美容師が行なうサロンワーク以外の仕事!スタイリストですが「ヘアメイク」にもチャレンジします
芸能人の「ヘアメイク」を行なうのは憧れの職業としても人気がありますが、今回は普段サロンワークを行なっている美容師でありながら、ヘアメイクの仕事を兼務し始めたスタイリストの徳永さんにお話しをお聞きしました。一般的には似たような業種に思われがちですが、やはりそこには戸惑いや苦労があったようです。
「美容師とヘアメイクの両立なんて無理でしょ……」と見られていました!
――どのような経緯で、サロンワークをされている徳永さんがヘアメイクのお仕事を始められたのですか?
最初はHONEYヘアメイクチーム所属のヘアメイクさんにお願いする仕事だったのですが、私自身もヘアメイクに興味があり、普段サロンワークをしているスタイリストの私も参加することになりました。特番として収録された「(新番組)放送前スペシャル」を見学し、ヘアメイクに必要な物品を吟味しつつスタートしたという経緯です。担当している番組はインターネットで配信されている情報番組にになりますが、出演者の方は芸人さんからジャーナリスト、アイドルの方と幅広いです。
始めのうちは、私がサロンワークとヘアメイクを兼任するスタイリストだということが知られると、周りの先輩ヘアメイクの方たちから良い印象を受けていなかったと思います。「美容師とヘアメイクの両立なんて無理でしょ……」と見られていたはずです。正直、私もヘアメイクの方を「あなたたちはヘアカット(美容師免許がないので)できないでしょ……」と思って見下していた部分がありました。
ヘアメイクの方の中には、一度サロンに勤めスタイリストを目指していたけれど、やりたいことが違ったと思われたり、美容師免許取得の断念、さらにはアシスタント時代の陰湿なイジメなどが原因で転職された方も多く、サロンワークを行なうスタイリストは良い印象を持たれていません。
ヘアメイクでは基本的にスタイリストが持つ美容師免許は必要ありません。今後必要性が問われる可能性もあると、免許取得のために通信などで熱心に勉強されている方もいらっしゃいますが、全体的に美容師に対するひがみのような感情は伝わってきました。
当初はギスギスしたやりにくい雰囲気も続きましたが、私はヘアメイクとしては新人なので、低姿勢に先輩たちの言葉を聞いて、誰よりも早く現場に着くようにしたり、利用する物品に抜けがないように注意したりと努力したつもりです。どんなに技術が高くても周りの人たちに嫌われてしまっては、お仕事もいただけませんからね。なんとか周りの人たちも認めてくれるようになり、今ではチームワークも良く、楽しく作業ができるようになりました。
サービス業としてのスタイリスト・番組制作スタッフの一部であるヘアメイク!
――サロンワークとヘアメイクでは作業内容や心構えなどどのような点が異なりますか?
サロンワークであればお客さまに予約を入れていただいて、希望の時間に合わせてカットを行なっていくので、施術に対する時間には余裕があります。しかしヘアメイクの仕事では、芸能関係の方を相手にしますので「前の仕事が押してしまったのですが、何とかこの時間までに……」といったことも多く、時間的な余裕があまりありません。
またメイクする相手に気に入ってもらうのはもちろんですが、その方のマネージャーさんなどにも確認していただくので、気を使う機会が増えていきます。こちらの判断で可愛く仕上げれば良いというわけではなく、メイクする相手のイメージも大切なので、何も考えずに作業してしまうと「今日はちょっといつもとアイシャドウが違うね……」といったNGに繋がってしまいます。
最初はものすごく緊張していました……。しかし緊張感も大事ですが、自分の本来の持ち味も出せなくなってしまいますし、ベテランぶっていないと通用しない部分もありますので、思い切りが大事だと割り切りました。担当している番組は生放送なので、途中でメイクを直すことができません。特にヘアセットは、演者さんの食事や着替えなどで、崩れてしまいがちなので、本番まで時間がある時は「きつめに巻いておこう……」など思考錯誤しています。
嬉しい点は、演者さんに自分を覚えてもらえることですね。注意している点としては、施術中はかしこまりすぎないようにしています。この辺りは、お客さまを相手にするサロンワークと変わる点です。演者さんからすると、現場に入ってリハーサルから本番と仕事モードになりますが、ヘアメイクを行なっている時はどうでもよい会話などをしたりと、一番リラックスできる瞬間です。もちろん演者さんが一生懸命練習などをしている時は別ですが、なるべく一緒に楽しくお喋りしながら、施術するようにしていますよ。
サロンワークは、お客さまに接するサービス業としてのスタイリストとなりますが、こちらのヘアメイクでは、一緒に番組を作っていく制作スタッフの一部といった感覚で、スイッチを切り替えて作業をするようにしています。
どちらのほうがやりがいを感じるかと言われると……、スタイリストです。
――ヘアメイクを行なって感じたことやサロンワークに通じる点を教えてください。また、徳永さんはどちらの業務が好きですか?
ヘアメイクを行なう上では、特に芸人の方は収録前の仕事などでメイクを行なっていたり、スッピンでもOKな方が多いので楽(笑)です。若いアイドルの方は、美容の話しにも聞き入ってくれるので楽しいですね。芸能人の方はマネージャーさんも付いていますし、自分の「見せ方」を理解されているようなので、注文も的確で作業もスムーズに行なえるのですが、逆にジャーナリストやコメンテーター、政治家の方はメイクにもシビアな要求をされてきます。自分のイメージや見られ方に相当気を使っているのが感じられます。
辛い点としては……、荷物が多くなりますね。よく「そんなに必要なの」と言われることがありますが、少なくするのは難しいです。例えば普段ジェルは使わないのですが、演者さんから「ジェルが使いたいです」と言われたらと思うと削ることはできません。どんなに荷物が重くなっても、必要なモノがないとできないスタイリングがあります。「それがあればできるのに……」という状況を作ってしまうのは、ヘアメイクとしてはあってはならないと考えています。
他の現場ではギスギスした話も聞きますが、担当している番組では、スタッフのみなさんがすごく優しいので私は恵まれていると思っています。メイクさせていただいている演者さんも、最初は「芸能人って傲慢かな……」というイメージが漠然とありましたが、皆さんすごく低姿勢で周りに気遣いされる方ばかりなので驚いています。芸能界は生き残りも厳しい世界でしょうが、努力や才能は当然として、それに態度や気遣いを怠らない人がメジャーになっていくのだと感じました。
美容師とヘアメイクの仕事を比べると、難しさで言えば美容師かと思います。これはメイクは比較的修正ができますが、髪の毛は切ってしまったら直せないという点が大きいです。しかし色々なヘアメイクさんと関わることで、こんなやり方・考え方もあるのだと発見も多いです。
サロンワークに戻ってくると、確かに落ち着きます。私はやはりスタイリストが本業なので、サロンワークのほうが好きです。しかし今まではメイクを早く仕上げるというのは成人式のシーズンくらいで、シャンプーやカットばかりを普通に行なってきて、その仕事に何の疑問も感じませんでしたが、こういったヘアメイクの仕事をすることで、自分の技術も幅が広がったように感じています。