サービスと技術力で、海外でも戦えるブランドを育てていきたい『SUN VALLEY』
表参道から徒歩3分、周囲には高級メゾンが立ち並び、間違いなく都内の一等地と言える場所にオープンしたのが『SUN VALLEY』。人気サロンair出身の朝日光輝さん、渋谷謙太郎さんがオーナーを務めるサロンで、業界の内外を問わず大きな注目を集めています。
後編では、渋谷さんに人気の美容師になるにはどうしたらいいか、今の美容業界について、さらに今後の目標を伺いました。
これからの時代を生き抜くのに必要なこと
――スタッフの方のモチベーションアップのために取り組んでいることはありますか?
「具体的に働きかけるというよりは、シンプルに自分たちが常に前を向いて、楽しんでいる姿を見せればいいのかなと思っています。やれと言ってもみんな楽しくできないし、やりたいと言われたことを実現するのにも時間がかかるので。あとはどちらかというと若いアシスタントの教育より、店長クラスの教育のほうが難しいと思うんです(笑)。air時代は11人の店長がいたんですけど、アップダウンがあったり、店舗ごとにばらつきがあったりして。それもあって規模を小さくし、スタッフと距離の近い組織を作りたいという思いがあったんですよね」
――渋谷さんとお話していると、「組織」という言葉がたくさん出てきます。これからの美容師は個人の力が必要になるのかなと思っていたのですが、そのあたりはどうでしょうか?
「その通りだと思います。この美容室という箱のなかだったら個人の力はもちろん必要だと思うんですけど、携帯のなかとかパソコンのなかだけで個人の力がメインになってしまっているので、そうなるとちょっと違うかなって。髪を切る以外の業務がパソコンを触っているだけになってしまうと、上達しないし、目先のお客さまが増えたとしても一生付き合っていけるような関係にはならないんじゃないかなと」
――SNSの活用についてはどう思いますか?
「僕はインスタをやってはいますけど、宣伝目的で使ったことはないですね。値引きをしたり、名刺を配ったりしたこともないですし。朝日もそうなんですよね。メディアには出ていたのでその宣伝効果はあったかもしれませんが、今残っているお客さまは紹介できてくれた人がほとんどなんです。SNSも必要かもしれませんが、ずっと残ってくれるお客さまはやっぱり現場からしか生まれないと思います。僕は値引きをしたり、誰かにお客さまを紹介してもらうお願いをするのはダサいと思っていて(笑)。そういう気持ちが強い方がいいんじゃないかと僕は思いますね」
――人気の美容師になるために必要な要素はなんだと思いますか?
「目の前のことを楽しむということじゃないですかね。純粋に美容師という仕事が好きでお客さまといることを楽しんでいれば、勝手に売れていくと思っています。もちろん切るのがうまくないといけないし、人柄もよくないといけないし、不潔じゃいけないし、コミュニケーション能力が高くないといけないし、そういう条件もあるとは思うんです。でも美容師の場合は、お客さまの体に触れる仕事なので、楽しんでいないとか怒っているとか、そういうことが伝わりやすい職業だと思っていて。一番お客さまが望むのは、自分の髪を楽しそうに切ってくれてることだと思います。そういう関係性があれば大きく言うと失敗しても許してもらえると思うんですよね。この人はこういうことをやりたかったんだな、じゃあ次はこうしてもらおうと思ってもらえる。そういう関係性が大切だと思います」
サービスの質と技術力で、海外でも戦えるブランドに
――今後、新卒採用や中途採用を考えているということですが、求める資質はありますか?
「採用はフィーリングみたいなものが大きいと思っています。自分たちと合うかどうかというところですよね。あとはちゃんと将来を見て、適度にギラついた感じがあって(笑)、前向きであればいいなと」
――最後に今後の目標を教えてください。
「やっぱり一番はみんなのステージをいっぱい作ってあげたいということですね。このお店のクオリティとブランドの価値をもっと上げて、海外にも進出していきたいと思っています。海外といってもアジア圏ではなく、目指すのは欧米のファッション文化圏です。デザイン性では負けるかもしれないですけど、日本のサービスや技術というものは絶対負けないはずなので。このお店を作った時に、海外のことはとても意識していて、日本の美容師はシャンプーがとてもうまいので、シャンプー台も売っているもののなかで一番いいものを導入しました。お店のなかにストリートアートを飾っているんですけど、これは海外では主流だけど日本ではあんまりないんですよね。海外と日本のいいところをミックスして作り上げたサロンなんです。今の若い子たちも、小さい頃から英語を勉強していたり、海外に行くことに躊躇がなかったり海外志向が強いんですよね。海外進出も視野に入れているフィールドを作っていくことで、新しい若い子を増やしていきたいという思いがあります。若い子が夢を見て楽しめるような場所で、自分も楽しんでいきたいですね。経営をしていると、何が正しいことで必要なことなのかわからなくなる時があるんです。スタッフのケアや福利厚生、経営者としてやらないといけないことがたくさんありすぎて。もちろんそういうことはきちんとやりますが、一番大切なのは自分たちのやりたいことを貫いてブランドを作るということだと思うんです。自分たちが本当にやりたいことに常に立ち返り、小さな組織の間にいろいろなことを試し、広げていきたいです」