自分だけの力を身につけてほしいから、フリースタイルのお店に。独立を目指すあなたへ Vol.14【Barbershop KING 代表 清水健太郎さん】#2
独立を考えている人に向けて、独立して成功を掴んだ先輩たちの体験談をご紹介する本企画。
前回に引き続き、「Barbershop KING」代表の清水健太郎さんにお話を伺います。20年前にオープンしたお店はしだいに「バーバースタイル」と呼ばれ、今ではその硬派なイメージを求めて多くのファンが通っています。一方で、地元のお客さんに愛される「街の床屋さん」の側面も。
後編では、清水さんがこれからも守り続けていきたいことやスタッフへの向き合い方についてお伺いします。
「お客さんは男性のみ」が掟
――こちらのお店では何人のスタッフさんが働いているのですか?
今は4人です。20代、30代、40代がバランスよくいますね。新卒は取ったことがなくて、中途採用ばかり。理容師か美容師かもこだわっていません。中には「バーバーに憧れて来ました」って子もいますね。「バーバー」というと強面とかロックっぽいイメージを持たれやすいですが、うちのスタッフはそういう感じではありません(笑)。
――スタッフを採用するときはどこをポイントに見ていますか?
「普通」ならいいです。選ぶほどうちには来ませんからタイミングです。それに、面接したところで人となりや技術なんてわからないですしね。
――お店の営業スタンスってありますか?
特に「こうしなさい」「こうしよう」というコンセプトやルールなどはありません。フリースタイルです。もちろんお客様に失礼のないように、そして満足していただけるような接客と施術は絶対ですが、そのやり方はスタッフそれぞれでいいんじゃないかなと思っているんです。だから、みんなが色々なアプローチの仕方をしていますよ。お客様が話したい人か、寡黙な人かで、ずっとおしゃべりしながら施術するスタッフもいれば、黙々と切っているスタッフもいます。大事なのはお客様に合わせることだと思います。
――こちらのお店はスタッフさんも全員男性だとか。女性がいるサロンに抵抗があるという男性にとっては嬉しいですよね。
ある程度の年齢になると若い女の子がいるお店には行きにくいんじゃないかな。白髪が生えていたり、髪の毛が薄くなっていたり、中年太りしていたり…。そういうことを気にしている人は、おしゃれな美容室はちょっと入りにくいというのはよく聞きますね。だから、うちでは女性客はお断りしているんです。顔剃りをしている無防備な状態で、隣に若い女性客がいたら男性は落ち着かないんじゃないかな。キャピキャピした会話が聞こえてくると雰囲気も変わりそうだし(笑)。
――「男の世界」を守っているのですね。
その方が自分もやりやすいですし、そんなにキャパが大きいお店ではないけれど、求めてくれるお客さんがいるから十分成り立っています。もし成り立たなくなったら考えるかもしれないけどね(笑)。
後輩に伝えたいのは「技術」ではなく「働く姿勢」
――スタッフさんにはどのようなことを教えていきたいですか?
勝手に学んでくれればいいと思っています。それは、自分で考えないと意味がないからです。何年もやってきた僕と、若いスタッフとでは思考回路が違いますから、教えたとしても本当の意味では伝わらないと思います。だから、教えてもらうのではなくて、自分で気づいて身につけてほしいんです。別に今はわからないことがたくさんあっても全然良いと思いますし。
――手を動かしなさいということですか?
技術面もそうですが、仕事に対する考え方、これこそ僕が教えていきたい、学んでほしい部分です。若いスタッフには、自分を含め先輩たちの仕事をする姿から何かを感じ取ってほしいなと。職場の上司の考え方や働き方って、一緒に働いているうちに体に染み込んでくものだと思っているので、口に出して教えたりはしていません。
――技術練習も個々の自主性にゆだねているのですか?
そうですね。自分のことですから。僕自身も人にやらされるのは嫌いだったし、やらされても身につかないと思うんです。自分でやろうと思ってやったことしか身になりません。
――清水さんから見て、どのようなスタッフさんたちですか?
意欲はあるけれど、やっぱり普通だと思います。やる気があるときもあれば、やる気が持続しないときもあるし。煩悩もたくさん抱えているだろうからズルもすると思います。でも、みんな結構長くここにいてくれていますね。独立したいと考えているスタッフもいると思いますが、それについて僕は賛成も反対もしません。その人の生き方だから、僕が口をはさむことじゃありません。ここに居たいなら居ればいいし、やりたいことが他にあるんだったら好きにやったらいいんじゃないの? というスタンスでいます。
――お話を伺っていると、ご自分の技術やスタイルを継承したいわけではないのですね。
それは全然ないですね。だって僕にしかできないことですから。技術もサロンワークも、その人のやり方でやらないと意味がないですし、僕の真似をしても上手くいかないんじゃないのかな。スタッフそれぞれが自分の個性を出して働くことが、一番そのスタッフの良さを引き出せる方法だと思います。
――今後の目標について教えてください。
自分から何かを変えていくつもりはありません。若いスタッフが入ってくれば自然にお店のカラーも変わるだろうから、それに任せます。
ただ、店舗を増やしたいな、とは考えています。この店舗だけでやっていくと来客数も売上げも頭打ちになるし、そうするとスタッフの給料も増やせませんからね。売上をつくる場所を他に用意しないとスタッフのモチベーションが上がらないので。
――清水さんはこれからもプレイヤーとして店舗に立ち続けますか?
そうしたいですね。とはいえ、僕はもうサロンワークのピークは過ぎていると感じています。歳には勝てないし、新しいセンスや技術は自分にはもう身につかないので、若いスタッフを頼りにしています。彼らの方が新しいカルチャーに対する感度は高いですから。ただ、長く通ってくれている常連さんたちの髪は最後まで切るつもりでいます。
――これからスタッフさんにはどんな理容師・美容師になってほしいですか?
好きでやれているうちは問題ないと思いますよ。自分のスタイルを見つけてやればいいんです。もし、本気になれないなと思えば辞めた方が良いですけどね。若いから一つのことに固執し続ける必要はないと思いますよ。僕も、お店を出す前の20代半ばくらいの頃はずっとこの仕事は違うと思っていました。生活のために仕方なく働いていただけだったので楽しさを求めていませんでしたし…。でも、真剣にやっていれば何でも楽しくなってくるんですよ。
独立を目指すあなたへ
――独立を目指す人へメッセージをお願いします!
「一番伝えたいことは、やりたいならやった方がいいということ。万が一転んだとしても大した問題ではありません。僕がここまで来られたのは『運』が大きかったと思うんです。世間で『バーバー』が流行ったことも僕の力ではないですし、普通の『床屋さん』のままだったら今の状況とは全く変わっていたでしょうね。たまたま早い段階で流行に乗れただけです。人生ってそんなもんだと思いますよ。頑張ったことが結果に出ることなんてほんの少しなんです! だから失敗しても失望しないでくださいね」(Barbershop KING代表 清水健太郎さん)
▽前編はこちら▽
好きを追求した結果、「バーバー」と呼ばれるように。独立を目指すあなたへ Vol.14【Barbershop KING 代表 清水健太郎さん】#1>>
取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/石原麻里絵(fort)
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