめとしたWEBコンテンツ、テレビなどの現場やCMでもヘアメイクをさせていただいています。
お仕事で関わる雑誌の中には昔の自分が読んでいたものもあって、感慨深いですね。
――現場で心がけていることはありますか?
次につながるような、「また一緒に仕事がしたい」と思っていただけるような仕事をすることを意識しています!
ヘアメイクでは、スピード感を特に大事にしつつ、要点を押さえながら着実に仕上げていくことですね。
また、コミュニケーションを取りつつ、周りのスタッフやモデルたちへの気配りや気遣いを欠かさないことも大事です。「この子がいるとやりやすい」「現場を回しやすい」と思ってもらえる環境作りを心がけています。アシスタントの時から、師匠によく「空気をよく読むように」と声をかけてもらっていました。
――デビューされてから、うれしかったことや大変だったことはありますか?
私がアシスタント時代に同じく下積みをがんばっていた人たちと、一緒に仕事ができること! やっぱり、これはうれしいですね。
私と同時期にスタイリストやカメラマンのアシスタントをしていた人たちと、デビュー後に偶然現場で一緒になったことがあったんです。職種は違っても一人前になるためにがんばっていた彼らが、晴れて新人としてデビューした姿を見るのはグッとくるものがありました。色んな事情から道半ばに挫折してしまった人たちもたくさん見てきたので…。
大変なことはそれなりにありますが、「しんどいな」「つらいな」と思うようなことはあまりないかもしれません。
ヘアメイクの仕事以外の活動にも、積極的にトライ!
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岩井さんのスピード感あふれるキャリアは、自分の頭で考える力と素晴らしい行動力がかけ合わさって生まれた
――この仕事を続けて行くために、ヘアメイクの面で取り組んでいることはありますか?
自分なりの“可愛い”を作ること。何かの真似で終わらせず、どこかしらに自分が思う可愛さをヘアメイクに落とし込むようにしています。
――岩井さんなりの“可愛い”とは?
基本的には好きなガーリーの要素をベースに、けれど子どもっぽくなりすぎないバランスを意識しています。抜け感を作るというか、ちょっと大人の色っぽさが垣間見えるような要素を入れることが多いかな。
そのためには、自分の得意なテイスト以外の雑誌やルックなども積極的に見て研究し、引き出しを増やすようにしています。
――ヘアメイク作りに関すること以外で取り組んでいらっしゃることは?
個人的によく行くカフェは仕事に関係ある人たちもよくいるので、私も自然と足を運びますね。加えて都内各所で行われる様々なイベントなどにも、時間があれば顔を出すようにしています。新人として、人脈を広げるのは大事かなと思って。
SNSのアカウントも作っていて、そちら経由でもお仕事につながることも! また、アシスタント時代に一緒に作品撮りをしたカメラマンさんなどから仕事の依頼をいただくこともあって、とてもありがたいです。
またSNSのアカウントだけでなく、YouTubeチャンネルを開設して自ら動画の発信もしています。
――いつ頃から発信しているんですか?
始めたのは、アシスタント時代の1年目かな。上京したばかりでまだ東京に友達もいなくて、バイトもまだしていなかった最初の数カ月間のタイミングです。何か新しいことを始めたいな、と思って。
学生時代から、Instagramのリールというショート動画はよく作っていたんです。そこで、せっかくならYouTubeで配信してみることにしました。
――動画は、主にどんな内容ですか?
ヘアメイクのHowToを中心に、コスメやその関連アイテムのレポなどを。
一般の方々に向けた、比較的簡単で真似のしやすいテクニックが中心です。プロっぽいことはやらず、見る人にとって勉強になりそうなコンテンツ作りを心がけています。
撮影も編集も基本的に自分でやっていることもあり、更新はできる時に無理なくしているので、不定期ですね。
――多才ですね! 美容学生さんなどにとっても、刺激になりそうなことばかりです。
先日、まさに母校(ECCアーティスト美容専門学校)の新入生の前でお話しする機会をいただきました! 学校側からオファーを受けて、昨年に続き2回目になります。
――どんなことをお話しされたのでしょうか?
業界研究の一環としての授業だったので、私が学生時代に取り組んできたことや、卒業後の歩みなどについてです。具体的には、ヘアメイクアップアーティストのアシスタントのなり方やその業務についてや、一人前になるまでの道のり、そしてそれからの活動についてまで、といったような。自分の経験を交えながら、学生時代にどんなことをすると良いのかということも話しましたね。私と同じように、東京に出てヘアメイクの仕事がやりたい人たちに向けた内容でした。
周りの声より、自分の心の声に素直に生きてほしい
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学生時代から一直線にこの道を突き進んできた、岩井さんだからこそ伝えられることがある
――目まぐるしく活躍されている岩井さんですが、今後の展望をお聞かせください。
雑誌のお仕事を、もっともっとやりたいです! 現在もいくつか担当させていただいていますが、まだまだ足りない、もっと私が作る可愛いでいっぱいにしたいと思っています。いつかは、表紙のヘアメイクも担当したいですね。
あとは、自分の力でもっとお仕事をいただけるようにもなりたいな。
――美容業界を目指す方々へ向けて、アドバイスがあればぜひお願いします!
“今”一番やりたいことを、一番初めに挑戦してほしいです!
私が上京する際、周囲の人たちに「東京に行ってもすぐ帰ってくることになる」というようなことをよく言われたんです。「なんでそんなこと言うんだろう」「なんで素直に応援してもらえないんだろう」ってずっと思っていました。
そもそも、故郷に戻ってくるのって別に悪いことではないじゃないですか。やはり、挑戦すること自体が私は大事だと思います。またいつか挑戦できる時が来るかもしれないし、もしその機会に恵まれたら、またその時にがんばればいい。
ただ一方で、焦って“今”始めようとはしなくてもいいとも思うんです。
私は、卒業式の翌日にすぐ上京しました。それは、できる範囲でアルバイトはしても、アシスタントの時期は経済的に心許ないのは避けられないし、ヘアメイクアップアーティストは体力も必要な仕事だと思っていたから。「今しか挑戦できない!」と思い込んでいたんですよね。でも振り返ってみると、「そんなことなかったな」と思うんです。
例えば、美容師になってからではヘアメイクに参入できないのかと言うと、全くそんなことはありません。今は本当に働き方が自由になりつつあるので、自分の準備が整ってから始めるという選択肢もあるはずです。
もしかしたら本当のチャンスはまだ先にあるのかもしれない。もし焦燥感に駆られているなら、改めて自分の心の声に耳を傾けてみてほしいな。これは、私と同じような茨の道を目指す人にこそ伝えたいことかも。
――岩井さんにとって「働く」とは?
シンプルですが、「やりたいことをやる」ということ。
私にとってのやりたいことであるヘアメイクは、仕事というよりも「やりたいこと」をやっているという感覚なんです。
この仕事楽しそうだな、と学生時代からずっと思っていましたが、やってみても本当に楽しいんですよ!
この仕事がつらい、しんどいと感じて辞めてしまう人も、もちろん少なくないです。
でも私は、師匠であるサイオチアキさんが楽しく仕事しているのを、数年間近くで見てきました。そんな師匠の下につけたからこそ、私も自然とこの仕事を楽しめているのかもしれません。
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ヘアメイクアップアーティストの仕事のことや、師匠であるサイオさんのことを、終始本当にうれしそうに、そして楽しそうに話す岩井さんの笑顔は、とても眩しかった
岩井ゆうかさんの成功の秘訣
1.自分の気持ちに正直に生きる勇気
2.類稀なる挑戦心と行動力
3.学びに対する素直さ+自分で考える力
撮影/内田 龍
取材・文/勝島春奈