独立するなら、お世話になったサロンから応援してもらえるような関係性を 独立を目指すあなたへ vol.8【メゾンツムギ 吉沢ジュンさん】#2

独立経験者の体験談から、独立・開業を学ぶ本企画。前編に引き続き、『メゾンツムギ』代表の吉沢ジュンさんにお話しを伺います。

20年勤めた大手サロンから独立し、居心地のいいコンパクトなお店をオープンした吉沢さん。後編では、オープンから1年の様子と、今後の展望についてお伺いします。

最初の1年は、サロンの基礎作りの1年

『メゾンツムギ』代表・吉沢ジュンさん。大手サロンLIPPSに20年勤めたのち、2019年1月に『メゾンツムギ』をオープン。

――オープン後、大変だと感じたことはありますか?

スタイリストそれぞれにキャリアがある分、お客様に「前のほうがよかった」と思われたらアウトですよね。そういうプレッシャーみたいなものは感じていたと思います。

ある意味、前サロンは完成された空間だったので。とにかく、前の自分たちを下回ってはいけないなと。そこは1年経っても、いまだに手探りというか、自問自答しながらやっていますね。満足いただけたかの答えは、お客様を担当したときの手ごたえとか、また次に来ていただけたかどうかに尽きると思うんですが…。

だから、この1年やってきたことは、新規の方をたくさん呼ぶとか、プロモーションをどうしようとか、そこじゃないんですよね。長年のリピーターの方も多いので、まずは100%その方々に注力していくしかないなと思って。それをしなかったら、自分たちの想いは絶対にお客様には伝わらないと思ったので、この1年は既存のお客様に満足していただくことを第一にやってきました。

――土台をつくる1年だったんですね。

そうですね。仕事観でいうと、「職人であろう」というのが土台にあるんです。

僕たちは、「スタイリスト」ではなく「クラフトマン」という肩書きで自分たちのことを呼んでいます。クラフトマンって、基本的には物づくりの世界で使われる言葉なんですけど、自分たちが職人であろうと思ったときに、ちょうどいいなと思ったんです。サロン名である『メゾンツムギ』の、糸を紡ぐ(つむぐ)という言葉ともかかっているんですけど。

クラフトマン、職人として、その時その一人の髪のことだけを考えて、誠心誠意つくすこと。例えば1日10名のお客様を迎えるとして、そういうとても大切にした仕事が、10回ある感じでやっていきたいんです。

だから、このお店になってからは、1時間に1名というスタイルに変えさせていただきました。とにかく、その時間、その一人に注力できるように。その枠のなかで、「よかったな、また来よう」と思ってもらえるような仕事をしていきたいと思っています。

1時間に1人のお客様に注力するため、シンプルで居心地のいい空間に仕上げたサロン鏡面。

――今後の展望は?

経営面はまだ勉強中なんですけど、1時間1人の営業でも、ちゃんと運営できて、プラスがしっかり出て…っていう状態を作っていくのは、僕の責任です。ありがたいことに、今のところはクリアできているので、この状態を続けていけたら…。

ただもう、本当に「驕らない」こと。コツコツやっていくだけですよね。お客様と仲間にとって、いいことをしていくサロンであろうと。

そのためには、まず技術が絶対に必要ですよね。美容師っていうのは、髪型を通してお客様の役に立つことが仕事なので。だから、お客様にとっての「いいこと」って、クオリティの高い技術やセンスを、きちんと提供できることなんです。それは大前提で。

そして、おもてなしの気持ちも大切です。それには、やっぱり人間性が整っていないといけない。だから、人間性をみんなで高めていこうというのも、大切にしていきたいことです。当たり前のことなんですけど、その「当たり前」をしっかり続けていけるようにしたいですね。

――「みんなで」ということですが、それはアシスタントも含め?

もちろんです。今は『メゾンツムギ』の土台を、とにかくしっかり作っている時期なんですが、次の段階っていうのが、アシスタントがスタイリストに上がるとき。僕はあまり先々を考えないように、今に注力するようにしているんですけど、展望として一番近い未来、絶対に準備しておかなきゃいけないことはそこなので、それに向かって必要なことはやっていこうと思っています。

例えば教育面で大切にしていることは、その子に合った教え方、その子のいいところや得意なものを考えることです。興味のあるデザインや技術に紐づけして教えていくことで、今している練習の先には、その子が好きなことにつながっていくんだよというのを教えてあげることですね。

あとは、出口を明確にすること。LIPPS時代、若手が辞めていくとき、「先が見えない」という子が、思いのほか多かったんです。それを改善して、教育システムを変えたことで、今のLIPPSがあるんですよね。だから、先が見えること、上達がわかるようにしてあげることっていうのは大切にしています。

そして、彼女たちがスタイリストになったとき、どうしても席が足りなくなるんです(笑)。なので、そのときまでに次の店舗が用意できる体力を準備しておくことも、今からしておけることのひとつですよね。今とくに、アシスタントを含め、お客様との距離感とか『メゾンツムギ』のスタイルを、みんな気に入ってやれているので。彼女たちがデビューしたときに、同じような形態で席を作ってあげられる展開ができたら…と考えています。

今はまだ「熱中のただなか」で、走り続けたい

「まだ1年目。熱中のただなかに身を置いて、また走り続けていきたいです」(吉沢さん)。

――オーナーになってよかったと思うことは?

正直まだ、オーナーとして「よかった」ということはないです。まだ1年なので、今はまだよかったも何も…という感じで(笑)。LIPPSにいたときも、終わってみて「あぁ、すごく幸せだったな」と思えたんですけど、熱中している20年間って、そんなこと思ってもいなかったんです。今のことに精一杯というか…。

だからまた今、夢中な状態でいるっていうところなのかな、と思います。いつか何かのタイミングで振り返ったときに、「よかった」と思えるように、今はひたすら頑張るしかないなと思います。

――「あえて先々を考えない」というのも、今を大切にされているからでしょうか。

本当は、ちゃんと出口をしっかり考えて、そこに向けてプロセスを決めて、進んでいくのが一番いいと思うんですけど(笑)。なんかこう、短距離走を続けていくような感じが、僕はよくて。常に自分を熱中の直中に置くというのは、自分の中では大切にしていることですね。先々のことは、3年やってみないと見えないかな…。最初の3年は土台作りだと思っているので、そこを終えてやっと見えてくるのかなと思うんですけどね。

――40代での独立で、よかったなと思うことはありますか?

40代だからよかった、ということは感じないですね。ただ、本当にそれまで独立しようということを1mmも考えたことがなかったので、そう思えていたことはすごく幸せだったと思いますし、その経験があるから、自分もスタッフのみんなにそう感じてもらえるように頑張りたいなと思えているとも思います。

前サロンで、若い子が退社したいと話してくると、「なんでそう思わせてしまったんだろう」っていうのをすごく考えました。その経験も、40代だから持てている財産だと思うので、活かしていけたらいいですね。

独立を目指すあなたへ

「独立をするなら、お世話になったサロンから、ちゃんと応援してもらえるような関係性にならないといけないのかなと思います。何年勤めたかということではなく、その年数のなかで、どういう関係を保てたかが大切。とにかく世間は、というか美容業界は狭いですから。もし若いうちに独立する場合でも、最低限の不義理はないようにしたほうがいいのかなと思います。」(メゾンツムギ 代表 吉沢ジュンさん)

▽前編はこちら▽
独立を目指すあなたへ vol.8【メゾンツムギ 吉沢ジュンさん】#1>>

取材・文/山本二季
撮影/高嶋佳代

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Salon Data

MAISON TSUMUGI(メゾンツムギ)

住所:東京都港区南青山5-4-43 市来ビル1F
TEL:03-3409-6908
URL :https://www.maisontsumugi.com/

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