鍼灸師は海外でも需要があるの?アメリカで鍼灸師として働いた時の年収やメリットを紹介
鍼灸師は、取り巻く状況はさまざまありますが、将来性の期待されている職業です。病院の競争率が高まっていることや鍼灸師の技術不足、保険制度や平均年収が低いなどの声もある一方で、健康維持や美容・スポーツの面から、需要も高まっています。
そのなかで、海外で鍼灸をしようと考える人もいるでしょう。鍼灸は日本だけでなく、アメリカなどの海外でも注目されている治療です。
では、日本の鍼灸師が海外で働くにはどうすればよいのでしょうか。日本での資格が海外でも使えるのかどうかなど、不安に思う人も多いはずです。
今回は、主にアメリカの状況を例に取り、海外で働こうと考えている人のために必要な準備やアメリカで鍼灸師になるメリットなどを詳しく紹介していきます。
海外でも鍼は需要があるの?
日本や中国以外で鍼灸をおこなっている国は、有名な国でいうと、アメリカやオーストラリア、メキシコ、ニュージーランドなどがあります。スポーツの分野で取り入れられていることも多く、海外でも需要は高いです。
以下で世界の鍼灸事情について見ていきましょう。
世界鍼灸学会連合会|53カ国178団体
世界鍼灸学会連合会は、53カ国178団体が加盟する鍼灸団体。国際的に鍼灸の学術交流を深め、世界中の人々の健康に貢献することを目的として活動をおこなっています。
活動内容は、特別講習として鍼灸の研究・発表や実技公開・学会誌発行・鍼灸を通じたボランティア活動などがあり、世界的に大会が開かれることも。
また、毎年11月15日が世界鍼灸デーとされて、その日を中心にイベントなどが開催されるほどにぎわっています。
アメリカでは鍼灸の需要が高い!
鍼灸と言えば日本や中国で発展しているというイメージを持っている人も多くいるかと思いますが、実はアメリカのほうが中国や日本よりも盛んになっているのです。
現在、アメリカ国内の鍼灸師は約2万人在籍しているといわれます。その中には日本人もいて、アメリカでの鍼灸は非常に需要が高いといえるでしょう。
アメリカで鍼灸が活発な州は主にカリフォルニア州、フロリダ州、ニューヨーク州であり、これら3州では認知度や受診率も高いため、比較的働きやすいです。
しかし、仕事の環境が整っているため、日本で働くよりも競合相手が多くなってしまう可能性も出てきます。つまり、それだけ鍼灸の技術も身につけていなければなりません。
では、他の州では鍼灸医療が一切おこなわれていないのか、というと決してそうではなく、徐々に認知度は高まっています。
競合相手の少ない州で仕事をすることによって、鍼灸師としての経験が浅くても、自分の努力次第で成功することができるかもしれません。
アメリカで鍼灸師として働いた時の年収は?
国内の鍼灸師の平均年収は約440万円ほどである一方、アメリカでの鍼灸師の平均年収は650~900万円ほどといわれています。なんと日本の1.5~2倍以上です。
場合によっては1,000万円以上を目指すこともできるので、鍼灸師として高収入を得たいなら、日本ではなくアメリカで活動するのも1つの方法でしょう。
鍼灸師が海外で働くには?|海外の免許事情
日本では、鍼灸師が働くためには国家資格を取得していることが条件ですが、海外で働く場合、免許などは必要なのでしょうか?また、日本での国家資格を取得していれば、その資格を元に働くことができるのでしょうか?
日本での国家資格は使えないことも
日本で、はり師やきゅう師などの国家資格を取得していたとしても、国によって法律などが異なるため、海外では無意味になってしまう可能性があります。
海外の鍼灸師として働く場合は、原則としてその国で資格を取得することが必要です。
しかし、鍼灸は海外では浸透していない国もあるため、その国の労働環境や安全状況などを充分に確認したうえで、資格を取得するようにしましょう。
アメリカ|NCCAOMの国家試験か州ごとの試験
鍼灸は海外の国ごとに資格を取得する必要があるとお話ししましたが、アメリカは国家資格といった形での鍼灸の資格はありません。
アメリカは州ごとに法律などが違うため、大きく分けると2種類の資格が存在しています。ちなみに、アメリカの3州は鍼灸がいまだおこなわれていません。
アメリカでの資格のひとつは、カリフォルニア州のみに認可されている鍼灸資格、もう一つはそれ以外の46州で認可されている鍼灸資格です。
カリフォルニア州の試験は一般の方でも試験を受けることができますが、そのほかの試験は医師や医師の指示のもとでないと受けることができません。
他の州での免許を取得したい場合は、NCCAOMの試験を受けることで鍼灸師の免許を取得することができます。
NCCAOMで資格取得するには
NCCAOMの試験は鍼灸学から東洋医学理論、西洋医学理論などから構成されており、どの州で鍼灸をするかによって受ける科目が違います。
NCCAOMの公式サイトには、どの州でどの試験を受ける必要があるのかなどが表示されているので、それを確認してから試験を受けるようにしましょう。
また、この試験を受けるには学校で必要時間を修了し、卒業している必要があります。普通の日本の大学を卒業していれば、漢方医学以外の試験は受けることが可能です。
NCCAOMの試験はアメリカだけでなく、中国や韓国でも受験することができるようになっているので、受験しようと考えている人はどの科目を受けるのか、どこで受けるのかなどしっかりと計画を立てておきましょう。
アメリカで鍼灸師として働くメリット
鍼灸師の仕事は、日本や中国だけでなくアメリカでも発展していることがわかりました。つづいては、アメリカで鍼灸師として働くメリットを見ていきましょう。
年収アップを目指せる
前述したように、鍼灸師の給与水準は日本よりアメリカのほうが高いです。そのため、アメリカで働くことで収入の増加を目指せます。年収が2倍以上になる可能性も秘めているので、積極的にアメリカ進出をおこなう鍼灸師も多いようです。
需要が高く、活躍が見込める
鍼灸治療は、アメリカ国内全体で認知度が上がっています。
たとえばスポーツの分野では、コンディションを整えたり治療したりする手段として需要が増加。また、コロナ禍で負担の大きかった医療従事者が数多く訪れていたり、ロサンゼルスの街中に美容鍼スパが多数できていたりと、人々の関心が高いことがわかるでしょう。
それほどアメリカ国内でのニーズが高いので、大いに活躍できることが期待されます。
アメリカで鍼灸師として働くデメリット
アメリカで鍼灸師として働くことには、前章のようなメリットがあります。しかし、その反面デメリットもあるので、確認しておきましょう。
言葉の壁がある
いざアメリカで働こうとなっても、大きく立ちはだかるのが言語の壁です。アメリカで働くのであれば、当然のことながら英語は必須。
相手が訴える心身の状態を把握するにも、自分が治療内容などの説明をするにも、高い英語力(聞き取る&伝える能力)が求められます。日常会話ができる程度では不充分な場合があるので、スムーズな意思疎通ができるように英会話をしっかり身につけましょう。
さらに、日本で働く場合と同様に、丁寧なコミュニケーションをおこなうよう心がけるのも大事です。
文化の違いに対応する必要がある
言語の壁とあわせて注意したいのが、文化の違いです。アメリカは日本とは文化が異なるため、鍼灸治療への考え方なども違います。また、州によってもお客様の性質が違う場合もあるため、文化の違いに応じた対応が求められるでしょう。
アメリカでやる、と決めたからには、きちんと相手の文化を尊重し、受け入れなければなりません。
海外で働きたい!と思ったら
海外での鍼灸医療の需要の高さを知ると、せっかくなら海外で働きたい!と考える人もいると思います。
海外で働くということはその国に移住することになるので、当然ですがビザが必要です。また、移住する国の言語を話せるように勉強するなど、生活をするための準備は欠かせません。
とはいえ、生活するための準備に夢中になってしまっては本末転倒です。本当の目的の、海外の鍼灸師として成功するために、大切な準備3つをチェックしていきましょう。
1.国の事情と資格取得を調べる
上述した通り、鍼灸医療をおこなっている国は53カ国も存在しており、その国によって法律なども変わってきます。
現在急速な発展を遂げているメキシコは、日本企業も多く存在しているため馴染みやすく、就職を考えている人も少なくないはず。
しかし、メキシコでは、鍼灸の施術でおこなわれる切皮と呼ばれる行為と、メスで切る行為が同じ扱いとされるため、鍼灸師の免許と医師免許の2つが必要になります。
また、カナダでは、州が独自に制定した資格を取るために、専門の学校に通う必要があります。
このように、必要な免許も取得する方法も国によってすべてがバラバラです。しかしこれは、選ぶ選択肢がいくつもあるということなので、よい選択をすることができれば成功にも近づきます。
どの国で、どのような事情でどの免許が必要で、どうやって資格を取得するのかをしっかりと調べておきましょう。
2.就労ビザも忘れずに
海外に暮らすとなると、ビザが必要になることはご存知のことかと思いますが、日本の場合ビザなしで入国できる国が多くあるので、ビザを取得したことがないという人もいるのではないでしょうか。
しかし、働くには通常のビザと違った「就労ビザ」を取得する必要があります。就労ビザを取得せずに海外で働くと不法就労になってしまうので、必ず取得しましょう。
国によっては、就労ビザだけでなく、他のビザも取得しなければならない場合もあるので、その都度確認してください。また、ビザの取得条件も国によってさまざまで複雑です。
取得条件の第一は、就職先に内定していることです。多くの場合は就職先の企業がスポンサーとなり、ビザの取得をサポートしてくれます。費用なども基本は企業が負担してくれるので、金銭面の心配はいらないでしょう。
とはいえ、内定先が決まっていても、確実にビザを取得できるわけではありません。日本での職歴が数年必要な場合や、大学を卒業している事が条件になっている場合が多いです。
しかし、明確な基準のない項目なども存在するため、ビザの申請は慎重におこなうようにしましょう。
3.求人情報はこまめにチェック
海外で鍼灸師として働くには、資格やビザの取得などの準備を万全にしておくことが大切とお話ししましたが、それだけでなく、求人の情報に目を光らせておくことも大切になってきます。
自分に合った求人を見つけられるよう、求人サイトだけを見るのではなく、鍼灸治療が必要そうな職場を調べてみる必要もありそうです。
しかし、いくら調べても納得のいく就職先が見つからない、という場合もあるでしょう。それでも海外の鍼灸師として働きたい、という思いが変わらない人は、ボランティア活動をするという選択もあります。
ボランティア活動ゆえ、給料をもらうことはできません。しかし、活動していく中で鍼灸師としての経験を積み、技術を向上させることができます。そこから仕事を紹介してもらえる可能性もあるので、やってみて損はないでしょう。
アメリカで鍼灸師として年収アップを目指すポイント
ここまでの内容でもお伝えした通り、アメリカで鍼灸師として働くと高収入が期待できます。しかし、ただ働けばいいわけではないので、年収アップを目指すためのポイントを押さえてみましょう。
きちんと計画を立てよう
無計画で渡米して、鍼灸師の求人を探す人はさすがにいないでしょうが、日本にいる間にしっかり下調べをして計画を練ることは非常に重要。
アメリカでは、州によっても資格の取得方法が違うため、どの州で働くのか、どのような資格が必要かなどを調べ、念入りに計画を立てる必要があります。
鍼灸師としてのスキルアップをしておこう
お客様を治療するための技術が求められることは、日本もアメリカも同じです。アメリカでは年収水準が高いぶん、より高い技術力が求められる可能性もあります。
そのため、アメリカに渡る前、日本で働いている間に、しっかりと施術のスキルを磨いておくことが大切だといえるでしょう。
高い英語力を身につけよう
前述のように、アメリカで鍼灸の仕事をするには英語力が欠かせません。お客様と長いつき合いになる場合も多いため、高いコミュニケーション能力が求められます。
日本人鍼灸師であっても、アメリカ人のお客様に十分に対応できる英語力があれば、良好な関係を築けるでしょう。そのため、しっかりと英語のスキルを身につけておくことが重要です。
海外で鍼灸院のほかに働ける場所はどんなところがある?
最後に、アメリカなどの海外で鍼灸院のほかに鍼灸師として働ける場所の例を紹介します。
NGOに所属して働く
NGOとは「非政府組織」のことで、世界にさまざまなNGO団体があります。
たとえば、国際医療技術財団JIMTEFでは、国際貢献活動として覚書を締結して、ベトナムでの医療向上及び人材開発などをおこなっています。
この他にもベトナムに調査団を派遣し、現地のニーズを把握したり医療制度を確認するなどの活動もおこなっています。
また、大々的にセミナーがおこなわれることもあり、ベトナムの鍼灸師を教育するために、日本の鍼灸師が活躍しています。
JIMTEFに所属することによって、鍼灸医療をおこなうことだけでなくプロジェクトを企画したり、発展途上の土地に足を運び鍼灸を通じて様々なことを体験することもできます。
JIMTEFの活動は鍼灸術プロジェクトに加え、柔道整復術・歯科技工プロジェクトなどがあり、鍼灸に限らず人助けをしたいという思いを持った人にはよい選択かもしれません。
豪華客船で働く
世界中を旅する豪華客船で働くという選択肢もあります。自分も一緒に船に乗り込み、クルーズに参加した乗客に対して施術をおこなう仕事です。豪華客船で働く場合、客船会社に所属する必要がありますが、ビザを取得する手間を省くことができます。
アメリカなどの海外で鍼灸師として活躍を目指そう
日本の鍼灸は、鍼の痛みを軽減するために、非常に細い針を用いて施術をおこないます。痛みを伴わず高い効果を得られることのできる日本の鍼灸は、海外で多くの注目を集めています。
特にアメリカでは鍼灸師の需要が多く、年収も日本より高い傾向であることがわかりました。語学力や文化など大変な部分もありますが、美容やスポーツの分野でも輝ける可能性がある仕事です。
海外で鍼灸師をしてみたいと思っている人や、日本の鍼灸の仕事で不安を感じている人は、ぜひ今後アメリカなどの海外で活躍を目指してみてはどうでしょうか。
引用元
jobtag|はり師・きゅう師
外務省|ODAとは? 国際協力とNGO