【美容師のカット技術】Tierra 三笠竜哉さん流『似合わせカットの極意』#1
美容師業界では、『似合わせの匠』との呼び声も高いティエラの三笠さん。その技術力、そして似合わせ力を学ぼうと、日本各地はもちろん、アジア諸国からもセミナーのオファーが絶えないそう。そんな三笠流の似合わせカットが確立していくまで、さらにはそこから生まれるデザインへのこだわり、テクニックを取材しました。
前編では、技術力を高めるために取り組んできたことや、似合わせとトレンドヘアのバランスなど、三笠さんの美容師人生エピソードと共にお届けします。
Tierra 三笠竜哉さんインタビュー
ひたすら練習に明け暮れた若手時代…あることに気づく
——まずは、美容師になったきっかけを教えてください。
学生の頃、友達のお兄さんですごく憧れていた人がいたんですけど、その人が美容学校に行ったというのがきっかけで、美容師という職業に興味を持ち始めました。そもそも、物作りには興味がありましたね。建築士とか、技工士とか、パイロットとか、お坊さんとか…、何かを突き詰めるような仕事がしたかった。そういった技術職と、美容師という職業がハマった感じです。
僕は北海道出身なんですが、やるとなったら絶対に東京でやる! と心に決めてました。北海道でも美容師はできた、でも技術を極めて職業として成功を目指す以上、東京でやらないと意味がないと。北海道の美容学校を卒業して上京、都内の有名店に入社しました。
——若手の頃は、どんなことを意識していましたか?
若い頃は、もうとにかく練習。技術を突き詰めるのが好きだったので、なおさらです。朝から晩まで練習して、終電で帰るみたいな生活。日によっては、そこから先輩に飲みに連れて行ってもらったり、遊びに行ったりもしてた。同期もストイックな人たちが多くて、すごく刺激を受けたし、自分も打ち込んで頑張れたのだと思います。その当時すごく意識していたのは、目的を持って練習すること。ただやるんじゃダメ。時には自己分析して、目標や課題を自分なりに作って取り組むのが本当に大事。それは今でも同じです。
技術を磨きながら、デザインを競うようなコンテストで賞をとるのも目指していました。超アバンギャルドな作品も作ったりして。そういう中で気づいたのは、例えデザインで賞をとったとしても、いざサロンワークに戻るとお客さんは意外と少ない、これってどうなんだろうか? デザイン性の高いスタイルは、一般の女性が求めるものとは違う。そう考えた時に、これでは将来的に美容師として売れないのではないかと。そこからシフトを切り替えました。デザインを追求する「作品」から、『似合う』という「商品」を徹底的に作って行こう、そうシフトチェンジして再スタート。スタイリストデビューしてから3年目くらいの時でした。
——デザインの切り替えをしてから変わったことは?
技術としてのベーシックなことよりも、その人をどう素敵に見せるか? というイメージを考えるようになりました。技術やプロセスを重視していた時は、スタイルを作っていく上で、ゼロから始まって、ひとつできたら1、次は2…慎重に完璧に積み上げていくんですよ。それも完成度としては高いものになるのですが、そうすると、仕上がりが具体的にイメージできてないから、どうしても切ったままの固い感じになってしまう。逆に、仕上がりのイメージが先にきちんとあると、ベーシックな技術は使う部分と使わない部分が出てきたりもして。それが結果的に、自然体で可愛い、という風になっていくのかなと思います。
仕上がりのイメージ力というのは、やはり感性の部分。感性を磨くという意味では、いろんな女性としゃべりましたね。女性目線の可愛いという感覚も、最初は全然ピンとこなかったけれど、実際に意見を聞いたり話すことで、男とは発想が全く次元が違うんだな~(笑)とか、いろんな気づきがありました。
あと、技術は「左脳」、イメージは「右脳」だったと思うんですが、左側の指先を使うと右脳が活性化されると知り、二十歳くらいの時からずっとスマホを左手で操作しています。
——仕上がりをイメージするには、感性を磨くことも大切なんですね。
技術と感性、両方大事だと思います。ただ、最初は技術から入って磨いていくのがいいと思います。やはり技術の基本がしっかりないと、その人にハマるかハマらないかというのが見えてこないんですよね。少し骨格からずれてしまったり、髪と全身バランスがいまいちフィットしないとか。そうなった時に、技術が足りないとそこで終わってしまう。対応力や応用力を身につけるためにも、技術=練習は必須。技術あっての感性です。
似合わせ=その人の魅力を最大限に引き出すこと
——三笠さんのスタイル作りのこだわりは?
基本的に、「お客様が周りの人から褒められるデザイン」というのを意識しています。自分が気に入った髪型で、なおかつ、周りからも褒められるって誰でもうれしいじゃないですか。僕は、『作品』から『商品』を作っていこうとデザインを切り替えたわけで、商品というのは売れるものでありたい。売れるためには、お客様自身も周りの人も納得させるデザインが必須で、そういうスタイルを作るにはその人の魅力を引き出すことが必ずポイントになってくる。つまりそれが「似合わせ」なんです。
——「似合わせ」カットはどのように作られていくのでしょうか?
その人に似合っている素敵さ。それが自然に表現されているスタイルがベストだと思うんです。そこを目指すには、洞察力。僕はお客様を見た時に、まず4分割で捉えます。①可愛らしい雰囲気、②セクシーな雰囲気、③モードな雰囲気、④ナチュラルな雰囲気といった4つのイメージから、その人が当てはまる雰囲気を2つくらいに絞る。この人は一番ナチュラルっぽいな、そして可愛らしさをちょっと足したらいいバランスになるな、というのをサロンワークで詰めていく感じ。そもそも持っている雰囲気の中に、違うタイプのスパイスがうまく入っていくと、魅力がより引き出されるというのはありますよね。
——トレンドと似合わせのバランスについてはどう考えますか?
僕がヘアのトレンド提案する時は、まずモデルさんに似合うスタイルを考えて、その中にトレンドのエッセンスを織り交ぜていきます。どんなに新しさがあって可愛くても、その人に似合っていないと、人は「良い」と思えない。逆に、すごく似合っていることで、それがお洒落に見えたりトレンドと感じてくるんですよ。似合っていること+トレンドのエッセンスが入っている=これが最強だと思います。
——では、今回ご提案いただいたスタイルについて教えてください。
これまで、わりとストリート色の強いスタイルが流行ってきたと思うので、そこに女性らしいニュアンスを少し足すようなイメージが次のトレンドかなと思っています。もちろん、『似合わせ』前提。今回のモデルさんは、もともとモードとかカジュアルな雰囲気を持っていて、そこに+女性らしさを溶け込ませるにあたり、前髪の透け感だったりシルエットや毛先に曲線を演出してみました。
三笠さんが提案する『似合わせカットで作るエアリーボブ』
あご上ラインのボブベースに、表面に動きをつけやすいようにカットで調整、同時に質感もコントロールしていく。今回は、ワンレングスから透けるような前髪を作ることで可愛らしい印象をプラス。軽く巻いて、無造作に漂うような動きを出している。
三笠さん流『似合わせカットで作るエアリーボブ』のいいところ
1.ボブでも女性らしい柔らかい印象に見せられる
2.大幅にカットしなくてもお洒落な雰囲気がアップ
3.似合わせカット=褒められるスタイルになれる
デザインの追求から、女性たちが本当に求めるヘアスタイルを作っていこう、そうシフトチェンジすることで、「似合わせ」の大切さに気づいた三笠さん。理論と感性の両方を絶妙なバランスで組み立てながら生まれるスタイルは、技術をとことん磨いてきたからこそできる技。後編では、そんなカットのプロセスを詳しく教えていただきます。
▽後編はこちら▽
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取材・文:青木麻理(tokiwa)
撮影:米玉利朋子(G.P.FLAG)
ヘア:三笠竜哉(Tierra)
メイク:中村美侑(Tierra)
モデル:バロウズ春那
教えてくれたのはこの人!
三笠竜哉さん
Tierra 代表取締役
2007年4月7日に「Tierra」を設立。代表としてサロンに立つ傍ら一般誌や業界誌の撮影、国内外セミナー、商品プロデュースなど多方面に才能を発揮。独自の感性から創り上げるデザインには顧客はもとより著名人、多業界からも多く支持されている。自身の著書「恋が叶う愛されヘアの習慣」(講談社)を出版。
インスタグラム:@mikasa_tatsuya