2020年まつエク業界の傾向とトレンド 年々上がるアイリストの注目度

美容業界の中でもまだ歴史が浅いと言われるまつエク業界。世界的に見てもまだ20年の歴史しかなく、日本ではまだ普及しはじめて18年ほどになります。そのため、まつエク業界についてよくわからないという方も多いことでしょう。まつエクの施術をおこなうアイリストという職業は、新しい職種だからこそ、近年面白い進化をとげており、美容業界内でも注目されています。

今回は、そんなまつエク業界の現状や課題、注目すべきトレンドなどを、一般社団法人 日本アイリスト協会で代表理事をつとめる、志太 しおん(しだしおん)さん、同協会で名誉認定講師をつとめる福井 チワコ(ふくいちわこ)さんに話を伺いました。

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美容師国家試験でまつエクが出題! 美容業界としての注目度もアップ

まつエク業界の注目度が上がってきたことについては、今年2020年2月27日に実施された『第41回美容師国家試験』の問題52にて、まつエクについての設問が初めて出題されたことが挙げられます。

問題52 まつ毛エクステンションに関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)まつ毛エクステンションのリペアは、個人差はあるが、通常2~3週間で行う。
(2)衛生面を考えてアイメイクアップは取り除いて施術する。
(3)エクステンションの装着は、まつ毛の成長期は避け、成長期の終わりから退行期が始まる時期が最適である。
(4)グルーやリムーバーによるアレルギーは、施術後、数分で必ずあらわれる。

出典元:週刊「スタイリスト情報」

「基本的に、美容師国家試験の美容理論についてはカットやパーマなど各分野から1~2問ずつの出題です。その中にまつエクについての設問が入ったということは、学生にとってまつエクは勉強しなくてはいけない科目になったということです。

試験に盛り込まれるとなれば、学生たちの取り組む意識も変わります。美容学校としても、まつエクの授業がおまけではなくなるという点で、まつエクの注目度はあがったといえます。」

まず、アイリストという職種は、ネイリストと同様に国家資格なしで就くことができました。しかし、目のまわりの施術であり、未熟な施術でのトラブルが複数発生したことから、2008年に厚生労働省から「まつ毛エクステンションによる危害防止の徹底について」という通達発令と共に、美容師免許の取得が義務化されました。

先述したようにまつエクはまだ歴史が浅いということもあり、美容師にとっては後付けの職業です。そのため、美容学校でもまつエクについては認識の低いポジションでした。

今回の美容師試験でのまつエクの出題は、美容業界でまつエクの認識が高まったことのあらわれであり、地位を向上させたといえるでしょう。

現在の課題はまつエク業界内の横の連携と人材不足の解消

美容師国家試験での出題でもわかるように、美容業界で少しずつ地位を固めつつあるまつエクですが、まだまだ課題は残されています。

そのひとつが、まつエク業界内での横の連携です。元々、まつエクは韓国から入ってきて徐々に浸透していった技術であり、資格も必要なかったため、手探り状態の中で協会や手技が複数生まれ、各々が人材を育ててきました。そのため、技術や指導方法にばらつきがでてしまっています。

「店舗の場合、スタッフが習った技術がまちまちで、技術が統一されていないサロンがたくさんあります。協会団体も複数ありますし、メーカーの指導も企業により異なります。色んな勉強の場があるため、基本的なまつエクを除去するオフ作業の仕方や用語も統一されていません。

例えば、まつエクの取り外しひとつとっても、工程の呼び方が「オフ」「リムーブ」「取り外し」など、人によってバラバラです。この件については、どの団体のトップの方も同じことを思っていて、必要最低限は統一していこうという動きはあります。」

知識や手順の統一は、これから学ぶ方の混乱を避けるためにも必要といえます。また、業界内で基本的な技術や用語が統一されていくことで、サロン内での技術差や認識のずれをうめることができ、効率化をはかれるといえるでしょう。

年々深刻になる人手不足は新卒の確保で解消できる

まつエク業界において、現在もっとも深刻なのは人手不足です。一番大きな原因は2008年の美容師免許取得の義務化にあります。当時、大部分の方は美容師免許を持っていませんでした。

美容師免許の取得には昼間課程の専門学校に2年間通うか、通信課程の専門学校に3年間通うかのいずれかでしか受験資格を得ることができません。義務化までに猶予期間はあったものの、これまでアイリストとして働いていた方の離脱が目立ちました。

さらに、これまでエステティシャンや専業主婦など、手に職をつけたいとまつエク業界にチャレンジする方が多かったのに対し、美容師免許の保有はアイリストへのハードルを非常に高いものにしてしまいました。

その一方で、美容師免許保有の義務化により良い効果も生まれています。

「日本アイリスト協会の会員数は、美容師免許が必要になった際にがくっと減りましたが、そこから落ち着いています。個人正会員加入も、美容師資格を必須にしたことで会員の質があがりました。」

アイリストの技術水準が上がったことで、結果としてトラブルも減り、美容業界内でもきちんとした地位が築けました。順調にまつエクが世間に浸透して人気がでたからこそ、減ったアイリストの人数に対し、まつエク希望のお客様は年々増えています。それが慢性的な人材不足を招いています。

美容師という限られた条件の中で募集をかけるにあたり、今後注目すべきは、これから進路を決める新卒と、セカンドキャリアを考える美容師です。

まず新卒については、美容学校でまつエクについて触れる機会ができたため、授業の中でまつエクに興味をもつ学生もこの数年で増えてきています。

「専門学校で授業を教える中で、まつエクの授業が楽しくて、美容院での内定が決まっているのにやっぱりまつエクのサロンに変更したいという学生さんもいます。

実際、まつエクサロンでも新卒の受け入れをおこなっているサロンは一定数あり、新卒でも3カ月で売上を作れる人材に育っています。規模の小さいサロンでも、自治体の助成金活用や外部講師を派遣してもらうことでサロンの負担は大幅に軽減することができます。きちんとした研修体制が作れれば、新卒をアイリストとして育てることは十分に可能です。」

また、美容師は離職率が高い職種としても知られますが、その原因として、下記が挙げられます。

出典元:インテリジェンス anレポート
資格があっても働かないのはなぜ? 理美容界の人材不足、その解決法を探る

拘束時間や勤務体系については結婚や出産を考える女性にとっては譲れないポイントになりますし、手荒れやアレルギーによるやむをえない退職については、美容師という職業自体が難しくなります。まつエクであれば予約ベースでのスポット勤務もしやすく、美容師のような薬剤を使用することもないので、技術さえ習得してしまえば支障なく働ける点がメリットです。

こういった新卒育成の取り組みや、美容師を離脱した方のセカンドキャリアの受け皿となるようなアイリスト業界全体での体制作りが、今後のアイリストの人材不足解消の大きなカギとなるといえるでしょう。

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2020年のまつエクトレンド! 売上のカギは40代顧客とニュアンスカラーまつエク

2020年のキーワードとしては、「すっぴんでも違和感のないナチュラルまつエク」が挙げられます。まつエク=盛るというイメージが長年定着していましたが、ここ数年でナチュラルなデザインのまつエクが非常に増えています。

そのひとつの要因として、メイクの方向性がナチュラル志向に進んでいることが挙げられます。「すっぴん風」や「抜け感」など、作りこんでいない美しさに重きがおかれるようになり、必然的にまつエクでもメイクとバランスのとれるナチュラルな雰囲気が求められるようになってきました。

また、もうひとつの要因としてはまつエクの年齢層が高くなってきていることが挙げられます。これは晩婚化や仕事を続ける女性が増えたことから、美容にお金をかけられる年齢が上がってきた影響が大きいといえます。

「最近では40代・50代のまつエクが増えてきました。年齢を重ねてくると、目元が寂しくなってくるのでまつエクをつけたいという要望を多く聞きます。そのため、若作りにならない、ナチュラルですっぴんでも美しくというオーダーが多いです。」

目元がしぼみ、まつ毛自体も少しずつ細くコシがなくなるアラフォー世代以上にとって、目元の華やかさは切実な要望です。

この世代は値段や毛量ではなく仕上がりの美しさを見てリピーターになるので、アイリストは40代以上にもバランスの良い上品なまつエクをつくる技術と提案力が必要とされています。

注目はニュアンスカラーまつエク! 必要とされるのは全体バランスでの提案

ここ1~2年での大きな動きとしてはニュアンスカラーの毛を使ったまつエクが挙げられます。
これは美容師出身のアイリストが増えたことが大きく影響しています。

「カラーまつエクの流行としては、ヘアとまつエクの統合サロンが増えたことで、まつエクの提案の幅が広がったことが大きな要因です。美容院では髪の毛だけではなく眉毛、メイクのアドバイスをおこない、さらに店販で化粧品も売っています。

髪のカラーと一緒にまつ毛や眉毛の提案をおこなう美容院が増え、ヘアカラーや眉カラーと一緒にまつエクの色合わせも提案もしているので、カラーまつエクの需要が伸びているのだと考えられます。ディーラー(卸商社)からも、サロンさんからまつエクのカラーバリエーションを増やしてほしいとの要望が多いという話を聞きます。」

美容師は、顔の形や骨格を見ながらカットを行うので、目に集中するアイリストよりも全体のバランスをみての提案を得意としています。イルミナカラーをはじめとするアッシュカラーのヘアカラーブームの影響もあり、数年前と比べてニュアンスカラー、特にアッシュカラーのまつエクの種類が増加傾向にあります。

また、先述した「抜け感」のあるメイクにもニュアンスカラーはなじみやすく印象もやわらかくなるので、その点も人気に拍車がかかっているようです。今後、アイリストには髪色や雰囲気に合わせた全体バランスでの提案が求められているといえます。

海外のまつエク事情から見る日本のまつエク業界の伸びしろ

日本ではこのようにナチュラルなまつエクが定着しつつありますが、海外では、全く違う進化を遂げています。元々韓国で発祥したまつエクですが、韓国から日本に伝わるのと同時に、ロシアでもブームが広がっていきました。元々骨格がはっきりしているロシアでは、より華やかなデザインが好まれ、それがロシアンボリュームとして人気を博し欧米にも広がりを見せています。

日本では知名度のあるアイリストはまだ少ない状況ですが、ロシアやヨーロッパではアイリストはアーティストとしての立ち位置を確立しており、社会的地位も高いのです。

「日本と違い、ヨーロッパでは1人あたり2~5万の施術料をとることが普通で、作品としてのまつエクも多く支持されています。海外ではまつエクのコンテストも毎月のように実施されており、アメリカでも去年あたりから盛り上がりを見せています。

日本人でも、海外のコンテストで実績をつくり名前を上げることもできるようになってきたので、アーティストとして日本のまつエク業界を伸ばしていくというのも今後はおもしろいと思います。」

日本ではまつエクはサービス業であり、競合が複数あるエリアでは価格競争になってしまっているサロンも多く見られます。1時間で3000円未満で施術を行うサロンもあり、そのような価格設定は結果的にスタッフの給与も安くせざるをえず、優秀な人材の育成ができなくなってしまいます。

海外のアイリストのように、日本でも最近はセルフブランディングできるアイリストが増えてきて、自らSNSに作品としてアップし、アーティスト的なポジションで活躍する人が増えてきました。特に若年層はSNSの活用や海外へのチャレンジの点でベテランアイリストに負けない強みを持っているといえます。

まだ歴史が浅いからこそ自由度は高く、日本のアイリストも海外のまつエクアーティストのように、たくさんの可能性を秘めているため、働き方を含め、今後の伸びしろが期待できる業界です。

※「アイリスト」は有限会社ローヤル化研の商標です

出典元:
厚生労働省 まつ毛エクステンションによる危害防止の徹底について(平成20年3月7日)

Profile

志太しおん

2007年、まつ毛エクステに魅了されサロン開業。黎明期の業界にて、様々なトラブルも多く、正しい技術と知識の普及活動の為に同じ志を持つ有志と共に全国にて講師活動を開始。同時に地元長野でのスクール開講。2013年(一社)日本アイリスト協会の代表理事就任。業界の発展の為に邁進。その他の活動として、各コンテストの審査員や美容学校の講師も務め、女性でも自立し十分な収入や夢が叶うアイリストという仕事を現場で活かし、成功させる指導者として、より高みを目指す。

福井チワコ

まつ毛美容師・講師
WELLS Beauty Eyeash Training School主宰。
子育て中にまつ毛エクステプライベートサロンを西宮市でスタート。技術だけではなく商材知識やカウンセリング・デザイニングの大切さを伝えることの重要性に気づき、同業者たちとの勉強会やイベントを開催。その後、まつ毛エクステンション専門スクールを開校。後に(社)日本アイリスト協会の認定講師となる。
一方、2014 年より世界的ブランドである BLINK LASH のテクニカルプロデューサーとなり教育システムを監修。海外でのエデュケーター活動もスタートする。
コンテスト審査員実績多数。まつ毛エクステンションを通して、女性の新しいライフスタイルや美容師の新しい可能性を提案していきたいと考えている。

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